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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
魔物氾濫編

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出発の前に

少し時系列が戻ります。

 リデュース辺境伯領への出発が差し迫ったある日、遠征から戻ったオーレリアから報告を受けた。

 なんでも、オブ……なんちゃら集団のメンバーが、率先して装甲車を手配しているんだとか。彼等への警戒を強めたカロネイア将軍から伝言を頼まれたらしい。

 移動車両はこっちで用意するって、言った筈なんだけどね。


 まあ、凄くどうでもいいよ。


 それより、オーレリアがお土産に獲って来てくれた土蛙の方が気になっている。土魔法で地面と同化して地中を泳ぐ不思議生物、遠征の目的とは違うけれど、見かけたからと捕獲してくれた。

 虚属性の考察が行き詰っているのもあって、ヘンテコ生物の差し入れは凄くありがたい。役に立つかどうかは別の話で。

 使い道がなかったとしても、私の好奇心を満たしてくれる。


 ノーラの鑑定結果を気にしながら、耳だけ傾ける。


「空中列車の事は、伏せているんですよね」

「うん。実物見ないと、信じてもらえそうになかったからね」


 私達が空を飛ぶ魔道具を開発した事は広く知られているけれど、ちょっと別次元の仕上がりになってしまった。国から予算が出る事もあって、誰も自重しなかったのも大きい。


「だからと言って、装甲車を大量に用意してどうするつもりなのでしょう?」

「さあ?」


 馬鹿の考えを推し量るのは難しい。


 今回の実験に参加する人数は600を超える。

 王国軍一個大隊に加えて、冒険者、魔塔の協力者と、大所帯になる。魔物領域を知る冒険者の協力は必須だからと、グリットさんの紹介で10パーティーが参加しているし、大量の魔物を狩ると聞いたアルドール導師が研究者を捻じ込んできた。

 装甲車で移動するなら、100台近い車列になる。豊満貴族の移動だってそこまでの数は用意しないよ。


「装甲車は悪路に強いですけれど、何十台も並ぶなら、速度なんて出せませんよね」

「王国の歴史を紐解いても、そこまでの車列は例がないんじゃない?」


 先頭を行く車がブレーキを踏めば、遅れて後続車も続く。先頭はすぐにアクセルを踏み直せても、後続車は前が動いてくれないと進めない。列の後ろほど、再出発は遅くなる。

 つまり、渋滞が起きる。

 車の普及が遅れているこの世界ではまず見ない光景だけどね。

 道が悪くて頻繁にブレーキを踏むなら、なお進まない。信号がないから徐行せざるを得ない場所も多い。当然その場合は後ろがずっと待つ事になる。全員同じ場所へ向かう訳だから、渋滞が解消される機会は訪れない。

 悪路に強い利点が生きるとは思えないよね。


「普通、大型車両を用意しません?」

「それだけ、考えが浅いって事じゃない? 用意する手間も、荷物を積み替える余分も、私達が負う訳じゃないし、放っとこう」

「加えて、無為に装甲車を集めた責任で、始末書を書く事になるかもしれませんね」

「ついでに、掛かった経費は勝手に動いた人達に請求したら?」


 完全に他人事です。


 バスみたいな大型車、勿論あるよ。

 今回の場合でも、10台程度で全員乗れる。荷物を合わせても20台を超える事はない。車高がある分、スピードは出せないけれど渋滞するよりマシだよね。


 何で、私達と関係ないところで墓穴を掘ってるんだろ?


「結局、カロネイア将軍の念押しは意味を成さなかったみたいだね」

「はい、父も困っていました。恐らく、似たような嫌がらせは続くと思います」


 逆に言うと、それくらいしかできる事がないって事でもあるけどね。

 次は、私達が開発した武器なんて使えないとか言い出しそう。


「警戒は続けるよ。馬鹿の企みだからこそ、想定を逸れるって事もあり得るし」

「お願いします。私も、王都で警戒を続けますから」

「うん、任せた」


 収穫祭の襲撃事件、狂信者を取りまとめたエッケンシュタイン、偽フォーゼさんの情報漏洩事件と不審な事が続いている。オブ……なんちゃらの件がそれらに並ぶほどの事とは思っていないけれど、タイミング的には怪しく見えてしまう。丁度、拡散が私達の不在の間なんだよね。


 それに、規律が厳しい軍隊で、おかしな思想が簡単に根付くかなって不審もある。


 考え過ぎかもしれないけれど、最近の状況を鑑みた結果、オーレリアとウォズには王都に残ってもらう事にした。

 実験に関わる機会は少ないし、万が一の場合は飛行列車の試作機で駆け付けてもらえる。私達の不在を狙って何か起きるかもしれないから、逆もできるしね。


「特にオーレリアは、王城で聴取の結果を逐一確認しておいて」

「ええ。今のところ、金銭目的で依頼を受けただけで他の件には関わっていないとの事ですが、本人が知らない間に別の事件について耳にしていないか、裏を取っているんですよね」

「うん、依頼に来た人物の素性も明らかになってないからね。両殿下とも、これで呪詛を扱う組織の情報が手に入るって、期待したけど肩透かしだったみたい」

「……王城に行くって事は、殿下に会う必要もあるのでしょうか?」

「場合によっては、ね。何か用があるなら声を掛けてくるんじゃない? もしかすると、狭域化実験の経過も気にしてるかも。飛行列車の話はすぐに耳に入るだろうし」

「……気が重くなってきました」

「何で?」

「普通は、いち伯爵令嬢がお会いする事のない高貴な方だからです。雲上人なのですよ」

「そんな事、気にする必要ないくらい、ずけずけ話してくるよ? 身分的には最上位の人達だけど、丁寧に話す事を心掛けていれば、細かい事は言ってこないし」

「だからと言って、同じくずけずけ返すレティほど、私は図太くありません」


 む。

 そんなふうに思われていたの?


 私があの人達に遠慮しないのは、主にアドラクシア殿下が、面倒な子供、くらいにしか思っていないからだよね。その割に、子供扱いしてくれないし。

 まあ、今更そんな気味の悪い事、求めてないけど。


「大丈夫、大丈夫、第3王子に殺気飛ばしたオーレリアだし、国は違うけど似た立場の人なら、いつも張り倒してるよね」

「……そうでした」


 そこで絶句するって事は、イーノック殿下が皇子だって事、忘れてた?


 いつの間にか雑談に移り変わっていたら、ぐいと、身体を押された。


 誰? とか確認する必要はない。

 私が埋まりそうなほど毛深い存在なんて、1つしか思い当たらない。


「珍しいですね、クロが定位置から動くなんて」

「私にまとわりついて来るなんて、もっと珍しいけどね」


 何か言いたい事があるのか、鼻っ面で背中を押してくる。質量の差が大きいからとても力強い。


「不機嫌そうな顔に見えますけど、どうしたのでしょう? ご飯の催促ではありませんよね」

「出掛ける話をしてたから、不満なんじゃない?」

「でも、南ノースマークへ行った時も、留守番でしたよね?」

「あれで懲りたみたい。グリットさん達と遠征(さんぽ)に行くのは問題ないし、私が少し研究室を空けるくらいなら許容できるんだけど、長期間放っておかれるのは嫌なんだって」

「普段不愛想なクロに、甘えるなんて機能、付いていたんですね」


 帰った私のお腹に頭突きしたと思ったら、不満をたらたら言う代わりに、ずっと威圧し続けるのを甘えるって言うならね。

 可愛げは見せない癖に、嫌な事への自己主張は強いみたい。


 だからって、遠征に連れていける訳がないけどね。

 研究室のメンバーだけならともかく、一個大隊に混ざったら、パニックを起こしかねない。ここでは私に絶対服従だって皆知っていても、魔物が人に懐いた例なんてないから恐れる人は必ずいる。


 仕方ないから撫でてやろうと思ったら、サッと避けて定位置に戻っていった。


「……私が撫でると、死ぬ呪いにでも掛かっているのかな?」

「グリットさんが犬好きで、もみくちゃにして益々嫌になったようです。最近では、すぐにニュードさんの後ろに隠れますから」

「いくらニュードさんが大きいからって、クロほどじゃないと思うけど?」

「でも、それ以上はグリットさんが追ってきませんから、隠れられたつもりなのでしょう。ニュードさんのように嫌がるでもなく、構うでもない対応が丁度いいみたいですよ」

飼い主(わたし)が、お犬様の事情を慮ってあげる必要はないよね?」

「ですけど、レティって、ああして逃げると執拗に追いかけたりしませんよね。案外良い距離感ができてるんじゃないですか?」


 むう。

 クロはその距離感に満足しても、私はイラッとするんだけど?

 それでも飼ってる甲斐ってあるのかな?


 まあ、飛行列車を作るのには役に立ったから、今日のところは良しとしておこう。溜まったフラストレーションは、飛行列車への称賛で解消できると思うから。


「じゃあ、クロに振り回される役も譲るから、留守中の餌係もお願いね」

「う……。我が物顔で催促されると、世話をする気が無くなるんですよね」


 うん。

 分かる、分かる。


「他人事だと思ってないで、この機会にオーレリアも自分の距離感を作ったらいいんじゃない? 研究室の飼い犬な訳だし」


 多分、蛙の世話も追加されるよ。

お読みいただきありがとうございます。

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今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
いつから飼育施設に変わったんや…………まだまだ増えて、魔物園になりそう……
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