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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
魔物氾濫編

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会談の前に

 春を感じながら、通い慣れた道を歩く。

 しばらくご無沙汰してたけど、カロネイア将軍―――というか、軍の開発部とは度々情報交換してたからね。一見近寄り難い物々しい施設にも、すっかり抵抗がなくなった。


 開発部のオキシム中佐とか、ニュードさんに負けないくらいがっしりしていて、クラリックさんより強面で盗賊の頭領みたいなのに、凄く繊細な付与魔法を使ったりする。何事も見た目じゃないって、改めて知ったよ。


 身体つきが良くて、顔に凄味が滲み出るくらい修羅場を潜ったなら、普通は軍人か冒険者になるから、実際の盗賊に中佐みたいな人はいないんだけどね。


 とにかく、最近では施設の威容は、そこに居る人達の頼もしさだってくらいに感じてる。


 それはそうと、春の中央公園は歩いていて気持ちがいい。


 オーレリアとのジョギングは続けていても、ゆっくり楽しむと、また違った楽しみがあるよね。

 信仰上の理由で桜並木はないけれど、チューリップやアネモネが綺麗に咲いてる。今年は光の神の加護年だけど、火の年は赤いチューリップを一面に植えるんだとか。今は色とりどりの花が見事だね。

 個人的には、前世の名前が芙蓉だってのもあって、ハイビスカスとか好きなんだけど、残念ながら時期が早い。今年は狭域化実験で、見頃を逃してしまうかな。


 なんて、ご機嫌で軍本部に辿り着くと、思ってもみない状況に迎えられた。


「ここは女子供の遊び場ではない。去れ!」


 門を通り抜けようとしたら、門衛らしい人に前方を遮られて、こんな事を言われた。


 何言ってるのか分からない。

 どうしたものかと、皆で顔を見合わせてしまう。


 基本顔パスだったけど、関係者以外は立ち入り禁止の施設だし、それを当たり前と思うのは良くない。偶々、私達の事を知らない人って可能性も僅かに残るし。

 まさか、オーレリアがいないからって事はないと思うんだけど。


 相手が非常識だからといって、こちらが倣う必要はない。暴言は聞かなかった事にして話を続ける。


「遊びに来た訳ではありません。カロネイア将軍とお約束しています。取り次いでいただけますか?」

「そんな事は聞いていない。お忙しい将軍を煩わせるな。消えろ、小娘!」


 あんたが聞いているかどうかは関係ない。約束があるから確認に行けって言ってるんだけども。


「どうも言葉が通じないみたい。どこから突っ込めばいいかも難しいよ」


 お手上げ、とキャシー達の方へ両手を上げる。


「門衛に、門衛に来客が伝わっていないのだとすると、カロネイア将軍の不手際と言う事になりますよね。ミスがないとは言いませんけど、オーレリア様のお父様はそんな方ではないと思います。何か問題でもあったのでしょうか?」

「それなら、私達の方へ先触れがあるんじゃないですか? でも、それとこの人の無礼は関係ありませんよね」

「そりゃそうだ。そもそも、私の言う事が虚偽だとしても、確認に行くのが門衛の仕事じゃなかったっけ?」

「見るからに成人したての新兵って感じですから、教育が足りてないんじゃないですか?」

「でも、でもキャシー、それはそれで問題よ。人目に触れる場所にそんな盆暗を置いたって事ですもの。軍の品位が疑われます」

「階級社会で、国の身分制度を忘れたとか?」

「常識を、常識を忘れたって事でしょうか? 貴族なんて将校の一部だけですから、レティ様に大口を叩ける人なんていませんよね。正直、正気を疑います」

「自分の言動が、どれだけ問題か分かってないんでしょうか?」

「問題があるのがこの人だけか、配置の権限を持つ上司含めてなのかで、話は変わってくるよ」

「それに、それに加えて教官もでしょうか? 将軍にしっかり確認しないといけませんね」

「場合によっては、報告先が殿下に変わるかもね。カロネイア将軍がいるのに、こんな状況がまかり通っているなら、かなり良くない傾向だと思うし」

「レティ様が、また面倒事を引き当てた匂いがプンプンしますね」

「またって言わないで、できるなら、見なかった事にして帰りたいんだから」


 3人で、あーだこーだと批判を言い合う。

 別に声を抑えてはいない。これだけヤバい事をしてるよって、門衛の危機感を煽るのが目的だから。


 ちなみに、ここに初めて来たノーラは目を白黒させて黙ってる。


「ええい! 栄えある幕僚本部の前で、何をごちゃごちゃ言っている」


 だけど、私達の意図は伝わらなかった。危機感じゃなくて募らせたのは苛々だけだったみたい。


「黙って聞いていれば、カロネイア将軍に問題があるだと? 将軍を侮辱するなら、公務執行妨害で拘そ―――」


 公務を執行していないのはそっちだし、それ以前に不敬罪だけどね。


 まあ、細かく突っ込む前に、キリト隊長に取り押さえられていた。

 私の身柄だけじゃなくて、私の名誉まで守ってくれるみたい。


「申し訳ありません。聞くに堪えませんでしたので、指示を待つ前に動いてしまいました」


 おまけに、勝手に動いたと謝罪までする律義さだよ。


「いえ、手間が省けて助かりました。おかげで、人が集まってきましたし」


 門の前で騒いでいる集団がいたなら、誰かしら確認に来るよね。

 野次馬も混じっているけど、知っている顔もちらほら見える。彼等は、状況を把握すると、顔を真っ青にして走って来た。


「申し訳ありません、スカーレット様。不愉快な言動、本人に代わって謝罪いたします!」


 やって来た面識ある軍人さんに男を引き渡す。

 先頭は工作部隊の少尉さんだったかな。腰を直角に折る勢いで謝ってくれた。


「くそっ! 離せ! 騎士だからって、軍人を不当に拘束する権利はない筈だ。これは、軍に対する敵対行為だぞ!」


 門衛だった男はまだ訳の分からない事を叫んでいる。

 自分が何を言っているのか、本当に分かっていないみたい。正気を失っている訳じゃなく、本気で言っているあたりが、怖くなってきた。


 そして、気付いた事がもう一つ。

 私への暴言と知って慌てる野次馬がほとんどだけど、困惑顔の人が少し、そして、忌々しげに私を睨む人が一部いる。


 気になったので聞いてみた。


「彼の言動はいつもこうなのでしょうか? それと、気になる視線がいくつかありますが、何かあったのですか?」

「……申し訳ありません、自分には答える事ができません。どうか、将軍に直接ご確認ください」


 意図は伝わったみたいだけれど、明言は避けられてしまった。余計に不安が積み上がる。


 つまり、キャシーの言う通り特大の面倒事って事だよね。

 頼もしく思っていた私の信頼、返してほしい。

 これから狭域化実験で軍の協力をがっつり得る予定なんだけど、それに関わらないで済む方法ってないかな?

お読みいただきありがとうございます。

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今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] サブタイトルが不穏!!!!! 全部読んでから感想書こうと思ったけど思わず! ほのぼのを重ねてもクライマックスに必ずバイオレンス入るの楽しいです! 貴族にクズが多いのも楽しいですね! 先も…
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