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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
2年生編

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天才の闇 1

 気持ちを入れ換えて遺跡を進む。


 資材区画を抜けると、研究題目ごとに部屋が分かれていた。初代導師が残した発明品は多いけれど、魔導変換炉以降は周囲が望むものを作ったという。

 晩年、時代の要求に囚われない、自分本位な研究をしていたのかもしれない。


 特に目についたのは、自動車と飛行魔道具の研究。


「自動車の開発は、エッケンシュタイン博士より後の時代ではありませんでしたか?」

「うん。魔導変換炉によって魔力が安定供給されるようになってから、特に注目されるようになった回転の魔道具の派生だね」


 この世界の自動車は、内燃機関によって熱エネルギーから回転運動を得るのではなく、回転の魔法を付与したシャフトを魔力で回す。似ているのは外観だけで、根本的な部分が前世のものと異なる。

 そうは言っても、乗る分にはそれほど違いは感じないけどね。

 私、運転しないし。


 扇風機くらいしか使い道がない回転付与だったけど、魔導変換炉の登場でその役割を大きく変えた。クレーンをはじめとした重機に、エレベーター、排水ポンプ、自動車は勿論、船舶の動力等々、利用先の枚挙に暇がない。


「200年以上に渡って改良が続けられてきた自動車に関しては、初代魔導師の設計より現行品の方が洗練していますね」

「自動車の発祥は王国じゃないけど、その初期品に近いものを個人で考えていたってだけでとんでもないけどね。残念ながら、トランスミッション構造が上手くいかずに断念したみたい」

「それがなければ、自動車の誕生が早まったのかも知れないのですね」

「かもね。代わりに、シャフトの回転と連動して電気を得ようとしていたみたい。魔力とは別の動力でライトや表示板の点灯を考えてるよ。回転付与は魔力消費が大きいから、この時点で省魔力を検討したんだね」


 前世で言うなら、ハイブリッドシステムに近いものを、自動車の実用化前に研究してた訳だね。着眼点が異次元のレベルだと思う。

 記録を見ると、途中から発電機の開発、電気の利用についてが研究の中心になっていく。


 派生で生まれた筈の技術に魅力を感じて、傾倒してしまう気持ちは私にも共感できる。


 飛行魔道具は、ドローンみたいな回転体を利用したものと、浮力を増幅して浮き上がる2点に絞って研究してあった。


「足りない回転数を補うために、火属性と風属性の利用を考えてますね。しかし、術師本人が搭乗するくらいでないと、風の制御に対応できなさそうです」

「爆発で事故が起きた記録もあるね。それでも、ノーラに聞いた話よりは形になっているよ。無人での試験飛行には成功してる。安全性の問題を解決できなかったから、後世に残せなかったのかもね」

「浮力の魔道具はお嬢様が考えられていたものと同じですか?」

「複数の増幅装置を用意する点はね。でも高価な素材を使ってのごり押しかと思ったら、かなりの量の素材を組み合わせて実験してるよ。素材の相性による相乗効果を狙ったんだね」

「広く伝手を持つ初代導師ならではですね。これだけの数を用意するとなると、ノースマークでも簡単ではありません」

「その分、アルドール先生が狂喜しそうな内容になってるね。薄く成形したスライムに、妖精の羽根を張り付けて魔石を包むと効果が高いとか、試そうと思ってできる事じゃないし」


 妖精は益をもたらす魔物として獲る事が禁じられている。小さいとは言え人型で、ゴブリン程度の知性を持つ。花の蜜や樹液を好み、人を襲った記録がない。人が近付くと親しげに寄ってくる事から、魔物扱いすら厭う人が多い。

 魔力の供給無しで魔物が身体を維持できる訳がないから、まとわりつく事で魔力を吸ってるんじゃないかって、私は思ってるけどね。


 その羽根は魔力で構成されていて、妖精が死ぬと溶けて消えるらしいから、生きたまま毟る以外に入手する方法はない。

 こういった周りから批判を受けそうな研究も行えるよう、この施設を作った気がするよ。


 生態の書き換えの研究も、この先にあった。


 最初は捕食対象に干渉する事で、人を襲わない魔物を作ろうとしたみたい。


「でも、人だけを除外する事はできなかった。肉食の魔物は獣を襲わなくなる事で、すぐに衰弱したようですね」

「その後は、魔物の使役を考えてるね。ユニコーンで馬の代わりに馬車を引かせる、オーガに農具を使わせる、魔狼を番犬として躾ける、ゴブリンを奴隷として使う。色々挑戦したみたい。……立てとか、走れとか、単純命令ならともかく、難解な指示は伝わらなかったようだけど」

「ゴブリンや妖精のように、知性を残して行動を縛る事も無理だったみたいです。魔石へより一層魔力を蓄える、角を伸ばす、牙を鋭くする、果実の薬効を上げる、と言ったような素材の質を上げる事には成功してますが」

「それに特化させたせいで、すぐ死んだ例も多いみたいだね。私の治療スライムだって、吸収した魔素を全て治癒に使って、魔力が不足したら自壊する訳だし、命に手を入れるのは簡単じゃないね」


 腹部を肥大化させたオークとか、鱗を巨大化させて動けなくなった火蜥蜴(サラマンダー)とか、全ての生気を卵に託して死ぬ渡り鶏とか、素材の為に生態を歪めた記録も残っていた。


 なら、研究室の2匹はどういう状態なんだろう?

 私が禁じた事は守るから、意思の疎通はできている。愛想は持ち合わせていないけど、嫌そうな顔はできるし、遠征に出るグリットさん達には嬉しそうについて行く。烏木の牙の車に並走して、狩りでは命令に従うとも聞いた。

 知性を残して行動を縛ってない?


 帰ったら、少し調べてみよう。構われる事を嫌がるとは思うけど。


 他には記憶を転写する研究、動物を魔物にする研究など、倫理観を外した内容が並んでいる。

 さらに奥に進むと、7階層は書庫だった。

 漸く、魔塔に記録があった場所まで辿り着いたよ。


 もともと私の役目はここの仕分け。

 既に黒寄りの灰色がいくつかあったけれど、本命からは外れている。


「でも、随分と散らかっているね」


 本棚にはいくつも抜けがあって、その分閲覧用の机にいくつも山ができている。研究室にあった資料のいくつかも、ここから持ち出したものじゃないかな。


「初代導師は片付けるのが苦手だったみたいだね」

「お嬢様と同じですね」


 ……その判定には物言いをつけたい。


 私、出し散らかして、そのままにしたりしないよ。

 必要なものが所定の場所にないのは困るから、用が済んだらきちんと元の場所に戻して返している。しばらく使う場合は、毎回出してくるのは面倒なので、使い終わるまで確保するくらいはあるけれど。

 フランが細か過ぎるだけだと思う。


 もっとも、私の片付けってフランに渡したら終わりなので、あまり大きな事は言えないかな。


 本棚に並ぶのは専門書。

 ただし、降霊、悪魔憑き、蟲毒、呪いと、封印指定目録で見た単語がいくつも並ぶ。他には、服毒観察誌、安楽死マニュアル、カルバニル記だとか、有名な発禁書物も視界に入る。

 医凌偽典や真奥魔義書なんて、写本含めて国が全て回収した筈なのに、何でここにあるんだろうね。


 結論、間違いなくここは禁書庫です。

 古いものではあるけれど、封印指定技術の原本、写本の見本市と言っていい。そして、他と同様に抜けがある。収集品ではなく、活用していた証拠だろうね。


 中にはロブファン・エッケンシュタインの署名が入った論文もあった。

 私はその1つを手に取って、内容を確認する。


「……やっぱりあった」


 題名は、呪詛技術に関する一考察。

 私は確信と対面した。


お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。

今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
クロ、やっぱり犬だね。よく外に連れ出してくれる人だから主人より懐いてるんだね。 妖精、300年前は沢山いたんじゃない? エッケンシュタイン博士が乱獲したんじゃない。 博士の死後に取るの止めよう!ってな…
[良い点] ニートわんこかと思ったら狩りには行くのね、意外
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