表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
2年生編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

152/685

ノーラの依頼 1

 それを、私が先に見つけたのは偶々だった。


 長い旅路で窓の外を見ている時間は多くない。

 特に私達の車は空間魔法で広げているものだから、通常よりのびのびと過ごしている。雑談をしている時もあれば、ゲームに興じる時間もある。オーレリアなんて、軽く身体をほぐす事もあるくらい。


 その時も、各々が好きに時間を潰していた。

 だから、その瞬間に私が窓を向いていたのは、全くの偶然だった。


 しかも、それは視界を塞ぐ草むらの向こうから現れた。グリットさん達も、騎士隊も、そのせいで反応が僅かに遅れた。地の利がない分、轍の先に潜める空間があると気付けなかった。


 隠れていたのは軽トラック。


 使い古した感のある小型自動車が、アクセルを全開にして突っ込んできた。

 運転手は気付いたかもだけど、急な状況で回避行動がとれるほど小回りは利かない。


「反重力起動! ―――効果範囲、車体全体。急速上昇!」


 魔法を使ったのは咄嗟だった。


「ぐぇ……」


 あんまり急いだものだから、中にいる私達を圧が襲う。おかげで変な声が漏れた。

 私はまだマシな方で、魔道具を組み立てていたキャシーは配線接続部を壊して涙目になっているし、ノーラは頬張っていたフルーツサンドを顔面で潰して呆然としている。


 しかし、特攻を空かされた軽トラックは、もっと悲惨な事になっていた。


 街道の東側は海が広がる。

 碌に整備されていないガードレールもどきは脆く崩れて、軽トラックは道路の向こうへ飛び出した。幸い、消波ブロックに引っ掛かって水没こそ免れたけど、元の車形を失って、煙を上げている。


 あれ、中の人、生きてるかな?


 反射的に躱す選択をしたけれど、受け止めた方が良かったかもしれない。ノースマーク車両は不壊・永続仕様な訳だし。


 私がそんな事を考えていると、それぞれの車から飛び出した烏木の牙と第9騎士隊が事故車両を取り囲んだ。


「抵抗は無駄だ。大人しく車から出て来い」


 副隊長が低く警告する。フォーゼさんって言ったかな?


 結果的に事故を起こした人を、助ける素振りも、心配する様子も見られない。

 私的には無事を確認してあげてほしいところだけれど、彼等の職務としてはこの対応も仕方がない。

 何しろ、侯爵令嬢(わたし)への襲撃事件になるからね。

 犯人確保より、私達の安全と敵対者の制圧が優先となる。


 更に、騎士隊の警戒は囲みの外へも向いている。それらの指揮にはキリト隊長が立つ。

 多分、轍の向こうに伏兵がいるんだと思う。


 反応のない状況がしばらく続いた後、騎士が車壁を切り裂いて、中の2人を引き摺り出した。

 初老の男性は頭から血がドバドバ、足は両方とも明後日の方を向いている。もう1人なんて、右手が辛うじてくっついている状態でぶらりぶらりと揺れていた。どう見たって重傷で、自力で出てくるなんてできなかっただろうけれど、騎士が気にかけている様子はない。


「包囲している者達に警告する。我々は王国騎士だ。貴族に害成す者へ容赦はしない。抵抗するなら、ただで済むと思うな。死にたくないなら、大人しく投降しろ!」


 怪我人2人を突き飛ばしながら、副長さんが冷たく告げる。


 私は被害者側だけど、ほとんど損害はないし、軽トラックにいた2人があんまり痛そうなものだから、どうにも同情的になってしまう。軽微な被害を受けたキャシーも、心苦しそうに経緯を見守っている。

 ちなみにノーラはトーレさんの手で洗顔中。


「うわああぁぁぁーーーーっ!!!」


 隠れていた1人と思われる男が、大きな声を上げながら駆けてくる。

 ただ、その様子は気合いを入れるというより、自棄になって叫んでいるようで、更に手にあるのは鍬だった。

 企みあって貴族を襲うような出で立ちには見えない。

 その物腰も、オーレリアに確認するまでもなく素人で、案の定、あっさりと打ち倒された。あの様子では、どれだけ人を集めていたとしても、騎士隊を突破できる筈もない。


「わぁーーーっ!!」

「畜生! 畜生! 畜生ッ!!」

「ああああああああっ!!!」

「うわぁーーーん!!」


 それで戦意喪失してくれればいいのに、最初の1人が倒された事が呼び水となって、残った全員が飛び出してきた。


 老若男女入り混じって、手にしているのは農具に包丁。とても、武装しているとは言ってあげられない。中には、既に泣いている人もいた。


「……レティ様、これって?」

「うん。私達だから狙った訳じゃなくて、困窮に耐えかねた近くの町か村の蜂起だろうね」


 運悪く通りかかって、巻き込まれたんじゃないかな。

 お金目的の強盗って線も考えたけど、備えが足りなさ過ぎる。銃も剣も持たない盗賊なんて聞いた事がない。逃げる手段があるようにも見えないし、誰かに唆されたって線も薄いと思う。


 でも、これは拙いね。


 少人数が相手なら、情報を得る為に生かして捕らえるって場合もあり得る。

 けれど向かって来るのは50人程度、困った事に騎士の人数を超えてしまっている。彼等の任務は私達の安全確保、捕らえる余裕がないなら殺してしまっても問題にならない。背後関係を洗う事すら、場合によっては優先度が下がる。

 いくら騎士と言っても、罪のない人間を殺す権利は持たない。けれど、相手が罪に触れた時点で、平民の命は軽くなる。


 それに、襲い掛かって来るのを待つ必要性も持ち合わせていない。


 当然のように、騎士隊は銃を構えた。

 近付かれてリスクを負うなんて考える訳がない。


 一瞬後に訪れる未来、それがこの国では当たり前だったとしても、私は許容するなんてできなかった。


 ―――パァァーーーンッ!!!


 大きな音が鳴り響く。


 けれど銃声ではなく、私が柏手の音を魔法で拡声させただけ。


 それでも効果はあった。

 騎士達は突然の轟音で不測の事態を想像して、周囲に警戒を張り巡らせ、向かってきていた人達は撃たれたと思って身を縮こまらせた。


 両勢力の動きが止まったのは僅かな時間だったけれど、その間に烏木の牙が動いてくれた。

 私の意図を汲んで、騎士達の前に5人が立ち塞がる。


 襲撃者達は銃を目の当たりにして竦み上がっているし、騎士達も私の専属に危害を加えたりできない。上手く事態を膠着させてくれた。


 動くなら、今しかないよね。


 すぐさま車から飛び出ると、再び拡声の魔法を使う。


『私はノースマーク侯爵家の一子、スカーレットです。皆さんに、話し合いを提案します』

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。

今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] しかも、それは視界を塞ぐ轍の向こうから現れた。 轍ってのは未舗装の地面に付いた車輪の跡のことなのでこの使い方はおかしいんだけど。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ