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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
2年生編

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魔道具の改良と面倒な手紙

 空間固定化魔道具の改良は続く。

 手摺を付けるにしても、今のブロック型では掴むのに不便だし、組み立てに汎用性も持たせたい。要するに、もう少し思い通りに成形したい。


「雲を、雲を掴むような話ですね」

「うん、見えないものを思い通りに形作ろうって事だもんね。狙った通りにできてるか、確認もできないのに」

「固定化したブロックを削ったり、固定化前に形を確認できないでしょうか? 今のままだと、ノーラの負担が大きいです」

「いえ、わたくしはそんな……」

「うーん、そりゃ、できたら良いけどさ」


 マーシャに相槌を打ちながら、私はスライムのゼリー質部分を千切る。それを丸めながら、無属性魔石を中に埋め込む。

 何となく、前世であんこ餅作ったのを思い出すよね。


 実はこれ、固定化魔道具の基盤だったりする。


 見た目、街の子供が作るスライム団子みたいだけどね。街の子達は、それを投げて遊ぶ。より遠くに飛ばす為に、石を握り込んだりもするんだって。ゼリー質で包んであるから、当たっても痛くないとか。

 私はこれに、魔法を付与する。


 魔道具の基盤に、普通は金属板を使う。魔物素材を使用する場合でも、骨や鱗を成形するのが一般的。

 でも今回の場合、それでは動いてくれなかった。魔力を流しても基盤が動作しない現象って、初期の魔導変換器製作の頃にもあったよね。素材と術式の相性不和ってやつ。


 物体と空間の相性が合わないのは、何となく理解できる。でもそこまで。

 何となら親和性が高いかと問われれば、見当もつかない。

 空間に充満している空気なら、とも思ったけれど、気体に魔法の付与はできない。私の掌握魔法でモヤモヤさんを染み込ませる事はできるから、物体扱いではあるんだけどね。


 水なら付与もできるのに。


 そう思った時、研究室の隅にいるスライムと目が合った。魔漿液の採取用に、数匹を飼っているからね。暇潰し用とも言う。

 まさかとは思ったけど、魔漿液とか、治療スライムとか、研究活用の前例は既にある。しかも、治療スライムの件で、付与が可能である事も確認済みだし。正確には生態の書き換えだったけど。


 魔法を付与するだけなら、見た目に変化はない。魔道具にはとても見えない塊が鎮座するだけ。

 ところが、これに魔力を流して術式を起動すると、スライム団子は中の魔石ごと溶けて消えてしまう。


「いつ見ても、いつ見ても訳が分かりませんね。スライム片も魔石も、何処へ行くのでしょう?」

「だよね。原理が理解できないから、考察が進まないよ。術式として一緒に消費されてるのかな? ノーラ、何か分かる?」

「……すみません。わたくしには魔力を注いだ瞬間、ブロック状に変形して見えますわ。形が変わる以上の事はちょっと……」

「ノーラ的には、スライム団子も固定化したブロックも、形以外に違いはない訳だね。その辺りに成形のヒントがないかな?」

「魔力を……、魔力を通す前のスライム片を成形してみますか?」

「なるほど、スライム片の形を固定化範囲として付与する訳か」


 安直な気もするけど、代案を思い付かないんだから、試すしかないよね。


「じゃあ、細い筒状にしてみよう。上手くいくなら、手摺になるかも」


 早速、魔石入りのスライム片を棒状に延ばす。やってる事が粘土細工みたいだけど。

 これでも、王国最先端の研究だよ。


「む。付与が難しい」

「スカーレット様、スライムの表面を覆うつもりで術式を広げてください。スライム自体より、スカーレット様の術式で包んだ範囲が固定化されそうですわ」


 固定範囲は私次第と言われて、スライムに添えた右手に力が入る。


「ありがと、ノーラ。魔法を薄く使うのは、強化魔法で慣れてるから得意! …………な筈、だったんだけど、ね」


 出来上がった固定状態に触れてみると、悲しいくらいにでこぼこしてた。強がった分、やるせない。

 私、こんなに下手だったかな? 自分にがっかりだよ。


「だ、大丈夫、大丈夫ですよ、レティ様。このくらいの凹凸なら、手摺にするには十分です」

「そうですわ。一度の挑戦でこれだけできるんですもの、次はもっと上手くいく筈です」


 ごめん、マーシャ。

 フォローのつもりで追い打ちしないで。

 ノーラも、悪気がないのは知ってるけどね。私の心は痛いんだよ?


 想像を形にするって、難しいんだね。これはかなり練習が要る。


 そんなこんなで苦闘していたら、フランが私宛の手紙を抱えて戻って来た。

 今日はマーシャとノーラしかいないけど、いつでも実験できるよう、私達は収穫祭まで王都邸を拠点としている。だから時々、ノースマークの仕事も届く。フランが内容を確認して、皆の前で読んでも問題ないものだけね。


 上手く進まない時は、気分転換も良いかな。

 決して、現実逃避じゃないからね。


 基本的に、私の確認が要るだけで、大した書簡は届いていない。大部分は面会依頼。放ってはおけないけれど、収穫祭までは研究が優先かな。

 その他は扶心会への出資話、相手を精査したらウォズに投げればいい。誰のお金でも預かれる訳じゃないから、相手は厳選しないとね。

 後は、怪しい共同研究の提案状。聖女(わたし)を利用して儲けたいだけの魂胆が透けて見えるから、相手になんてしない。せめて、もう少し取り繕おうよ。

 で、最後はエッケンシュタイン家の紋章入りだった。


 そろそろ来ると思ったよ。


 一応、中身を流し読みして、そのままフランに返した。


 要約すると、娘が謝罪した筈なのに、領地の境遇に変化がないのはどういう事だって文句が、延々と綴られていた。しかも何故か上から目線で。まだ侯爵でいるつもりかな? それとも13歳の小娘相手なら、これで十分とでも思ったのかな?

 正直、真面に読む価値を感じない。

 謝罪文の1つでも送って来たなら、一考したかもしれない。でもこの書面からは誠意の1つ感じられない。エッケンシュタイン伯爵とは建国祭で挨拶を交わした程度だけど、弟、前導師と同じ人間性だって理解できたよ。まあ、ノーラの語る端々から予想はしてたけども。


 そもそも、今のエッケンシュタイン領を取り巻く状況は、周辺貴族の信用を失ったから。ノースマークは直接関係ない。その辺りすら、理解していないよね。


「捨てといて」

「はい」


 言った傍から、手紙は紙片に変わる。人間シュレッダー、フラン、仕事が早い。


「え? あの……」


 紋章が先に目に入ったかな? 実家の事だから、他人事じゃないよね。


 ノーラをこれからどうするか、私の中では固まっている。彼女を許して、受け入れる事にしたのは私だから、全面的に動くと決めた。勿論お父様にも相談して、既に賛成は貰ってある。水面下での手続きも進んでいる。


 もう少し世間を知ってから、ノーラには選んでもらいたかったのだけど、いい加減頃合いかな? 考える時間は必要だろうし、エッケンシュタインからノーラへ干渉がある前に、答えを出してもらわないとね。


「ねえ、ノーラ。一緒に食事に行かない?」

「はい。……え、でも……」


 彼女は、基本的に私の言う事には素直に従う。命令しているつもりはないから、もう少し自分の意思を持ってほしいところだけどね。

 でも今日は、一緒にいるのに、私がマーシャを誘わなかったものだから、困った様子を見せた。研究室では、都合が合うなら皆一緒が基本だからね。でも残念ながら、今日のマーシャはお留守番。


「もうすぐキャシーも来るでしょうし、私は、私は今日進めた分をまとめておきますね」

「ありがと、お願いね。じゃあ、ノーラ、行こう」


 少し強引にノーラの手を引く。


 今日は彼女に、ちょっと嫌な話をしないとね。

 私は友達のつもりだけれど、家を背負っている以上、キャッキャ、ウフフだけでは済まない事もあるのだから。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。

今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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