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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
2年生編

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空中を歩こう

 オーレリアのおかげもあって、浮遊種の魔物を入手する目途は付いた。

 だからと言って、それをただ待っている訳にもいかない。何しろ、着想の1つであって、魔物が手に入れば全て上手くいくほど、検討を重ねていない。


 ノーラって頼りになる鑑定人はいるものの、魔物の浮遊器官を魔道具で再現できるかどうかは、私達次第だからね。


 収穫祭まで10日と少し、できる事はしようと、新しい魔道具作成に着手した。


「レティ様、ホントにここ、歩くんですか?」


 その成果を前に、キャシーが怖気づいた事を言う。何度も確認は取った筈なんだけどね。キャシーって、高所恐怖症だったかな?


 ここはノースマークの王都邸。

 空中浮遊を学院で試すには、研究室は狭いし、外だと人目に触れる。当日までは秘匿しておきたいので、適度に広い自分ちの庭で実験している。サプライズにこだわっている訳じゃなくて、新しい技術は、ある程度の目途が立つまで人目に晒したくないからね。


 実際のところ、空中浮遊というより、空中歩行だけど。


 先日、階段を見て思い付いた。

 今回の目的は、空を飛ぶ事自体じゃなくて、収穫祭のイベントを彩る為の演出。疑似的に空に浮かんで見えるだけでも問題ない。

 それなら、不可視の足場を作れば、傍目には浮かんで見えるんじゃないかな。


 飛行魔道具は、それはそれで完成させたいから、別途研究は続けるけどさ。


 使用したのは空間魔法。

 現状、私しか使えないし、ノーラがいなければ術式に落とし込むのも無理だった。

 イメージは前世の横スクロールアクションゲーム。根拠なく浮かぶ足場を魔法で作ってみた。

 ラバースーツ魔法やアイテムボックス魔法ができたんだから、前世のファンタジー知識の再現もできると思ったんだよね。


 なら飛行魔法や瞬間移動もできる筈だけど、多分、常識が中途半端に足を引っ張っている。飛行機を知っている分、揚力を得る機構や推進力がないと、自分を騙せない。瞬間移動は蠅になる映画が認識を阻害する。ドアの奴もあるけど、行先決定の機構が理解できない。

 線引きは微妙だけれど、前世の科学で実現可能なものと、あの頃既にファンタジーにしか存在しなかったもので、何となく分類されているみたい。後者は、理屈が不可解な部分を魔法で埋めて、現実のものとしてしまう。


 私、どれだけ理不尽な存在なんだろうね。


 でも今なら、私のフワッとしたイメージ部分を、ノーラが理論として読み取ってくれる。


 魔力を通した空間を、物質として固定化させる。

 定義すると、そんな感じ。

 属性を持つ全てが物質として扱われるこの世界ならでは、だよね。作用範囲を指定して、魔力を通せば、何もない空間すら無属性物質に変わる。前世なら、科学者の歴々から間違いなく総突っ込みだけど。


 固定化した空間は、どんなに力を加えても、その場から動く事はなかった。

 まあ、元々物理法則の外にある現象だからね。空気を固めているとかじゃなくて、座標そのものを固着させているみたい。

 込めた魔力を消費すれば、露と消えるけど。

 かなり強固な壁にもなるから、応用範囲は広いんじゃないかな。


 で、その不可視な足場を上ってみた。

 確認実験くらい、色付きでも良かったのだけれど、空間に色を付ける方法がなかった。気体や炎で色のある部分を固めても、それらを押しのけて固定化されるんだよね。


「これ、怖いですよぉ! 何処が足場か分からないから、今にも踏み外して落ちそうじゃないですかぁ!」


 キャシーが涙目なのはその為。

 理論の組み立てから魔道具の試作までは、いつものように興奮してたのにね。いざ歩くとなると、現実を知ったみたい。2階の窓から数歩進んだだけで震えている。


「キャシー、そんなふうに、そんなふうに縮こまっていたら、優雅に見えないわよ。もっと胸を張って歩かないと」

「見てるだけのマーシャは黙ってて! ホントに怖いんだからね!」


 舞台に立つのは私達だから、実験もキャシーとオーレリアと3人で担当している。

 でもマーシャの言ってる事は間違っていない。しとやかに舞台に降り立たないと、この魔道具の目的を果たせない。


 ちなみに、舞台に上がる予定はないけれど、ノーラは固定化された状態が見えるから、普通に歩けるんだとか。


「オーレリアは平気そうだね」

「ええ、これくらいなら飛び上がる事もありますし、もしもの時でも風魔法で減速できますから」


 目で追うのも難しいくらいに速く動ける彼女なら、落ちてからの対処も間に合う訳だ。


「だってさ、キャシー。落ちてもオーレリアが拾ってくれるよ」


 下にはクッション敷き詰めてるし、即死しなければ特級回復薬もあるけどさ。


「落ちる前提で話すのは止めてください! 痛くなくても怖いじゃないですかぁ!?」

「だから練習してるんでしょう。蹲っていないで、少しは慣れないと」

「今はこの状態に慣れる為にじっとしていますから、急かさないでください!」


 そう言われてしまうと待つしかない。

 一度落ちたら覚悟が決まったりしないかな?


 私が平気なのは、既に落下を体験済みだから。ラバースーツ魔法に魔力を通せば、このくらいの衝撃は何でもないって知っている。大火の時は、もっと高く速く飛んでたからね。


「スロープを作って、滑るだけにできませんか? あたしでも、それくらいなら可能そうです」


 滑り台方式だね。


 でもそれには技術的な問題がある。

 現状、ブロックを積むみたいな形でしか、足場を作れないんだよね。形状変化は難しい。

 何しろ、固定化された状態を目視できるのが、ノーラしかいない。イメージと実形の齟齬を、私達では埋められない。複雑な形を組もうと思ったら、その少しずつのズレが危険をはらむ。

 ノーラは頑張って説明してくれるけど、口頭での疎通には限界があるしね。

 スロープなんて作ったら、途中に段差があるかもしれない。見えないまま滑り込んだら、大変な事になりかねない。手触りでそれは防いだとしても、綺麗に勾配を作るのは難しい。私達、建築に関しては素人だからね。


「それに、座って滑る訳にはいかないよ。あくまでも、空から舞い降りる演出なんだし。明らかに足場を感じさせる状態は避けないと」

「う゛……」


 今回のプロデューサー(ウォズ)、厳しいからね。


 本番では、なるべく緩やかな斜面にする予定だし。歩いて見えるのは仕方ないとして、何もない感は演出しないとね。


 せめて手摺を作れば、キャシーの恐怖心も和らぐかな?


 そんな事を考えていたら、下で庭仕事をしていたベネットと目が合った。

 私は手を振ったのに、何故か彼女は狼狽えながら目を逸らしたよ。


「あ」


 うっかりしてた。


「どうしました、レティ?」

「あ、うん。今更気付いたんだけど、この状態、下から覗くとスカートの中、見えるよね」

「!!」


 慌ててオーレリアがスカートを押さえる。

 でもそのせいでバランスを崩した。


 あ、落ちた。


 何処か暢気に、オーレリアを目で追ってしまう。


 この時点で、私が救助要員として役に立たないのは確定したけど、彼女は自ら対処した。

 咄嗟に風魔法を発動させて、体勢を正す。

 ふわりとドレスが広がって、身体が浮かび上がり、そっと地面に着地した。落ちる様子まで含めて風雅で、最後まで見惚れたよ。

 あれが再現できるなら、今の試行錯誤もしなくて済むのにね。

 私達が作っているのは手段で、オーレリアのは磨き抜かれた技術。一緒にしちゃいけないって分かってはいるんだけどね。


「で、薄いオレンジ、だったよね」


 オーレリアには悪いけど、風でスカートが広がったから、全部見えたよ。

 建物側にいるマーシャ達に確認したら、困り顔で頷いてくれた。ウォズは反対向いているけど、それ、見えた後で、だよね。


 スカートを押さえたせいで落ちたのに、全部裏目に出た事は、本人には黙っていてあげよう。


「オーレリア、大丈夫?」

「はい。ちょっと吃驚しましたけど。それより私、カッコ悪いですね」


 2階の高さから落ちたのに、それで済むあたり、オーレリアだよね。

 ついでに、ぴょんと跳び上がって、足場まで戻ってきた。うん、全然平気そう。


「ほらキャシー、オーレリアが大丈夫だって証明してくれたよ」

「大丈夫だなんて、思える訳ないじゃないですかぁ!? ちょっとした事で落ちるって分かったんですよ? 私には無理ですぅ!」


 あーあ、屋敷の方へ逃げたよ。

 これで振り出し、前途多難だね。


 何だかんだと問題は多いから、安全対策を考えないとかな。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。

今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
アニメの世界を再現する脳はないのか? 箒に腰掛けて飛べる!って本気で思えばいける様な気がする。 別にキャシーとオーレリアは舞台で待っていれば良い様な気がするんですよ、聖女だけが過剰演出すればいいのだか…
[一言] 現代科学を知っているからこそ、この世界の想像したものが具現化するのが難しいという発想は面白いですね。ま、以前に書かれていたこの世界では炎も物質って現象が私達の常識の遥か斜め上過ぎてそこがまた…
[一言] 高所恐怖症って洒落にならないですよ。 アレは理屈ではどうにもならないです。
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