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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
2年生編

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冒険者ギルドに行こう 面倒事再来

 通された応接室も、金ピカ仕様だった。

 日差しが入ったりすると、きっと目が痛い。豪華と成金趣味を取り違えてないかな。まあ、こういった富の誇示を好む貴族はいるから、不正解とは言えないんだけど。


「魔物の浮遊種、しかも捕獲ですか」


 事情を訊いたセイファスさんは困り顔になった。

 想定通りではある。無茶と分かって相談に来た訳だし。


 王都への生きた魔物の持ち込みには、煩雑な手続きがいる。そうでなければ入都審査を通れない。普段なら、都合良く目的の魔物が運び込まれる可能性は、ほぼ無い。


「収穫祭では魔物討伐の催しも行われますよね。その為に捕獲した魔物の中に、該当するものはいませんか?」


 セイファスさんは、それがあったかと資料を確認してくれたけど、すぐに浮かない顔に戻った。

 残念、そう上手くはいかないみたい。


「申し訳ありません。今年は夜牙犬(ナイトファングドッグ)の群れを捕獲したようです。一昨年は捕獲した魔物の種類も多く、浮遊種も混じっていたのですが……」


 手頃な魔物が沢山手に入るなら、そちらを優先するよね。何を倒すか、ではなくて、どれだけ格好良く倒すかを見せるイベントだもの。


「魔物の捕獲を既に終えているなら、比較的手の空いた方は多いのですよね?」

「は、はい。例年に比べれば」


 オーレリアの質問に、セイファスさんは恐る恐る答える。

 顔見知りであっても、彼女も貴族だから、無茶振りされても断れない。急ぎなんて話を聞かさせたら、人となりを知っていても答え方には気を使うよね。


「特急料金をはずむ事で、引き受けてくれる方を探せませんか? 無理を言っていると分かっていますから、失敗の責任を取らせたりしません」

「……その、できれば、その方向は控えていただけると助かります……」


 弱り切ったその様子を見れば、これは無理だと分かる。


「無理強いするつもりはありませんが、理由は聞かせてもらえますか?」

「はい……。依頼料が高額になった場合、それを達成する為に、無茶をする者が増えます。度を超えた報酬が約束されていると、気も緩みます。冒険者に絶対安全などありませんが、危機を増やすような事はしたくありません」


 そりゃそうだ。

 浮遊種の魔物がそれなりに強力な個体となると、尚更だよね。

 私達としても、安全マージンを無視するような事はさせられない。


「すみません、理解できました。オーレリアも言った通り、無理は言いません」


 うっかり踏み込み過ぎたと、オーレリアもコクコク首肯している。


「ありがとう、ございます。……その、代わりと言いますか、魔虫では条件を満たせませんか?」


 その手もあったね。


 虫って水分量が少ないから、大きさの割に軽くできている。空洞も多いしね。

 だから多少大きくても浮遊器官を必要としない。

 でもこの世界には金属製の甲虫とか、部分的に蛇や蜥蜴っぽい虫とかいる。羽根の構造が虫のままなら、その体重を浮かせられる筈がない。


 ただ問題は、浮遊器官が動物型と同じとは限らないって事。種族が違うんだから、別進化している可能性はあるよね。身体を軽量化するみたいな補助的な役割に留まるとか。


 まあ、浮遊器官自体が、どんなものか分かっていない訳だけど。


 確認する価値はあるかな?


「魔虫なら、期間内に手に入る当てがあると?」

「はい。4日……長く見積もっても1週間あれば、南の森でフェラムブラッタを捕獲するくらい……」

「ちょ、ちょっと待ってください!」 


 慌ててセイファスさんを止める。


 ブラッタって、Gの事だからね。この場合は甲鉄G。鉄殻に覆われていても、見た目は台所に時々いるアレ。そのでっかいヤツ。

 確かに条件は満たしているかもだけど、お目にかかりたくない。しかも、依頼しようとしてるのは生け捕りだから、カサカサ動くんだよ? 死骸でも嫌だけど。

 オーレリアも既に涙目です。

 実際に鑑定するのはノーラだけど、これを強用したら、完全にハラスメントだと思う。友達にそんな酷な事、お願いできない。


「申し訳ありません。一度持ち帰って検討させてください……」


 ノーラがGに不快感を覚えなかったり……多分するだろうな。

 一応、魔道具のヒントではあるから、帰って相談はしてみようか。想像するだけで悲鳴が返って来るかもだけど。


「こちらこそ、すみませんでした。女性にする話ではありませんでしたね」


 私達があんまり慌てるものだから、セイファスさんも失言に気付いてくれたみたい。お騒がせしました。




 収穫があったとは言い難いまま帰路につく。

 私の目的はここに来た時点で大方達成したし、気分転換も主目的の1つだったから、落胆はない。碌に状況が動いてないんだから、振出しに戻ったところで、大して違いはないよね。


 問題は時間が確実に過ぎているって事かな。

 早く帰ってアイディア出しの続きをやろう―――


 そう思っていたのに、偶然ギルドの奥から出てきた面倒事と出くわした。

 軍人でもないのに詰襟の灰色上着で、胸に徽章をプラプラさせてる人なんて、今この王都に1人しかいない。


 やっぱり今も学院生とは上手くいっていないらしくて、側近はぞろぞろ連れているけど、ギルドへ案内してくれる友達はいないみたい。


「おや、勇ましい格好をして誰かと思ったよ。スカーレット・ノースマーク令嬢。君が冒険者の真似事をしているとは、この国はそこまで人材不足なのかな?」

「お久しぶりです、イーノック皇子。相変わらずこの国の常識には疎いようですね。それとも、争うしか知らない帝国には、挨拶なんて文化はありませんでしたか?」


 一瞬で火花が散る。

 でもここでやり合うと、見送りに来てくれたセイファスさんが心労で倒れるかもしれない。程々にしておいてあげよう。


 ちなみに彼等がここに居た理由には、見当がつく。


 ここには三大強国それぞれのギルド本部を繋ぐ、遠距離連絡用の魔道具がある。本国と連絡を取ろうと思えば、手紙を出すか、ここに来るしかない。

 遠距離連絡魔道具は恐ろしく高価で、大陸に両手で数えるほどしか存在しない。勿論王城にはあるのだけれど、重要機材を他国の人間に使わせる訳がない。


 この魔道具、前世の通信機器とは根本から原理が違う。

 樹齢1000年以上のエルダートレントの命が尽きる時、極稀に魔石が砕ける事がある。この魔石、何故か破片同士の魔法的な繋がりが残る。ある欠片から魔力を抜けば、他の欠片からも魔力を吸い上げられる。逆も可能で距離は関係無い。

 トレントの命が尽きた瞬間の出来事なので、砕けた事実が魔石に残らないとか、1000年の間に特殊な術式が蓄積されるとか言われてるけど、実際のところは不明。しかも、人工的に魔石を砕いても、この効果は得られない。あくまでも自然発生限定。ファンタジー過ぎて訳が分からない。

 この性質を利用して、遠方に音を届けられるようにしたのが、連絡用魔道具。この魔石が発見されたのは歴史上2例だけ、奇跡で成立している魔道具になる。

 なお、国で使用しているものと、ギルドで使用しているものは別個体なので、互換性はない。


 この世界で唯一の遠距離通信手段だから、皇子が利用する事は予想できたけれど、何も今日かち合わなくてもいいのにね。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。

今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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