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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
2年生編

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測定器令嬢

 呼び出しを受けたレグリットさんは、息を切らせてやって来た。

 私が、急ぎで、呼んでいる、最優先で、なんてメッセージを受け取ったら、慌てるよね。特に彼女は私を恐れている節があるし。

 フランってば、私の望みを叶える為なら、身内に容赦しないところがあるからね。


「レグリット様、来客中です。息と身嗜みを整えてから、入室するくらい心の余裕を持ってください」


 そう言うフランは、理不尽だと思う。


 目を丸くするエレオノーラさんを待たせる訳にはいかないから、私が事情を説明する。当然、彼女の才能について聞いたレグリットさんは驚愕の表情になった。

 そんな前例は、彼女も聞いた事がないと言う。

 魔塔の資料をかなりの割合で読み漁ったレグリットさんだから、彼女が無いというなら、王国史に無いと思っていい。


「申し訳ありません、確認させてください。こちらを鑑定できますか?」


 レグリットさんはいくつかの付与基盤を並べて訊ねる。

 エレオノーラさんはそれをちらりと見て答えた。


「? 右から、硬化、温熱、保冷、ですよね?」


 今、触れもしなかったよね?


 4つ目の基盤を出すより早く答えられたレグリットさんは、驚きのあまり固まっている。彼女が鑑定を行うところを見た事あるけど、もっとじっくり観察してたよね。


 そんな様子を見て、少し悪戯心が湧いた。


「じゃあ、これは分かる?」


 ブローチをテーブルの上に置いて訊ねる。

 今度はひと目では分からなかったみたいで、そっと右手が差し出された。


「えっ!? 完全防御、自動蘇生、危険察知、永続、天恵、幸運、念願成就、厄除け、浄化、健康、疲労回復、心労軽減……何ですの、これ!? あ、でも凄い! 持ち主を守りたいという願いが溢れてますわ!」


 私の後ろで赤く俯いているフランのお守り。

 うん、きちんと鑑定できているみたい。初見の付与でも問題ないんだね。


 なら、こちらはどうだろうと、次を差し出す。


「……これも凄いですね。完全防御、自動蘇生、危険察知、永続、厄除け、浄化……ですか。こちらの方は色が濃い……、込められた魔力が多いのですわね」


 あー、まさかとは思ったけど、鑑定できてしまうのか。


 レグリットを含めて、研究室の全員に持たせてあるお守り。

 実はこれ、付与した後、魔力を飽和させてある。魔力がそれ以上通らなければ、鑑定魔法も通じないって対策の筈だったのだけど、エレオノーラさんには色の濃淡でしかないみたい。

 提案したレグリットさんは頭を抱えてる。


「濃淡が見えるなら、魔力量も分かるの?」

「はい。もっとも、目盛りがある訳ではありませんから、あくまで相対的に、ですが」


 ならば試してみようと、また腰の回復薬を取り出して魔力を込める。

 最初を基準にして、10倍量くらいまでを0.1倍刻みでランダムに上下させてみると、どれもピタリと言い当てられた。


「本当に凄いね」

「……そんなふうに自由に魔力を出し入れできるスカーレット様も、十分凄いと思いますわ」


 私が魔力の扱いに長けている自覚はあるけど、あくまでも熟練レベル。エレオノーラさんと違って、オンリーワンじゃない。しかも精度は測定器の領域だよ。


「すみません、エレオノーラ様。こちらも鑑定していただけますか?」


 持ち直したレグリットさんが取り出したのは、魔漿液の小瓶。回復薬と間違えないように透明瓶に入れてある。今更鑑定を頼む意味が分からない。


「これは……回復薬の液体と同じものですか? 原料はスライム、無属性、水に似ていますが、結合が少し強いのでは? もしかすると沸点や融点に違いがあるかもしれません」


 うん?


「エレオノーラさん、魔漿液って知ってる?」

「ましょ……何でしょう?」


 困り顔の彼女を見て確信した。

 彼女、回復薬は知っていても、魔漿液に関する知識はない。


 考えてみれば、回復薬の原料について、論文公開はしていても、一般には広まっていない。治験時にインバース医院で使用前の注意事項として説明していたから、王都ではそれなりに知っている人はいても、回復薬がスライム由来だなんて噂になる程じゃなかった。私とスライムの繋がりについては、治療スライムの方が有名なくらい。


 つまり彼女は、前情報なしに言い当てた。

 当時アルドール先生が苦労して突き止めた水素結合の違いまで、鑑定で読み取れたって事。魔漿液の名前は私達が付けたものだから、鑑定で見えなくても仕方ない。


 これって凄い事だよね。

 彼女がいれば、もっと早く回復薬を開発できたかもって事だから。


「鑑定魔法を使っている事は間違いないですね。私は勿論、魔塔の鑑定師でも及ばない練度ですが。それとは別に、魔力……もしかすると、魔法を目視しているかもしれません。本来見えない筈のものを認知する事で、鑑定の幅を広げている可能性もあります」


 魔法が見える。

 その信じられないような結論をレグリットさんが出せたのは、私って前例あってだと思う。私だって、信じ難い。

 エレオノーラさんの方が驚いているくらい。


 でも彼女が鑑定しようとする時、琥珀色の眼が薄く光るのは確かだし。

 常時発動の私と違って、魔力を通す事で機能するのか、固有魔法なのか。どちらにしても興味深いよね。


「念の為にお伺いしますが、エレオノーラ様は鑑定魔法を誰かに師事した事はありますか?」

「い、いえ、気が付くとできていた事なので……」

「……末恐ろしいですね、天賦の才です。磨けば、もっと鑑定の幅を広げられるかもしれません」


 ワクワクしてきた。


 モヤモヤさんを見える私が魔導変換器を作ったみたいに、エレオノーラさんがいるなら、また新しいものを作り出せるかもしれない。


 是非、研究室に勧誘しないと。

 そう思った私より早く、少し顔を紅潮させたエレオノーラさんが口を開いた。


「あ、あの! このわたくしの魔法、スカーレット様のお役に立てますか?」


 もしかして、今日の彼女の本題はこれ?

 人に無い力をアピールしたかったの? そうでないと隣に並べないと思ったとか?


 なんとなくオーレリアを思い出す。

 騎士や兵士、子供には特殊なコミュニティで育ったから、同世代の女の子との付き合い方が分からなかった彼女。


 エレオノーラさんが親族に疎まれて、人の輪に入れなかったのだとしたら、近い状態かもしれない。

 実は私も勉強漬けで似た身の上だけど、私には前世の記憶があった。

 なら、掬い上げた私が、ここに居ていいんだって、教えてあげなきゃだよね。この貴重な才能は、とっても欲しいし。


 できる限りの笑顔を作って、答えをあげる。


「ええ、とっても。エレオノーラさんが協力してくれるなら、私はもっとたくさんの事ができるわ。手を貸してくれる?」

「はいっ!」


 無理に研究室へ誘うつもりはなかった。

 研究を通してでなくても、友達はやれるしね。できる限りで協力してくれてるけど、オーレリアとか研究が専門じゃないし。

 でも、一緒に同じものを目指せるなら、その才能を貸してくれるなら、最高だよね。


 弾んだ返事が嬉しい。


「わたくしは償いの為に生きてきました。許されてしまって……その事自体は喜ばしいのですが、何を目標にすればいいのか、分かりません。ここで、スカーレット様のお傍で、楽しい事を探してみたいのです。スカーレット様のお役に立てれば、きっと嬉しいと思えますから」


 その動機は少し気になるね。

 この子にとって、私はあらゆる事の中心だったのかな。罰を与えてもらう事が、唯一の望みだったのかな。

 彼女の意思には変わりないから尊重してあげたいけど、私に依存しようとしてる気もする。


「エレオノーラさんは、これまでに楽しいと思った事はないの? 好きだった事は?」

「……どうでしょう? 強いて挙げるなら、本を読む事は好きでしたわ。没頭していると、時間が過ぎるので」


 うーん、重症だね。

 少しずつ経験を増やしていくしかないかな。楽しいと思った事がないんじゃなくて、楽しいと思えるような事がなかったんだと思うから。

 お茶を美味しいと思えるだけの感性はあるみたいだから、まずは五感に訴えるところからかな。


「ところで、私の研究を手伝ってくれるなら、貴女の魔法を隠しておくのは難しいと思う。私の身内に明かすくらいは許してくれる?」

「? はい。スカーレット様が必要だと判断されるなら、わたくしに異存はありません」


 私に依存している上に、自分の価値を分かってもいないよね。

 皆なら悪いようにはしないだろうし、ここは甘えさせてもらおうか。

 多分、魔塔へ行ってしまったアルドール先生の穴は間違いなく埋めてくれる。彼女の鑑定から帰納的に測定器を作る事もできるかもしれない。

 そうやって、彼女の価値を知ってもらう事から始めよう。自信が付けば、自主的にやりたい事も探せるようになると思うから。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価で応援いただけると、やる気が漲ってきます。

今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
エレオノーラの母親は本当にバカなことをしたなー、あんな事件を起こさなくても、この子の才能は王族の役に立つよ。 でもあの第3王子だったからなー、縁が切れて母親GJだったのかも知れない。
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