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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
2年生編

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チート鑑定令嬢

 3日後、研究室に現れたエレオノーラさんは、どこからどう見ても緊張していた。


 楽にしていいよって言ってあげたいけど、上手い言葉が見つからない。張りつめさせてる対象は私だから、何を言っても効果は無い気がする。

 だから、とっておきを用意した。


「し、しちゅれい致します……」


 あ、噛んだ。


 頬を羞恥で染めているエレオノーラさんは見なかった事にして、ソファを勧める。

 同時にフランが紅茶をそっと差し出してくれる。


 人に気を使わせずお茶やお菓子を提供するあの技術は、どう考えても真似できそうにない。侍女教育は受けてないから当然かもだけど。

 エレオノーラさんも自然にお茶へ口を付けてくれた。


「あ、美味しい」


 ホッと笑ったエレオノーラさんを見て、成功を確信した。

 やっぱりフランの紅茶には、人を和ませる効果があるよね。これで少しは緊張も解けてくれる筈。


 彼女は思わず漏れた言葉に驚いて、咄嗟に口を閉じた。私は追及したりしない。


 今日はオーレリアとウォズがいる。

 全員は気が休まらないと思ったから、キャシー達には遠慮してもらった。


「本日は、わたくしの為に時間を割いていただいて、ありがとうございます」

「気にしないで。私も貴方とお話ししたかったもの」


 実は子爵との面会予定があったのだけど、調整した。私の都合だから、本当に彼女が気にする事じゃない。

 勘だけど、なるべく早く聞いておいた方が良い気がした。


「こちらをご確認いただけますか?」


 エレオノーラさんが取り出したのは、2つの小瓶。色は青と白。

 青い方は、何の変哲もない下級回復薬の空き瓶。もしかすると、先日渡したものかな。

 もう一方は少し気になった。白は特級回復薬に使っているもの。もっとも中身は入っていないし、特級は数量管理を徹底しているから、不正に入手できるとは思えない。


 なら、どういう意味があるのだろう?


 更に気になるのは、どちらも再度蓋をして、上からテープを巻いて密閉してある。

 もしかして、僅かな飲み残しを保存するため?

 だったとして、何の為に?


 ちなみに彼女は、侍女も護衛も連れずにやって来た。

 瓶を入れた鞄を自分で持って来て、中身も自ら取り出すなんて、普通の貴族令嬢ならしない。人払いの為かとも思ったけれど、一連の動作が慣れた様子だったから、多分側近を付けてもらってないんだろうね。


「先の大火では、エッケンシュタインの王都邸も被災しました」


 うん、知ってる。

 元々死に体の財政に重いダメージを負ったらしい。領都からも人が離れる事態に陥ったと聞いている。

 国の援助も、扶心会の支援もある。でも一般市民と違って、貴族邸の再建には足りない。土地の割り当てと公共工事は済ませて、敷地だけぽっかり空いている。


「この瓶はその時、当家の使用人を助けていただいた時のものです」


 あの1228人の中にいた訳か。


「こちらの回復薬、スカーレット様が作られたものではありませんか?」

「!」


 喉がヒュッと鳴った。


 エレオノーラさんが指すのは白い方。

 大火の時に使われた特級品の中には、確かに私が付与したものが混じっていた。


 回復薬の製造は、既に私の手を離れている。

 一部が研究室に納品されているから使用には困らないけれど、私が魔力を込める事はほとんどなくなった。だから私の付与品はもう残っていないと思ってた。


 まさか、あんな飲み残しから私に届くとは思わなかったよ。


 問題はどうやって、という点。

 私が付与を行える事は大勢が知っている。大火の時には大量のスライムに付与したしね。でも「不壊」や「永続」みたいな特別な付与を行わない限り、他の付与術師と差があるような話は聞いていない。

 無属性は珍しいけど、そもそも回復薬の付与は、無属性術師か、無属性魔石を用いた装置でないと行えない。


 なら、私とそれ以外の付与を見分ける方法がある?


「ごめん、オーレリア、ウォズ。部屋を出てもらえる?」


 2人に退出をお願いする。

 見分け方の方法によっては、2人に話せていない内容になる。


 少し戸惑った様子を見せたものの、2人共何も言わずに応接室を出て行ってくれた。後でちゃんと事情を説明しなきゃね。


 彼女達が部屋から離れるだけの間を置いてから、話を再開する。


「フランには居てもらうけど、エレオノーラさんにそれで不都合はある?」

「いいえ、スカーレット様が宜しいのでしたら、わたくしからは何も。許していただいたとはいえ、わたくしに隠さなくてはいけないほどの秘密はありませんわ」


 人払いの願いは、私の為だったみたい。

 つまり、それだけ大事な話をするって事でもあるよね。


 エレオノーラさんは気分を落ち着かせる為か、紅茶を飲み切ってから、口を開いた。


「話を続ける前に確認させていただきたいのですが、スカーレット様は、全属性をお持ちですよね?」

「え!?」


 いきなり驚いた。


 私も、王都に来てからフランに知らされた事。ノースマークでも、知っている人はほとんどいない。鑑定を依頼した魔塔最高峰の鑑定師は、契約で厳重に縛ってあると聞いている。


「どうしてそう思ったの?」

「はい。先日いただいた青い瓶の回復薬、こちらは市販されているものと同じだと思いますが、無色の液体にしか見えません。しかし、白い瓶の方は、スカーレット様を覆う魔力と同じで、わたくしには薄く虹色に輝いて見えるのです」

「!!!」


 驚いた。

 今度は声も出せないくらいに驚いた。


 私を覆う魔力って、まさかラバースーツ魔法?


「……魔力の色が見えるの?」

「はい。それから、触れると付与した魔法の意図も伝わってきます。青い方からは弱い回復の意味が、白い方からは全快を祈る強い願いが伝わってきます」


 何、この子?


 意図? 願い?

 何が見えているの?

 何を感じているの?


 鑑定魔法は、この世界に存在する。

 一部の術師だけが使える高等魔法の一つ。

 レグリットさんがそうだから、対象に魔力を通して、情報を読み取るのだと聞いた事がある。

 試してみたけど、残念ながら私には使えなかった。情報は頭に流れ込んでくるんだけど、何が何だか分からない。多分、情報を読み取る感覚が備わっていないんだと思う。


 でもエレオノーラさん、もっととんでもない事言ってない?


「それって、鑑定魔法なの?」

「申し訳ありません、分からないのです」


 分からない?


「調べた限り、確かに鑑定魔法に近いとは思っています。ですが、違う点も多く、類似例を見つけられていません。父に相談した事もあるのですが、訳が分からない事を言うなと、取り合ってもらえませんでした。ですから、詳細は調べられていないのです」


 は!?


 エッケンシュタイン伯爵、馬鹿じゃないの?

 ただの鑑定魔法だったとしても、作付け状況を見直して、魔物対策を的確に指示して、人を適性や能力に応じた職務に割り振れる。鑑定士を呼べば大金を支払わないとはいけないし、近隣の領主が知れば鑑定依頼が山と持ち込まれる。

 領地の状況をひっくり返せるくらいの才能を蔑ろにしたの?


 しかも、どう見ても、彼女の才能には先があるよ?


「フラン、すぐにレグリットを呼んで」


 詳しく知るには、専門家の意見が欲しい。

 私の意図を正しく理解して、フランは指示を風魔法に乗せて飛ばす。呼びに行く手間が省ける分、早く情報が伝わるからね。


 風伝達の魔法も結構高等技術だから、初めて見たエレオノーラさんは驚いた顔をしている。

 でも、貴女の魔法の方が凄いと思うよ?


 同じ棟内にいるレグリットさんが来るまでの時間すら、もどかしく思ってしまう。早く彼女の魔法の詳細を知りたい。


 どうも、とんでもない拾い物をしたみたい。

お読みいただきありがとうございます。

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今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
これはアレな彼女の家族達にアレコレされないうちに身柄ごと保護したほうがいいのかな。
[一言] おおう…ドアマットヒロイン。 なるほど才能ある子女が虐げられるのは周囲が無能でないと無理がありますね
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