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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍2巻&コミックス1巻発売中!】   作者: K1you
2年生編

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土下座令嬢

 帝国の第4皇子は結局、広間の入口より奥へ踏み込めないまま帰っていった。

 誰にも受け入れられない状態で、式典にいられる筈がないよね。

 一部の貧乏貴族みたいに、この機会にいいものを飲み食いしようって訳でもないし。あの様子だと、王国料理を受け入れられるかも怪しいし。


 あれで融和派だって言うんだから、真っ当な国交が結べる気がしないよね。


「あんな調子で、16年前も攻め込んできたのでしょうか?」

「うん、女性を下に見てたように、王国や皇国を、同列には考えられないのかもね」


 武を競い、力を誇ると学んだ。

 その序列が、国同士の軍事力にも適用されている気がする。大陸三強国で、最大兵数を誇るのは間違いないし、16年前は兵の練度にも差があったと聞いた。


「でもあの皇子、鍛え方が全然足りていませんでしたね。王族の権力が強いという話ですけど、皇子が武威を示す必要はないのでしょうか?」


 そういや、王国にもいたね、武を重んじる家。

 あの綺麗な皇子を見て、オーレリアが気になったのは筋肉の付き方だったみたい。


 強化魔法はあるけど、魔力制御が特別に優れた一部の例外を除いて、騎士タイプの人って、身体も鍛えている場合が多い。筋力量に比例して強化割合が上がるし、身体を動かす事で、魔力を巡らせるコツを掴むみたい。

 その点で考えると、あの皇子の鍛錬は足りていない。


 でも、オーレリアのお眼鏡に適う王族って難しいと思うよ。うちの皇子とか細っこいし。鍛錬はしてると聞いてるけど、最低限だよね。


 ところで、入学歓迎式典は、強制参加じゃない。

 実際、帝国皇子は遅れて入って、既に帰った訳だから。出入りも自由、例外は王族が時間をずらして入ると決まっているくらい。彼等がいると何かと優先しなくちゃいけなくて、皆畏まって交流が進まないからね。貴族子女だけの時間確保の為に、遅れて来る。今年は不在で関係ないけど。


 とはいえ、ここで挨拶しておかないと、対面の機会を無視したみたいで印象が悪いらしい。一度に名前を覚えずに済むなら、私はありがたいと思うのだけど。

 そんな訳で、原則全員参加。


 まあ、キャシーは去年さぼったらしいけど。

 私の婚約拒否騒動を知らなくて、吃驚したよ。


「いやー、あたしのした事のツケですけど、ほとんどの人の反応が良くなかったですね」


 一通り挨拶し直して回ったキャシーが愚痴る。


 散々嫌味を言われたみたい。

 明るく振舞おうとはしているけど、多分、結構へこんでる。


「レティ様の研究室に出入りしている事は皆知ってますから、相手にされない事がなかっただけ、いくらかマシでした。皇子とのひと悶着の後は、空気が変わりましたし」

「そんなに違った?」

「そりゃ、まあ、友人として知られてますから、苛烈な聖女様を敵に回したい人は少ないですよ」

「……苛烈。私って、そんな印象?」


 今日は頭に来たから、確かに容赦しなかったけど。

 いつもこうな訳じゃないよ?


「時々出席するパーティーで、年上の男の子どころか、親までやり込めてるじゃないですか。それに、王城のお茶会で、第1王子妃様と物怖じしないで話したり、言いたい事は誰にでもはっきり言うって有名ですよ」


 ジローシア様と話せるって、特別な事なのかな?

 現第2妃イローナ様と、アドラクシア殿下を巡って争った時は、凄い迫力だったと聞いている。でも普段は、ご自分に厳しいだけの普通の人だと思うけど。

 あー、普通の人は王子を屈服させたりしないかな。

 私としては、あの2人は揃って、丁度いいバランスだと思うけど。


 詳細は学院まで伝わらないから、学院で起きた三角関係騒動のジローシア様の印象のままなのかな。


 それはともかく。


「私、誰かれ構わず嚙みついてる訳じゃないよ?」

「あたしたちはそれを知ってますし、理解してくれてる人もいます。けど、レティ様の次の標的は自分じゃないかって、怯えている人は多いみたいですよ」

「それ、私が見かねる貴族がそれだけ多いって事じゃない?」

「そうとも言います。でも、レティ様の線引きまで、噂では伝わりませんから」


 で、私が端から叱っている印象になる訳か。

 王子とか皇子とか含まれるものだから、尚更に。


 私に戦々恐々する前に、自省してくれないかな。


「煙たがられている訳じゃありませんよ。今日の皇子とか、放っておいて調子に乗らせると、大変な事になったかもしれませんし。だからって、実際に面と向かって言える人は少ないですし」


 身分差があるし、それを受け入れて当然だって育てられているからね。

 私は言うべき事は口に出すよう、お母様に躾けられたけど。


「綺麗な人でしたけど、あの様子だと、泣かされる女生徒が増えたかもしれません」


 そう言うキャシーに、あの美しさを気にしている様子はない。

 まあ、この子の好みにグリットさんが刺さるくらいだからね。がっしりと男らしい、いっそ、男臭いくらいの方が嵌まるみたい。

 男爵家生まれで良かったね。

 あれを貴族令息に求めるのは無茶だと思う。


 オーレリアは、まだそうした感情自体、ピンとこないみたいだし、マーシャは……まあ、マーシャだからね。もう3年くらい皇子が若かったならともかく、研究室のメンバーが、あの整った容姿に引っ掛かる事はなさそう。

 私としても、あれだけ美形だと、遠巻きに楽しむくらいでお腹いっぱいかな。アイドルとか、俳優とか、眼の保養にはなるけど、実際にいると距離取るよね。

 アレは明らかに地雷案件だし。


「自国にいるなら、恥を掻かされたって報復もあるかもだけど、ここでは皇子だからって、できる事も限られるしね。こんな事で帝国に泣きつける筈もないし、自分の振る舞いを省みてくれると良いんだけど」

「そうですね……って、レティ様はそれでも許す気ないんじゃないですか?」


 まあね。

 鼻で笑われた恨みは酷いよ。


 それなのに求婚できるくらいだから、女性を収集品くらいにしか思ってないんだろうね。呆れるよね。


 そう言えば、面倒皇子のごたごたで、リッター先生に声を掛ける途中だったの、忘れてた。キャシーの挨拶回りもひと息ついたみたいだし、これを最後にして帰ろうか。


 そう思ったところで、1人の女の子に声を掛けられた。


「スカーレット・ノースマーク様。少しお時間いただけますか?」


 知らない子。

 雰囲気からすると、多分新入生かな。

 ただ、挨拶を受けた覚えはない。タイミングが合わなくて待たせてたかな。


 薄い青でまとめた上下が可愛い感じで、金色の髪を綺麗に巻いている。背は既に私と同じくらい。琥珀と緑、虹彩異色の瞳は、真剣というか、深刻というか、ただ事でない色を携えている。


「私の事は知ってくれているみたいですね、ありがとう。貴方の事も教えてくれる?」


 様子が少し気になったけど、緊張しているのだろうと流して、普通に初対面の挨拶を続けた。

 最近では私の事を知ってるくらいは珍しくない。皇子を追い返したばかりだから、キャシーが言うように少しくらい恐れられても仕方がない、そのくらいに思ってた。


 ―――けれど、女の子はその場に膝をつくと、額を床に付ける深い座礼をした。


「本当に、申し訳ございませんでした!」


 は!?

 何事?


 土下座、土下座だよ?

 見紛う事なく、土下座。


 訳が分からない。

 こんな事される心当たりなんてない。

 というか、初対面だよ?

 そう、間違いなく面識はない。


 なのに女の子は、綺麗な髪を床に散らして、頭を擦り付けている。

 なんで?


 ここは王城の大広間、入学歓迎式典の真っ最中。

 当然、この場の全員の視線が集中してる。そりゃそうだ。こんな大事、無視できる筈がないよね。目立つなんてレベルじゃない。帝国皇子なんかより、よっぽど人目を引いてる。


 これ、私が土下座を強要してるように見えてない?

 凄く居た堪れないです。


 どうして入学歓迎式典って、こんなにイベント盛り沢山なんだろね。

お読みいただきありがとうございます。

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今後も頑張りますので、宜しくお願いします。

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