転生したみたいです
拙作を見つけて下さって、ありがとうございます。
初小説初投稿です。楽しんてもらえると嬉しいです。
どうやら私は転生者となってしまったらしい。
前世では、芙蓉舞衣と言う名の日本人として生きた。
特筆するような人生ではなかった様に思う。
大学まで普通に学校に通って、地元の会社に就職した。就職先も特別ブラックと言う訳でもなく、程々に忙しくしながらも、プライベートでは漫画やゲームを楽しみ、時間が取れれば唯一の趣味と言える温泉巡りを楽しむ余裕も持てた。
あえて問題点を挙げるなら、一人趣味を満喫し過ぎて出会いの機会に恵まれなかったことだろうか。
独り身のままアラサーに足を踏み入れていたけれど、それ程焦りは感じてはいなかった。喪女や孤女等と呼ばれる程周囲に壁を作ってはいなかったし、晩婚が珍しくない昨今、親の小言や親戚のお節介さえ聞き流せば、焦る必要性は感じていなかった。
もし、30を前にして死んだのだとすれば、両親には申し訳ない事をしてしまったと思う。もっとも、どうして死んだのか、全く覚えていないのだけれど。
残念ながら、記憶が全体的に靄がかかった様に薄れてしまって上手く思い出せない。
それも仕方ないかな、と思う。
なにしろ、私はまだ赤ん坊なのだから。
はい、何もできません。
生まれて数日、ずっと夢と現実の中間のような状態で、今日になって漸くある程度の思考を確保出来るようになったところです。
勿論、現状と記憶の乖離に大パニック。
ギャン泣き一歩手前で、漫画や小説でよく見た“転生”と呼ぶ現象に思い至って何とか落ち着けた。
2〇歳のメンタルでマジ泣きしかけたのだから、その混乱具合を察して欲しい。
実際に起きるなんて考えたことはなかったけれど、私自身が赤ちゃんになっているのだから、疑いの余地は無い。
生まれ変わった事が分かったなら、次はここがどこなのか把握したい。
そうは思ったものの情報収集の難易度は恐ろしく高かった。
周囲に人はいるけれど、言葉はまるで分らず、そもそも赤子の口は言葉が紡げるほど器用に動いてくれない。
何とか喋ろうとした結果、むにゃむにゃ音が漏れただけだった。
それを聞いた周りの人たちは何やら大喜びしていたようだけど、私の求めているのはそれじゃない。
時折、私に呼び掛けるみたいに発せられる言葉から、私の名前がスカーレットらしいと聞き取れた。他に、ノースマークと聞こえるのは家名かな。
良かった、発音に困る事はなさそうだ。
アーケンソァとか、スキネキテディみたいに難解で、自分の名前なのに発音に困るという恥ずかしい事態は避けられたらしい。助かる。
残念ながら、聞こえてくる会話からこれ以上の情報収集はできなかった。
いくつかの単語を聞き分けてみたものの、知っている言語に該当しない。つまり、意味不明。
言語については、今後ゆっくり解読を進めよう。
視覚から得られる情報は柔らかいお布団と天井だけ。
天井の広がりからこの部屋は随分と広く感じるものの、今は私自身が滅茶苦茶小さいので、相対比的にあんまり当てにならない。
ちなみに、まだ寝返りはできません。
動けないなら、せめて思い出せるだけ以前の記憶を思い返そう。そう決めて思考に沈んだ私は――――そのまま意識を手放した。
うん、無理もないよね。
成人が普通に生活していると意識する事はないけれど、会話(そこまで至ってはいなかったけれど)も、思考も、体力を消費する。体力値ミニマムの赤ん坊が活動できる時間は限られて当然だよね。
赤ちゃんは寝るのも仕事です。
私、スカーレット・ノースマークに転生しました。
赤ん坊スタートの転生は、めっちゃハードモードです。
お読みいただきありがとうございます。
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いろいろ書きたい事はあるのですが、今後の展開は、筆者の文章力次第になります。