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第14話

「……なに?」


 手を引いていたのは案の定景子で、徐々に強くなる力にその意図が読めない。ただ返事なく微笑む姿をいつまでも見ていることが出来ず、ついに膝を折ると半人分スペースを空けた所に座らせられる。

 それくらい話しなよ、思うとともに、二人がけの席で三人が座ることになったため、元から座っていた人が端に追いやられていることを光秀は気にしていた。迷惑だろうに、と言葉が浮かんでくるがそもそもが迷惑から始まっていることを思い出して、仕方なくさっさと話を進めることを決めていた。 半分尻が浮いたまま、光秀は向かいに座る少女を見る。状況が一応落ち着いたとみたのか、彼女は口を開き、


「私たち、来月○○大に入るんですけどまだ引越し先が決まらなくて。なるべく安く抑えたいんですけどそうするとセキュリティや築年数に問題があって……」


「予算はどのくらい?」


 景子の言葉に、少女は指を何本か立てる。

 ……そりゃ厳しいぞ。

 二年前に同じ経験をしていた光秀にとってはすでに通ってて来た道だけあって、大体の相場は把握している。が、その何割も下の金額を提示され、顔をしかめるしかできない。

 景子も同じように短く唸って、


「んー、ここらへんじゃ難しいわね。相場よりもずっと安い値段よ??」


「はい。不動産の人にもそういわれちゃって」


 しゅんと肩を落とす少女がいた。一応後輩になるようなので何とかしてあげたいとは光秀は思う。が、その手段は思いつかない。

 いい方法はないかな。

 光秀は横を見る。景子も同じように視線を向けて目が合った後、ゆっくりと首を振るだけだった。

 ただ、それだけで終わらず、


「じゃあ、私の家に来る? ルームシェアだけど、その分予算より安くなるわよ」


 彼女は首をかしげて笑みを浮かべる。

 光秀は景子の言葉に驚きを隠せなかった。

 ……急すぎないか?

 見ず知らずの人間から同居を誘われる。これではまるであくどい道へだまして連れ去るようだ。

 だから一度落ち着くように、


「待ってくださいよ。今日の今日ですよ?」


「善は急げって言うじゃない。これも何かの縁、運命みたいなものよ」


 頬にえくぼを浮かせて景子は話し続ける。


「どう? 今ならちょうど枠が二人分空いているからあなたも一緒に住めるわよ?」


「はい!」


 勢いのある返事を聞いて、光秀は頭を抱える。なんの相談もなく勝手に話を進めていること、そして、

 ……さっき脅してきたのに、いいのかよ。

 景子の表情からその思惑が読めない。むしろ何も考えていないというほうが正しいとすら思えるほどに。

 よしっ、と恵子は手を差し出すと、向かいに座る少女も手を伸ばし、お互いしっかりと握手を交わす。


「ま、まってよぉ」


 それを制止したのは景子の隣に座るもう一人の少女だった。かわいらしくもろそうな、女の子らしい姿の少女が、二人の手の上に自身の手を乗っけていた。

 その光景は三人が結束しているかのように見える。が、目を閉じて歯を食いしばる姿に、二人の手を離そうとしているようだが、体格差がそれを不可能にしていた。

 ……どうするかな。

 収集がつかない雰囲気を感じて、光秀は悩んでいた。

 ルームシェアに関しては消極的に反対だ。急に言われて即決するような軽い気持ちでは現実を前にくじけてしまうかもしれない。一人ならばいいがそれに巻き込まれる友達も災難だろう。

 しかしそれをこんこんと言い聞かせたところで聞くとは思えない。他に一緒になって説得してくれる人でもいるならば別なのだが、生憎そんなものはない。

 少し考えて、結局思いついたのは、先延ばしだった。


「景子さん」


「なに、みっちー?」


「とりあえず内見してもらってから後日決断を聞きましょう。うちのメンバーにも説明しなきゃですし」


 景子は目を上下に一周させて、


「おっけ」


 もう一度手に力を込めてぐっと握ると、ゆっくり手を離していた。

 了承するのはあんたじゃないでしょうに。

 あきれてものが言えない、という表情を浮かべている光秀をよそに、景子は向かいに座る少女、そして横に座るもう一人へと顔を順に向けて、


「そういうわけで、私は佐久間 景子。こっちの弟分が梁瀬 光秀ね、よろしく」


渡辺ワタナベ 詩折シオリです」


「……下江シモエ 由希恵ユキエです」


 向かいに座る少女、詩折は大きく笑みを浮かべ、横の少女、由希恵は深く頭を下げていた。

 ……大丈夫かな?

 不安だよな、と自問する。答えはイエス以外ありえない。

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