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CITY GUARDIAN  作者: 景虎
Casefile 08 機械(マシン)の心
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chapter 46 怨嗟絶つ

いつもながら忘れてることだがTYPE74もしくはTYPE76が本来の性能を取り戻すと、こんなにも身軽に軽やかに動いてくれるものなのかと南雲なぐもは感心する。

 元よりこのマシンは軍事用なのだ。故に全てがミルスペックで調整されている高級なマシンだ。それを一介のそれも集合都市部に使用を限定した警察仕様となれば、どれだけのデチューンを施されてるかは想像に難くない。スポーツカーのエンジン音だけで苦情が来る都心部で、ジェット戦闘機由来のエンジンを吹かそうものなら苦情どころか、大火事を起こして請求書の嵐だ。

 だが南雲なぐもにとって、そんなことは些細な問題でしかない。枷を外されたTYPE74を操る瞬間が、始めて本当のマシンと渾然一体となる感覚を味わえるのだと実感した。

 DAMダイレクトアクティブマスタースレイブの恩恵を肌で感じる。僅かなラグも無く自分の思い通りに動く第二の身体。パラライズ・グローブから直で伝わる肌を抉った感触。


「グゥガァァァァ!」


 絶叫する怪物が報復の一撃を放つ。南雲なぐもは反射的な報復に対し意識をもたつかせてしまった。避けて……然もなくば直撃か。思考が走るより先に操縦桿グリップを手繰り寄せる。

 TYPE74が身を仰け反って一撃をやり過ごすよりも先に、後方よりTYPE76が現れた。脇をすり抜け、荒い一撃を司馬しばは自慢のランス捌きで去なしてやる。カーンと高い金属の接触音を流して、左腕のフィストを下から突き上げる。

 接触と共に宙へと上がるナナの巨体へと、右腕のランスを突き立てる。散る火花など構いもせず胴体のど真ん中────心臓の辺りを串刺しにすると乱暴に横へと振って薙ぎ払う。

 その動きは西洋の戦でなら見ることが叶ったであろう騎士ナイトの挙動、そのものである。

 

「すっげぇ……」

「感心してる暇があるなら、直ぐに体勢を立て直しなさい。貴方も特級ドライバー持ちなのだから」


 無線越しに叩かれて南雲なぐもは自身の愛機の体勢を戦闘における基本姿勢に戻す。

 モニター越しにそれを確認し、同時に目標へも注意を注ぐ。

 ナナを構成していた胴体の一片が飛び散っていく様を目では追っていた。しかし、ナナが二の手を考えない筈もなかった。

 ナナの集積回路はTYPE76が繰り出すランス攻撃が、一番の障害であると思考を整理する。TYPE74のパラライズ・グローブは痺れるだけで、絶縁体を多めに体表へ纏わせておけば何とかなる。

 ナナは散りゆくドロイド達を操った。TYPE76のランスと対抗できる程の巨腕を右腕で作ってみせると、それを構わず振るった。

 暴風と呼んでも差し支えのない風圧を周囲に与えた。空の40フィートコンテナは枯れ葉のごとく飛び、TYPE74も自重とオートバランサーで堪えてみせる。

 しかし、TYPE76は違った。TYPE74と違い、安定性抜群の四脚が風をビクともしなかった。おまけに携えたランスの流線型が図らずとも空気抵抗を軽減してみせ、暴風の中を突き進みナナへと肉迫した。

 ナナもそれは分かっていた。だから腕を振るって風を起こしたのだ。TYPE76がランスによる刺突を誘発させ、見越したうえで肥大化させた右腕を横殴りに薙いでやった。

 勝ったという確信があった。あんな巨大で重心が偏重してる得物を推進力に任せて易々と突撃すれば回避運動をした際、慣性力に引っ張られて機体がフラつくことなど目に見えて分かっていた。

 一機は墜とした。老いぼれがくたばっていろ、とナナは勝利を確信していた。 

 が、司馬しばの方が一枚上手だった。


「それは……読んでいましたね」


 脚部の電力を全カットからのフルブレーキ。油圧と電気流体の圧が完全に抜け、ストンとTYPE76の胴体が下へと垂直に落ちる。エレベーターが降りるときのフワッとした、あのマイナスGを各々が味わう中、司馬しばはTYPE76が尻餅を付くギリギリのタイミングで脚部への電力供給を再始動させる。

 荒技と賞賛すべきなのだが、TYPE76の中の面々は司馬しばを除いて総じて手で口元を押さえていた。グンと吐き気すらも味わう重力の衝撃の中、頭の上を掠める横殴りの攻撃が宙へ空振るのをセンサー越しに感じたら、再びランスをアッパーパンチのような動きを持って胴体へと突き刺す。


「ウゥガァァァ?!」

「淑女にしては些かうるさすぎますね…」

「ほざけ!お前らのような下等な者に、私の恋路を」

「そんなものは恋とは呼びませんよ……況してや愛などと口が裂けてもね」


 前脚をナナの巨体に当がってはそのまま蹴り技へと遷移させて、その巨体を遥か後方へと蹴り飛ばす。

 ビュウと風舞う程の速力を持って巨体が道路を滑り、その行き着く先のコンテナの山がクッションとなるも、バラバラと音を立てて崩れてゆく。


「皆さん、大丈夫ですか?」


 司馬しばはふと思い出したように乗っていた人達に視線を向けた。

 状態は言うまでもなく惨憺たるものだった。普段、TYPE76に乗り慣れてるはずの都留とどめは泡を吹き、操縦者の湯田川ゆたがわは筐体に突っ伏して気絶していた。素人の真上まがみ生田いくたは、もれなく昼に食べた物達と床の上で感動の再会を果たして目を回している。唯一、意識を保って無事だったのは木山きやまのみだった。


「相変わらず、オメェはハンドルを握ると人が変わったみたいになりやがる!」

「ハハッ、でも逆に付いてきてる君にちょっぴり驚いてもいるよ」

「当たり前だ!オメェと何年バディ組んで、オメェの荒っぽい緊走に付き合わされたと思ってんだ!」


 それもそうかと司馬しばは笑ってみせる。少しばかり昔を思い出したな。そんな懐古的な感傷に浸る間もなく、南雲なぐもからの通信で意識を現実に戻す。

 グッと握った操縦桿に汗を染みこませ、粉塵舞う前方の景色へと視線をやった。

 粉塵の中で蠢く巨体────その頭頂部にいるナナの眼光が激しく光り、TYPE76を睨めつける。


「お前みたいな老いぼれが抜かしたことを言って……!私は愛してる!生田さんを心の底から!あの人のためなら何だってできる、邪魔な物も全部消せる!だから、だから、だ•か•ら~」

「ふざけたことを抜かすんじゃありませんよ!そんなものは恋とも愛とも呼びません!執着という醜く浅ましい願望なんですよ!」


 司馬しばの激昂に触れ、それに逆上したナナの天を突く勢いの怒りが襲いかかる。ドロイドの集合体は最早、半人半怪物ではなく一匹の巨大な大蛇と化して怒り狂った。

 コンテナが次々と飲み込まれ、雲散する塵へと変わってゆく。巨大な口の中は回転刃────シュレッダーと同様の機構を成し、巨大な構造物を粉々に引き裂く。

 しかし、司馬しばはたじろぐこともなく、一歩も引く様子を見せはしなかった。撤退する意思など微塵も感じさせず、握り締めた操縦桿を手繰って機体を前進させた。同時に大蛇の如き姿に変容したナナも動き出す。

 食い殺す勢いを持って巨大な口が開かれる。丸呑みしてやると言わんばかりに回転刃は唸りを上げ、その音に精神を乱された司馬しば木山きやまを除く気絶した面々は一瞬で目が覚め、神にも祈るかの思いで目を瞑る。

 上から下へと向かってグワリと開いた大蛇の顎が食らいつく瞬間、TYPE76は右腕に備えたランスを振りかぶる………。

 刹那の間であった。バッギャァと金属構造物が潰れるのにも似た騒音を周囲に与えると、そこには大蛇と化したナナの上顎を貫通したTYPE76のランスが、月夜に照らされ天高くそびえていた。

 ナナの動きを完全に封じ込めた司馬しばであったが、まだ息のある回転刃がTYPE76のランスを削り取っていくのを目にして、封じ込められる時間に猶予がないことを悟る。


南雲なぐも君、今です!」


 司馬しばの叫びに応えるように、飛翔するTYPE74の勇姿が景色の端より現れる。両腕に備えた盾と言うには小さすぎた拳を覆う追加装甲─────試製84式電磁制圧手甲パラライズ・グローブに紫電を纏わせる。

 主基のもたらす推進力が巨大な五体を宙空へと浮かせ、一撃の姿勢を取る。

 ナナは逃走を試みた。


「逃がすかよ!」


 その瞬間、彼女の怯えた目が見えてしまった。死を意識した者が放つ、諦観した意思の訴えを前に南雲なぐもは情けを掛けそうになるも、反射的に動く身体は情けを意に介する事をしなかった。

 二万ボルトの紫電は一つの質量兵器として機能し、大蛇と化したナナを粉砕した。

 大蛇の頭蓋に相当する部分が弾け飛ぶ。絡み合ったドロイド達は散り散りに解け、ナナもまた単一の個体として解放され、宙へと飛んだ。

 砂嵐混じる視界の中、自分を破壊した巨人の目──────その蒼白に光輝を放つ視線と目が合った。


「お、……の、れ!」


 怨嗟混じる恨みの一言を吐いた次の瞬間、ナナは地面へと叩きつけられる。

明けましておめでとうございます、、、から1カ月遅れの新年1発目の投稿になります

遅い筆を走らせながら、今年も読んで下さる皆様へ作品を届けられたらなと思いながら、今年も頑張ります

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