chapter 45 老兵起つ
皆さまお久しぶりです
約半年ぶりの投稿となります
この半年間、仕事にプライベートに忙しい事尽くしと少しメンタルもダウンしていたので、筆を執るまでの心の余裕がありませんでしたが、なんとか回復したので久しぶりに投稿しました
ここまで読んで下さった方や、待っててくれた人に感謝しつつ、現エピソードの完結と新規エピソードに向けて、更に書いて参りますのでよろしくお願いします
港が昼のような明るさを取り戻すところを、木山はTYPE76の狭小なコックピットの中で見た。
走った紫電は刹那のうちに熱へと変わり、同時に生じる衝撃波が《ナナ》の巨体を微塵へと刻む。
砕けたドロイドは、スペック上の最大値である交流25000Vの高電圧により電装品の全てを焼かれて再起不能となる。結果、《ナナ》の意思を感受できなくなり、身体の組成を行うことが叶わなかった。
物理的に、焼かれ、砕かれ、溶けては新たなドロイドを呼び起こして体躯を作るが直ぐに砕かれる。
「これを、あの坊主がやってるのか……」
木山は一人驚愕した。10メートルは優にある人型の巨体が、身の熟しよく動く。動くだけに留まらず、相手の攻撃を的確に避けて去なし、自らの攻撃を確実に急所へ撃つ。
人間離れした人間的な動きに、木山はこの世成らざるものを見るかのような目付きで、戦いを観察した。
「………光菱電気製、試製84式電磁制圧手甲」
ボソリと一言漏らした司馬の声に、木山と真上は振り向いた。
「それがあの坊主が操ってるロボットの武器か…」
「本来は武器としてではなく、大規模デモ等の暴徒鎮圧用の執行具の一つとして開発されていた」
「あんな、雷を撃ち込むバカげた武器をか?」
ハンと鼻で笑ってイカれてやがると腹の中で蔑む。木山は狭小なTYPE76のコックピットで、戦闘の最中にあるTYPE74と南雲という操縦者を見る。
ポリガーボネードの表皮を、骨格を成すアルミフレームを一瞬にして炭へと変えてしまう凶悪な武装を振るう彼は、何を旨に任務を行うのか…。
警察官が拳銃を構えるのは、引き金を引くのは、目の前の脅威を払うためか被害を被ろうとしている人を守るためだ。だが、目の前の───シティ・ガーディアンが巨大な人型ロボットや火器を振るうのは何のためだ。
「テメェらは野蛮だ…」
声を絞るようにして放った木山の声は、駆動音渦巻くコックピットによく響いた。
脅威を払うために人の営みが払われるのは仕方ないとでも言いたげな湯田川と名乗る女性を、キッと初老の掲示の視線は睨めつけた。
お前らはそれでも人命と公共を守る公務員なのかと、そう訴える視線を投げて。
「分かってると思うが、俺はあの機械人形に手錠をかける」
「木山さん!」
「青二才は黙ってろ!」
縋った真上を一蹴する。吠えたままに、その視線を元同僚だった男に木山は与える。言う通りにして貰うと、まるで銃口を突きつけるかのような鋭い視線に、司馬は呆れるジェスチャーを作ってみせた。
「ふぅ、昔からその顔をするとテコでも動かないんだからな……湯田川、ゴメンだけど進路をアレに向けてくれるかな?」
面食らった湯田川は「しかし…!」と食い下がろうとするも、「大丈夫、大丈夫」と被さるようにして宥められる。
「目標に近付いたら、コントロールをこっちに渡してくれれば良いよ……あとはこっちで何とかする」
「えっ、司馬さんって戦人を操縦できるんですか?」
「あのね~都留さん、罷りなりにも私は特級ライセンサーなんですけどねぇ……」
呆れた口振りを余所に久しぶりの動作手順で自分のコンソールを操縦モードへとプリセットする。
操縦桿の感圧機能に問題が無いことを悟ると、姿勢制御装置と火器管制系統の補助機能を湯田川の操縦席へ遷移させる。
目標までの距離1500メートルを切る。
司馬がHMDを被ると各種センサー受動器と表示マーカーの数値が同期する最中、あっ、そうだと忘れていたと言わんばかりに、コックピットの中の人間に忠告した。
「そういえば言い忘れてたけど、どうにも俺の運転は荒っぽいらしいからな…みんなシートベルトや耐Gスーツの固縛ワイヤーを最大に絞っておけよ」
それを聞いた木山の顔がサーっと青ざめていくのを真上は見逃さなかった。
「お、おい、司馬、お前まだあの癖が直ってないのか?」
「どうにも、こればっかりは性分みたいな物だから直るも何もって感じなんだけど…」
「オイオイ、ベルトも何もねぇ俺たちはどうすりゃ良いんだよ!」
「とりあえず、そこら辺にラッシングベルトがあったから、それを身体に巻き付けておけば良いんじゃないかな?」
今の今まで威勢良く吠えていた木山が慌てふためく姿を見て、真上はおろか都留も操縦者の湯田川ですら冗談とは思えない異常さに心をざわつかせた。
「えっ、司馬さん、冗談ですよね?」
「大丈夫、大丈夫、ちょっと揺れるだけですから」
「ちょっとなもんか!オイ、嬢ちゃん!悪いことは言わねぇ、早くベルト固く締めるんだ!」
繰り出した鬼気迫る表情に、まだまだ新米の都留は弾かれたようにベルトを固く締めた。
湯田川も同じく耐Gスーツの固縛ワイヤーを最大に絞った。
距離が800メートルを切るや否や、司馬は上空待機中の草薙に指示を飛ばす。
「上空待機中のキャリアー1、草薙巡査長、聞こえますか?聞こえたら、ランスを降下して下さい。コンテナは降下後5秒で炸裂、空中で受け取ります」
草薙の絶句したであろう声が通信を介して伝わった。
ひとまず指示通りに武装コンテナを落とすための準備に入る。武装コンテナを搭載したVETOL機は先進的なシステムによって、ワンマンで武装コンテナの降下を行う。
操縦者の指示によりロボットアームが武装コンテナを選択、降下用のレールの上に載せると後は後部ハッチを開くのみ。
3・2・1…のカウントダウンとともに降下シグナルがオールグリーンとなる。
レールから火花走って、コンテナが空中に放り出された。鋼鉄製のコンテナが5秒の間を置い夜闇の中空で花開く。ロックボルトが炸裂し、中に納められた10メートル長のランスが空へと飛ぶ。
ズレた重心による不規則な回転運動をするランスに狙いを定め、TYPE76の巨体がロケットブースターの推進力を得て中空へと飛翔した。
闇に走る推進力の火柱がTYPE76を中空へと押し上げる。伸ばした右腕、その指先が持ち手に触れ、確かな感触を得てマシンの手がランスを得た。
衝撃緩和用のアームロックが右腕と一体となる。ランスを得て、槍を持つケンタウロスを思わせる風貌と化したTYPE76が戦場へと舞い降りた。
突然の出来事でたじろぐTYPE74、それに乗り込む南雲。また敵として立ちはだかるナナも同様であった。
『コマンド!一体なのつもりだ!操縦してるのは桜花お前なのか?!』
「ち、違うよ!私じゃなくて!」
「私ですよ、南雲巡査部長」
『えぇ…?! 司馬さん何してるんですか?!』
たじろぐ南雲の反応に「昔取った杵柄って奴ですよ」と言ってみせる。
対峙するナナも状況が飲み込めず、混乱の情緒を顕わにする。だが受け入れる事実としてただ一つ、塵に帰すべき相手がもう一つ増えたと言うことだ。
「邪魔がまた一つ増える!」
「邪魔……ですか」
何か一つたがが外れるような感覚があった。欲望のままに暴れる怪物から言われた一言……邪魔……司馬の心に深く刺さる。
「邪魔……私からしたら公共の秩序と市井の営みを破壊する貴女こそ邪魔ですよ」
「な……んだ…と!お前らみたいな邪魔虫風情が!」
「生憎、私は人の話を聞くのが苦手な性分なので……特に犯罪者のはね」
操縦桿を握り、操縦系から火器管制系統に至までの全システムの操作権を掌握する。まるで操るのは私一人だけで十分とでも言いたげな姿勢を孕んで。
「南雲巡査部長、こんな雑魚相手に5分もくれてやる必用はありません」
『ざ、雑魚って…相手は触れたら塵にするような武器を持ってるんですよ?!』
「なら、触れずに戦うだけです……そうですね、3分で形を着けましょう。リミッターは外して結構です」
そう言ってはTYPE76に架せられたシビリアン用のリミッターをオーバーライドする。
呆れるがままに南雲もTYPE74のシビリアン用のリミッターを解放し、元々備わっていた軍用スペック時の出力まで能力を呼び起こす。
「さて、怪物退治と行きますか」




