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CITY GUARDIAN  作者: 景虎
Casefile 08 機械(マシン)の心
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Chapter 44 奔る稲妻

絡み合った体躯の集合体となったナナの巨体は、TYPE74を模倣する巨人の姿となっていた。

 ガチャリガチャリとドロイド達の体躯は音を立てて、互いの四肢を用いて結び合う。その姿はまさに妖怪『ガシャドクロ』そのものであるが、模倣した特性を考えるなら『ドッペルゲンガー』と呼ぶのが正しいだろう。


「あ“あ“あ“あ“ぁ“ぁ“ぁ“あ“!」


 発音スピーカーは最早言葉を紡げず、音割れした不快感を吐き出すに至る。

 一歩踏み出すと地表のアスファルトが多少陥没した。衝撃干渉用のパッドもアブソーバもない、そのまんまの重量を与えた結果だ。

 巨脚で歩み、ナナの巨体がTYPE74へと接近する。

 接近警報を報せる『コーション』の自動音声を流し、南雲なぐもは操縦桿を手繰った。

 蒼白を放った頭部バイザーに収まる主外部環境受動器メインカメラは、醜悪な姿の巨体を胎に収まる主人へと伝えた。


「チッ!来やがれよドッペル女、化け物退治の時間だ」


 ペダルを思いっきり踏んでやる。

 無作為に迫る醜悪な巨体の出鼻を挫くように、TYPE74の鋭利な右回し蹴りが炸裂した。音速に達しかけた鋼鉄の塊は鞭のように撓り、計測不能な破壊力をもって眼前の醜悪な巨人を吹き飛ばす。

 散り散りとなったドロイド達の部品が宙を舞った。TYPE74を模倣した人型が地へと崩れ落ちる。が、巨脚を地面に刺して転倒を防ぐ。

 崩れた体勢を立て直し、下から突き上げるアッパーカットを繰り出すも南雲なぐもは“それ“が来ることを読んだ。


「そんな大振りな攻撃が当たるか!」


 虚空を突き上げる拳。腕の形に組み合ったドロイド達の視線と目が合う。一つ一つに意志や生気はない。ただ、そこにある部品や構成品の様な体を晒す。ナナという憎悪を放つ中枢を支えるための部品パーツ

 そんなものに生きた人間が負ける筈がないと南雲なぐもは腹の底から自負していた。だからこそ、それを証明せしめるために、二発目、三発目と繰り出される拳の追撃を寸で避ける。

 操縦桿を通して肌に伝わる殺気。目で見て解する世界と肌を伝って知る感触を、南雲なぐもの思考は整合性を取る──────ある種の動物的な勘を持って去なしていく。


「グだげじれ“ぇ“よ“な“ぁ“ぁ“!」


 絶叫。思い通りにならない子どもの駄々のように叫ぶ声に合わせた滅茶苦茶な挙動。

 装甲脇を空気の掠める波を感じる。当たれば致命打は免れないだろうという、肌のヒリつきの中で南雲なぐもは生への感触を味わう。

 ナナを内包した偽物が拳を突き刺す中で、南雲なぐもはタイミングを取り、そして狙うべき一撃を待つ。

 巨大な集合体を寸で避ける最中それは来る。

 滅茶苦茶な挙動で矢継ぎ早に打たれる拳の一つ、その手首を掴み上げては《グン!》と巨大な風切りを作り出す。

 次の瞬間、TYPE74はまさしく目が覚めるような一本背負いを決める。

 巨体が弧を描いて宙を舞い、お手本のような一本背負いの一撃が気持ちの良い音と共に広がる。

 しかし、ドロイドの絡み合った巨体が地面へ打ち付けられる刹那、体が爆散するかのごとく何等分かの塊となって散った。

 最初、その人間離れした行動に理解がまるで追いつかなかったが、散り散りとなった塊が離れた場所で再び一つの巨体へ組成されるのを見て、それが逃走の手立てなのだと南雲なぐもは解した。


「意外と上手い手を使うじゃないか、ドロイドの癖によ」

「わ“だじを“ばがに“ずる“な“ぁ“」


 擦れた声から滲む怒りの情動は煽った敵に対して剥き出しとなる。殺意が一層強くなるのを肌で感じた。

 さぞ馬鹿にされた事が響いたのだと思った。合成皮膜のシリコン製表皮が爛れ、内部骨格が散見してもなお、秀麗さを保とうとするナナというセクサドロイドの矜持が、彼女の高過ぎる自尊心を現しているかのようでもあった。

 被害者達も皆、目が覚めるような美人ばかりであった。そんな美人達に虐げられ、愛しい人を奪われかけ、あまつさえスペックでいうならあらゆる面で人間を凌駕してるからこそ、募らせた憎悪によって歪んだ自尊心が今の彼女を突き動かしてるようにも見えた。


(……俺よりも人間らしいじゃねえか、畜生)


 心で負け惜しみを吐く。

 滅茶苦茶な挙動で腕を振り回し、蹴りを突き出す姿は子供の駄々っ子のようであり、戦いの秀麗さというものは無かった。だが抗おうとし、食らい付こうと必死に藻掻く様は人間らしい泥臭があった。

 大降りの攻撃を去なし、躱し、当て身で反撃し、しかしながら眼前の醜悪な巨人は、お構いも無しに攻撃をする。

 戦闘慣れしている南雲なぐもの前では子供の駄々っ子に付き合っているような物であったが、ドロイドの集合体ナナからの攻撃は続く。

 食らい付かれたら、あのドロイドの集合体がシュレッダーの如く機能して、装甲どころかマンマシンフレームごと食い尽くされる可能性もあった。

 南雲なぐもはTYPE74の主外部環境受動器メインカメラを通して全て把握する。

 操縦桿を忙しなく動かし、敵機の動きを捌きつつ、レーダーマップ上を一瞥する。


「けっこうしぶといな……コンテナまでは距離200メートル、例の装備を試したいところだが」


 胎に収まる南雲なぐもの意志に弾かれTYPE74が補給コンテナへと視線を向けると、その意志を感じ取って《ナナ》は立ち塞がる。

 相手の一つ一つの挙動が大振りなのもあって予測はしやすい。向かってくる方向に対してただ半身にするだけで躱せる、しかしそれも時間が経過するにつれて集中力の低下とともに、精度が落ちていくのは戦い慣れている南雲なぐもが一番分かっていた。

 一撃の空振りは空を裂き、次いで外れた音が遅れて靡く。そして最後には返り討ちにあったドロイドの集合体ナナが宙を散り散りに飛ぶ。

 痛めつけてもぶっ飛ばしても、新たなドロイドを組み込むお陰でほぼ損傷がない状態に戻ってしまう。

 TYPE74の姿を真似ても動きだけは再現できない。大振りな攻撃と見え見えのフェイント、何かに取り憑かれたように彼女はTYPE74を潰そうと縋る。


「オ“マ“エ“が!オ“マ“エ“が!オ“マ“エ“がぁ“ぁ“ぁ“ぁ“ぁ“ぁ“!」

「ったく、休まる暇が無いな…」


 コンテナをぶんどり、まるで携えたハンドバッグを叩き付けるヒステリックな女のように、《ナナ》は凶悪な力をTYPE74にこれでもかと与える。対して慌てる様子もなく、左腕の防御盾を展開してコンテナをやり過ごすと、腰部に格納した近接用短刀ソニックブレードで再度、その鼻面を搔き切る。

 火花の散り具合に相俟って、《ナナ》を象るドロイド達が斬られた。だが、それでも組み付こうと暴れ狂う。

 南雲なぐもは女の執念に冷や汗を垂らす。目の前で暴れるドロイドが、本当にセクサドロイドとして大量生産されていたロボットなのか疑問を懐いている。

 言葉を放ち、意志を持ち、激情の虜になった彼女は紛れもなく人間そのものではないかと、自分で自分に投げ掛ける。背筋が凍るような不気味さを身体の節々に感じながら操縦桿を握った。

 戦うことで、闘争本能という人間らしさを感じ得ていた南雲なぐもは、この眼前のドロイドが放つ人間らしさに嫉妬にも似た感情を覚える。


「ワ“ダジバ、ダだ、ア“の“ビドを“あ“い“じだい“だげな“の“に“ぃ“! な“ん“でジャ“マ“をす“る“の“ざぁ“!」


 喚く声は音割れていて聞くに耐えなかった。だとしても、バリバリとノイズが走る中で悶える言葉は彼女の本心に他ならなかった。

 闇夜に浮かぶドロイド群の目は光って赤い点群となり、まるで百目ひゃくめという妖怪にも思えた。

 腕を振り、身体を撓らせて食らい付く《ナナ》を矢継ぎ早に避け、身を翻し、去なす。

 組み付かれたら最後、跡形も残さずTYPE74は粉塵へと帰すだろう。足元に転がった拉げた(ひしゃげた)コンテナを掬って振るい、これでもかと殺意を破壊力に変換する。

 ペダルを浅く踏む。背部推進器の主基が強烈な熱を放つと、前方へと進む力が一瞬沸いた。TYPE74の繰り出す打突に、集合体としてそこに在る偽物は体勢を崩す。

 着地。僅かに出来た空間という間合いを頼りに、近接用短刀ソニックブレードが閃く。夜闇に映える刃の光跡が三回瞬くとき、《ナナ》を内包した偽物の左腕が肩口から切断されて宙を飛んだ。続いて右腕が、最後に体勢を崩したところで浮いた左脚が弧を描いて、離れ離れとなる。

 ドン!と衝撃波が四つ鳴り、目標としてロックオンした対象は今や地面に身を預けるガラクタへと変わり果てた。

 終わった、やはりというか勝負は一瞬の間に付いてしまうものだ。新装備を試すまでもなかったな、と南雲なぐもは内心安堵すると同時に、試し切りが出来なかった事への残念も織り交ぜた。


「フェンリル2よりコマンド、送れ」

『コマンドよりフェンリル2、何かありましたか?』


 スピーカーからは都留とどめではなく、分隊長の司馬しばの年季の入った落ち着いた声が届いた。

 少しばかり面を食らった南雲なぐもはいつも通りの口調でやり取りをする。


「対象の停止を確認、これより対象を確保する」

『了解、油断せず事に当たって下さい』


 了解と一言、残すとTYPE74の前照灯スイッチを入れ、沈黙した対象物を照らす。

 今まで生き物のようにガチャガチャと動いていたドロイド達は、水を打ったように静まり返っていた。目から生気は失せ、各々が全て死体のように折り重なっている。

 なんとも不気味な光景だ。手早く終わらせるべく南雲なぐもが辺りを照らすも、そこに《ナナ》の姿は無かった。

 

「………どこに消えた?」


 少しばかり心がザワついた。冷静さを保っていたが、表皮には焦りを示す汗が浮く。

 TYPE74が緩慢に周囲を見回す。ゆったりとした歩行挙動は平常心を保っているかのように見せていた。しかしながら着地の瞬間、ダン!と踏む力のかけ具合が南雲なぐもの未熟さを物語った。

 どこに、どこへ、消えたのだ。

 南雲なぐもが全天周のモニターへ視線を配る最中、『コーション』と警報が耳に走った。

 右方向からの発報、TYPE74が振り向いたと同時に衝撃は襲った。

 揺れるコックピットの中、奥歯を噛み締めて衝撃に抗う。座席に押し付けられる圧迫感の中、片眼だけを無理矢理開けて、それが何であるかの状況把握を図った。


(なんだありゃ……ば、バケットか?)


 南雲なぐもが揺れる視界の中で見たバケットと認識した物体は、正式名称をスプレッダと呼ばれる物体である。

 スプレッダはコンテナを釣るガントリークレーンの、コンテナを引っ掛ける部分に相当するものだ。それが今では鞭のように撓り、まるで意思を持ってるかのように振る舞っている。

 振り子運動から来る反動に任せた加速力と自重が合わさった破壊力の前に、TYPE74は木偶人形のように成す間もなく吹っ飛ばされる。

 クッション材にもならない空コンテナの山に身を預け、衝撃とともに雪崩を起こすコンテナに埋もれる。主基を吹かし、山から這い出るTYPE74の前に様変わりした《ナナ》が現れる。

 紅白の縞を纏うガントリークレーンは、鎮座する構造物から遷御しようと蠢く怪異へと化した。ガントリークレーンを成す鋼材は切り刻まれ、関節部と呼ぶべき部位にドロイドが群を成している。スプレッダを繋ぐワイヤーは、金属線を軸にドロイドが群となって纏わり付き、ある種の尻尾のような役割を占めていた。

 四足の物の怪と化し、顔に相当する先端部に《ナナ》が組み込まれていた。


「これ以上、ジャマをするなら殺す」


 さっきまでの音割れした音声と違って、鮮明な声が港に木霊した。

 TYPE74よりも2から3倍程の巨体に膨れた《ナナ》が動く。

 直感が走った。思考よりも速く身体がフットペダルを踏み、スロットルをMAX位置に押し込んだ。

 カッと蒼白く煌めく刹那、ジェットとアクチュエータの推進力で宙空へと舞うTYPE74。直後、背を預けていた場所に刺さるスプレッダ。

 ゴウ!と轟き、カーンと冴えた金属の重厚な音がコンテナを触媒にして拡がりを見せる。

 スプレッダを組み込んだ尻尾は、コンテナを無造作に掴んでは鞭のように撓らせて、宙空に漂うTYPE74目掛けてコンテナを投げる。

 マッハに近い速度を出すコンテナを展開した防御盾で受け止め去なし……切れず、衝撃と反発に負けて墜落する。

 衝撃に身をやられ、悶える南雲なぐもに痛みを吟味する余裕はなく、『動け!』と指示を飛ばす思考に弾かれて主基を再び噴かす。

 スプレッダの強襲を寸で躱し、地面へと身を転がした反動を使って再び立ち上がる。

 防御盾は接続部の根元から折れ、跡形も無くなっていた。補給コンテナからは更に距離が離れ、八百メートル程開いていた。

 嬲り殺そうとジリジリ迫る《ナナ》とTYPE74の構図は、猛獣に追い詰められた捕食者の構図そのものであった。


「ここに来て覚醒かよ……。参ったもんだな、これじゃ小火器は豆鉄砲だし近接用のナイフも、ただのオモチャだな…」


 やはり補給コンテナの中の装備に賭けるしかないか。思考が浮かんだ瞬間には、補給コンテナを見失わないようトリムして常時画面に走らせる。

 猛獣と化す《ナナ》の食らい付きにたじろぐこと無く、南雲なぐもはTYPE74を宙空へと浮かせた。

 夜闇に映える蒼々のジェット炎を流して滞空する獲物を前に、仕留める意思を孕んだスプレッダを組む尻尾は土煙の中から現れる。

 コンテナをぶん投げる。滞空時姿勢制御用のエアスラスターを噴いて身を捩って、長方の塊をやり過ごす。次に出る尻尾の迫撃も、エアスラスターを噴いてやり過ごす。

 強引な着地からの反動を利用した跳躍ジャンプで、再び宙へ上がる。

 南雲なぐもは機体のバイタル表を一瞥、機体に無理を言わせてる所為で下半身のショックアブソーバー類がイエローゾーンに入り掛かってるのを知る。

 アブソーバーの耐久値を数秒でも伸ばすため、着地の瞬間に主基を最大で噴かして速度を殺す算段を打つ。しかし、その甘めの着地を見逃すほど、敵も柔では無かった。


「…しまっ…!」


 面での一撃を食らってしまう。打ち付けるコンテナによってTYPE74の巨体は、水切りのように面白い程よく跳ねた。

 頭が揺れて意識が飛ぶのが分かった。視界が溶けて黒く染まりかけたとき、生命維持の為の微細な電気ショックで現世に引き戻される。

 チカチカと光る視界の中で蠢く《ナナ》を確認し、同時に補給コンテナを定める。

 距離、およそ二千メートル。かなり距離を離された。


「ただ逃げるのも飽きてきた…な…」

 

 バイタル表を見る。機体の殆どはイエローゾーンに達していた。堅牢な胴体部もイエローゾーンに差し掛かっている。況してや脚部はレッドゾーンに近い。

 操縦者ドライバーも機体も限界が近かった。


「…………賭けてみるか?」


 距離は二千メートル程。主基を噴かして一直線に飛べば、大したことはない距離だ。だが、敵の猛攻が無ければという条件付きだ。

 背中を晒せば即ち、敵に隙を自分から与える事になる。ならば背面飛行で跳躍ジャンプして反撃可能な状態で飛ぶにしても、手持ちの武装で有効打を与えられる可能性は低い。そして、人型ロボット故に宙へ浮かんでいる状態が最も不自由を強いられる状況でもあった。


(空は地上と違って、支点が無いから力の掛け具合が思考と現実で乖離するし、況してや燃料やエアスラスターの充填空気量も考慮しないといけない)


 空はちっとも自由ではない。藻掻くことを辞めたら即墜ちる残酷な場所だ。TYPE74が鳥型か戦闘機に変形できるなら、空も主戦場にして一方的に戦える。が、TYPE74はあくまでも人型ロボットを地で行く。

 人型は宙を飛ぶことを、況してや滞空して戦うことを考慮されていない。

 だとしてもと南雲なぐもは言葉を吐く。


「賭けてみたくなるのが、人間の醍醐味って奴だと俺は思うがな!」


 グッと強くスロットルをMAX位置に入れ、主基を活性化させる。夜闇に瞬く赤熱が蒼白く変化して、ジェットの推進力を得たTYPE74が跳ぶ。

 肌寒さ残る空気を装甲越しに流し、操縦者の意思を宿らせた蒼白放つ主外部環境受動器メインカメラが、闇に映える。

 時折噴く、エアスラスターは姿勢制御を行い、十メートル程の人型を真っ直ぐ跳ばす。

 HMD内蔵スピーカーが放つ警告音が、南雲なぐもに敵からの攻撃到来を告げる。

 後ろを見る余裕はない。見たら最後、自分は大蛇のように荒れ狂う尻尾の餌食になるだろう。そんな閃きが頭の中を走った。

 二千メートルという距離────戦闘機がアフターバーナーを焚けば十秒とかからず消化しきる距離は、この瞬間だけ「長い!」と悪態を付きたくなる程の距離感を南雲なぐもに与えた。

 それでも一縷の望みを、TYPE74の胎に収まるこの男は賭けたのだ。

 全天モニターに映る補給コンテナをロック、減少するレンジの値を周辺視で認め、レーザー通信を開く。

 補給コンテナのセーフティを解除。インターロックが外れたコンテナは、外圧と内圧の差から生じる空気の抜ける音を漏らし、重厚な機械的仕組みをもって外壁を開く。

 長方のメカニカルな方体は中心に戦が入って、左右対称に割れる。花開くように中から簡素な固定フレームに守られた《秘密兵器》が上部にスライドして、姿を晒す。


「オマエの思い通りにさせるかぁ!」


 《ナナ》の強大な意思を孕んだ尻尾が迫る。「舐めんじゃねえ!」の激昂を叫んで、エンジンリミッター解放用の『V-MAX』スイッチに火を入れる。

 苛烈な蒼白の炎々が白へと染まる。マンマシンフレームの強度限界を示す警報アラートが鳴ってもお構いなしだ。

 距離が千メートルを切る。両腕を伸ばす。

 八百メートルを切った。『V-MAX』スイッチをカットし、スラストリバーサを起動する。

 逆噴射の勢いで突如襲いかかる重力を前に、南雲なぐもは意識を飛ばしかけた。白濁する景色の中を不意に映る幼少の頃の自分、そして都留桜花とどめさくらの姿。


「走馬灯を見るのは、まだ早ぇんだよ!」


 椅子に叩き付けられる身体に力を込め、大して自由も利かない指先を辛うじて動かして、装着用のレーザーガイドを起動させる。

 距離が三百メートルを切る。時間にして十秒も経過してないが、南雲なぐもの体感では一分、二分の出来事のようであった。

 眼下に映るTYPE74の影、そしてレイアードする巨大で色濃い影。


「間に合え、間に合えぇぇ!」


 瞬く。カツンと爪が引っ掛かた感覚、レールを擦って走る一瞬の感触の最中に打ち込まれる固定ロックボルトの衝撃。

 真面な着地姿勢も取らないまま、TYPE74はその巨体をアスファルトの緩衝材に預け、着地を果たす。

 舞い上がる土煙の中、受け身を取って立ち上がる人型のシルエットを《ナナ》は逃さなかった。

 スプレッダを内包した尻尾────音速の域まで到達したであろう凶器がTYPE74を襲う。

 勝った…!と《ナナ》が確信を得ようとしたとき、それは杞憂だったと思い知らされる。

 雷鳴にも似た轟きが伝播し、紫電が夜闇に走った。縦横無尽とお構いなしに走る電撃と、突然の衝撃波に《ナナ》は動転した。


「なんだ?!」

「どうやら、賭には勝ったって事だな!」


 勝ち誇った南雲なぐもを象徴するように、電光が空を揺らしてスパークが弾ける。両の腕と一体化した盾───それは盾と言うには剰りにも被弾面積が小さく、拳と前腕を包むだけのグローブか籠手のような物体。

 被った増加装甲に内封された大容量バッテリーと昇圧器、暴徒鎮圧用のパラライズ兵装として組成されたこの拳。

 物体は盾として無理矢理認識され、TYPE74の新たな力として起動する。


「相手がバケモノなら人間じゃないんだ。最大出力でやらせて貰うぞ!」


 出力ゲージをMAXに固定。エネルギー供給ラインを機体に直結。南雲なぐもの中に燻る高揚感が、彼の獣としての内面を擽る。

 ギラついた目付き、滾って半開きになる口元、意味もなくTYPE74に両の拳を打ち付ける動作をやらせる。

 バリッと空気を裂くスパーク音に呼応して走る電光で、港は昼のような明るさを一瞬取り戻す。


「武器を変えたところで、私が! たじろぐと思うなよ!」

「なら見せてやるよ! 光菱電気製じるしの、この試製84式電磁制圧手甲パラライズ・グローブの威力をな!」


 グワッと飛び掛かる《ナナ》を前に突き出す拳が、紫電を散らす。

 両者の決着はそう遠くない。


久しぶりの投稿になります!

プライベートで色々ありまして、更新する時間に開きが出来てしまいましたが、ゆっくりと着実に書いていきますので、どうか最後までお付き合いお願いします~

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