Chapter 42 人間らしさ
久々の投稿です。
ここまで読んで下さった読者の方、ありがとうございます
投稿ペース遅めですが物語もいよいよ佳境、最後まで突っ走りますので、どうかよろしくお願いします
シティ・ガーディアンの介入は偶然の産物ではなく、大凡必然の類いであったのだと木山は、この瞬間の出来事を通して理解した。
いつかの司馬との酒の席、野郎は確かに、うちが絡むかも知れないとは言った。しかし、こうなることまで予測していたのかと思うと、その答えは司馬本人しか知らないだろう。
何にせよ、今はこの状況を利用し、命が助かる方へ行動を起こすことが先決であった。
すまねぇなと、一言礼を溢しては脚の折れた生田に肩を貸し、相棒の真上とともに現場を離れようとした時、土煙の中を掻き分けてあの化け物が這い出て来るのを見た。
冗談ではないと思った。
あれだけの質量エネルギー、重力落下速度も加えてのエネルギーを食らっておいて、何故五体満足のように動ける。
考えるのは後だ、先ずは逃げることが先決だ。
「走れぇー!」
木山のドデカい声に弾かれて、一目散に歩を進ませる脚の回転数が上がった。後ろから来る気配、這いずり回ってのた打つ巨躯の先に付いた二つの目がこちらを見定める。
逃げろ、逃げろ、逃げろ!頭の中で激しく鳴らす防衛本能が、限界を超えた筋力を無理矢理に働かす。
駄目だ、追い付かれる!と思った矢先であった。
『木山! 伏せろぉ!』
豪快なスピーカーよりもたらされた男の声に弾かれ、三人の男達が地面へと滑るようにしゃがりこむ。
突如光った火線が頭上を通過する時、激しい発破の音が後頭部を苛烈に叩いた。何が起きてるのかを理解する前に、もう一発火線が頭上を通過した。
素体を砕く破壊力に喘ぐ化け物の呻きが木霊した。
何事なんだと顔を上げるとそこには、四本の巨脚で胴を支える鋼鉄のマシンが勇ましく佇んでいた。
「あ、アレもシティガーディアン……なんですか?」
「さぁな、ただ一つ言えることは………司馬ぁ! お前なんだろ!」
咄嗟に叫んだ昔馴染みの男の名。何の確証もなかったが、あの人型モドキに乗っている男は間違いなく司馬だと確信していた。でなければ、こんなタイミング良く全てが手筈通りに行くわけがない。あの男は昔から用意周到に物事を進め、事が起きた時には粗方あの男の想像通りに動いてしまう。戦いは始まる前の準備で全てが決まると言わんばかりに。
プシュッと空気の圧が抜ける音がした同時に人型モドキの頭部が顎を引き、胸部の装甲と一緒に前へスライドした。背後より出でる人影はやはり見覚えがあった。
木山とは対照的なカッチリした体系、しかしながら猫背気味の初老の男。
「無事か? 木山ぁ!」
「あたぼうよ! オメェ出てくんのが遅ぇんだよ!」
「すまない、すまない。なにぶん航空券の手配に手間取ってね~」
航空券の手配?と思った矢先、低周波の音壁が頭を抑えつけた。グッと上を向いたとき、安全視認用のライトで作った光輪を対に携えたティルトローター式の大型輸送機がホバリング体勢に移るのが見えた。
空輸による空中投下をされたと言うことは瞬時に理解できた。だが、こんな狭い敷地に降りられる筈もなく、どうするつもりなのか。
「俺達を空の旅に連れてくつもりか?」
「したいのは山々だが、どうやらそんな悠長な事は言ってられなさそうだ」
司馬が指差す先、煙の中で蠢く影に戦慄が走った。
「木山達はコイツ(TYPE76)で安全な場所まで送り届ける。それまでの足止めはウチのホープがやってくれるさ」
「そいつは有り難い話だな。そんじゃ、ちょっくら、オメェの車に世話んなるぞ!」
地面に接地したマニピュレータの手の平に三人が載る。緩慢な動きで肩口に移動し、三人はコックピットブロックへと進入する。
全天周のモニターは夜闇の景色を映してた所為か、コックピットは酷く暗く、煌々と光るコンソール類の灯りと対比となる。
居住スペースはお世辞にも良いとは言えない狭さだった。三人乗りが前提の設計、六人も乗ったら鮨詰め状態である。
木山はパッと辺りを見回し、司馬以外の操縦者が全員女性であることを認識した。
「ハンドル持ちはそこの気の強そうな姉ちゃんかい、そうなるとオメェは指揮者ってところか?」
「いんや、俺は通信と火器管制及びサブ指揮官としての立ち回りってところかな。本当の指揮官は彼女さ」
司馬が指差す方向にいる天真爛漫を具現化したような女性が指揮官だという。
「この若い姉ちゃんが指揮官なのか?」
「どぅも~はじめまして! 都留桜花警部です! こんな狭い部屋ですけど安全な場所まで運びますので。湯田川さん、よろしくお願いしますね」
ハンドル持ちの女性が応答する素振りで軽く手を振ると、機体が動き出した。揺れ動く車内で倒れそうになる男三人は、手摺りや椅子の縁に捕まって体勢を保つ。
後退挙動を行うTYPE76をロックオンした例のバケモノが、地を蹴って迫ってくる。主外部環境受動器が捉えた景色はグワリと肉迫するあのバケモノの巨大であった。
このままだと追っ付かれると思った矢先、人型の鉄機兵ことTYPE74が横からど突いてバケモノの侵攻を阻む。
堆く積まれたコンテナの山が崩落する。揺れた大地はアスファルトに亀裂と隆起を生ませた。土煙漂う中でヒラリと煌めくTYPE74のバイザーは、体勢を立て直さんとするバケモノの姿を、その機械仕掛けの眼で睨めつける。
好機と踏んだ湯田川がフルアクセルで後退挙動を取る。空転する装輪がスキール音を靡かせ、地面と噛んだ瞬間に最大限のトルクでTYPE76が走り出す。
遠ざかる景色、単独でやろうとするTYPE74が小さくなる中、木山は多少なりとも不安を覚えていた。
「一機でやれるのか?」
「嘗めて貰っちゃ困るな木山、アレはウチの小隊切ってのスペシャルだぞ。必ず成し遂げて帰ってくるさ」
自信満々に語った司馬。両者の目に映るTYPE74、物語はいよいよ終局に近付く。
◇◇◇◇
「目標を視界モードレベル3で視認した。サーモグラフィー及び赤外線暗視スコープでの状態確認では、目標に危険物らしき物は検知されず」
最もらしい事を言って、当該機の分析を完了した南雲は機体のマスターアームスイッチを押し、武器発射回路を励磁させた。
右手に収まる操縦桿──────スティックグリップのアナログパッドを親指で捏ねくり回し、武装選択画面から最適な武装を選択する。AI補助による推薦武装がリストの一番上に出てきたが、南雲はそれを無視した。
近距離?バカを言うな、先ずは相手の出方を見るために中近距離から牽制すべきだろ……とでも言いたげな表情で、直ぐさま45ミリ自動速射砲を選択。僅か、2~3秒程度の時間で太腿のウェポンラックから45ミリ自動速射砲をTYPE74は引き抜く。
オートマチック拳銃そのものの形状をするTYPE74の主兵装が持つ照準システムがTYPE74の火器管制システムと同期する。
ロックオンの帰結、パイロットへ簡易情報として与えられる輝線のシンボル情報によって、南雲は攻撃する意思を固める。
独り、狭小な内天球式のコックピットで頷く。カチリと引いたトリガースイッチの信号が、3掛ける10の8乗の速度でTYPE74の右人差し指に、銃爪(引き金)を引く動作を与えた。
轟音。それは拳銃とは剰りにも掛け離れた迫撃の音である。最早、野砲と言って差し支えない45ミリ自動速射砲の射撃音は、激しく膨れ上がり、そして火線と着弾の光を夜闇にもたらした。
TYPE74の主兵装が一つ45ミリ自動速射砲は、幾つかの弾種を用意されていた。元が軍用の戦人であるが故、その弾種も減装薬で威力を弱めたものの軍用のものと同様のものが使われている。
南雲が愛用するのは徹甲榴弾タイプの弾丸であり、これは破壊対象に着弾したと同時に次元信管による時間差攻撃で破壊対象を内部から破裂及び破壊させる────────言うなれば、対象の無力化とイミテロイドの即時処分が可能であった。自らが使う兵装の特性は、まるで恋人の趣味趣向を深く理解してる程に、南雲は把握していた。それ故に、結果は目に見えて分かっていた………筈だった。
「もしかして効いてないのか?」
黒煙の中で揺らめく巨体に、第四小隊切ってのスペシャリストは苦虫を噛んでいた。渋い顔をし、スッと眼を細くして主外部環境受動器が伝える外界の景色を眺めた。
破壊対象のバケモノが揺らめいて立ち上がる。その巨体は黒ずんで焼け爛れており、明らかに損傷を与えてるように見えていた。しかし、対象に与えたダメージを対象のシルエットの差異から算出してパラメータ化するTYPE74のシステムコンピューターは、全く損傷を与えてないと弾き出す。
(システムが壊れてるのか?)
だがシステムフェールを報せるコーションライトは点灯していない。どういう事だと頭を捻る。
ただの機械人形の集合体だと思っていたが、どうやら本物の物の怪と出くわしたかなと、南雲は独り呟く。
もう一発、ダメ押しで撃ち込んでみるが結果は変わらなかった。
人型、人と人型は表裏一体だとするなら主外部環境受動器を通して視認できるセクサロイドの集合体である彼女も、女性を象った人型だと言えるのだというのか。
何とも信じがたい話なのだ。一報を寄越した真上という刑事、そして何故か状況を理解している司馬のオヤジは口を揃えて、対象は意思を持ったアンドロイドだという。
最初は信じていなかった。幾ら世界が一世紀以上前のSF作家達の設定のようにテクノロジーの発展と衰退を繰り返そうが、今日に至るまで意思を宿したアンドロイドなんて居るはずがなかった。全ては空想の中の幻だ。あっても元々プログラムされた擬似人格みたいなものしかない。
だが実際はどうだ。主外部環境受動器が映した眼前のバケモノの類いは、紛れもなく明確な意思を持って行動している。持ち主であったとある男を愛し、邪魔な奴等を手に掛け、今は愛憎の狭間で暴虐の限りを尽くしている。
「冗談じゃないぜ全く…。イミテロイド相手なら未だしもこんな寄せ集めのガラクタなんて相手したことないぜ俺は」
軽口を叩ける余裕はまだあった。
フルスキンの下に眠るメタルの骨組みが彼女を愛玩用に作られたアンドロイドであると言わしめる要因に変わりないのに、集合体となった途端に怪異の様に見える。況してや産業廃棄物として投棄された同じアンドロイド達を依り代に作り上げた怪物的な体躯を組成したとしても、このアンドロイドは人間と同じ意思を持つというのか。
(バカ言うなよ……相手は機械だ! それに機械なら物理破壊は可能だ)
通常兵器が通用しない相手を前に、どう策を講じるか思案する。TYPE74のウェポンリストを開く、45ミリ自動速射砲に近接用短刀とスクランブル用の兵装しかない。一か八か近接戦を仕掛けることも考えたが、あのドロイドの集合体に組み付かれたが最後、蟻に集られたように悶えて撃墜される未来が見えた。
チッと舌打ち、戦況マップを開く。浮遊式戦況把握ポッド(フライボール)がもたらすレーダーマップに映った二つのガイドビーコン。
どうやら上空で周回を続けるティロータ機が兵装コンテナを落としてくれたのだと南雲は解した。
(ったく、草薙の野郎、相変わらずタイミングが良いな)
レーダーマップ上に投下された兵装コンテナが添付される。距離にして400メートル。一回の跳躍で届く距離だが、目の前のバケモノが果たして易々と武器を取らせてくれるだろうかと南雲は思案した。
直ぐに答えは出た。ノーだ。それを裏付けるようにドロイドの集合体たるバケモノが先制の攻撃を仕掛ける。巨大な体がグワリと開く。まるでそれが一つの口であるかのように、と形容する必要も無い。それは口だ。
口内で回転する無数のドロイド、呑み込んだものを塵に帰すその姿はシュレッダーの類いと大差ない。あらゆる火器や砲弾の破壊力に対して有効的に働くTYPE74の装甲も容易く喰われると想像できる。
身を乗り出してくねり、文字通りの体当たりでその巨大をTYPE74の居た箇所に叩き付ける。
轟ォ、轟ォと地面が削り取られる音の中、切り裂くようにしてターボファンエンジンの吸気が響く。
夜闇に浮かぶ10メートルを越す人型の機兵。蒼白のバイザーに収まる主外部環境受動器は女の執念を受信する。プログラムが生み出した正真正銘の怨嗟。愛してと言わんばかりの大きすぎる愛。
膨れ上がった愛憎を表現するように、その躯は巨大かつ複雑で動く度にガチャガチャと音を立てた。
「ガシャドクロって言う妖怪が居るとするなら、こいつの事を言うんだろうな!」
おちゃらけた感想を吐露する南雲の表情から焦りはない。寧ろこの状況を愉しんでいるくらいだ。とち狂ったイミテロイド共を始末する日々の中、突然と沸いた怪異的な存在。
うねる巨体に荒波となるアンドロイドの群、集合体となった女の執念。
面白い……と何故だか笑みがこぼれてしまった。執念がそうさせるなら、自分以上に人間らしいじゃないかと。
だからこそ南雲はなんだか目の前のバケモノと対峙しなくてはならない気がした。身勝手に振る舞う自己の欲が人間らしさの本質ではないと、否定するために。
「来いよ、ガシャドクロ女。お前と俺、どっちが人間らしいか勝負だ」




