chapter03 再会、上司は幼馴染み?!
「都留桜花警部は、3月〇〇日をもって、都市保安警備隊、第1管区機甲警邏師団、第1警邏機動中隊、第4小隊長に命ぜられました!」
溌剌と澄んだ女の声が師団長室に木霊した。腰まである黒髪を結わい、後頭部でお団子状に纏めた容姿端麗な彼女こそ、南雲武瑠達が籍を置く小隊の新たな小隊長『都留桜花』だった。
司令の荒蒔宗一に10度の敬礼をし退出。部屋の外で待機する初老の男、司馬太一と合流し、第四小隊の待機室へと向かった。
官用車であるオリーブドラブ一色の軽自動車に乗り込む。司馬はキーを刺しセルモーターを活性化させエンジンを叩き起こす。今やAEC(全自動電気自動車)が主流となった現代において、イグニッションキーを使うガソリン車は骨董品どころか博物館行きの代物だった。そんな使い古したボロ車を現用しているのはシティ・ガーディアンと国防軍くらいか。唯一の救いはマニュアル車ではなくオートマ車な点だろうか。
整形の凹凸剥き出しのアルミ板は軽すぎて、閉めたときに大きな音がした。車内で都留はシートベルトを締めて、席に背を預ける。
「あぁ~、緊張した~」
凛々しく保った顔が弛んで素の自分が出る。先程までの琴線を張った緊張感を緩め、都留は深い息を吐く。
「幹部学校から短期操縦手課程を経て小隊付きにもなる暇もなく、即小隊長に赴任………。忙しいもんですな」
司馬が労いの言葉を投げ掛ける。骨董品のセルモーターの掛かりが悪く、年季の入り具合を感じさせた。
漸く掛かったエンジンはゴロゴロとした唸りで安定を刻むと、シフトレバーをパーキングからドライブへ入れてサイドブレーキを緩解し、ブレーキペダルからアクセルペダルに踏み替え加速させる。常套的な流れ動作で操る司馬に、この手の車に乗り慣れている感じを覚えた。
車の発進に任せて「いえ、そんな事ないですよ! 慣れてしまえば苦じゃありませんし」と相槌を打っては、駐屯地の広さに言及して会話を繋げる。
元々国防軍の施設で……と端をきって司馬は口を開く。八王子駐屯地は滑走路を有し郊外である点から演習場を併設した首都の守護を目的とした施設である。元は国防陸軍所有の施設だったわけだが、今では軍より編成改組した首都圏を網羅する都市圏保安警邏隊が現在の主人である。
そんな説明染みた解説を深みのある声が、宛ら博物館の音声ガイダンスの様を醸して新米小隊長に語る。
「もう、あれから30年くらい立つな……。嬢さん………おっと、小隊長が生まれる前、政府の政策で都道府県制度が見直されて8道圏制度に………ここら辺は学校でも勉強したから憶えてるでしょう?」
「はい! 確か、極東紛争終結後の再生計画で、その折に警察機構の改組も行われた……って習いましたね」
都留は無垢な笑顔を振り撒いた。司馬の目に映る彼女は希望に夢一杯の新社会人、そう当てがるに相応しい顔をしていた。
(純朴だな)と内心で見たまんまの感想を溢す。
「もう、終結から40年も経つか。早いものだ」
司馬の口振りは思い出に浸る懐かしさを物語ると同時に哀愁も漂わせた。皺の入った頬が動き、渇いた唇は開いてよく喋った。
極東紛争が終結してから40年が経とうとしている現在。嘗ての荒廃した街並みは刷新され30年前に政策として打ち立った『大都市圏縦貫再生計画』によって都市は、その姿形、価値基準はおろか倫理観まで変化していった。
「この都市は変わり過ぎた。老人には、ちと住み難い都市だな」
寂しいものを見る眼差しが、この都市の変化を憂いていた。
パワーアシストの無いハンドルを切って路地へと入る。
「司馬警部補は、今の東京が嫌いなんですか?」
「嫌いでは無いですよ。だが生き遅れた俺には着いていけない、ただそれだけですよ。」
入り組んだスチームの配管は直角なアーチを作る。判で押された同系色同形状の建物。視界に入る景色は伸び代を予感せず、その期待感すら生まれない駐屯地の情景。司馬にとっては、都心部の街並みよりは落ち着ける情景だ。
生き遅れた老人には着いていけない、全く持ってその通りだ。戦前から不変を保つ八王子駐屯地は、司馬から見ればまるで今の自分を鏡合わせで見ている気分にもなる。変わったとしたら運用する兵装や支援設備くらいか。
若人が進んで来るような場所とは呼べない地へ何故彼女は来たのだろうかと、司馬は疑問を懐かずにはいられなかった。名の知れた大学を卒業し、上場企業にすら就職できる素質のある娘が、希望すら懐くのが馬鹿らしくなる世界に来たのか。
「しかし、なんでまたウチに来たんです? 小隊長程の頭と人間性なら、他にも進路はたくさんあったでしょう?」
渇いて消えそうな好奇心を久しぶりに疼かせ悪戯な質問を投げる。
ここは不変、定常、安定を好み、変化を嫌う澱んだ組織だ。それを好き好んで選んだ。
「確かに有名企業とか、後芸能界への推薦もあったんですけど………」
「芸能界? そいつはまた………だったら、尚更何でウチに来たんです?」
目を丸くした。そして、もう一度同じ質問をしていた。素養に溢れた彼女が何故、こんなところに来たのか興味が湧いたからだ。最初は悪戯心だったが、今は違う。
若さに富んだ青臭い信念ぐらいは言ってくれるだろう、そう予感さえしたが彼女の二言目は司馬の期待を大きく裏切った。
「昔から憧れてたというのもあるんですけど、一番はオラクルに推薦されたからですかね。適性値だって一番高かったんですよ!」
得意気に語る都留は、自分の時計型端末を弄るとホログラフィで投影された自身の適性値と推薦書を見せた。
投影されたデータを視界に納める前に、司馬は落胆した。顔に出しはしなかったものの内心は苦虫を噛み潰したような形相であったには違いない。
最近の若い奴らはシステムに委ねすぎだと、独り言のように切り捨て虫の居所が悪くなる。司馬は老人臭くなるという理由から昔語りを好まなかった。しかし、この無垢な社会人一年生を前にして、俺の若きときはなぁ!と言いたい気分にもなる。
昔は、自分の道は自分で決めていた。苦悩して不安になりながらも、より良き未来になると信じて自分の道を切り開いていたなと、しみじみな思いを募らせる。だが、全ては政府の施策として生まれたAI統治システムによって変容した。
システム、そうシステムが全てを変えてしまった。司馬は目を細くした。まるで遠くを見据えるように、嫌な物を見るように、忌々しいと何かを恨めしく思うように。
「あの、私なにか変なことでも言ってしまいましたか?」
「えっ? あぁ! いや、気にしないでくれ。ただの思い込みだ」
心配そうに覗き込む彼女へ作り笑いで誤魔化す。
そうだ、自分だって彼女を侮蔑する権利など無いのだと冷静になって判断する。自分の人生を機械いや人工知能に委ねたのだ。そして、それはいつぐらいだったか。
老いた脳裏にこびり付いた記憶を、引っ張り出す。戦後、都市再生開発、国民の安定した生活、似たり寄ったりの甘いプロパガンダが風潮し始めた頃だったか。
いや、そんな事はどうでも良い。昔のことを思い出すと止め処なく溢れ出すから、あまり思い出したくはない。
この初老の男を本気で心配する無垢な娘に気まずさを覚える。狭い車内で若い人との沈黙は、老いを覚えた男には辛く感じ、無理矢理に話題を引っ張り彼女との会話を続けようとする。
「ところで話は変わりますが、いきなりの最前線配置ですけど、何か心配事とかありますか?」
「全然! 物凄く私恵まれてるなぁ~って、思っちゃいました! 東京都内ですし、新宿や渋谷、原宿には直ぐ行けますし、何より実家が近いのが嬉しいです!」
「そ、そうですか……」と愛想笑いを浮かべ、都留の矢継ぎ早なマシンガントークに気圧された。
短い咳を払って司馬は平静さを戻す。
「早々に、気に入ってくれるのは有難いですが、うちの部下達は揃いも揃って癖の強い奴ばかりでして……。熱しやすい青い若造に、女誑しに、脳筋大食い娘と、まぁ………個性豊かですよ」
個性豊かとは我ながらよく言ったものだ。悪く言えば変わり者の集まりであり、ゴロつきや愚連隊と何ら変わりがないのが現状だ。操縦桿を握る才能さえ無ければ、彼等は今頃檻の中だったろうか。いずれにせよ檻の中にいることは変わりない。
助手席を一瞥した。話を聞いてパァと目を輝かせた都留が、やはりと言うべきかそこにいた。鼻息を荒くした彼女は次の瞬間、「ドラマやアニメみたいですね!」と言い放つ。
浮世馴れしてない新米染みた台詞を述べた彼女に、世間知らずな小娘程度の感想しか懐けなかった。多少なりとも期待し、癖揃いの第四小隊に新しい風が入って風通しも良くなるだろうと思った矢先のコレである。
(所詮、システムの推薦もこの程度か……)
鼻で笑った。ご大層に人生設計をするが蓋を開けてみれば、この様である。それとも変わり者には変わり者が相応しいとでも言いたいのか。いずれにせよシステムへシニカルな思いを綴られずにはいられなかった。
内心、頬杖をついた司馬を余所に小娘である都留桜花は、諦観した彼とは反対に大きく安っぽい希望を胸に、目に入る全ての景色に新鮮さを覚えていた。
「うわぁ、大っきいな………」
フロントガラス越しに広がる巨大な建物。旅客機クラスなら、二機は格納可能な巨大建造物。スライドレール式の全自動開閉機構で動く隔壁、隔壁には巨大な『4小隊』の文字。淡いライム色の航空機整備格納庫らしき建造物は、TYPE74こと74式戦人を運用する第1警邏機動中隊・第4小隊が在籍する格納庫を兼ねた掩体であった。
淡いライム色が映えた荘厳な佇まいの建物へ節を打つ赤色灯も相俟って、浮世離れな雰囲気を強調した。それこそ特撮ヒーローの秘密基地のような印象さえ懐かせる。そして、まさに都留桜花はそんな感想を閃かせていた。
「着きましたよ、小隊長」
掩体の駐車場に車を止めて外へ出る。羨望の眼差しで、興奮した子供と相変わらぬ面持ちで建物を見上げた。
(遂に来たんだ……。ここが、私の職場なんだ!)
フンと鼻を鳴らした。帽子を被り直し気合いを入れる。
「じゃあ、小隊長室に案内して下さい」
「こっちですよ。ついてきて下さい」
燥ぐ彼女を尻目に呆れる司馬が淡白に受け答えて、彼女を仕事場へと案内する。
隔壁脇の扉を開ける。建物内は比較的暗かったため視界が少し黒くなる。瞳孔が環境光に合わせて景色をボンヤリと映し、輪郭を際立たせると陰影も添えて浮かばせた。すると、さっきまで暗かった景色にも馴れ、ハンガーデッキで直立する鉄巨人達の姿を捉える。
「これが、TYPE74………」と、静かな感嘆を漏らす。
損耗と稼働率を考慮した予備機を含め、4機のTYPE74が向き合って佇む。操縦手という乗り手がいない人型は、宛ら(さながら)仏像や狛犬と同様の畏怖と威厳たる波動を与えた。戦うために洗練され鍛え抜かれた人型、その姿は神秘的であり英雄的にも映る。
「どうしたんです急に改まって。別段、初めて見る代物でもないでしょう」
「いや、そうなんですけど。何か……カッコ良く見えちゃって」
「左様ですか……」と踏んで「まぁ、小隊長や私が乗るのは、彼方になりますけど」と、視線を向ける。
TYPE74より奥側に鎮座する人型。二足歩行ロボットの権化たるTYPE74とは違い、爪先に装輪を携えた四脚歩行型の人型であった。
「コイツはTYPE76。戦闘を補佐する指揮通信の……、まぁ言ってみればコマンド機ですよ」
「TYPE76……」
全体的に重装甲かつマッシブな印象を与える四脚歩行の人型は、TYPE74をベースに指揮通信等のコマンド能力に重点を置いた76式多目的人型機動戦闘システム、通称TYPE76である。
TYPE74が一人乗りに対し、TYPE76は指揮通信等のデータリンクを行うため三人乗りとなる。操縦手一人、予備操縦手兼システムサポーターが一人、そして指揮者一人となる。
TYPE74のような精練された筋骨を浮きだたせた人型ではないが、兵器であると言わしめる重装甲の体躯を成していた。
「コレに私が乗るんですね?」
「まぁ、乗ると言っても小隊長は指揮を行うだけですから。私はシステムサポーター、後は操縦手が一人………と」言いかけて、司馬は何かに気付く。
視線の向こう、暗がりで動く何かに手招きし見つけたソレを呼ぶ。
猫かなと純真な都留は思ったが現実的に見ても、そんなわけがなく猫の代わりに暗がりの中から一人の女性が現れる。
容姿端麗、言葉で現すとおり端整な顔立ちと、Gスーツ越しにも分かる締まりのある括れと張りのある胸と尻。規律違反ギリギリのウルフカットを揺らした彼女は、口にコッペパンを咥えてポケットに手を突っ込んだまま、やってくる。
「おい、湯田川! 新しい小隊長の前で何だそのだらしない格好は!」
操縦手が纏う濃緑の対Gスーツを怠く着こなし、胸元は開けて中の鼠色のインナーシャツが見えていた。その規律が乱れた姿はある種の艶っぽさを演出し、都留は女であるにも関わらず不思議な高揚感を沸かせた。
猫背に目の隈と気怠い雰囲気も相俟って、都留は(も、元ヤン! …………なのかな?)などと、勝手な想像を膨らませる。
編上靴を鳴らし、怠く歩いた湯田川は司馬を視界にも入れず、都留の前で止まるとグイッと顔を近付け覗き込む。
「お、おい湯田川!」
司馬の叱責も聞き入れず、彼女は一直線に都留を見詰めた。
(えっ、えっ、何?! 今、メンチ切られてる?!)などと、やはり勝手な想像を都留は膨らませた。
覗き込んだ顔を戻し、口に咥えたコッペパン噛んで一咀嚼、そのまま呑み込んでやると湯田川と呼ばれる彼女は口を開く。
「アンタが新しい小隊長さんか。……私は湯田川楓。軍の階級は3曹、こっちでの階級は巡査部長。まぁ、期待してないけど…………よろしく」と一方的に言っては背を向ける。
都留が何を言う前に、自分だけの自己紹介をして湯田川楓は勝手に歩き出す。
「あっ、おい待て。まだ、話は!」
轟く司馬の叱責もどこ吹く風で聞き入れない湯田川は、気付いたときには暗がりに消えていた。
「………ったく。すいません小隊長。気分を悪くしてしまって」
「い、いえ、大丈夫ですよ! 気にしてませんから。あの人が76の操縦手ですか?」
「えっ、あぁ、そうですよ。湯田川楓、TYPE76の操縦手。元々は74専属だったんですが、76のドライバー資格を去年取得したばっかりでして……」
一頻りの説明をした司馬の声に疲労が混ざる。苦労が体から滴る司馬は曰く付きと呼ばれた小隊で10年近くも分隊長を勤めたが、ここに来て老いも感じ始める年齢にもなった。そして新米小隊長の赴任である。気苦労は絶えないと独り溜息をつく。
しかし、その心中は察っせられず、都留は自分のテンポで「それにしても」と一呼吸踏んで、「4小隊って、あんな感じの人がたくさん居るんですか?」とオブラートに包むような配慮もなく率直な質問をする。
世間知らずな彼女へ呆れる視線を送っては、司馬が少し黙り「まぁ、飛び抜けた連中ばかりですよ」と意味深な言葉で会話を濁す。
疲労混じりの溜息をまた一つ吐き、腕時計を一瞥。それにしても……と踏んで「アイツら遅いな」と吐く。
「アイツら……?」
「あぁ、74の正規操縦士が二人ほど在籍してるのですが……ったく、十二時頃には戻って来いよと言ったんですけどね……。ちょっと、そこら辺探してきますんで小隊長はここに居て下さい」と残して、司馬は掩体の外へと行ってしまった。
会話が途切れ静寂が訪れる。まるで時間の止まった部屋にいるような錯覚さえ感じた。人気の無い掩体は寂しいものだ。
暗い建物内に一人残された都留。良い機会だと思い、少し見て周ることにした。
格納庫も兼ねる掩体の中は、見た目以上に広い空間と感じた。対に並んで鎮座する四機のTYPE74と二機のTYPE76。見掛けは然る事ながら、やはりアニメや漫画を始めとしたエンタメ作品に登場するゴテゴテとしたヒーローロボット感は微塵も感じられない。あるのは洗練され、秀美を放つ兵器の畏怖であった。
(見掛けによらず、結構すっきりしてるのね)
眼前の機体を都留の言葉が物語る。
TYPE74は兵器としても、人型としても完成された美を持つ人型ロボットであった。無駄を省き使用用途に準じ取捨選択の末に研かれた躰。それは【健全なる肉体】と当てがるに相応しく、量産機や工業製品の枠を逸した芸術的美しさも兼ね備えたのだ。
(そう言えば、武器はどれなのかしら?)
キョロリと辺りを見回す。機体が鎮座するハンガーデッキの向こう、発進口らしき部分の近傍にお探しの物はあった。光沢を廃した黒の一色、所々の節々にメタリックな光輝を認めた物体を、都留は一目で武装だと認識した。
(デカい銃ね……)と感想を漏らすソレは、TYPE74用に造られた『73式制圧型自動速射砲』であった。
見た目は歩兵の扱う普通の自動小銃であるが、口径や銃身長の関係から便宜上砲として扱っている。
他にも巨人サイズのコンバットナイフや携行タイプの無反動砲等々、大小様々な武装を見て回った。
目に映るもの全てが新鮮であり、流れ込む情報量に都留は気疲れを覚えた。一息着こうと整備用の脚立にもたれかかって一呼吸、目の前で直立不動を成す巨人へ目を向ける。
「それにしても、遂に来たんだな……」
思い詰めた顔を作ってTYPE74を眺めた。迷彩に染まる鉄巨人は何も語らず、都留の独り言が掩体の中で木霊する。
「漸く、漸くだよ……」
口角が僅かに上がり、思い詰めた顔が微笑みへと転じる。彼女にとって今日という日は、特別な意味を持っていた。
初めての赴任先だからというのもあるが、そうではない。待ち侘びていた、何年も前から。連絡が途絶えたあの日から。
「漸く、会えるね。武瑠……」
一つ拍を置いて漏らした『武瑠』の一言。まるで想い人を想ったようなくぐもった声が掩体で静かに木霊する。
独り黄昏れた静寂を破って扉が行きよいよく開く。司馬が正規操縦士達を引き連れ戻ってきた合図であった。
「すいません小隊長、正規操縦士を連れてきました。ほら、挨拶しろ!」
元々体格のよい司馬の後ろから、二人の男が現れる。
一人は軍人という雰囲気が感じられないナンパ師のような優男。そしてもう一人は……
「久しぶりだね、武瑠!」
「げぇ?! 桜花?!」
花開いた笑顔と狼狽えた声が掩体を満たした。
何故、彼女がここに居る。白昼夢を見たとでも言いたげな南雲。そして、知り合いだったことに同じく驚愕する司馬と草薙。
普通の青年軍人として生きようとした男の前に突然現れた幼馴染み。二人の再会は大きな物語の始まりを予感させた。