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CITY GUARDIAN  作者: 景虎
Casefile 06 交差
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Chapter 35 裏方

新年明けましておめでとうございます。


遅筆ながら細々と続けています。今年の抱負は投稿スピードを上げていくことに専念していこうと思います!


ここまで作品を読んで下さっている方々へ、まだまだ書いて、書いて、書いていきますので、本年もよろしくお願いします!

 喧噪と賑わいが絶えない格納庫掩体。ゼロ年代初頭に建築された愛しき建屋もいよいよボロが見え始めていた。

 外壁や鉄骨は錆が回り、酸化鉄が剥がれるのは当たり前。ハンガーこそレールや車輪は体質改善工事をしたものの、それも40年も前の話だ。スライド式かつ自動オートで開く巨大な隔壁は雨が降ってしまうと、いつもの事ながらスタックしてしまう。そんな時は装置を切って、整備士総出で開ける。

 空調設備の短絡ショートもいつものこと、雨漏りも何のその、一番ヤバかったのは雷で送電回路が死んだときだったか。何にせよ、竣工してから八十年近くが経過した格納庫掩体のボロボロ具合が司馬しばの目には、今の疲れ切った自分に重なって見えた。

 違うのは忙しなく動いて跳ね回る整備士達と自分の部下ぐらいなものか。エネルギッシュに跳ね回る若人と対照的に、椅子から立ち上がる度にフワリとギックリ腰の予兆を感じさせる自分自身とは全く別の生き物であると司馬しばは感じざるを得なかった。

 二階の待機室より出てすぐのデッキ、格子状の手摺りにもたれては、蟻のように機体の周りを群がって仕事する彼等を目で追っかける。

 ある者はタブレットを片手に整備し、またある者はラチェットやレンチで装甲板を剥がして電装品を交換する。


(まるでガリバー旅行記だな……こりゃ)


 コツリ、コツリと誰かが階段を昇る気配がした。昇るスピードに合わせて帽子、頭、体とシルエットが露わとなる。グレー調の整備服に身を包んた男は司馬しばと大差ないほどの年齢を感じさせ、所謂初老と言ったところの男であった。


「おぉ~、大久保おおくぼさんじゃない。どうしたんです?」

「しばっさん、例の物は一番機に搭載したぜ。搭載はしたが少し問題が起きてだな……」

「問題? そりゃあ、駐屯地きっての腕利きの整備主任さんが言うなら大問題だろうけど、いったい何が起きたんです?」


 大久保おおくぼと呼ばれる男は戦人せんとの整備に関して、この道三十年以上の大ベテランの大久保誠一郎おおくぼせいいちろうその人であった。

 大久保おおくぼは態とらしく帽子の鍔を上げて駆け寄ると、手持ちのタブレット端末で機体の状態をつぶさに説明した。


「重工から送られた新装備の件だが、機体との物理的接続はできたが如何せん………」

「……ソフト面が思わしくない?」

「そう!それだ! 同梱のOPオペレートプログラムをインストールしたんだが、どうにも上手いこといかない。インベントリするどころかエラーが出ちまう始末だ」


 眉をひそめ、大久保おおくぼからタブレットを受け取る。フリック操作でスライドし、事象内容に素早く目を通す。

 司馬しばは渋い顔を一瞬作って「何とかならない?」と言って見るも、大久保おおくぼは「何ともならないから、相談に来てる」と突き返す。

 困ったなと頭を掻く。こう言う時に限って、いつものように頭が冴えない。天啓の閃き……と言うものもなく、悲しいことに悪知恵すら思い浮かばない。


「ん~、ぶっつけ本番でやってみる?」

「冗談言ってる場合か?」


 藪から棒な言い分に大久保おおくぼは呆れた声色で返答した。第四小隊の分隊長を任された男に整備主任は、これでもかと機体の特性とメーカーからの新装備の特異性、更には検証に至るまでの多岐に渡る行程をつぶさに説いた。

 手振り身振り、果てにはタブレットも使って説明する姿はまるで講談師のそれであり、さながら一人劇場である。


「って事があるので、ぶっつけ本番なんてもっての外!」

「それにしたってね~、新装備……使ってみたくない?」

司馬しばっさんの言いたいことは分かるが、アレを使う場面なんて大規模デモの鎮圧ぐらいなものだぞ?」


 おっさん同士の押し問答。若者たちが見たら、いつもの風景に見えるか、おっさん同士サボってる様にも見えるただろう。

 どうしても新装備を使いたい司馬しばはあの手この手で整備主任を口説き落とそうと画策した。 


「しかし、カタログスペックの使用法に基づけば、超が付くほどの高電圧・高電流・高電力で暴走人型クレーンなんて一発だよ?」

「そんな物を振り回すんだから尚更、検証と動作チェックが必要でしょう! それに動かなかったときのことを考えたら、あの坊やが可哀想でならない。一応メーカー保証は期限内だから突き返すのも手だが?」

「それじゃあ、いざって時、間に合わない」

「しかし、どうにもならんぞ?」

「ん~、ちなみにだけどプログラムってウチで弄れないの?」

「そんな事しちまったらメーカーの保証が無くなるどころか、アンタも俺も路頭に迷いかねないぞ?」


 だよね~と茶化したような言い草で司馬しばは諦めの風体を作ってみせる。端から出来ると思ってはいない、出来たら良いなぐらいのニュアンスでしかない。ただ司馬しばの考える思惑としてはどうしても、この新装備は外すことは出来なかった。

 駄々を捏ねようとも考えた。いい歳した大人がだ。ここは妥協して易く手を引くのが大人の対応かとも考える。が、この男は自分の計画を完遂するためなら、あらゆる手を尽くす男だ。

 故に、大人だが、いい歳した大人だが、駄々を捏ねた。


「えぇ~、そこをなんとか~、頼むよ~整備班長殿」

「いや、そう駄々を捏ねられても、出来ないものは出来ませんよ」

「そこをなんとか! 何とかならない? 会社から秘密ルートで情報を貰うとか、自前で作るとか?」

「そんなアニメみたいな事出来るわけないでしょ! そもそも機体の!中にあるコンピューターが!新装備を!武装として認識しないんですから!」

「そうは言っても…、ウチも多分次の出撃辺りはあの新装備が必要になってくると思うんだよね~」

「思うって……何を根拠に?」


 司馬しばは、「ん~」と険しい表情を作って一呼吸、「勘?」と言い放つ。それを聞いた大久保おおくぼは当然の事ながら呆れて何も言い返せなかった。

 大の大人が、こっち(整備側)の事情を鑑みず新装備の適応を優先してオーダーしたその根拠が、勘ときた。聞く人間によっては拳が飛ぶか、怒号が飛び交うか、はたまた暴動が起きるか、どちらにせよ荒れる事態は避けられないだろう。


「いや、俺の勘はよく当たるんだよ?」

「いやいや、な、何を根拠に?」


 大層な呆れ顔で詰め寄る大久保おおくぼを前に司馬しばは「いや本当に当たるんだよ?」となお食い下がる。

 自分達が汗水垂らし、恒常業務との掛け持ちでシフトも組み直さして頑張ってた理由の根拠が、一介の分隊長クラスでしかない初老の勘などという戯言だったことに、ガックシと肩を落とした。


「……アンタがその昔、刑事やってたのは知ってますけど、その延長線上で勘などと仰るんだったらソイツは大きな博打打ちだと思いますよ?」

「だけどさ、たまには博打を打つのもまた一興だと思うんだけどね。歳を取ってくと、訳も無く保守的になって通例と伝統に縛られる、そうすると見えた筈の景色が見えなくもなるものさ」


 訝しげに「はぁ~」と答えることしか出来ない整備主任を尻目に、時にと話しを切り返す司馬しば


「あの重工からの新装備、なんか武装というよりかは増加装甲に見えなくもない?」

「増加装甲だ?」


 一介の分隊長が放つ言葉を疑りながら、新装備装着中のTYPE74に目をやる。両腕部に懸架もとい装着されたメリケンサックを想起させる武装は、その有り様と形態から増加装甲に見えなくもない。握り混む形で手を覆うほどの打突武装、前腕を囲う装甲板には大容量バッテリーと昇圧器を内封した暴徒鎮圧用のパラライズ兵装である。

 増加装甲、見れば見るほど増加装甲に見えてきた整備主任の目はグッと瞑って、もう一度カッと見開く。


「凝り固まった考えでは、見えるものも見えなくなる。確かにアンタの言い分も一理あるかもな」

「ホントに?いやぁ、頼み込んでみるもんだね!」

「だが、あくまでアプローチの方法を変えるだけだ。悪いが危ない橋渡って数百人以上の人間を路頭に迷わすわけにはいかないんでな」

「おぅ、そしたら俺は何をしたら良いかな主任?」


 去り際の後ろ姿、背を向けたまま年季の入った腕を後ろに振ると小さな箱型の物体が宙を舞う。パッと反射的に司馬しばは受け取った。


「USBメモリ……コイツはまたクラシックだね」

「そいつの中には、新しい奴のシミュレーションプログラムが入ってる。慣れさせる意味も込めて、あの坊主にやらせるんだな」


 一言も南雲なぐもを乗せるとは言ってないのに、大久保おおくぼ整備主任も抜け目のない人だと、独りでに思う。

 エアラチェットやモーターツールの騒音が鳴り渡る中、カンカンと階段を降りる音が小さく木霊する。

 右手に収まったUSBメモリを見詰める司馬しばが一人頭を掻く。


「しっかし、USBメモリとはね。これシミュレーター筐体の規格に合うのか?」


 ぶつくさと独り言を溢しながら、初老の分隊長はシミュレーター室へと足を進める。次の舞台は迫ってる予感がある、その為にできることは何か。


「全く、柄にもなくワクワクしてくるじゃないか」

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