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CITY GUARDIAN  作者: 景虎
casefile 04 都市の守護神
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Chapter 21 目の下にあるモノ

それはレーダーマップ上でも視認できた。急接近を図るトラックエネミーのマーカー、接近率の急減少が示す通り肉迫したVドーザーが全天モニターへと映り込む。

 追撃を仕掛けてくるのは読めていた。だから単に驚きもしなかったが、一つだけ驚いたことがある。それはただの消防ロボットが飛んだことである。TYPE74シリーズのマン・マシン・フレームを流用しているとは言え、軍用規格に該当する装備品は全てオミットされているはずだ。

 なのに、目の前のコイツは………


「跳びやがった……」

『基本構造は同じなんだからさぁ、推進装置を付けるなんて造作もないんだよぉ?』


 勘に触る声で嘲る。

 造作も無いとオープンチャンネルを介してレオンなるイミテロイドは得意げに語っているが、個人で人型重機況してや推進器を搭載させるなど不可能だ。そんなものは組織というバックアップが有ってこそ始めて成り立つ。

 不意に思い出す、ベイエリア8で始めて邂逅したときの違和感を。継ぎ接ぎの人型重機、肘下をアタッチメント式にした武装の換装、米軍しか保有していないはずの30ミリ機関砲アベンジャー

 俺の中の疑念がそうだと告げている、こんな真似事は単独犯では出来ない。見えないものが見え隠れする、それは幻覚ではなく、直感が告げる後ろにいる大きな存在。


「やはり、コイツは……」

『余所見をしてる場合なのかぃ!』


 意識が一瞬にして戦闘に引き戻される。そして自分が戦闘の真っ只中にいた事を改めて自覚させられると、反射運動が即座に対応した。

 致命傷の一撃が来るまで時間にして凡そ三秒。しかし、俺の体感ではもっと遅く状況が動いていく。

 対応しなければTYPE74の胴体を突き刺すであろう一撃。死に際に見える遅滞した時間の流れで冷静さを貫く俺の意識が、機体を手繰った。

 右腕の噴射口から噴いた炎が集束。溶接器具のバーナーと同様に蒼白く燃え盛り、明確な殺意を持って切っ先をTYPE74の土手っ腹へと狙いを定める。

 Vドーザーの背面が威勢を増して閃く。破壊力に繋げるための加速を行ったと認識した。

 汗も噴かない、呼吸も乱れない、況してや鼓動も普通、冷え切った冷静さの中、タイミングを見計らう。

 そして、来る。


「二度も当たらせるかよ!」


 思考するより身体の方が速い。左手の操縦桿スティックグリップ、中指手前の切替スイッチを押して左ペダルを浅く踏んでの回避行動。大腿部下部側面が閃いて一瞬噴いた姿勢制御スラスターと更に慣性力も加えた左腕の振り。

 一瞬という時間の中、十メートル大の巨体が空中で軽々と機動した。

 自身の冷静さとは対になる熱が装甲の塗膜を焦がす。右側を支点とした後方への回避運動、風を切ってヒラリと身を熟し目の前を凶器が過ぎていく。


『へぇ~、避けるんだねぇ?』

「回避だけだと思ってるなら、お目出たい奴だな」

『人間如きが、それを言ってくれるか!』


 戦闘の最中に喋る言葉は精神を揺さぶるための挑発だ。相手の戯けた挑発をそのまま意趣返しては、上手いこと食らい付いた。

 ペースを掴んだ。俺はそう確信した。

 緩慢と流動した景色の合間に見えた隙の糸を手繰り寄せるようにして、思考が機体を操る。

 ほんの一瞬だ。時間に換算するなら一秒足らずか。目の前を過ぎるVドーザーの右腕────その前腕を掴み取った刹那、TYPE74の右腕は蛇のように這って絡みつき腕を脇の下で固定ホールドした。

 アームロックの前段階、このまま手首を抑えて肘下を屈折させてやればもう片方の腕も取れる。


『へぇ~、凄いじゃん。人間の癖にねぇ』

「無駄口が叩けるなら、腕を折って黙らせるか」

『まぁ、できるものならねって話なんだけどさぁ!』


 回線に割って入るアイツの声が、音割れを起こすほどに大きく伝わった瞬間、巨大な慣性力に襲われた。

 身体を襲う圧迫感。胸に押し当てられた視認できない壁、後ろへと引く力。胃の内容物が食道を逆流する感覚と口への酸っぱさで吐き気を催す。

 後方視野をも確保する全天モニターへ目をやると煌々と噴き上がる熱源を視認できる。パルスは現れていないことと噴射した熱量が異様に高いことから、ロケット推進機関を使ったのだと理解した。


「俺を気絶させようって腹か? だが生憎と柔な鍛え方はしてないんだよ!」

『僕が、そんな安易な事で君を殺そうと思うかい? まぁ、一人ぐらいはヤレそうだけどぉ?』

「何……?」


 ハッとした意識が身体を後部座席へと向けさせる。視線を上げた先に映る首を項垂れた彼女─────意識を失った桜花さくらがそこにいた。

桜花さくら!」と咄嗟に叫んだが反応はない。

 そんな嘘だろ? 嫌な感覚に襲われるまま、左コンソールを叩いて画面左下部に搭乗者パイロットバイタルを出現させる。

 背中を気持ちの悪い寒さが這う中、頼むと願いながら強く視線を向ける。

 搭乗者パイロットバイタル、搭乗者の顔写真の横に配置された数値とグラフの群。脳波、脈拍、呼吸を示す波形は乱れることなく数値も安定している。

 ホッと胸を撫で下ろし、気を失っただけと解した。


『なーんだ、死んでないのか』

「生憎とうちの小隊長も柔な鍛え方してないんでな!」

『ふーん、そうかい。まぁ、これで漸く君と二人きりで話せるねぇ?』

「何?」


 二人きりで話す? 俺と、か? 戦いの最中に妙なことを言い出す。行動と言動が矛盾するイミテロイドが、ある種の心理戦でも仕掛けているのだと思い込んだ俺は、ペースを崩さないための煽りを入れる。


「二人きりで話したいなら大人しく捕まればいい。それとも、緊張を解いた瞬間に直ぐ死ぬような状況下で取り調べを受けたいマゾヒストでも言うのか?」

『フッハ、品のない冗談を言う。でも、強ち間違いではない。危機こそ自分を進化させる最も効率的なスパイスだからねぇ?』

「知るかよ、そんなもん」

『邪険に遇うとは冷たいねぇ。まぁいいさ、本題に入るとしようか?』


 本題に入りたいと言ったか。俺からすれば本題も何もない。話すつもりもなければ、真面に取り合うつもりなかった。ただ目前の被疑者を制圧して処理するだけ。罪人、況してや人擬きのイミテロイドと接点など持とうとは思わない。

 だが、コイツは、レオンと名乗るイミテロイドは俺と接点を持ちたがる。

 何故だ?


『何故だと思う?』

「さぁな。それを真面に考えたところで、俺にどうしろっていうんだ?」

『どうもしなくて良い。ただ聞いていれば良い、僕は話したいことが山程あるからさ』

「つまり、俺に聞くだけの人形になれってか?」

『そうさぁ、人間風情はその方がよく似合う』


 ふざけるな! 気迫が言葉となって駆ける。見下した口振りと物言い、コイツは人間を自分よりも低俗に見ている。少なくとも俺はそう感じた。

 イミテロイドは枯渇した労働人口を補うために作られた人造人間。そしてあらゆる労働環境に適応可能なポテンシャルを与えられた人間以上に優れた人型。


『だから可笑しいのさぁ。僕たちは優れているんだよ、君たち以上に! なのになんだ? システムは、システムオラクルはAIの癖して人間ばかりを優先する。あんな劣等生物をだ?!』

「言いたいことはそれだけか?」

『まだあるさ! 数え上げればきりが無いよ、僕たちの方が優れているのに何でシステムは、僕を………僕を、僕を不必要だと言うんだよぉ?!』

「自分が優等生だなんて思いあがっている協調性のない奴が、社会から必要だとでも?」

『言うじゃないか、システムに首輪を繋がれた駄犬の分際でさぁ』

「フン、駄犬はどっちだろうな?」

『なに?』


 意識が機体を揺り動かす。アームロックを解いて今度は右肩に火炎放射器と一体化した右腕を乗せると、背部推進主基を轟々と噴かせる。即座に上体を前方へ屈折させ、纏わり付くVドーザーを前へと放り投げる。

 推進力を利用した空中での背負い投げ。爽快の二文字が相応しい程、華麗に決まった技の前に為す術もなく隻腕の巨人が宙より地面へ墜ちる。

 墜落と呼ぶには不確定要素が多い。ある程度の衝撃を相殺して地面へとランデブーを果たしたVドーザー。着地の際の粉塵は盛った炎へ焼べられ、機体の強度が高い部分で受け身を取る。一回転し、勢いを付け罷り成りにも官公庁用に設計された人型重機は強靱な、その二脚で地を踏みしめる。


『やってくれるじゃんねぇ!』

「余所見してるからだ、クソイミテロイドがぁ!」


 ハッと意識を戻す。上を見上げれば上空より降下ともすれば墜落にも見えるTYPE74の姿が、単眼の主外部環境受動器メインカメラを通して確認した。

 ミリタリー規格で作られた骨格、特殊装甲、洗練された人型。蒼く煌めいた双眼を成す主外部環境受動器メインカメラがVドーザーを映す。

 蹴りだ。空中からの落下速度とTYPE74の質量を利用した攻撃は、これしかないと判断した俺の意識が蹴りを繰り出せと指示した。

 空中からの蹴り技。さながらヒーローの必殺技のような空中跳び蹴りを真似した蹴りの体勢。

 狙うは胴体部、そこへと一直線に落下するTYPE74。


「当たれよぉ!」

『そんな大振りが当たるわけぇ!』


 当たる。絶対に決める。根拠のない自信を糧に大技を繰り出す。でなければ一撃に賭けることはない。誰がどう見ても隙だらけの、この体勢での攻撃はほぼ自殺行為だからだ。

 素手の両手に遮蔽物のない空中、オマケに下半身は跳び蹴りの型で固定。飛び道具で撃って下さいとでも言っているようなものだ。だが、状況は違う。


(左腕は欠損……。なら、身を翻して避けるかそれとも………)


 予想よ当たれと心の中で願う。普通なら避けてしまうのが当たり前だ。しかし、今のアイツは頭に血が上って冷静さを欠けている。更には人を見下すような奴だ、一泡吹かせようと躍起になっている可能性がある。

 来い。

 

 来い……。


 来い!


 そして、来た。


『隙だらけの癖してぇ!』


 唾飛ぶ勢いで吐かれた言霊に導かれ、Vドーザーの右腕は突出し次の瞬間、躊躇う素振りもなく盛んな炎のうねりが生を受けて放たれる。

 空中へ釘付けにされたTYPE74が餌食となる。あっという間に足先から全体へと丸呑みされた。

 これで良い。これなら当たる。

 俺はそう確信した。


『はぁ? オイオイ冗談だろ? 何故、何故、落ちてくるの。何故、怯まないの。何でやられないんだよぉ?!』

「残念だったな~。同じTYPE74シリーズでも俺のは軍用規格、オマエのは只の官公庁向け。端っからオマエとは履いている靴が違うんだよ」

『ふざけるんじゃねえよ! 炎だったら消防用にカスタマイズされたこっちの方が有利なんだ! なのに、なのに何でだ!?』

「バカかオマエ? こちとらあらゆる戦場、延いてはあらゆる災害にもハイパフォーマンスで挑むんだぜ? 炎如きじゃやられないんだよ普通は。まぁ、さっきは局所的に貰ったからやられちまったが、結果として誤判断は誘えたようだな!」


 ニヤッと顔が綻ぶ。したり顔が自然と出てしまう。イミテロイドの絶叫した罵詈雑言がオープンリンクから溢れ出すも気に止めない。

 一面炎の全天モニターを赤外線画像捕捉追尾式のシーカーが映す赤外線画像と併用、ただしトラック情報はレーダートラック情報をプライマリとし他の追尾システムと同期させる。


「これで炎の中でもオマエを殺せる」

『クッソォォォガァァァ、だったら集束させてやればさぁ!』

「遅えんだよ!」


 覇気ある言霊のままに炎を割ってTYPE74現れる。

 バーナー状にしての炎の集束が間に合わない。蒼白く煌めいた火柱が沸き立つ瞬間、奴は肉迫し目と鼻の先に凶器と化した脚部を与えてくる。

 回避。その判断を下すにコンマの秒数が生じた。焼き尽くす算段は外れ、望みも捨てきれない戸惑いのままに半身捻って避ける。

 だが読めていた。南雲なぐもにとってみれば、相手の一挙手一投足は手に取るように分かっていた。人を見下す目の前のイミテロイドが、自分のプライドと板挟みの葛藤をしながらの望まぬ回避行動。そこに僅かなタイミング遅れが生じることも。

 そして直ぐに現実となることも。

 半身捻って避けたかに思えた。脚を裁き、腰を捻った先に動き出す上半身──────その右肩より駆動した荷重移動が胸へと、況してや右手の末端まで作用するのにかかる時間はそう速いものではない。

 機械としての欠点。生物の持つ敏性を体現した反射速度、しかし各部位のシリンダー、アクチュエーター、サーボモータ、アブソーバー等々の機器をシーケンスによって連動させる遅さ。


「だから言ったろ? オマエとは履いている靴が違うんだよってさ」


 その言葉をイミテロイドが理解したのは、Vドーザーの右腕先端の折損、そして胸部装甲の剥離を目にした瞬間だった。

 カンと冴えた音の後に轟いた、ドンという砲声にも取れる破壊音が物語った。特殊装甲に包まれた脚部はエッジを効かせて火炎放射器のノズルを削り取る。その後は、遅れた回避のタイミングに乗じて搭乗員乗降用のハッチを胸部装甲ごと剥ぎ取るのだった。

 着地からの一回転の受け身。全天モニター越しに見る目標は自体を把握しきれず棒立ちとなっていた。好機と睨んだ思考が、受け身の低姿勢から足元を掬いとる勢いを込めた回転蹴りを指示した。

 ブレイン・マシン・インターフェイスの恩恵を受けたTYPE74は思考のままに、南雲なぐもの身体として生物的敏性を体現する回転蹴りでVドーザーの脚を掠め取った。

 炎を薙ぐ風を起こした蹴りによって、Vドーザーが転倒する。土煙の上がる中、一瞬でも速く立とうと藻掻いた瞬間に突き付けられた銃口。


「決着だ、無駄な抵抗はよせ……」


 自分でも驚くほどに優しく諭す声が出たものだと思った。

 大腿部の兵装収納庫ウェポンベイから抜いた回転式45ミリ自動速射砲ラピッドリボルバーを、その剥き出しとなった操縦室コックピットへと突き立てる。

 引き金を引けば、直ぐにでも45ミリのホローポイントがイミテロイドをミンチに仕立て上げる。


「オマエの負けだ。大人しく投降しろ、今なら少しばかりは長く生きられる」

『…………なんだよそいつはさぁ? 勝手に決めつけんじゃねえよ、人間風情がさぁ?!』


 乾いた銃声が轟いた。

 一発の銃声が工場群を焼き尽くす炎の群れを静まらせる。撃鉄ハンマーが叩いた弾丸の行く先は、Vドーザーの顔面横の地表に収まる。

 反抗の兆候があった。だから必要最低限の制止行為として引き金を引いた。

 白煙が上がる中、全天モニターに映る目標の悪足掻きにすら激情は湧かず、唯々冷静過ぎる自身の精神が事態にケリを付けようとする。だが、そこに湧いた情は怨みから来る殺意ではなく、真反対の情であった。


「オマエを少しだけ生かすって言ってんだ! その意味を知れよバカ野郎!」


 今の自分だから絞り出せた言葉だ。俺はこれ以上、システムのままに引き金を引き続けたくはない。

 オラクルシステム直轄の最高裁判所から執行容認のセーフティロックは端から解除されている。つまり、その手で廃棄処理を執行しろ──────引き金を引けというのだシステムが。

 昔の自分なら有無を言わさず執行していた、けど今は違う。桜花さくらと再開したことで欠けていた人間であろうとする心が芽生えたのだ。それを弱さと罵る奴もいる。しかし、俺は………。


『少しだけ生かす……かい。まるで生かされない原因が僕たちにあるとでも言いたげだね、えぇ?』

「そうだ。オマエを含めて社会に離反したイミテロイドは罪を重ねすぎている。死罪が相応しい程にな」

『僕はそうかもしれないが、他の奴の中には上司に殴りかかっただけで撃ち殺された奴もいたなぁ。普通なら尋問ぐらいで済みそうなのに可笑しいと思わないかい?』


 せせら笑ったアイツの甲高い声が、剥き出しの操縦室コックピットから溢れ出す。顔も判別出来ぬほどに暗い空間の奥から、まるでそちら側へと誘うような言葉が羅列する。


『君は所詮、この箱庭しか知らない只の犬だろぉ? だから、僕たちの現状を知らないし、知ろうともしない』

「オマエ達の事はよく知っているさ、労働人口を補うための人造人間。それがオマエイミテロイドだろ」

『フン、結局君は教科書通りの言葉しか喋らないんだねぇ? あの過酷な労働環境、僕らをモノと同意義に捉えた使い捨てが当たり前の現状、余暇などない労働のみの日常、それが僕たちさ。君も同じ状況に置かれれば分かるよ、今の自分の立場がどれだけ上流にいるかがさ!』

「だから、人を殺めるのか? 秩序を乱すのか?」

『そうだよ? 人間より優れた僕たちをゴミクズ同然に扱う社会など、況してや人間を贔屓するAIシステムはクソ食らえさ!』


 コイツ………と腹の中が沸き立つ。

 身勝手な言い分。自分の置かれた状況が劣悪だったとしても、自分の抑圧された鬱憤を吐き出せなくても、それが命を殺める行為、況してや秩序を乱す免罪符になりはしないのだ。

 理論を並べ、自らを正当化しようとも根本の倫理が瓦解している時点で、俺にこのイミテロイドを擁護する理由など有りはしないのだ。コイツは今この場で直ぐにでも廃棄処理するに相応しい。

 グッと右手の人差し指に力が入る。操縦桿スティックグリップのトリガースイッチを引けと、身体がざわめく。防御の盾を失った操縦室コックピットへ今なら造作も無く撃ち込める。

 やれ!と自分が自分を押した時だった。


「だ、駄目、引き金を………引いては!」


 後ろからの弱々しい声が殺そうと孕んだ意思を止める。振り向かなくても分かる、気絶から目覚めた彼女が必死になっている姿が。俺の手をこれ以上汚させまいとする彼女の意思が。


『おやおや、眠り姫が目覚めちまったねぇ』

「お姫様扱いありがとうね」


 イミテロイドの戯言を軽く去なした桜花さくらが、俺の右肩に手を置く。


「止めてくれるなよ。コイツは社会へ野放しにするには危険すぎる」

「そうだとしても見過ごすわけにはいかない。武瑠たける君に、引き金なんて引かせない!」

『ふーん、君はタケルっていうのか、良い名前だねぇ』


 甲高い声が俺の名を呼んだ。HMDのスピーカーより触れたアイツの声が、俺の視線をVドーザーの操縦室コックピットへ釘付けにした。

 薄暗い空間より蠢く人影。そいつは支柱やフレームの縁を頼りに藻掻いては外界へと這い出る。

 痩せた体軀。八頭身程の長身に薄汚れた長袖のシャツとジーパン。光を吸収する黒髪に健康的な肌と際立つ蒼い瞳。そして、何より一際目立ったのは入れ墨のように目元に刻印されたバーコードだった。

 人間と違わぬ人型の形状。ただ違うのは目元のバーコードのみ。


『良い名を教えて貰った礼だよ。製造番号30―5×××7、認識番号AZ―7××4、社会識別固体名レオン・久瀬。それがイミテロイドである僕の名だ』

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