Chapter 19 火を噴く消防ロボット
人間の意識は容易く乱れる。脳もコンピューターも構成品と物質が違うだけで行う仕事は同様のものだ。目の前の情報を精査し、必要なものを摘出処理して活動する。ならば意識の乱れというのは、ひとえに情報過多による処理落ちといえるに違いない。
そして、俺の脳はまさにその処理落ちに差し掛かっていた。
戦人を操るためにブレイン・マシン・インターフェイスの中枢として意識を割いては、眼前の炎々とした景色を受動し、目標を探す動作を行おうとしたところで割って入った警戒警報の音。
リアルタイムで矢継ぎ早に起こる事象の数々に、いよいよ脳が飽和状態への黄色信号を点滅させる。
「フェンリル2より、各機へ! 散開しろ!」
それだけが精一杯だった。
脳が稲妻のように思考を走らせる。瞬間的に切り替わるコンソール────液晶の操作盤に表示されたウィンドウが機体と支柱を接続するボルトの強制解放シーケンスへと入る。
────CAUTION────
────BREAK OUT────
連なった警告音と同時に六角柱の構造体──────リニアカーゴと機体を結び付けるロックボルトに設けられた強制解放用の火薬が起爆する。
炸裂から来る振動の大波に揺らされながら保った意識の中、前方へと一直線に飛び出す。
各機が脱出しきった瞬間、背後が煌々と輝く。自分の身体が即座に振り返って後ろへと視線を投げてみれば、リニアカーゴは一瞬にして火炎の餌食となっていた。
待ち伏せされた。俺は即座にそう判断を下す。
「チッ、味な真似をしやがる!」
毒突きながらも機体を手繰り、警戒の態勢は解かない。外界を映す全天モニター、それが映し出す業火を肉眼に納めつつ、後ろの桜花は指示を飛ばす。
「コマンダーより各機へ。散開しつつ、K3エリアまで後退。そこで一時体勢を立て直します」
後退。この場合は戦略的とでも頭に付ければ良いのだろうか。しかし、見計らったのごとく奇襲を敢行した敵が、恐らく目標が、そう簡単に逃がしてくれるとは思えなかった。現に今、俺達は奇襲という混乱の最中で警戒態勢を継続しながら索敵を行っている。
敵の手の中で踊らされている、恐らく後退することは向こう方も予測しているだろう。ただ、判断を遅らせて場に留まって消耗するよりかは良いように思えた。
俺の思考は咄嗟に判断し、各機への意思統制を図るよう動く。
今はK3エリアまで後退するぞ。フライボールはその後に展開だ………と言いかけた直後だった。
『フェンリル2! 前ぇ!』
「あん?」
草薙の荒げた声に弾かれ前方を直視。画面に映る景色、炎々を割いて現出したソレに気取られ、対応への意識がコンマ数秒遅れた。
「な……んだぁ?!」
赤。それも目が痛いと叫ぶ程の真っ赤に染まる機体。
腕を突き出す思考を俺は咄嗟にしていた。
直撃。頭にガツンと一発貰ったかのような鈍い突進の衝撃を味わいながら、眼前の赤い機体へ目を向ける。
肩から火炎を抑えつけて輝く赤色灯。TYPE74シリーズをベースとした均整の取れた人型の形状。そして、一際目を引いたのは右腕のマニピュレータから換装された放水ノズルの噴射口。
データベースを参照、首都消防局に配備されているマン・マシン・ビークル『Vドーザー』、そのものだった。
「クソッ! ただの消防ロボットに襲われる謂れはねぇぞ!」
悪態を付きながらの応戦。脳は間髪入れずに思考を飛ばすも、対応しきれない箇所を手元の操縦桿を手繰って補助を入れる。
拳には拳の、蹴りには蹴りの、応酬を与える最中にふと脳裏に巣くった違和感という奴に気付く。
何故、俺は目の前の奴と戦っている?
取っ組み合いの最中に桜花の言葉が、ふと蘇る。
《現場は大分混乱していたみたいですが、第一報には消防ロボットが火を噴いて暴れていると記録されています》
ハッとした意識の中で自機へのロックオン警報が木霊した。
「まさか……!」
コイツが!と口が滑り駆る中、それは放たれる。
ノズルの先端より噴いた灼熱の現象は、まるで生を得た生き物ように飛び掛かるのを主外部環境受動器越しに、俺は見た。
一直線に食らい付く火炎が熱気をも交えて、TYPE74を包み込む。全天モニター一面に広がる火炎を前に漸く思考が追いついてくる。
合点が全ていく。火を噴く消防ロボット、そうだ、この眼前の機体こそ制圧すべき目標なのだと。ならば行動することは只一つ。
「炎が、邪魔くせぇんだよ!」
ガンとした衝撃を初撃として伝える。Vドーザーの右腕、火炎放射器のノズル、その脇を擦り抜けたTYPE74の左腕が前腕の肘関節部を当て身し、上方へと跳ね上げる。
掌底による力の去なしが効き、炎は弧を描いて空へと放つ。火炎と混合した黒煙が視界にフィルターを掛けては、その透かしの入った世界の中で目標であるVドーザーへと肉迫する。
肘先の右前腕を左手が、抵抗しようと拳を撃った左腕を右手が掴んで絡め取っては、TYPE74とVドーザーという取っ組み合いの構図が生まれ出た。
「フェンリル1! 俺がコイツを押さえている間に動力部もしくは脚の可動部を撃て!」
『こちらフェンリル1、了解した』
前進して回り込む。互いを互いが押さえ込もうとする二体の巨人を目で追いつつ、Vドーザーの背後を取る。アイトラッカーでウェポンストア(武装選択画面)を展開、大腿部ウェポンベイより口径60ミリ回転式拳銃型の自動速射砲を抜いて構える。
銃身下部の赤外線捕捉装置と機体のFCS(火器管制装置)を同期。
『クソッ! ロックオンできるが周りの炎で直ぐに外れちまう!』
草薙の言葉通り、赤外線捕捉用のトラックシンボルがロックオンマーカーを刻むも、数秒を待たずしてロックオンが解除され右往左往と挙動不審に動き回る。
対象の排気熱からの赤外線を頼りに捕捉を行う赤外線捕捉装置の目は、火炎が放つ赤外線のカーテンに包まれた目標を見失っていた。
周囲の炎が放つ赤外線の中で排煙するVドーザーの排気熱を分解するのは不可能に近い。それこそ森の中で目印の無い特定の木を探し出すようなものといえた。
『クソ、この馬鹿目玉! 早くトラッキングしろってんだ!』
「なら、レーダーを使え! ジャミングされてる訳じゃないんだ、レーダーは使えるはずだ!」
『………使えることには使えるが、周囲の温度上昇に影響されてんのか、思うようにレーダーが作動しない!』
「なんだと……」
気が付けば息を飲んでいた。
舌を巻いたと言っても良い。そうだ、俺は眼前の敵の戦略性の高さに舌を巻いていたんだ。
まんまと誘い込まれた。予め用意した罠に嵌め、自分が優位に立てる状況下で相手を見下しながら戦う。まるで狩りをするハンターのような戦い方。
そして、この遣り口を俺は知っている。
「そいつに乗ってるのはオマエだな。レオン・久瀬ェ!」
逆立った気分に任せて土手っ腹に蹴りを入れた。
剛性の異なる物質同士の衝突。身が切れる程の鋭利な打突の音を炎に食わせ、忌々しい火を噴く消防ロボット────Vドーザーを前方へと蹴り飛ばす。
柔な耐火性合金の表皮に特殊装甲の足形が象られてはTYPE74とVドーザーの間に距離が生まれる。
『ヒュ~。まっさか名前を覚えて貰えるとはありがたい話だ。ねぇ、そう思わない? 仕事好きな公務員さん?』
一般回線に割って入る耳障りな声。ノイズキャンセルの効いたヘッドセットから耳を舐めるような卑しい声が、俺を不快にさせた。飄々と人を小馬鹿にする口振りで話す、女のような高い男の声。
間違いない、奴だ。
「この前の礼はたっぷり払わせて貰うぞ、クソイミテロイドがぁ!」
『おいおい、僕をこの場で殺すつもりかい? 処刑台に連れて行ってくれる約束だろ?』
「そんな約束はとうに忘れたな!」
言葉からの闘気が、そのままブレイン・マシン・インターフェイスの役割を成すDAMシステムに反映されて機体を突き動かす。
稼いだ距離を浪費して、TYPE74に似た顔立ちのVドーザーの鼻先を捉える。同じような顔、コスト削減の為に大量生産品として流用され、公安職系のマン・マシンの代名詞ともなった顔。
方や双眼、方や単眼、見た目の問題じゃない、問題なのは只一つ、腹に納めた搭乗者の意思に他乗らない。
だから俺はアイツが──────目の前の奴が許せない。人の命を快楽を満たすために弄ぶ眼前の奴が許せないのだ。そんな奴が自分の操る機体と似た姿で、命を殺めていく。
胸くそ悪い。吐き気がする。憎悪で呼吸が荒くなりもする。
右腕がシーケンスに入る。指先、手首のアクティブサーボを固定。多重関節構造を一つの固体として組成。
眼前の目標が放つ妖しい眼光。俺は自分の憎悪から来る感情で頭が一杯になり、その勢いのまま拳を撃った。
ビュッと風を掻いた剛力の一撃。
疾風を超す直突の最中、同時に拳の先より金属が織りなす音の壁とも言うべき、衝撃波が辺りへ拡散した。
「チッ、止めるのか」
『まぁね。俺は、ほら人間より優秀だからさ、成長も早いんだよね!』
グイッと手繰り寄せられる。強い慣性の力が操縦席を襲った。シートベルトがミチミチと身体に食い込んでいくのが分かる。
衝撃に耐えかねた桜花の悲鳴が木霊して、俺の意識が彼女へと向けられた一瞬の隙を突いてレオンの商標を持つイミテロイドが動く。
『もらったよ、公務員さん!』
「やらせるかよ!」
一つ置いての反応。慣性に従い、機体が前へとのめる中、踏ん張ろうにも脚が浮いていることに気が付く。
マズい。支点が無い状態では力を込められない。故に攻撃ができないと思考したとき、Vドーザーの右腕が振りかぶったのを見た。
『これでも食らいなぁ!』
突き出した右腕、先端のノズルが左肩部装甲板を掻く。飛散した大小の塗膜を景色に流し、刹那の瞬間に赤々と燃え盛るものが噴いた。
轟と躍り出た炎。のたうち回る火炎は噴射音を逓倍させると、その勢いを青へと変えていった。それがバーナーと同様の要領で集束し火力を上げる手段だと気付くのに時間は掛からなかった。
溶断される……! 本能的に察したときには意識が走っていた。熱で白化し始めた特殊装甲を目に焼き付ける暇も無く、俺はVドーザーに絡め取られた右腕を振り解く思考を走査させた。
間に合えと強く願う。焦燥感に煽られた心情が「早く!」と柄にもない狼狽えた声を出させる。
信号を受信、双眼を蒼く揺らめかせTYPE74が腕を四方向へ大きく振り払う。金属をギーと擦った不快な音を靡かせ、集束された青い炎は外気を焼く。
二足を地へと接地させて自重を両の脚へと宿してふん縛り、掴まれた右腕を手繰り寄せる、そして体勢の崩れた目標の火炎放射器の付いた右腕を蹴り上げては、再び距離を稼ぐ。
『逃がすとお思いかい!』
追い縋ろうと急接近を図るも、眼前に撃たれた至近弾によって攻勢の意思が殺がれる。
マニュアルトラッキングに切り替えた草薙機、コマンダー機からの牽制弾がVドーザーの足元へと弾着を果たす。
『フェンリル2! 無事なの?!』
「フェンリル2よりコマンダーへ、無事………とは言い難いかな」
機体の計器板を一瞥、機体を部位毎に損傷レベルを示すダメージインジケータは、左肩部のみを黄色く染めるも可動に支障はない。しかし、レーダーシステムの機能不全を示していた。アナログ計器板のフォルトインジケータも同様にNo.3レーダーシステムのコーションライト(故障表示器)を点灯させる。
TYPE74の五基あるAESAレーダーのうち一つが破壊された。
「No.3レーダーシステムのダウンを確認、恐らく左肩部のセンサ類も同様に死んでる可能性がある」
「なら、このままフェンリル2は後退、支援に徹底して下さい。フェンリル1を前衛に、コマンダー機はフェンリル1の援護を」
こちらが意図しない指示が後ろより飛来した。さっきの悲鳴を上げていた顔とは裏腹に、小隊長らしい頑とした鋭利な表情が表へ立つ。
凜とした振る舞いの中で、桜花は戦況を俯瞰し比較的損傷軽微な状態だった俺のTYPE74へ後退指示を飛ばす。
冗談じゃない、高々レーダーシステムの一つがダウンしただけだぞ。生きているレーダーシステムを回して、何ならフライボールを飛ばせば動ける。
俺の頭の中は、如何にして継戦するかを第一に考えた。そして、それらを蔑ろにするかのような彼女の指示に苛立ちも交えて噛みついた。
「待ってくれ、小隊長。俺はまだ」
『小隊長の命令だぜ、フェンリル2。目潰しされた奴は後ろに下がるんだな』
「馬鹿言え、たかがレーダーシステムの一つを潰されただけだぞ!」
『頭を冷やせフェンリル2! その機体には小隊長が乗っていることを忘れたのか!』
叱責した湯田川の声で、ハッと我に戻る。そうだ、識別で見ればTYPE76の湯田川達がコマンダー機だが、今桜花が乗っているのは俺のTYPE74。つまりは、俺が操るこの機体がコマンダー機というわけだ。
そしてコマンダー機の撃墜は部隊の死を意味する。
(借りを返すクソ野郎が目の前にいるって言うのに!)
歯が鳴るほどに噛み締め握った操縦桿に力が入る。目の前に借りを返すべき奴がいるのに逃げなければならない────物事の歯痒さを味わい、全体の利得と己の欲求が天秤を揺らす。
しかし俺はイミテロイドを狩る獣である以前に公務員だ、当然指示には従わなければならない。それが自分の意に反したものであったものだとしても。
「…………フェンリル2、了解した。後方に下がり支援に就く」
『おっ、南雲にしちゃ聞き分け良いじゃん。なら俺は、そのまま目標の制圧を行うとするか』
「コマンダーよりフェンリル1へ、目標の制圧はしても被疑者は」
『確保………ですよね?』
「可能な限りでお願いします。………それと、識別がややこしい状態なので一旦マーカーをリサイクルします。草薙機をフェンリル1、湯田川・司馬機をフェンリル2、そして南雲機をコマンダー機とします」
ローカルデータリンクから各々の了解の旨が飛ぶ。主外部環境受動器からの景色を映す全天モニター、その右下部に添付するレーダーマップ上の識別マーカーが瞬時に暗転、指示に則った識別マーカーへと移行する。
『フェンリル1、こちらが支援する間に格闘で凌駕できるか?』
『臨むところですよ、フェンリル2』
草薙が駆るTYPE74が動く。腰部武装懸架装置から抜いた近接用短刀が、その鍛えられた刀身を輝かせる。
主外部環境受動器から間接的に通す景色を合図に、呼応したTYPE76が前脚大腿部の兵装庫から銃器を抜く。
握把を握って僅かコンマ五秒でライアットガンの形へと展開する。
『対人モードで起動、出力ゲージを1パーセントに固定。ったく、こんなんじゃ豆鉄砲ぐらいにしかならないのにさ』
左手がバレル(銃身)下部、フォアエンドを掴むと、ガコンなどと鈍い音を靡かせては手前に引っ張りまた奥へと押しやる。弾丸の装填が終わる、ただし実際のライアットガンとの相違は弾が物理的破壊を目的とした実弾か、EMP(電磁パルス)による電装品破壊を目的とした指向性プラズマ弾かの違いである。
『行くよ! 草薙!』
『いつでもどうぞ、先輩!』
引き金を引く。
銃口から奔る閃光。それは対人用に殺傷力を抑えたものだが歴としたプラズマだ。形容しがたい音の羅列、言うなれば雷鳴と同類の破壊音。電撃が炎を裂き、Vドーザーの足元へ着弾する。
一撃、二撃と至近弾を撃ち込んで動きを制して、相手をこちらのペースへと引き込もうと計らう。
『チッ、人型擬きが、嘗めた真似をしてよぉ!』
『隙だらけなんだよ、人擬き!』
Vドーザーは振り向く。アクティブサーボの唸りを外気へ流し、バイザー奥に座する単眼の主外部環境受動器が捉えたとき、肉迫したTYPE74が視界一杯に広がっていた。
空いた左手は牽制に使い、次の瞬間には捻った腰によって位置関係を逆転した右腕が前へと出る。
右手が握る柄、そこから伸びる水気さえ感じる刀身。その刀身がこぎみよく振動しては空気を裂き、右腕の振りかぶりも相俟って威力が高められた一撃を、先端に乗せて撃つ。
『当たると思うのかい?』
『どうだかな!』
グンと振るった右腕がVドーザーの胴体に被さる。刺突に見えた斬撃、当然のことながら一歩身を引いて回避。しかし、草薙もこの一撃は避けられると読んでいた。
承知した上での攻撃。無駄な動き、ではない次なる一撃のための前座。
空を撫でた剣先が腕をも道連れに重力へ服従した刹那、草薙の右手が動く。操縦桿をスイッチ操作、そしてグルンと右へ半回転させ、その指令信号が前へと慣性に従って落ちるTYPE74の右腕、延いてはその手首に行き届く。
落ちる最中、手首のアクティブサーボが右へ180度半回転、大凡人体の常識を脱した可動域を駆使して逆手持ちになった近接用短刀。今度は重力に逆らって上へと切り裂く。
『そんなのって有りぃ?!』
『有り寄りの有りだ!』
呆けた高い声を耳へ流して草薙の思考は走る。更に踏み込んだ一歩も乗せて近接用短刀の撫で斬りが襲いかかる。
狙うは胴体………ではなく、宙へと浮き上がった奴の腕。肩口より伸びる二の腕、肘、前腕、手首、手。前回は前腕が着脱式による換装をメインに戦略の幅を広げていた。
封じるなら、ここだと瞬時に判断を下す。
主外部環境受動器を通す景色、レイヤードしたHMDのサークルトラックシンボル、そして同期した自身の視線から来るアイトラックが重ねる先。
振り上げた腕、逆手持ちの刀身、狙い定まった場所へ面白い程にスッと入り込む。
伸びきった左腕、その肘関節へ近接用短刀の剣先が接触。
瞬間、周囲の空間が一つの音に支配された。
カンと冴えた金属の響きから一転して、歪んだ破断から爆発にも似た音を撒き散らして、炎が掻き乱れる。
遅れて咲いた火花は散り散り、鍛えた刀身が柔なアルミ装甲をバーターの如く溶断した。
綺麗な断面図を視界に残し、ショートから来る小爆発の黒煙で対峙する二機の間に壁を築く。
後方で潰れた音が聞こえたが、それが切り落としたVドーザーの左腕であることは振り返らなくても理解できた。
グルンと半回転戻った右手で構え直し、次なる攻撃への準備を始める。
『へぇ~、どうしてかな。薬に頼りっきりの人間が、よくもここまでやるもんだ』
『フン、意外に情報通なイミテロイドだ』
『まぁ、この間のベイエリアでリンクを傍受してたからね』
草薙の心が驚きで跳ねた。ローカルデータリンクのコードを読まれている。只の作業用重機だった人型に電子戦装備まで搭載されていたとするなら、やはり眼前のイミテロイドの後ろには何者かがいるとしか考えられなかった。
だが今は推理ごっこをしてる場合ではないと草薙は自分を諌める。目前の目標たる被疑者、レオン久瀬という商標を付与された模倣品、その確保が最優先だ。
『薬に頼りっきりの人間が、どうしてこうも戦うのかな?』
『さぁな。只一つ分かりきってることがある』
『なぁに、それ?』
高い声が卑しく耳を舐めるようにして、骨身に煽り言葉を植え付ける。
構う物かと半分開き直った草薙の思考がTYPE74へ構えの動作を与える。
左脚を前にして重心を乗せた刺突への構え。各アクティブサーボには遊びを与え、いつでも撃てるようにしておく。
そう、いつでも撃てるようにしておく。
『ここらで目立っておかないと、南雲の陰に埋もれちまうってことさ!』




