Chapter 18 人間か獣か
それは突然だった。
耳障りな警報は意識を状況下へと駆り立て、指の先、足先の末端まで神経を走らせた。こちらの都合などお構いなしに鳴り響くサイレンで、スクランブル勤務上番中だった第4小隊の面々は大凡の察しが付いていた。
アイツが、奴が動いたんだ。
運搬食を平らげたところだった南雲は、食器を片す暇も無くハンガーへと躍り出る。耐Gスーツのチャックを上げ、薬理的に軽減するベストを羽織ってHMDを無意識のうちに被って、自身の機体へと走る。
『東京都大田区、京浜工業地帯にスクランブル発生。待機任務中の第4小隊はスクランブル発進せよ』
古いスピーカーからノイズも交えて、スクランブル要請がかかる。
ハンガー4、二番格にそびえ立つ機体。梯子を三つ飛びぐらいで駆け上がってデッキに辿り着いたところで気が付く。
「今回は速いじゃないか」
その言葉を投げた方向に、HMDまでしっかりと被った新米小隊長『都留桜花』の姿があった。
「まぁね。いつまでも迷惑は掛けられないから」
はにかむ表情で張った緊張が若干だが和らぐ。速く乗れとハンドサインを出して、複座のシートに換装したTYPE74へと搭乗を果たす。
元来なら教導用もしくは多連装対空誘導弾等の複雑操作を求められる火器管制要員の為の座席だが、今回は違う。
彼女の本気の熱に当てられた俺の趣味。
引き金を引かずしてイミテロイドを裁こうとする彼女の意思。
獣のようにではなく人間として裁くための道を指し示す彼女の覚悟。
その全てを見守るために用意した特等席。その特等席と化した後席に覚悟を決めた新米小隊長は腰を下ろす。
「チェック、AからGまで完了。H以降は坑道内で行う」
『了解。管制指揮所よりフェンリル2へ、発進口まで進め』
「了解、これより歩行を開始する」
短いやり取りの後に、酒酔いにも近い陶酔感が襲ってきた。いつも通りの感覚、全てを脱力することでHMD裏の脳波受信機を介した俺の意識がTYPE74の巨体と一体化する。
カンと冴えた景色は中心点より拡散した。TYPE74の主外部環境受動器が捉える外界は内天のモニターより伝えられ、HMDのグラスは戦闘に必要なシンボル類を外海の景色にレイヤードして俺の目へと情報を与えた。
主観的に機体を視認する感覚も相俟って、操縦に現実感がない。しかし、思念によって思い通りに動くTYPE74の調子を計ることでブレインマシンインターフェイスは正常に働いているのだと知る。
歩く巨体。接地する度に震える操縦席。
言葉一つ言わない桜花の調子を見るため後席を一瞥。凜とした顔に不釣り合いな絞まった口元、そして顎下へ流れる一滴で彼女がTYPE74の操縦室に慣れてない雰囲気を感じ取る。
「大丈夫か?」
気付けば、身を案じる言葉を投げていた。
理由は分からない。しかし彼女は幹部教育課程後の講習と訓練でTYPE74は乗っている筈だ。それなのに俺は何故、心配をしたのだ。だが、彼女は俺の無意識の領域で放った言葉に「私は大丈夫だよ、南雲巡査部長」と言ったものの、引き攣った笑顔で痩せ我慢をしているのだと知る。
そこで初めて、俺は彼女が怖がっているのだと認識した。
俺が長いこと封印していた恐怖という感情。特殊装甲があるとはいえ命を危険に曝しているには違いない。況してや装甲が本来の性能を発揮する不安もある。
後方で指示を出すTYPE76とは違って、攻勢前衛を主任務としたTYPE74の危険度は高い。恐怖に感じるのも無理はない。
「今なら、TYPE76の方に乗り移れるがどうする?」
心配した一言のつもりだった。彼女の身を第一優先に考えた俺の無意識が放った言葉は、逆向きに働いて煽った風な感じになってしまう。
「大丈夫………大丈夫だよ。だから、このまま行って」
「………分かった」
結局こうなる。人の言葉を使えても奥にある心まで推し量っては使い熟せない。
当然か。治安維持のために命を刈り取り、銃声の数とともに獣へと変容していった俺に今更言葉を操ることなんて出来はしない。だから、桜花が後ろに居たって慣習付いた常套的なシステムチェックの儀式で、独りで戦う時の精神状態を拵えてしまう。
「フェンリル2より管制塔。停止位置、着」
『了解。武装の安全装置解除後、デッキへ進行せよ』
短い通信の最中、足下を武装整備員達が行き交う。アーミングが施されたことを確認し、搭載武装を地対地制圧用の武装仕様Bでプリセット。そのまま、その場で信地旋回し背面より射出デッキへ進行。
「5・4・3・2・1……今。停止及び固定ボルトの接続を確認」
接地感のある振動。アブソーバーが衝撃を去なし、負荷を相殺するエア抜きの音が昼間の蒼に靡く。
地下茎道式電磁浮遊型搬送システム(リニアネットスクランブルシステム)の射出ユニットにTYPE74を固定し、一先ずの行程を終える。
僚機ガイダンスシンボルの出現とともにフェンリル1である草薙のTYPE74、コマンダー機であるTYPE76を主外部環境受動器越しに認める。
第4小隊の出撃が整う。
『管制塔よりコマンダー、これより射出タイミングをコマンダーへ譲渡、以降の指揮権はコマンダーに委任します』
「了解」
後ろからスッと浅い深呼吸の音が聞こえた。彼女の中で渦巻いていた思いが落ち着き、整理されたのだと感じ取る。一瞥した表情は、凜として慌てた素振りもなく落ち着き払った顔付きだった。
自分の成そうとしたことの落とし前をつけに行く、そんな情感すら滲み出して都留桜花が新米小隊長としての役目を務める。
「第4小隊………出撃する。…………出せ!」
『了解』
視界が落ちた。
上方へと引っ張られる浮遊感。マイナスGの感触は身体中の血液をザワつかせる。
点検用の蛍光灯が線となり、暗闇の坑道内を外壁の地の色が識別できるほどに煌々と照らす。車輪の摩擦から来る心地の悪さはなくリニアの浮遊感のみが操縦席を支配した。
「ねぇ……たけっ、……南雲巡査部長」
下の名前で呼ぼうとした彼女が訂正する。小隊間のコミュニケーションリンクを意識しての行動だと判断した。
「データリンクはリアルタイムで動いているが、コミュニケーションリンクは切ってある。今なら、二人っきりで話せる」
気を利かせたつもりはないが、それが礼儀なのだと思う。態々、下の名前で呼びかける程なのだから桜花自身も個人的な相談事があって話しかけたのだろう。
「話したいことがあるんだろ?」
頷く彼女は口を開いて一言、「ごめんね」と呟く。
面食らった。俺は振り向いて彼女を見てしまった。謝罪されるとは思っていなかったからだ、他愛のない会話から始まって気持ちを落ち着けるんだろうと、そう考えていた。
しかし、彼女が発した言葉は「ごめんね」だった。
「何故、いきなり謝る……?」
自然な流れで聞いた。
「さっき、出撃の前に湯田川さんと喧嘩しちゃってさ、それで言われたんだ」
「なんて?」
「アンタの所為で武瑠君は死にかけたんだ!って……、ガキみたいな指示で部隊を掻き乱すな!ってさ」
「だから、怖じ気づいて今さら俺に謝ったのか?」
挑発めいた口調だったかも知れない。だが今更気に止める必要も無い。一度吐いた言葉を取り戻せる程、世の中は優しく出来ていない。
「進んだ針は戻せない。桜花のしたことは許されないことかもしれないが良いじゃないか、俺はこの通り生きてるんだ。今はそれだけで………」
一瞥した彼女の表情は今にも決壊寸前だった。やっぱり柄じゃないことは為べきではないと独りでに悟った。慰みの言葉を掛けたつもりが、逆効果を生んでしまった。
「でも、………でも! 一歩間違っていたら武瑠君は!」
「死んでたかもしれない。だけど、それがどうした?」
素っ気なく答える。俺からすれば命は元々有って無いようなものだ。いつ死んでも可笑しくない状況下で戦い続けてきた俺には今さらの話だった。
彼女は「どうして自分の命を簡単に扱うの」と問いた。だから俺は「獣に染まりすぎると、命が軽い物になってくるんだ。相手のでも自分のでも」と答えた。
都留は衝撃を受けていた。カルチャーショックと言ってもいい。
命は重く尊い。そんなのは百年も二百年も昔から教えられてきたことだ。しかしどうだ、AIの社会統治システムによって決められた人生を送る人間達や、クローニングや遺伝子操作によって労働力として産み出された人造人間達がのさばる世界のどこに、重く尊い命が存在するのだろうか。
特にオラクルが不要と判断した人造人間共を、廃棄処分を名目に引き金を引いてきた俺の命に一文の値打ちがあるだろうか。
「私には………分からないよ。武瑠君や皆の言うことが」
「だが、今さら逃げるわけにもいかないだろ?」
「逃げる? 逃げるつもりはないよ。ただ………」
「ただ?」
言葉尻のみを繰り返す。
濁した先に見え隠れする本音が、彼女の口からもたらされる。
「自分の役目を、信じたことを貫き通すのが怖い。貫き通すために誰かを犠牲にするんじゃないかって………」
「怖い………か」
気付けば彼女の気持ちを口にしていた。怖いことは理解できる、新米の彼女からすれば指揮官として命令を下した結果で部下が命を落とす可能性があるのなら、そこに躊躇いと恐怖が生じるのは当然だ。それが自分の信じる理念を貫き通した結果なら尚更そう感じるだろう。
だが、同情はできなかった。
「全く、病室で語ったときのオマエはどこに行っちまったんだ?」
「そ、それはあの時は!」
「あの時は……なんだ? 気持ちが昂ぶってたからデマカセ言った………」
「デマカセなんかじゃない!」
「なら、やり遂げてみせろよ。それが本心から出た言葉だったのならさ!」
声が気付けば荒いでいた。操縦室内を────ノイズキャンセラーによって外部環境音を遮断したほぼ無音の空間で、俺の声だけが通った。
怒声にも似た声を上げたことに自分を恥じる。
「すまん、少し熱くなっちまった」
「いいよ。私も弱気になりすぎた」
「まぁ、弱気になるのは分かるさ。自分の行動一つで仲間が命を落とすかもしれない、そうなったなら誰だって躊躇する」
最もらしいことを言って俺は彼女をなだめる。同情にも似た擦り寄り、本当なら同情はできない。できないが、今の桜花に必要なのは弱気の払拭だった。
線となった点検灯の明かりだけが操縦室に光をもたらす。
僅かな光だけを頼りに彼女の表情を視界の隅に捉える。凜とした顔の中に見え隠れした惑った意思を感じとる。
「まぁ、なんだ、俺からすれば羨ましい限りだな。自分の───信念の在り方一つで悩めるんだからさ」
「それ、本気で言ってる?」
「本気………かもな。あの時、オラクルに頼らないで自分の道を自分で切り開けば何かが変わる、何かを貫き通せる、そう考えていた。だが実際はそうじゃなかった」
所詮は多感な思春期の頃に魅せられた幻影。保護された世界しか知らない、未成年だった頃の自分が見た白昼夢だ。お坊ちゃんが描く夢というものから目覚めて現実なるものを認識したとき、気付けば俺は諦観し引き金を引くための獣になることを受け入れた。
使命のまま隷従して肉を食い荒らし況してや怨嗟という鎖で繋がれた醜悪な獣、それが今の俺だ。HMDのグラスに微かに映る自分の澱んだ眼差しで、そうだと分かる。
「馬鹿だよな、素直にオラクルの進路に従ってさえいれば、銃を持つことも況してや戦人を操ることもなく健全な精神のまま、生きていけたのかもしれないのにな」
「そんな言い方、良くないよ」
皮肉っぽい言い方で自分を詰って冗談にするつもりが、彼女には本気に聞こえたらしい。真っ直ぐとした眼差しに罪悪感を覚え、「悪かった」とだけ伝える。
暫しの沈黙が流れた。
俺は言葉を選びつつ会話を続ける
「けど、俺はここで桜花と会えて少しホッとしていた」
「えっ?」
「まぁ、普通はびっくりするよな。ついこの間まで、何で来たんだとか言ってた奴が、そんな事を口にしているんだからな」
「それは、ね。でも、今も後悔しているんでしょ?」
「多少はな」
張った筋肉を解すため息を吐く。柄にもなく俺は自分の本音というものを話そうとしている。そうなると、それ相応の心構えが必要だ。
心の指示を受けて頭が言葉を作る。
「俺は今でも後悔してるさ。こんなクソッたれな世界に桜花を進ませてしまったことに。でも、俺にとってはある意味で救いだったのかもな」
「救い?」
「そうさ。あの時、病室で言ったろ。命ずるままに引き金を引く獣のような存在から、少しは人間らしくなれるのかもしれないって………さ」
その時だった。靂として反射した光が、スッと広がった。
光の線は一気に拡がって白の壁となる。
景色が開けて空間が広がったと思いきや再び坑道内へと戻る。府中基地地下ターミナルを抜け、世田谷へと進入する合図だった。
「だが、俺はもう獣だ。それは変えられないことだ」
「武瑠君…………」
桜花は恐らく哀しげな顔をしていたに違いない。
俺は獣。揺らぐことはない現状を前に、俺の諦観した心根がそう語る。後戻りも変化することもできず、深みに嵌まって抜け出せない憐れな獣。
だが、俺は人間だ。たとえ獣でも人間らしくありたい。
(今さら、俺達が人間らしくなれるわけないだろ!)
突然と脳裏に閃く草薙の言葉。そうだ、今さら人間らしくありたいという発想がおこがましかった。一度獣と成ったからには獣として生きるしか道は無い。
だからこそ、俺は自分自身に問いたい。
「獣として引き金を引く意味って奴を」
「引き金を引く意味………」
現場到着まで五分を切った。
彼女の声だけがノイズキャンセラーの効いた操縦室で反響し、反復した言葉の中で彼女の顔付きが変わる。いつものお転婆な雰囲気から一転、スッと引き締まる凛々しい顔立ちへと変わる。
それだけで決心を付けたなと理解した。
「なら、私は人として………人間としての引き金を引く意味を見つけていくよ」
「人間としての────意味?」
「うん。出撃する前、さっきも言ったけど湯田川さんと口論になって、その時言われたんだ、アンタは自分の理想というエゴで乱したいだけなんだ、って」
凜とした表情が見せた目の奥は悲しんでいるようにも見えた。思えば俺はこんな表情を作る彼女の顔を見たことはなかった。それ程にまで桜花は思い詰めていた。
ただ、正直な話をするなら湯田川の言い分は正しい。現実にそぐわず直視もしない理想論しか語らない指揮官は兵隊の命を、無意識のうちに粗末な形で消費する。
だが、後頭部に感じるこの気配、俺達の命を預かる新米小隊長はどうだろう。
「私、湯田川さんに言ったんだ。私達は秩序のために命をどう扱えるかを試されているんだって。その一発の重みとそれを撃つための武器、戦人を正しく扱える人間たり得るかどうかってさ」
「それを言って………桜花はどう思ったんだ?」
「正直、私の口からこんな言葉が出るとは思わなかったよ。でもね、だからこそ私は見つけなきゃいけないんだって思った」
「人として──人間として引き金を引く意味をか?」
暫くの無言の中、ゆっくりとした動きで頷く彼女が見えた。
肩の荷が下りるような感覚を味わう。そして実感した、これが彼女の本音であり覚悟なのだと。
凜とした顔の口角が上がり、彼女は言葉を付け加えた。
「それが、彼等と正しく向き合うための近道になると思うし、武瑠君達の為にもなると思うから……」
俺は言葉を聞いて独りでに、自然と笑っていた。
俺と桜花は違う。
言葉の節々から感じられた彼女の意思が、そうだと意識させる。もう人間には戻れないと諦観しきった俺が導き出した『獣として引き金を引く意味』とは違い、あくまでも彼女は人間であろうとした。それはイミテロイドの凶暴性を見ても尚、人間としてやれるべき事があると信じる彼女の意思に他ならなかった。
壊れた機械の部品を交換する感覚で、俺達はオラクルが不要と判断したイミテロイドを廃棄処理し続けた。人間の営みを維持するために、使役され続けた人造人間の命を刈り取る行為に生まれ出ていた矛盾という奴を。そして、俺は矛盾を感じながらもそれで、人の命をひいては社会の秩序を守れると信じていた。
だけど彼女は最初から、この仕組みの異常さに気付いて待ったをかけた。
「やっぱ、桜花は凄ぇな………」
「えっ?」
「凄いなって言ったんだよ。俺にはそんな真似事できやしない」
茶化したつもりはないが、言い方がそういう風に聞こえてしまうだろう。自然体で頬を緩めた彼女をグラスの反射越しに見えたことで、俺は気持ちを落ち着けた。
変われるかもしれない。しかし変われないかもしれない。それは可能性の問題でどっちに転ぶかは俺にも分からない。ただ、今すぐに変われなかったとしても、不変だった俺自身に何らかの変化を与える。それは意味のあることで、十年先の自分を変えてくれるキッカケになってくれるかも知れない。
それこそ獣から人へと変わるように。
経路図を一瞥。
世田谷を抜け、港区より大田区に進入。到着まで二分を切る。
「お喋りは止めにして、そろそろ仕事の話をしようか」
そう言って俺はチャンネルを開く。小隊規模で使うことを考慮されたローカルコミュニケーションリンク、その機体間通信の回線を開いて、桜花からの命令下達も含めたブリーフィングが始まる。
「現在、我々は東京都大田区は京浜工業地帯に向かっています。首都消防局への火災第一報によって、今は駆けつけた消防隊がマン・マシン・ビークルとドローンを駆使した消火活動を行っている状況です」
『それだけで、俺達が呼ばれた訳じゃないでしょ? まさか火消し屋に転職しろとでも?』
皮肉る草薙に「でしたら、紹介状でも書きますがどうしますか?」と、それなりの綺麗な返しで桜花は場を和ます。
短期間のうちに皮肉を返せるぐらいには、成長したものだと少し感心した。
「話を戻します。ですが現時点で所属不明の機体が消火活動の妨害を行っているとの一報を受け、私達はこちらの対処をします」
『他に情報はある? 新米小隊長さん』
「現場は大分混乱していたみたいですが、第一報には消防ロボットが火を噴いて暴れていると記録されています」
湯田川の『了解』がやけによく響いた。
火を噴く消防ロボットだって?
相反した不可思議な物体に思考が固まる。矛盾を抱えた怪物が工業地帯を燃やしているっていうのか。
思慮も、考慮も、およそ考える行為を後回しにした。今はその不可思議な火を噴く消防ロボットを探し出す。そして見つけ次第破壊する。ただその事だけに集中した。
到着まで一分を切る。
頭の血が足へと引っ張られ、制動のかかる感覚を味わう。出口が近いのだと知る。
現場到着後、全機でフライボールを展開しマッピング完了後、指揮車である司馬・湯田川両名の管制のもと、攻勢前衛である俺と草薙で対象を捜索、発見したなら即時破壊。このプライマリープランを脳裏に反復させる。
制動が更にかかる。
「さて、そろそろ現場だ。覚悟は出来てるな?」
「あったり前でしょ。私はやるよ、私が正しいと思ったことを証明するために」
「なら、俺はそれを見届けるだけ………だな」
グッと握った力を弛緩させ、全身の気が抜ける。
衝撃吸収パッドがもたらす反作用を味わって、カーゴが停止する。
プシュと空気が抜け、隔壁が下がる。
一歩を踏み出す、その瞬間視界の全てが赤に包まれた。熱を帯びた赤、熱気、触れれば焼けるで済まない程の灼熱。
まるで炎は生きているように振る舞って、TYPE74の侵入を妨げた。聖域に踏み入れるなとでも言いたげな燃え盛りで、巨人の存在を拒んだ。
眼下に広がる景色。主外部環境受動器が見せるそれは、地獄絵図を再現したものだった。
京浜に栄えた工業地帯は炎に包まれ、その栄華は炎々の塵と化した。
俺は怒りにも似た感情に染まった。こんな凄惨な状況を作り出すのは、彼奴らしかいない。そう、彼奴らだ。
そして、沸き立つ激情に肩をふるわせたとき、突如としてロックオンされたことを知らせる警戒警報が鳴るのだった。