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残響世界の聖剣譚 -VRMMOで鍛えた魂で侵食されるこの世界を守ります-  作者: 気力♪
第三戦 VSアルフレシャ 自称王女と螺旋の槍
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魔晶の行方

「それにしても、周囲がうるさいですわね」

「まぁ、政変の最中のようだからな」

『民主主義はこの国のシステムには合っていないと思うのですけどね』


 などという言葉を交わしながら、ドリルと長親は眼前で行われているトランプゲーム”スピード”を見る。


 タクマとアルフレシャは、互いに生命転換(ライフフォース)を全開にして大人げなく(どちらも大人ではないが)遊びに打ち込んでいた。


 尚、お互いの積極的お手付きによりタクマの両手はボロボロである。風を纏わせて切り刻んでいるのでアルフレシャにも微妙にダメージが入っているが、頑丈な体に傷という傷を負わせるに至ってはいない。


 そうして、今回のゲームもタクマのダメージにより決着がついた。


「……カードが持てない、リタイヤだ」

「これで私の……何勝目?」

『6勝目ですね……スピードのルールにノックアウトが存在すればの話ですけれど」


 そんな会話の後に、アルフレシャはタクマに自身の血を飲ませる。

 それはたった一滴であったが、剛力と戦ったタクマの手を瞬時に癒してみせた。


 これが、人魚の血の尋常でない力だ。この現象を見れば”どんな病も治る”と信じる者がいてもおかしくはないだろう。そんなことをこの場にいる全員は思った。


「それで、これからどうします?」

「まぁ、いつまでもトランプで遊んでいるだけでは、な」

「私は、わない」

『アルフレシャ、そこは構いましょう。いつまでもここが安全とは限らないのですから』


 そんな意見から、タクマ達は隠し通路から出る。


 アルフレシャは見た目だけなら人間と同じなので、注視されなければ気付かないだろう。

 もっとも、この王国の熟練の兵士たちなら平然と見つけてきそうな気はするのだが。



 そうしてタクマ達が外に出ると、そこには多くの民兵や兵士、騎士などがいた。


 そして何より、”熱に浮いている”市民たちがいた。


 市民たちは言う「民主主義を! 市民に政治の権利を!」と。

 騎士たちは言う「私たちにそれを決める権利はない!」と。


 まさしく、デモであった。



「なんだかわかりませんがとにかくヨシ! ですわ!」

「デモ隊に紛れて強行突破行けそうですね」

『ですが、不可解です。なぜ王城ではなくこの城門に対して人が集まっているのでしょうか?』

「正直、そのあたりは無視して構わないと思いますわ。4つの門を足止めして、その隙に王城で直談判とかそういう作戦でしょうし」

「確かにな。見えている限りでは、民兵合わせて30人くらいか? 妙に少ない」

「私は構わない、よ。強行突破で」

「……門の外に出たら、俺たちはお前を殺すつもりだが、良いのか?」

「私も、殺し合いたい」


「残響に堕ちた私でも、最後に踊る相手は選びたいよ」



「まぁ、私が勝つけど」と最後に付け加えるアルフレシャ。

 タクマは思った。その心は、とても綺麗なモノなのだと。


 だからこそこの手で殺したいと、心の底から思った。それが異常な心の動きだとしても、それでもいいと思える強い思いだった。


『マスター、気持ちを抑えて』

「わかってるよ」


 そうして、タクマ達はデモ隊の市民に紛れて門の側に近寄った。


『では、行きましょうか』

「うん、行こう」


 その声と共に解放される4つの生命転換(ライフフォース)。その存在に騎士たちは気付いたが、アルフレシャの「La」という一音だけの歌ですべてが静止し、門を跳び越える機動力を持っているタクマとアルフレシャは一息に城門を超えるのだった。



 そして、着地と共に二人は同じ発音の違う言葉を口に出す。


 魂を次のステージへと進めるその言葉を。


聖剣抜刀(ゲートオープン)!」/「魔晶解放(ゲートオープン)!」


 そうして二人は向かい合う。


 一人は、”切断”の能力を持った剣士”タクマ”

 もう一人は、宙を泳ぐ美しい人魚”天仙女アルフレシャ”


 互いのにらみ合いは数瞬、そして同時に攻めかからんと距離を詰めた。



 先に手を出したのはアルフレシャ。宙を泳ぐ変則的な軌道を描きながら、タクマに対して尾びれで生み出した風圧を叩きつける。

 それを風を纏わせた剣で切り払いながらタクマも前に出る。


 そうして、剣の射程に入れようとするも、アルフレシャは華麗に宙を泳ぎその距離から離れてまた衝撃波を叩きつけてくる。


 その、消極的な戦い方を見てタクマは勘づく。


「時間切れ狙いか!」

「どうだろうね?」


 タクマのゲートは短距離中時間型。短いわけではないが、長時間ゲートを開いたままにすることはできない。

 故に攻め込まなくてはならない。無理にでも宙を泳ぐアルフレシャを殺す手を打たなければならない。


「元から、そのつもりだッ!」


 そんな思考誘導に完全に乗る形でタクマは距離を詰める。


 すると、アルフレシャは衝撃波による迎撃を止め、低空に体を滑り込ませての拳をカウンターで放つ。変則的なアッパーだ。

 それに対してタクマは空に逃げた。それは風を踏み、体をひねりながらの回避であり


 そして、回転の力を十全に使った、手首を切り落とす斬撃への布石だった。


「まず、手一つ!」


 そうして切り落とされたアルフレシャの右手首から先は地に落ち、しかしそれを意に介さないアルフレシャのサマーソルトがタクマに命中する。


 当たり所は、左手のミスリルの籠手。意図的にインパクトの位置をずらすことで致命傷を回避したのだ。


 当然アルフレシャの剛力により籠手は破壊され、中の左手にもダメージは大きかったが、使用不可というわけではない。


「前哨戦は、引き分け?」

「……みたいだな」


 互いに左手に大ダメージを負ったが、致命傷ではない。タクマは剣を支える程度はできるし、アルフレシャも死ぬというわけではない。


 そうして互いが互いへの殺意を純化していく最中、門の方から大きな音が聞こえてくる。


 そのことについてメディがタクマに注意を払わせようとするも、タクマの今の思考を考え、止めた。


 不謹慎ながら、タクマはこの”アルフレシャとの殺し合い”にて人間性を取り戻しているようにメディは思える。

 それは間違いなく異常な精神だったが、タクマにとっては日常のものだった。


 だからこそ、メディは止めなかった。メディにとって最も優先したいのは、タクマの心なのだから。


 そうして、爆音の原因である”門で起きたゲート使いの激突”の余波で飛んできた巨石がタクマとアルフレシャの間を抜けた時、二人は同時にリミッターを外した。



 そして、タクマの起こした暴風による加速と、アルフレシャの地面を尾びれで叩く反動での加速が同時に起こり


 二人は、誰の手も届かない高高度高速戦闘を開始した。



 風を踏み、空を駆けるタクマはゲートにて上昇した生命転換(ライフフォース)の出力を加速のみに使い、ゲートの力である"切断"を空気抵抗を切り裂くことに使っている。

 宙を泳ぎ、空を舞うアルフレシャは初速を全く落とさずに卓越した技巧のみで高速を維持している。


 その速度は、ほぼ互角。直線軌道ではタクマが若干速く、曲線軌道ではアルフレシャが若干速い。

 しかし、その速度差は互いにほぼ無価値だった。


 互いに攻撃が届くのは交差する一瞬のみ、であるならば、その0.01秒以下の交差のタイミングでの精密機動以外に価値はないのだ。


 これまで4度交差し、互いに必殺を回避しあった二人にはそれが理解できている。


 タクマの必殺は、その剣による斬撃そのもの。

 アルフレシャの必殺は、その剛力による力そのもの。


 それを当てるためには命を捨てる覚悟が必要だと、二人が同時に思ったその時。


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 その姿を見たタクマは、加速のままに接近し、アルフレシャの脳天からその体を二つに切り裂いた。


 手ごたえはあった。だが、殺したという達成感はどこにもなかった。


『マスター! 気を付けて! アルフレシャの額にあった結晶が消えています!』

「ッ!? 死んだふりか!?」

『わかりません! ですが、おそらく本当の戦いはこれからです!』


 その声と共に、地上にて強い魂を感じる。

 アルフレシャに似た魂は、しかしあの奇妙な美しさとは別のものだった。


 そして、そいつの右腕にあるのはアルフレシャの結晶。


 何らかの方法で、そいつはアルフレシャの結晶を盗み取ったのだ。この高度20メートルで、時速150キロは出ていたタクマたちから。


 そして、その女はタクマに強弓を向けて、軽々しく矢を放った。


 1射目は、なんとか防げた。衝撃で吹き飛んだ右腕と砕けた良質な鋼の剣のおかげで。


 続く2射目、タクマは重力加速度を利用した高速落下でなんとか回避。


 だが、3射目を回避することはできず、タクマはあえなく死亡し、この世界へのログイン制限をかけられるのだった。



 ■□■


 そうして、地に落ちながら光に消えていくタクマを見て、その女は言った。


「ええ、私はあの人魚などよりも役に立って見せますわ。マグノリア様。これから何度も、何度も、何度も、何度も、”私が”この世界を滅ぼします。だから、どうか見ていてください──この偽りの命、あなたに捧げ切って見せますから」


 そうして、彼女は強弓を構え、空を泳ぎポジションを確保する。


 そうして、そこから王城”以外”に対して空襲を始めた。


 3分未満のその空襲により、王都は半壊し、市民と貴族たちの対立は決定的になった。


 その様子に満足した彼女”リコリス”は、結晶を隠すと元の隠れ家に戻り、己の同僚である黒騎士と合流するのだった。

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