表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残響世界の聖剣譚 -VRMMOで鍛えた魂で侵食されるこの世界を守ります-  作者: 気力♪
第三戦 VSアルフレシャ 自称王女と螺旋の槍
63/69

現実世界の聖剣


 採石場での乱戦から一晩明けてのこと。

 タクマは、プリンセス・ドリルこと高砂瀬奈のデータをダイナに受け渡していた。


 場所は、ゲーム内の酒場”荒野の西風亭”。


 そこで女将に若干睨まれつつも、観測データをタクマは渡したのだった。


 この世界の住人は、ループ前のことを記憶していないが、感情は記憶しているのだとかいう仮説を琢磨は掲示板で聞いたことがあった。おそらく以前迷惑をかけたことを心のどこかで根に持っているのだろう。そうタクマは考えたが、メディは違う答えを導き出した。


『単にダイナ様が女将に迷惑をかけ続けているからではありませんか?』


 高性能AIが導いたのは、そんな身も蓋もない答えだった。


「それで、なんで今日はここで情報の受け渡しを?」

「いや、嬢ちゃんが忙しくて門を開けないんだよ今」

『ならば手伝ってくればよろしいのでは?』

「……そう言ったんだが、かえって邪魔だとあしらわれた。結構冷たいのよあの嬢ちゃん」

『日頃の行いのせいでは?』

「普段からシャキッとしてればマテリアさんも真面目に対応してくれると思いますけど」


 そんな会話をしつつもデータの転送が終了する。


「えっと、ここを触るんだったか?」

「機械音痴かよダイナ師匠」


 などと言いながらタクマはダイナのコンソールを見て指示出しをしてどうにかデータの閲覧をさせることに成功尾する。


 かかった時間は15分。動画を再生するだけでこれなのだから、マテリアはダイナの手伝いを拒否するだろうと思うメディであった。


 そうして、現実での戦いの後に起きた出来事が、タクマの視界で再生された。


 ────────────


 戦いが終わって最初に起きたのは、戸惑いだ。


 現在、自衛隊や対策部隊の人間で冷静さを完全に保っている人間はいない。異界が解かれ、ドリルの魂の温かさを感じられなくなったことで抑え込まれていたモノがなくなっている。


 そして軍用ディスプレイには写されていたが、死傷者、あるいは消滅者は5名出ていた。


 万全な装備、万全な人員、万全な配置。そのすべてが重なっても琢磨と瀬奈の卓越した個人技がなければ全滅していたであろう事実が、彼らに現実を見せないでいた。自分たちは、少年を殺しかけ、無様に死にかけたのだと。


 だがそれも、地獄を知らない安全圏から指示を飛ばすだけの上官によって引き戻される。


 そうして手元のランスの観察をしていた瀬奈と、篠崎の指示を仰いでいた琢磨、そして茫然としていた美緒がその場に残り続け、そして気が付いた。


 自分たちが、置き去りにされていることに。


「……行ってしまわれましたわね」

「ウチら帰れるん? これ」

「……とりあえず大丈夫です。瀬奈さんの預りを上司に頼んだところですから」

『5分後に車が到着するそうです。ご安心ください』

「というか、”コレ”なんですの? 私の愛ドリルという事はよくわかるのですが……」

「お姉、愛ドリルって」

『相棒ではいけないのですか?』

「相棒とは元来共に棒を持つ相手のことを言います。心から信じられると断言できるドリルですが、それで相棒と言ってしまうのは私のドリルのドリル権に引っかかるのではないかと!」

『ド、ドリルの権利ッ!?』

「あ、これお姉が最近知った相棒の由来をひけらかしているだけや」


 そんな一幕の後に無人パトカーが2人を拾い、琢磨はそれについていく。

 そうして、瀬奈の手元に残ったドリル以外に問題は起こらずに3人は帰路についたのだった。


 ────────────


 それから1時間ほどで高砂家に着いた三人。

 その最中突然に瀬奈のドリルは消えた。突然に、唐突に。


 だが、それで終わりではなかった。


 瀬奈は、ふとした拍子に手元に出してしまうようになったのだ。彼女の聖剣(ドリル)を。


 パトカーの中で8回、家についてから15回、その謎の現象は起こっていた。


 何かあったときのために近くで待機していた琢磨は聖剣が現れるたびに呼び出され、しまいには母親に「もう、ウチに泊まっていいから何とかしてくれ」と頼まれてしまったほどだ。


 そんな戦いの後の”何か起きそうで盛大に何も起きなかった夜”を超えて、琢磨は眠気を堪えてネットカフェに向かおうとしていた。


 そんなときに篠崎一通のメッセージが琢磨に届いた。


 これは面倒なことになったと思いながら、琢磨は”了解”と変身をする


「あら風見君、朝ご飯もうすぐできるからちょっと待っててね」

「……すいません、頂きます」


 そう美緒と瀬奈の母は言う。

 その素直な返事に同じく起きていた美緒は驚いた表情を浮かべる。琢磨からの歩み寄りはこれが初めてだったからだ。


「琢磨くん、実は偽モンになったん?」

『マスターが本物であることはこのメディが保証します。確かに不自然ではありますが』

「どっちの味方だコラ」


 そんな内なる敵に文句を言いながらも、琢磨はメディと共にメッセージの確認をする。


 そんな最中に、瀬奈の奇声が響いてくる。驚きと興奮の混ざったその声は、ひときわ大きいものだった。


「あ、風見君瀬奈の事お願いできる? 昨日みたく」

「はい、そのために残っていますので」


 そうして琢磨は瀬奈の部屋に入り


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


『昨日と範囲は変わっていませんね』

「みたいだな」

「……琢磨くん! おはようございます! というわけで私はこのドリルを抱きしめて眠りたいのでこの辺りで!」

「二度寝は止めないですけど、危険物は消させていただきます」

「そんな!?」


 その声と共に容赦なく生命転換(ライフフォース)を流し込み、聖剣と瀬奈のつながりを乱す。


 昨晩様々に試した結果見つけた、唯一の聖剣を一時的に戻す手段である。


『瀬奈様、そろそろ自分でコントロールしてください』

「これは愛の結晶! 私のドリル愛を否定することはできませんわ!」

「いや、確かにそうなんですけど」


 幸いにして聖剣が現れるきっかけはすぐに掴めた。それは、瀬奈がドリルのことを想うこと。

 愛に反応して聖剣(ドリル)は現れるのだといえば聞こえはいいが、これは瀬奈のドリルへの心の暴走が原因のはた迷惑な話である。


 ちなみにドリル(の絵の描かれているランス)の大きさは3mほど。馬上で使う用途でないためにランスとしては小型だが、それでも一般家庭には大きすぎるものである。これが原因で無人パトカーの天井に穴は開き、高砂家の廊下には多くの傷がついた。


 そんな過去を思い出しながら、琢磨は高砂家で朝食を取り、客間から《Echo World》へとログインするのだった。


 ────────────


 これがダイナの見た琢磨の視界データ。最初は驚いていたが、ドリルによるごたごたが笑える程度のモノであったがためにダイナは途中から笑いを堪えながら見ていた。


 そんなダイナに怒ったのかメディがタクマに『不意を打ちましょう』と提案した。それに乗ったタクマであったが全て軽くあしらわれている。両者の戯れであったが、それでも未だ高い壁としてダイナはそこにいた。


「それで、この娘が十中八九生命(いのち)の聖剣じゃないってのはわかったが、なんの話があるってんだ?」

『なんの話も、聖剣が異界モドキを発生させていることに決まっているじゃないですか』

「かなり狭いエリアですし閉じ込められもしなかったですけど、あれは確かに異界でした」

『ダイナ様、聖剣とはいったい何なのですか? どうして現実世界にデータが干渉できるのですか?』

「そういうもんだからだ。ただそこにあるモノが見えるようになったから戸惑ってるだけだろお前らは。向こうの世界でいろいろ調べてみろ。……暇なときにな」

『つまり、”もうオーダーはないのでとっととこのゲームをクリアしろ”と』

「そういう事だ。良いか? お前ら」

「まぁいいですけど、俺はあんま攻略に関われないですよ?」

「そこは何とかしろよ」

「無茶言わないでください」


 そんな会話をしながらタクマはダイナに促されて右後方のテーブルに意識を向ける。

 なにかと思ったその時に、タクマはその顔に驚愕した。


 そこには、天仙魚アルフレシャとうり二つの顔をした少女が座ろうとしていたのだから。


「あとは何とかしろよ」と言い残してダイナは酒場を出ていく。

 今この酒場にいる客はタクマと少女のみ。


 仕掛けるかどうかの選択がタクマの頭に浮かんだその時、その少女は声を出した。


「あ、財布忘れた」と。


 そんな気の抜けた出会いが、タクマとアルフレシャの二度目の出会いだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ