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封印の間での戦い 前編

 蹴り破った扉の先では、100はくだらない泥の魔物達が遠巻きにラズワルド王に群がっていた。


 というか、そこは毎秒100は泥から生まれ、毎秒100は剣の光で消し飛ばされている超空間だった。


「……これが王か」


 そう呟いたのは誰かはわからない。なにせ、全員が同じ思いを抱いたのだから。


「っと、惚けてる場合じゃないな。各自、光に当たって死なないように動く感じで数を減らすぞ!」

『マスター、指示が雑です。──イレース様は入り口付近にて射撃を、ロックス様はその護衛をお願いします。マスターとメガネ様は個人で遊撃をしつつ主力のドリル様と長親様のコンビを活かしましょう。現状、ラズワルド王の殲滅力は出現の限界と互角です。なので、僅かに削るだけでも敵の数が減ります。王子派、本隊が到着するまではそれで徐々に数を削っていくのが今の私たちの最適解かと』


 メディの作戦説明に迷いなく従う6人。その指示は大雑把だが、ある意味的確だった。


 彼らは、ラズワルド王を100とすると1程度力でしかない。だが、その+1程度の実力で戦況は好転する。


 そして、その+1達が最適な力の入れ方をしていけば、その効力は2にも3にも上昇していく。


 そしてこの6人は、大まかな指針さえ決まっていればその最適な判断を取ることができる精鋭だった。


「ならば、一番槍はこの私! 景気づけに一発行かせていただきますわ! 私ドリル52号! 魂式(たましいしき)!」


 そうしてプリンセスドリルから放たれる魂の螺旋掘削。タクマは魂視で見たが、光とは違う何かが槍の周囲から現れて泥の個体をを削って行くことしかわからなかった。


 しかし、その力からは閃光剣(レイブレード)に似た物をタクマは感じた。


 今更ながら、謎のドリルである。


 その謎のドリルに体を抜かれた個体はコアが削れて死亡した。恐らくは狙ったわけではないようで、プリンセス・ドリルも驚いていたが、そこの隙はきっちりと長親がフォローしていた。


 良いコンビだと、タクマは横目で見て思う。


 だが、それを感慨深く思うのは後だ。ドリルが目立った事で周囲の意識が驚きに染まっている今はチャンスなのだから。


「補給があるって素敵よね! 乱れ打ちよ!」


 事前に、矢がなくなったらタクマが補給できると知っているイレースは、矢弾を湯水のように使い倒していく。もっとも、使った矢は確実にコアを射抜いているのでそれはもはや激流のようなものであるが。


 その影響により、前線部隊をフォローしようと操作されていたであろう泥の騎士達は射抜かれ絶命し、前線部隊はタクマとメガネの速度型の剣士二人により着実に数を減らされていった。


「……援軍が、来るとはな」


 そう呟いたのはラズワルド王。即座に戦闘の思考を切り替えて、入り口付近の敵を無視するように動き始めた。


 それにより、入り口付近とラズワルド王の中間にいる泥の騎士達は戦力として一時浮いた。どちらを攻めてもどちらかに背を向けることになるからだ。


 しかし、それは本当に一時の事。闘い抜いた事で、そして同系統の技術閃光剣(レイブレード)を見た事で無駄にあるプリンセス・ドリルのイメージ力は新たな生命転換(ライフフォース)の使い方を思いつき、それを実行したからだ。


 試すなら今しかないという、判断の元に。


 そうして彼女の手元に作られたのはドリル。ランスを主体にしているためか太さはそれほどでもないが、そこに明らかな力があった。


「ソウルドリル!」


 そして、そのドリルを前に出しての全力の突進(チャージ)


 それは竜巻のように周囲の泥を巻き込んでいき、ドリルに当たってコアごと泥を消滅させていった。


 その手応えに違和感を覚えるドリルであったが、試行錯誤が彼女のドリル道なのでその思考に囚われることはなかった。


 もっとも、その唐突な突撃について行った長親には大変極まりないことだったが。


「お前は事前に少しは言え!」

「やってみたら出来たのです! そうなれば使いたくなるでしょう!」

「そもそも戦場で新技を試すな!」


 そんな漫才をしながらも、ラズワルド王付近まで近づいた後に進路を変えた。


 泥の騎士達が現れる。ゲートの方向へ。


「今なら、ブチ抜けますわ!」

「その自信はどこから来るんだ!」


 などと話しながらも的確にドリルに当たる攻撃をピンポイントの重力操作やバルバードでの払いによって迎撃する長親。凄まじい力を使っているわけではないが、やはり堅実に強かった。


 そして二人が騎士の出どころにたどり着こうかという瞬間、ドリルの前にゲートが現れる。泥に汚染されたものではない、強い魂のゲートだ。


「やはりいましたね、伏兵!」

「……コイツが指揮官か?」

「ぶっ飛ばせば同じことですわ!」


「……無謀」


 そんな言葉と共にゲートを潜って現れるのは女性だった。肌は青白く、額に折れた角が一本ある。


 そして、手には引き絞られた強弓が握られていた。


 敵側の正体不明戦力、剣を使った催眠術のゲート使いだろう。あのような容姿になっているのはゲートの影響かはタクマ達にはわからないが、“とりあえず敵”という目的意識はきちんと共有できていた。


 なので、メガネとタクマは躊躇わなかった。


 放たれる強弓による一矢をドリルの螺旋に巻き込む事で逸らしたドリルは、しかし強弓の威力により前進する力を失う。

 そして、このまま止まるのは危険だと判断して魂のドリルを消して一目散に逃げ始める。そこにいるイレースが援護してくれる論理と、相方が背中を守らないわけがないという信頼を元にして。


 そしてその信頼は問題なく応えられ、強弓の攻撃がドリルの元に届くことはなかった。


 そこから、“ドリルが生きていようが死んでいようが動きを変えるつもりがなかった”二人による神速の攻撃が始まる。


 まず、最初に剣の間合いに入ったのはタクマ。風踏みによる一時的加速だ。その勢いを元にして、剣を振るう。


 また、メガネもまた生命転換(ライフフォース)を足裏に集中させて爆発させるという技術により一時的な加速を得て、タクマの剣を躱した隙を狙うつもりでいた。


 しかし、その目論見は通らない。


 自身の体を弓を経由して洗脳し、100%の身体的パフォーマンスを手に入れた強弓の女性はタクマの剣のさらに下を潜るようなスライディングで回避し、続いてその状態から筋肉の動きだけで跳躍して無理やりの射撃姿勢を取る。


 もちろんそれの精度は高くなかったが、放たれた矢は力強く石畳を貫いていた。


 そうして、弓を構えた強弓使い、それに対して踏み込む覚悟を決めたタクマ。


「俺がコイツを抑えます!」

「……チッ! 死ぬなよ……死んではなりませんよ、明太子くん」

『直す必要はあったのでしょうか?』

「メガネは知性の現れですから」


 だが、ここから命がけの戦いが始まると思ったその時に、強弓の使い手は泥に飲まれて消えて行った。


「……テレポートみたいなゲートか?」

「わかりませんが、ひとまずこの辺りでひと暴れしましょうか」

「……いえ、一旦戻りましょう。陣形なんて適当ですけど、遊撃がいなくなると長親さんかロックスさんのどっちかに無茶が出ます。避けられるなら避けないと。まだ、これからなんですから」

「ええ、先は長いですからね」


 二人は、こちらを狙う騎士とゲートを開きかけている騎士の二つをしっかりと仕留めた後に、光と矢とドリルにてあれよあれよという勢いで削れていく敵を見た。


 ラズワルドが援護に回ることで、イレースの矢とドリルの突破力を的確に活かしているのだ。強いとは、こういう事も含めてなのだろうなと思いながらタクマは戦線に復帰する。

 いまだ殆どが泥の支配領域だが、それでも今まではタクマ達とラズワルド王は押していた。




 天井から泥が雨のように降ってくるまでは。


「ッ⁉︎」

「これは、毒か!」


 それが当たったのは、タクマの身を守る風の範囲に入れられなかったドリルと長親とメガネの3人。魂にある泥に対する警戒心の差が現れた結果だ。


「ログアウトで一旦退避を!」

「……そうさせて貰う。戻ってくるまで死ぬなよお前ら!」

「王城から下にブチ抜いてショートカットをやります! なので、ご武運を!」


 そうして、泥による魂への汚染によってドリルと長親、メガネはログアウトをした。


 これで、またしても3人。タクマとロックスとイレースだ。


「なんか、前にもこんな事なかった?」

「俺たちの初対面は今日だろうに」

「ありましたよ、世界が滅びる前の周で」

「稀人のジョーク? ありそうでちょっと笑えないんだけど」

「まぁ、些細な事だろうよ。今俺たちの目の前の戦いに比べればな!」

「ロックスが格好つけてる⁉︎」

「そういう気分になってもいいだろうが!」


 そんな二人の会話に、自然な笑みが溢れるタクマ。


 戦力はだいぶ減らされたが、それでも3人だ。


 まだ、戦える。その意思でタクマ達は少しずつ敵の数を減らしていくのだった。




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