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ダイナ師匠の授業 01

 始まったダイナによる生命転換(ライフフォース)の授業。それは思いの外堂に入ったモノだった。本当に何故落ち武者スタイルなのか本当に分からない男からである。


「まず、生命転換(ライフフォース)ってのにはいくつか段階がある。分かってるか?」

「はい。1段目の純粋な命、2段目の風とか炎みたいな力を伴った命、3段目はそれの放出、4段目以降は、ゲートを使った異次元の力。今はこれくらいしかわかりません」

「いや十分わかってんじゃねぇか。放出(ディスチャージ)とか混同するぞ普通」


 などとツッコミを入れながら、微妙に間違っていた部分の指摘を始めるダイナ。


「まず、1段目と2段目については、実のところ同じものだ。現象になる閾値(しきいち)ってのがあるらしくてな。一定の出力を超えると魂は外に形を作るんだよ。だから、最初から込めているのは自分の色の魂だ。ただの命ってわけじゃない。今度魂視で見てみろ。なんで、段階としては入魂(インストール)放出(ディスチャージ)、ゲートの3段階だ」

入魂(インストール)ですか」

「ああ。自分の色の魂でモノに主を定めさせるって技術だよ。だから、お前ら稀人の第0だったか? 魂だけの状態でもそいつは触れるのさ」

「……じゃあ、主を定めさせないで魂を込めた場合は?」

「誰でも使えるそこそこ強い武器だな。面倒な上そんな事できる奴なら前に出たほうが強いけど」


 今のをできないと言わなかった時点で、タクマは直感した。


 最初の周の時に、タクマの拾った臆病者の剣(チキンソード)に魂を込めたのは誰なのかを。


 内心で、深々と頭を下げる。託されたのに守れずにすみませんでした、と。


「まぁ、生命転換(ライフフォース)ってのはだいたいにして感覚的なもんだ。知識は大雑把に持ってるくらいが丁度いい。……だが、ゲートは違う」


 ダイナは珍しく真面目な顔で言葉を紡ぐ。


「ゲートってのは、魂を別のモノに突っ込む異形の力だ。ゲートの向こうが何なのかってのは聞くなよ? 野暮な話だ」

「だから、戻ってこれなくなってしまうんですか? 

「……リミットは体感でわかるけどな。けど、死ぬ気になれば超えられる。それがゲートだ。……そうなりゃ、稀人のお前さんでも死ぬだろうよ。その魂がな」

「なら、使い時は選ぶ事にします」

「ああ。だが、使わない奴はそもそも言わなくても使わねえから、あんま吹聴すんなよ? 覚悟はなくてもゲート自体は開けるって奴はいるんだから」



 そんな言葉と共に、水を一口飲むダイナ。


 その言葉に「どうせ私にはないよ」と呟く店主さん。その言葉に苦笑しているダイナには、責める感情は全くなかった。


「それじゃあ、対ゲート戦での基本な。ゲートってのは結構滅茶苦茶だが、いくつか区分できる所がある。それが、時間と距離だ」

「……距離ってのは、射程ですか」


 その言葉に浮かぶのは、サブリーダーの声を届ける力。アレもゲートなのだろう。


「傾向としては、短時間で魂を潜り切るゲートの方がパワーは強い。が、射程は短くなりがちだ。逆に長時間かけてゆっくり使うゲートは射程が長い。まぁ、あくまで傾向で、かなり変なのが出てくるのが魂だけどな。ゲートの中身によっては距離とか関係なくえげつないし」

 『では、ダイナ様はマスターはどのようなものになると?』

「剣の感じからすると、近距離型だな。そっからどう転ぶかはお前の()()()()だ。まぁ、殺しに特化する能力なのは考えなくてもわかるが」

「あ、それは俺も思います」

『マスター、一応否定をするべきかと』

「いや、本性バレてるし」


 などと、言外にお前は人でなしだと言われるタクマはあっさりとそれを受け入れる。鬼子としてヒトの輪に混ざれないのは事実だが、かといって己が違う事を否定はしていないのだ。


 それが、タクマの人生の最初の師から教わった生き方のコツである。


「まぁ、深く悩むなよ嬢ちゃん。外れてる奴ってのはそうとしか生きられねぇんだ」

『……忠言、痛み入ります」


 そんな会話を聞きながら、なんで自分のような者からメディのような真っ当な人格が生まれたのかを幾度目かもわからない疑問を浮かべるタクマ。


 だが、気にしてもしょうがないともいつも通りに思う。心など、考えて分かることではないのだ。少なくとも14歳の少年であるタクマには。


「それじゃあ、質問はあるか? まぁおっちゃんとしては何で感覚で分かる力を学ぼうとしてるのかってのが気になるんだけどさ」


 その言葉に、タクマはそういえばと思い出す。そもそも強くなろうと思ったのは相打ちすら取れなかったからだ。


 そこで、目の前の歴戦に話を持ちかける。案外対処の仕方も知っているかもしれない。


「さっきゲート使いに殺されかけまして」

「へぇ、そいつはどんな力だ?」

「透過ですね。防御を透過して直接傷をつけたり、壁を抜けたりしてきました。多分ですけど、剣もすり抜けられます」

「あー、一発芸型だな。多分近距離の中、長期戦型のトリッキーな奴。ネタを割れば楽にやれるぞ」

「一発芸って酷い言い方ですね」

「というか、初見で一発芸型からよく逃げ延びたな。ハマれば確殺なのがその手の連中なのに」

「こっちも初見殺し使いました」


 その言葉にクツクツと笑う師匠。心底楽しそうな顔だった。


「本当、コイツに“守る才能”がありゃ全部賭けたんだけどなぁ……まぁ、それも巡り合わせか」

「師匠?」

「こっちの話だよ。あと、今日はこのくらいにしておけ。東通りから騎士団が近づいて来てるぞ」

「何で騎士団って分かるんです?」

「感じろ」

「精神論ですか……なんか難しいですね」

『あ、なるほどこのパラメータですか。理解しました』

「メディさん凄えな」

『感知しているのはマスターです。そのパラメータを認識していないだけかと。いえ、全員を認識しているがゆえに敵意区別がついていないのだと私は考察いたしますが』

「良いから出てけ出てけ」

「今日はありがとうございました、師匠」


 その言葉と共にロビーへの転移を始める。


「そういえば、師匠って俺の剣どう思ってます?」

「……綺麗な殺しの剣だよ。ただ、化物殺しの剣じゃない」

「……ありがとうございます」


 その言葉を最後に、転移は終了した。


「メディ、気づいてたか?」

『はい、ダイナ様は明らかに2()()()()()()()()()()()()()


 それは、確かにあった違和感。潜在的に覚えているというのはある。それは、3周目に初対面だったアルフォンスとの出会いがそうだった。

 それに、ダイナとは3周目でも偶然出会い押しかけ弟子を申し出ている。なので自分を弟子と呼ぶことには不自然さはない。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……まさかの重要NPC?」

『かもしれませんね、後ほど動画で確認してみましょう』


 その言葉と共にロビーに残っているプレイヤーに話を聞く。


 今回の周ではアルフォンス側について、王道通りに謎を暴くという方針に決まったようだ。そこから大きなグループは取り調べを受けた者たちの動きから様々なアプローチでコトに当たると


「で、なんでヒョウカはここに居残り?」

「タクマくんなら何かするだろうから待ってたのよ。どう? 楽しかった?」

「師匠に会って、生命転換(ライフフォース)のことを教わってきた。あの人やっぱ底知れないわ。知識に乗ってる経験が違う」

『まさしく歴戦の猛者ですね』

「珍しく普通ね」


 そうして、タクマはヒョウカにも生命転換(ライフフォース)やゲートのことについて説明する。と言ってもほとんどメディの語りだったが。


「ねぇ、それってゲームの設定の話?」

「多分違う。ゲームの中で傷ついた魂が成長するってんなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……それは、怖いわね」

「本当にな。まぁ、使わないで済むならそれでいいんだけど……俺含めて仲間連中は皆無自覚に使いそうでな。ヒョウカから伝えておいてくれ」

「ええ、わかったわ。それじゃあ、今日はもう暇なの?」

「もっぺんアルフォンスの所に顔出したら寝るつもり。今日はなんにも無さそうだし。暗闘って感じだからな」


 そうして、有り余るポイントを使って衣装替えをしたヒョウカ。


 見た目だけを見ればそこそこ名家の娘のようだ。空色のシャツに薄いピンクのパンツ、その上に高そうな生地の白いカーディガンを羽織っている。


 見た目だけなら、清楚系とも言えなくはない。口を開けばすぐにその邪悪さに気づくだろうが。と、タクマは思い。


 ニコリとの擬音が似合いそうな完璧な仮面の上で作られた笑顔で睨まれた。


「見た目くらいは取り繕ったってバチは当たらないでしょう?」

「まぁ、否定はできないけどさ」

『無理にヒョウカ様のイメージから離れた服を着るのはいかがなものかと。作戦とはわかりますが』

「作戦?」


 その言葉に、いつも通りの邪悪な顔に戻ったヒョウカは言った。


「私は目立ったからね。顔も雰囲気も覚えられててもおかしくはないでしょう。なら、少しは誤魔化さないと」

「珍しく狡いな」

「だってタクマくんが普通に殺されかけるんでしょう? そんな連中に襲われたらわたしは2秒で死ぬわよ」

「……まぁ、ヒョウカだものな」


 ちなみに、御影氷華の運動神経は皆無である。育まれる幼少期に全く動かないで過ごした為に、凄まじいレベルの運動音痴となっている。


 幼少期からVRで殺し合いをしていたどこぞの明太子とは違うのだ。


 尚、そのタクマは持久力が死んではいるが、肉体の精密動作に関しては各種運動部などを上回る。リアルで投げた缶をゴミ箱の穴ホールインワンさせる中学生はタクマくらいである。


「それで、俺はお前の護衛をすれば良いのか?」

「ええ、行きましょう」


 そうして、二人は危険なデートへと向かうのだった。


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