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聖女(男)は正体を知られたくない  作者: まお
聖女、ギルド員となる
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十八話 声の主

『子供を助けようとして、無残にを喰い散らかされる絶望の表情を見たかったのに……。興覚めよ、あなたたち』



 黒い靄が現れた後に謎の声。

 関係がない、なんてことはないだろう。

 おそらく、俺たちが水晶玉を使って発動する長距離通信と似たような魔法か。



「それは残念でしたね。私たちは、とても慎重派なのです。ところで、あなたはどこの、どなたですか?」



 俺どころか、オリハルコンクラスの魔法使いのシンシーでさえ、魔法の兆候を掴めなかった。

 もしこの声が攻撃魔法ならば、俺たちは、なすすべなく全滅していてもおかしくはない。

 全く腹立つ話だが、今は迂闊に動くことができない。



『あなたたちに教える気はさらさらないのだけど、そうね。古城に来るといいわ。私のかわいいモンスターを殺してくれたから、主として歓迎するわよ』



 主……だと?

 思い出すのは、占いのばあさんの言葉だ。

 奴らの主と言っていたが、今思えば、ばあさんは『グール』の主とは言わなかった。



 アルが俺に視線を送る。

 あの胡散臭いばあさんの占いが、的中したと考えているのだろうが、俺は逆に、騒動に荷担しているのではないかと疑った。

 俺がそう考えている最中、クーデリアが謎の声にたいして声を上げる。



「答えろ! 貴様が村の住民に何かしたのか!」

『教えるはずがないでしょう? ……と、言いたいところだけど、好みの子が多いし、それぐらい教えてあげる。全員、私の実験体になってもらったわ。成功例は、さっき見たでしょう』



 あっさりと、恐ろしいことを何でもないように告げた。

 クーデリアの顔に怒気がこもり、怒鳴るよりも前に他の事を聞く。



「何故そのようなことをしたのか、理由をお尋ねしてもいいでしょうか?」

『……んー、そこにいる女の子達が裸になるならいいわよ。あっ、男はダメよ。殺したくなるわ』

「は?」



 何だ、こいつ。

 女の声をしているが、こちらからは姿が見えないので、性別は定かではない。

 そっちのけがある……というよりは、俺たちの反応を見て楽しんでいるのか。

 クソ野郎だな。



『私は、人間の女の子が好きなのよ。あなたたちみたいに、綺麗で可愛い子に裸で頼まれたら、喜ぶかもしれないわ』



 いや、俺は見た目だけで、脱いだら男なんだが。

 何てことは口が裂けても言えず、どう返そうか考えているとクーデリアが俺とシンシーを背に隠すようにして立った。



「ふざけるな、彼女たちにそんな屈辱を味合わせるものか!」



 さすがは王国騎士。うちの騎士とはエライ違いである。



『あなたはいいわ。筋肉の塊っぽいし』

「なッ⁉」



 まあ、騎士だからそれは仕方ないだろう。

 慰めの言葉は、余計に傷つけるだけだから、飲み込んだ。



『それが嫌だったら、ここに来ることね? 辿り着けたらの話だけど、ね』



 黒い靄は、空気中に霧散して消えていった。

 張り詰めた雰囲気が解けようとした時、俺とシンシーは空気の変化に気がつく。

 遅れてクーデリアも地面に目を向け、切迫した状況に気づいたようだ。

 シンシーが俺たちに《フルブースト》をかけ直す。



「どうした、急に?」

「あなた、教会騎士のアルバートでしょう⁉ 何で気づいていないのよ、バカ!」

「……何で罵倒されたんだ?」

「さ、さあ?」



 アルもファルトも何が何だかわからない様子で、説明しようと口を開く前に床に赤い線が幾重にも走る。

 教会でおこなっていた、多くの儀式魔法に飾りとして参加していて造詣が深く、この魔法が攻撃系で建物を吹っ飛ばすほどのものだ。



 シンシーは魔法陣を見るだけで、大抵の魔法を看破できると豪語していたので、床に走る一部の線から俺と同様に看破しているはずだ。



「簡潔に言います! 今から、この家が攻撃型儀式魔法で消し飛びます!」

「「なっ!」」



 二人から、驚きの声が上がる。

 しかも、マズいことにこの魔法の発動までの残り時間が十秒ほどしかないのだ。



「この魔法、苦手なんだけど……ね! 『我らに風の加護を』! 《ストリーム》!」



 《フルブースト》に加え、新たに《ストリーム》魔法がかけられた。

 体が軽くなり敏捷力が向上する魔法で、《フルブースト》と比べて特化している分上昇度は段違いである。

 一気に地下から脱出して、一刻も早く逃げようとする算段だ。



「早く逃げるぞ!」



 クーデリアが梯子を使わずに一足で地下室を出て、退路を確保する。

 それを確認して、俺たちもすぐに地下室から出た。



 扉を乱暴に壊して急いで出た時、悪い夢を見ている気分になった。

 村長の家を吹っ飛ばす魔法かと思いきや、魔法陣は二軒、三軒先へと延びていて赤く爛々と輝いている。



「おいおい、どんだけデカいんだよ!」

「文句を言っている暇はありません、逃げますよ!」



 どれだけ早く逃げても、目測で魔法陣の外縁ギリギリである。



「これ、あの建物を中心に爆発させる魔法ね! 結界を張って、あなたたちの楯も強化して爆風と熱を防ぐわよ」

「そんなんで大丈夫か? 腕、吹っ飛ばされないだろうな……」

「今はシンシーを信じましょう!」



 楯を強化するべく、走りながらシンシーが連続で魔法を発動させる。パーティーの身体強化に加え、身につけている装備にまで強化を施すとは恐れ入る。

 常人では行えないような高速詠唱に、多重付与で強化された漆黒の鎧と白銀の鎧。



 外縁に辿り着き、黒白の鎧が動く。

 皆の前に立ち、俺たちを守るべく大楯を掲げた。

 数瞬遅れ、最初に届いたのは光だった。



 続いて、轟音に衝撃。

 アルたちの後ろに立っているだけでこの衝撃。

 張られた結界からビキビキと音を立ち、二人の大楯へと衝撃が迫る。



 辺りの地面がめくれ上がり、衝撃で体が持ち上がりそうになるのを必死でこらえ、嵐が過ぎ去るのを待った。

 ──そして、結界が壊れ……。



「ゲホッ、ゴホッ! お二人とも、生きていますか……?」



 体に降り積もった砂や埃を払い落とし、跡形もなく残骸と成り果てた建物たち。

 破片が村の入り口付近まで飛んでいる辺り、爆発の強さが伺えた。



「いてーな。ったく、誰だよこんなことしやがったのは」

「十中八九、あの声の主でしょう。シンシー、回復魔法をお願いします」

「わかってるわよ。強化したとはいえ、腕に少しダメージがあるだけって……。あなたたち、どんな鍛え方してるのよ」



「剣振ってら、体も強くなれるぜ」

「訓練器具を用いて……ですかね」



 二人の大楯を見ると、結界が壊れて多少の衝撃を受けたようだが、ほんの少しだけへこみがある程度だ。

 大楯が修復不能なほど破壊されれば、一時撤退を選んだが、幸いにしてこれだけで済んだようだ。



「あんな魔法を使うなんて、近くにいるのか?」

「儀式魔法と言ったでしょう。条件による魔法の起動ですから、近くにはいなくても、発動します。おそらく、声の主が言った古城にいるのでしょう。厄介なのは、魔法の隠蔽技術です」



 たとえ、どれほどの大魔法使いであろうと、規模の大きい魔法を長時間維持するのは難しい。

 長時間維持するために、試行錯誤の末に生まれたのが儀式魔法だ。

 地面や壁等に直接刻む方法や、空間に留める方法など、様々な方法がある。



 条件をつければ、今のように罠として用いることも可能だ。

 一見、便利に見えても、明確なデメリットがあり、一つが魔法陣を仕掛けている場所に近づくと、儀式魔法の存在に気づきやすくなるのだ。



 普段、人の中を対流する魔力。

 そのエネルギーを魔法に変換することで、人は様々な不可思議な現象を起こすことができる。

 魔力や魔法が人の外へ出ると、人によって気配や匂い、あるいは視覚といった五感で捉える。



 五感で感じられないようにするために、様々な隠蔽を図った。

 隠蔽を破る手段も、当然として存在する。



 常に警戒していたはずが、俺も、魔法使いとして実力のあるシンシーも、発動の瞬間までわからなかった。

 これは、相手の隠蔽技術が相当に高くなければ、困難なことである。



「じゃあ、隠蔽を破らなきゃ俺たちは一方的に魔法攻撃に晒されるのか」

「古城に向かうまでの間に、完璧に看破できるようにするわ。ここまで舐められたんじゃ、腹の虫が収まらないわよ……!」



 短い期間で看破できるのか、俺にはわからない。

 この中で最も優れた魔法使いの言葉であり、俺たちを守り切ったシンシーを信じよう。

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