【400文字作文】TOKYOタワーに雪が降る
ホテルの窓を開け手を翳してみると、私の
手の甲には平べったい雪が舞い、降りた。
その雪はすぐに溶け、だらしのない水滴に
なった。私はその水滴を舐めてみたが、肌の
味しかしなかった。
窓を閉め、雪だよ。と、近くにいる女に言
うと、本当に?と女はノスタルジックな微笑
みを私ではなく、窓に映る自分へと向けた。
去年も一昨年も、その前の冬も雪は降って
いた。だけど私はその雪のことを思い出せな
い……。女はそう言って私の方を向き、微笑
んだ。
それは私も同じだった。雪を見て思い出す
のは子供の頃、毛糸の手袋の先にくっついた
一粒の雪のことだ。雪の結晶が、その時はっ
きり見えたんだ、と私が言うと女は軽く頷き
また、窓に映る自分の方へ顔を向けた。
窓からは白い雪と、火鉢の中で紅く燃える
炭のような東京タワーが見える。窓に映って
いる女の顔に私は、綺麗だな。と言った。