初実践
「この場所は魔素が豊富で、練習にはうってつけだ。小さな魔法を使ったぐらいじゃ、すぐに回復する。じゃあ、私が見本を見せるね。」
昼食を食べ終わり、ジーク先生はよいしょと言って立ち上がった。原っぱの真ん中まで歩いていってそこで立ち止まると、クルリと俺たちの方を振り返った。
「本当は、普段から身近にある水とかを出すのが楽なんだけど、それじゃ、魔法を使った時に何というかこうグワッとこないんだよ。そこで今回は火を出してみようか。」
「グワッとじゃ、何が言いたいか分かりませんよ。」
「あれだ、あれ。水を手からチョロチョロと吹き出させても宴会芸としては、いまひとつだろ。それに比べて、火球を出して爆発させた方が派手で格好よくて興奮するだろ。そういうことだ。」
「はぁ…。」
分かるようで分からん。それよりも、ジーク先生がお酒を飲んだときは注意しよう。酔って、間違っても家とか部屋を爆破されたらかなわない。
「じゃいくよ。まずは簡単な火種の魔法から。ただ、掌の上に火を出すだけだよ。」
掌を上に向けて体の前に持ってくると、ジーク先生は軽く息を吸い込んだ。
「火よ。」
掌の上にポッと小さな火が生まれ、みるみる大きくなってジーク先生の頭の高さぐらいまで成長したいった。
素晴らしいものだ。子どもの時に一度は、指先から火が出ないか試してみたり、なんかの力で触れずに物を動かそうとしたりしたことが、実際にできるなんて。
「練習をして感覚をつかめば、大きな火種を出すこともできるようになるよ。大きさを調整するのは、詠唱ではできないから、う想像する必要があるけどね。ロイ君やってみてくれるかい。」
ロイ兄さんがどれほど魔法を使えるのかには興味がある。
「火よ。」
掌には、ジーク先生の半分ほどの火が浮かんでいた。
「この年でこれくらいの火を出せれば御の字だね。ロイ君。もういいよ止めても。」
ロイ兄さんが「分かりました。」と言うと、掌にあった火があっという間に消えていった。
「じゃあ、エド君やってみようか。火の大体のイメージを持って、詠唱すればできるから。」
火を出すことはできるだろう。うなれ、俺の妄想力。違った、この場合は想像力か。身近にあるものといえば、暖炉の火だろうか。それを頭の中に軽く思い浮かべる。
「火よ。」
ポッと掌の上にこぶし大の火が生まれた。よし、成功だ。新しい玩具をもらった子どもみたいにワクワクする。
「ほぉ。一発で成功させるとは魔法の才能があるのかもね。」
「すごいよ。エド。僕が初めてやった時は何回も失敗したんだから。」
褒められて悪い気はしない。けれど問題はここからだ。どうやって火を大きくしたら良いだろうか。
ただ単純に大きな火を想像すればいいのだろうか。それとも、空気を送り込むイメージか。はたまた可燃性のガスを供給するのを思い浮かべればいいのか。
ものは、試しだ。全てやってみて一番いいやつを選んだらいい。
「じゃあ、その火を大きくしてみてくれないかい。」
まずは、大きな炎を思い浮かべる。一回り火が大きくなった気がする。まずまずの成功だ。一端この方法は保留にしておこう。
次に、空気を火に送りこむイメージだ。全く大きさが変化しない。ただ、炎の色が、赤みがかった色から、白っぽくなった。炎の温度が上がったのかな。これは、これで、威力が増していいかも知らない。
最後に、一番の本命だ。可燃性のガスを供給するのを想像する。
やはり、これが一番か。さっきの倍くらいの大きさに火が成長した。こちらの方が、大きな火を想像するよりも効率がいいのかも知れない。
魔法という非科学的なものなのに、少しは科学に沿ったものなのかも知れない。ガスバーナーと同じ要領だ。空気の量を増やしたときよりもガスを増やした方が、火が大きくなるあれと同じことだ。
「エド君やるね。これも一発で成功させるとは。それに、炎の色が変わるなんて初めて見たよ。どうやってやったのか聞きたいところだけど、今は、エド君がどこまで、魔法が使えるかの方が気になるな。
そうだ、あこにその火を打ち込んでみてくれないかい。」
ジーク先生が指を指したのは、600メートルほど先の所だった。そこだけ、ぽっかりと森の中に荒れ地が広がり、大きく窪んでいた。
なるほど、結構な頻度で、同じ場所に魔法を打ち込んだらこうもなるのか。随分と派手な自然破壊だ。
よし、やってやるか。その前に気になることが一つある。
「この辺りには、魔物はいないんですか。魔素が多いところには、多くいそうな気がしますが。」
「ああ大丈夫だよ。あそこは、私が、かなりの頻度で魔法を打ち込んでいるかなあの辺りには、魔物は多分住んでいないから、大きく魔法を外さない限り問題ないと思うよ。多分。」
なんだか、嫌な言い方だなぁ。不安がよぎるじゃないか。
「まぁ、エド君でもその位の魔法で地面をえぐるのはまだ難しいだろうけどね。」
おうおう、ひどい言い方だな。おい。子どもだと思ってできないと思ったら間違いだぞ。やってやるぞ。まだまだ、火を大きくできる気がするからな。
空気とガスを勢いよく送り込む。あっという間に自分の背丈ほどの大きさになった。
「ちょ、ちょっと、待っ…。」
何か、ジーク先生が何か言っているようだが、無視だ無視。
いっけえええええええ。
炎は勢いよく、俺の掌の上から飛び出していった。
あっれー。おかしいなぁー。はじめは、順調に目標に向かって行っていたのに、どんどん左に逸れていってるなぁー。
俺が放った魔法は、森のど真ん中に落ちてしまった。
一瞬、閃光が光ったかと思ったら、黒煙がもくもくと上がりだした。それと同時に、突き上げる振動共に爆音が響き渡った。