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自称、巻き込まれ体質の事件譚  作者: 松本真希
2/12

目覚めの後

二日目の朝だ。


とはいっても、ほとんど寝ているので、体感としては半日しか経っていない。


やはり、元の世界には戻っていない。淡い期待は、無残にも崩れ去った。


まぁ、元に戻ってもやることなんて、一つしかない。


ゲームだ。


高校デビューに失敗した俺は、高校一年の五月に晴れて引きこもりの仲間となった。


それから、はや三年。


その間、俺は、一に、ゲーム。二にゲーム。三、四がなくて、五にゲームの生活。


なんと素晴らしい毎日じゃないか。


誰かは、こう言うだろう、「ゲームなんかしていても、世の中の為にならない。非生産的だ。」と。


いかにも、俺は非生産的な人間だ。だからこそ、世の中の為になることもあるだろう。


俺は学校に通っている輩と違って、青春なんてものにエネルギーを浪費せず、運動をして、無駄に二酸化炭素を出すこともしない。


低カロリー、低炭素。なんて俺は、地球に優しい生活者だ。


まぁ、絶対に元に戻りたいと思っているわけでも正直ない。


この三年間、話した人の数は一体何人いただろうか。


果たして、俺が戻ってくるのを待っている人は何人いるのか。


だが、少しは、寂しさを感じる。


部屋の匂い、黄ばんだ壁紙、そんなものが、どうしようもなく懐かしい。


転生…。転生か。


妄想がムクムクと俺の心の中に浮かび上がる。


残った俺の体はどうなったのだろう。やはり、死ぬ直前に精神だけが飛び出して、肉体は残ったのだろうか。それでは、あまりに夢がなさすぎる。


地獄の釜が開いたように、下に落ちていったのだろうか。それとも、光の粒子になって消えていったのか。はたまた、魔方陣が描かれ、宙に浮かび上がったのだろうか。


俺としては、魔方陣で、浮かび上がるのを所望する。何故かって、この中で、一番格好よさげだからだ。


突然ドアが開き、何時もの女性と小さな男の子が入ってきた。


「マリー、顔を覗いてきてもいいかなぁ。」


「ええ。宜しいですよ。」


そうか。あの女性は、マリーと言うのか。二日目にして、自分以外の名前を初めて知った。


男の子は、ポテポテと形容するのがぴったりと当てはまるような足取りで、俺が寝るベッドに近付いてきた。


「エドー。ロイ兄さんですよ。」


今の俺には、兄がいるのか。ずっと今まで長男だったので新鮮な気分だ。


だが、兄よ。ちょっと待て。頬をプニプニと突くのは、いただけない。幼児にだって人権ぐらいはあるのだよ。


中身が十歳も年下に頬を触られるなんて、脳裏に浮かび上がるの僅かに二文字。屈と辱。


非難を込めて、眉間に皺を寄せて睨んだが、ロイは「かわいい。かわいい。」と言って、やめる気配はない。


マリーよ。ニコニコと笑っていないで、早くこの兄をとめてくれ。


願い空しく、しばらく俺は、兄の玩具となってしまった。


俺は、その間に考えていた。


俺も弟が生まれた時に、同じようなことをした気がする。


その時、弟は今と俺と同じように嫌な顔をしていたような覚えもある。


俺は、弟が生まれた時から、嫌われることをしてきたというのか。何たることだ。


それからも弟に嫌われることを色々とした覚えがある。


あれか、弟が大事にしまってあったプリンを勝手に食べてしまったことか。それとも、床屋に行った弟の髪が、キノコみたいだったのを笑ったことか。


悲しいかな。俺が引きこもろうが無かろうと、弟から、冷たい目で見られるようになることは決まっていたのか。




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