自分なりのやり方で
「ロイ君は、私の補助を。エド君は、私たちの後ろに居てくれ。」
早口に、ジーク先生がそう指示を飛ばした。
俺は、戦力外かい。まぁ、確かに、こうなったのも俺が変なところに魔法をぶっ放した性であるが。
おとなしく、その言葉に従っておこうか。俺は、すごすごと後ろに下がった。
そうこうしているうちに、周りを全て、シルバーウルフにぐるりと囲まれていた。
ざっと見て、二十匹以上はいるか。木立の向こう側にもまだ、何匹かいるようだ。
ジリジリと俺たちの距離を詰めてきている。
ロイ兄さんが、牽制の為に火球を放ったが、怯えるようすはない。
俺を挟むように、二人は背中合わせに立った。
「じゃぁ、いくよ。ロイ君。エド君をよろしく頼むよ。」
そういって、ジーク先生は、シルバーウルフに向かって駆けだした。
それに呼応して、ロイ兄さんが次々と魔法を放ったが、なかなか当たらない。
ようやく、ジーク先生が、一匹目を倒したようだ。先ほどよりも明らかに、精彩を欠いている。
その理由は、多分俺だ。丸腰の俺を気にするあまり、魔物の方に集中できていないんだ。
「エド君。危ない!」
「エド、逃げて。」
二人の声が少し遠くから聞こえた。ハッと前を見ると、一匹のシルバーウルフが俺に狙いを定めている。
いつの間にか、二人と離れてしまったようだ。
二人の助けは間に合いそうにない。もう逃げ出すなんて無粋なまねはしない。
やってやろうじゃないか。
さっき、魔石を見て気付いたことがある。軽く試してみて成功したから、きっと大丈夫、上手くいく。
俺は、キッとシルバーウルフを睨み付けた。いつでも来たらいい。
シルバーウルフが口を大きく開けて、火炎を吐き出した。
すぐさま俺は、右手を前につき出して叫んだ。
「バリア!」
淡い光を伴って、俺の前に魔素で作られた障壁が広がった。
魔石のようなまがまがしさはなく、いたって綺麗なものだ。
火炎が障壁にぶつかって、ギシギシと鈍い音をたてる。
障壁越しに火炎の熱気を感じる。思っていたよりも威力が強い。少しまずいかもしれない。
俺が先に力尽きるか、向こう先かの勝負だ。体の中にある魔素をつぎ込もうと目をつぶって手のひらに意識をもっていく。
ふと熱気がなくなったような気がして目を開けると、ジーク先生が、俺の前に立っていた。
「もう、私が倒したから大丈夫だよ。ここは危険だから少し下がっていなさい。後でこの件はお説教だからね」
それだけを言うと、またすぐにどこかへ行ってしまった。
誰かを守るのも苦手だが、誰かに守られる方が、ずっと苦手だ。俺の不甲斐なさ、弱さを肯定してしまっている気がする。
二人が、俺を守りながら戦っているのは、知っている。その性で、本来の調子じゃないことも。
口には出さないが、守るべき存在だと二人の中で、どこかそう思われていることがしゃくに障る。
俺だって、やるときはやるのだ。
魔法で、全ての魔物を焼き払ってしまおうか。
だが、俺は、さっきノーコンっぷりを遺憾なく発揮してしまっている。
もし、火球なんてぶっ放して、制御に失敗して二人にでも当たったら、と考えたらそんな危険な賭はできない。
さて、どうしたものか。
そうか、氷漬けにしてしまえばいいんだ。
俺には、一匹ずつ凍らせるなんて、そんな器用なまねは、絶対にできない。
できたとしても、辺り一面を一気に凍らせることしかできない。
もし、間違って二人を凍らせてしまっても、すぐに助け出せば、冷えて風邪を引くぐらいで収まるはずだ。
火球より、被害が少なそうだ。
まだ、どうやって詠唱すればいいか知らないが、ちゃんと思い浮かべればできるはずだ。
二人とも、シルバーウルフから離れた所を見計らって俺は、空に手を突き上げて叫んだ。
「アイス!」
地面から氷が次々と生まれ、ビキビキと耳障りな音をたてて、上に上にと成長していく。
また、一匹、そして、もう一匹と、次々にシルバーウルフが氷の中に捕られていった。
まだだ、まだまだ足りない。
こんなものでは、全部のシルバーウルフを凍らせることなんて到底できない。
俺は、体の中にある魔素をありったけ掌に集めた。
氷は勢いを落とすこと無く、どんどんと大きくなっていく。
ジーク先生もロイ兄さんも俺を止めようとはせずに、ただただ、氷にシルバーウルフが閉じ込められていくのを呆然と眺めていた。
最後の一匹が氷の中に飲み込まれたのを見届けたところで、俺の視界はブラックアウトした。