魔物再び
ジーク先生はジャイアントベアーの足元に飛び込むと、勢いよく振り下ろされた前足を、体を捻って右手一本で受け止めると、その反動を利用してジャイアントベアーの胴体を斜め下から勢いよく切り上げた。
それと同時に、左手を伸ばして火球を放ち、左から襲ってきたジャイアントベアーの頭部に当てた。目を焼かれたジャイアントベアーのうめき声が響く。
たった今倒したジャイアントベアーの胴体を蹴って、空中に身を躍らせると、魔法を放った相手の首元から下に剣を振り下ろした。
そのまま地面に着地して、勢いを殺すためにその場で一回転してから、ジーク先生は起き上がった。
右手から左手に剣を持ち替えると、左から振り下ろされたジャイアントベアーの前足を受け止めるた。そして、体を左に捻って右手から火球を胴体に向かって放った。
火球は右の方に逸れていってしまったが、ジーク先生はジャイアントベアーが一瞬ひるんだのを見逃さずに立ち上がり、地面を蹴って距離を詰めるとそのままの勢いで、胴体を切り上げた。
胴体を蹴って後ろに跳ぶと、空中で後ろ向きに一回転して、背中から迫ってきていたジャイアントベアーの頭上までいくと、背後から肩から腰にかけて剣を振り下ろした。
また地面に着地すると、すぐさま、横っ飛びをして振り下ろされた右足を避ける。ドゴンと音がして土煙が上がり視界が遮られた。
ジャイアントベアーが右足を地面から持ち上げると、二十センチほどの深さのくぼみができてていた。
ジャイアントベアーがキョロキョロとあたりを見回している間に、ジーク先生は体勢を整えると、地面に手をついて、ジャイアントベアーが立っている場所の地面をへこませた。
体勢を崩したところで、ジャイアントベアーの懐に飛び込んでいき、左胸に剣を突きさした。
それからも次から次へとジーク先生はジャイアントベアーを倒していき、十分ほどで、ジーク先生は戻ってきた。
剣を何回か軽く振って、ついていた血を飛ばすと鞘にゆっくりと戻した。
「じゃあ、魔石を回収に行こうか。」
上着の内側から、ナイフを取り出し、ジーク先生は俺たちを連れて、倒したジャイアントベアーの元に歩いていった。
「大体の魔石は、魔物の心臓の近くにできるんだよ。何体か、余裕がなくて、剣を胸に当てちゃったから割れちゃったものもあるかもね。」
手早くジャイアントベアーの皮を剥いでいき、中から魔石を取り出し、俺に渡してきた。
これが魔石と呼ばれるものか。ゴツゴツした肌触りで、深い赤色をしてる。
太陽の光に透かしてみると、ステンドガラスのようにキラキラと光を通している。なんだか、巨大なルビーと言ったらいいのだろうか。実物を見たことがないので、よく分からんが、そんな感じだ。
人の拳ほどの大きさをしているが、思っていたよりも軽い。子どもの俺でも楽に持てるほどだ。
他のジャイアントベアーを解体していたジーク先生が途中で手を止めて立ち上がった。
「血の匂いにつられて、お呼びじゃないお客さんが来ちゃったようだね。こんなにも近くに来るまで気付かないなんて、私もまだまだだね。」
いつの間にか、二十メートルほど離れた木立の向こう側に、白銀の毛並みが見えていた。
「あれは何なのですか。」
「シルバーウルフ、狼の魔物さ。魔物特有な血走った赤い目に、白銀の毛並み、ピンと伸びた尻尾、加えて並の狼の三倍もの大きさ。狼よりも狼らしくて、かっこいい魔物だね。」
魔物にかっこいいも、くそもないような気もするが。俺は、さっきのジャイアントベアーだって、恐怖、畏怖、以外の何物も感じなかったぞ。
自分を襲ってくるものに魅力を感じるなんて、とんだ変態がすることだとは思わないかい。
「ただ、問題があってね、あいつら徒党を組んで襲ってくるんだよ。それに加えて口から、火炎まで放つというおまけ付きだ。賢すぎて、私一人だと手に負えないかな。時間を稼ぐから君たちは早く逃げた方が良いよ。」
ふと、後ろを振り返ると、もう既に、何匹ものシルバーウルフが俺たちの退路を塞いでいた。
うなり声を上げて、俺たちのこと威嚇してきている。
こりゃ、当分逃げ出すことはできないな。
俺の不幸は、まだまだ終わらないらしい。