魔法師の戦い方
「エードーくーん。やってくれたね。将来は、魔法師となって働くのもいいかもしれないね。そう君のご両親に伝えとくよ。」
声につられて振り返ると、腰に手を当てたジーク先生がそこには立っていた。
両親に俺が魔法の才能があるなんて伝わったら、絶対に魔法師にするに決まっている。
せっかく俺は、公爵家の三男とういう立場を思う存分使って、親と兄弟の脛をかじってのんべんだらりと、引きこもって暮らそうと思っていたのに。
俺の未来予想図は無残にも崩れ落ちっていった。
「いやぁー。ここまでできるとは正直思っていなかったよ。すごいよエド君。だけど一つ問題があるんだよね。」
ジーク先生に手放しで褒められて、悪い気はしない。それよりも問題とは何だろうか。
「エド君が魔法を打ち込んだ、あそこの森、魔物の巣窟なんだよね。魔法に驚いた魔物がどうなるかね。私たちの方に向かってこなければ良いけどね。」
どこまでも軽い調子で、なにやら、不穏なことを言い出したぞ。
ここには、俺に不幸を振りかける能力に並ぶ物がいないロイ兄さんがいるのだぞ。絶対に俺たちの方に向かって来るに決まっている。こりゃ、ジーク先生にあとは任せて、早く逃げ出した方が吉だ。だが、その前に片付けるべきものがある。
「ジーク先生。どうしてこんな魔物がウヨウヨといる場所でやろうと思ったのですか。」
自分では、キッと睨み付けたつもりだがあまり効果はないようだ。確かに子どもが怖い顔をしても、正直言って、あまり怖くはないものな。
「いやぁー、まぁー。普段から練習で使っていたしね。あそこまで、綺麗に目標からズレるとは、思いもよらなかったからね。」
フムフム。俺がノーコンだったのがいけないのか。そう言えば、魔法の威力を上げることばかりに気を取られていた気がする。
「あちゃー。おいでになったようだね。」
ジーク先生の視線の先に目をやると、土煙がもくもくと草原の上に立ち上っていた。やはり俺は不幸と縁があるようだ。
「逃げるよ。」
そう言うとジーク先生は一人で先に走り出していた。戦わないのかい。
慌てて、俺たちはその後を追った。なんとか追い付いてジーク先生の横に並んだ。
子供の足で追い付けるのだから全力で走っていないのは明らかだが、国に仕えるほどの人がこれだけで逃げ出すなんておかしい。
「君たちが怪我でもしたら、私の首が飛ぶよ。ああ、もちろん物理的な意味でね。私としては、磔になるよりも、ギロチンの方が苦痛が少なそうで良さげだと思うけどね。まぁ、その時は、エド君。ちゃんとお父様に言ってくれよ。『ジーク先生は、磔ではなくギロチンを所望してます。』とね。」
「何をふざけたことを言っているんですか。そんなことをいっている暇があればさっさとあの魔物を片付けてください!」
イライラに任せて大きな声で怒鳴ってしまった。
運動不足の俺は、二分も走らずに、息が上がってしまった。足を止め膝に手をついて、ゼーゼーと荒い息を吐き出した。
「だらしないね。若いのに。」
「そんなことを言っていないで早く倒してしまってください。魔物に追いつかれますよ。」
さっきまではかなり離れた所に土煙が上がっていたのに、今では、魔物が立てる足音で、地響きが聞こえる。
熊を何倍にも大きくした魔物が何頭も、こちらに向かってきていた。
「本当はね。私は、こんな魔物なんて簡単に倒すことができるんだよ。だけど、それだと魔物に怖さを感じないだろう。それに、魔物が弱いものだと思ってしまっても困るからね。少しは怖いもだと刷り込みができたかな。あとエド君の運動不足解消のためもあるかな。こんなことじゃないとエド君、走ろうとしないでしょう。」
「ええよく分かりましたので、早く魔物を。」
後ろから、大きな音を立てられながら追いかけられるのは、随分と怖いものだった。もうこんな経験はしたくないものだ。
それに、俺の運動不足を解消するために、こんなことを利用しなくたって、食事とかを餌にされたって走ったりするのに。
「ジャイアントベアーが十体てところか。魔法で、一気に焼いてしまってもいいんだが、それだと、魔石をだめにしてしまうか。魔法だけじゃなくてこんな戦い方もあるんだよ。エド君よく見といてね。」
ジーク先生は、腰にぶら下げた鞘からゆっくりと剣を引き抜くと、右手一本でその剣を構えた。
魔物の一群に向かって走り出すと、その中の一体に目をつけて、途中で勢いよく加速して突っ込んでいった。