報告
『百合はホモ』という異界の言葉がありまして…
ゲームだと説明が入るせいで、話がまったく進まない
今回が最終回と言ったな、あれはウソだ…!
ぴこん!
学校の昼食時間。
「ん」
遥と友達とで、母親に作ってもらったお弁当を食べていた時だった。
「……ああ、私だ。……えええー、めんどい」
メールの着信があった。
鳴ったのは遥のスマホ。誰か知り合いからかな?
まあ、気にせずお弁当を食べ続ける。内容をむやみに聞くのはよくないか。
「遥ー、カレシから?」
「……彼女ならいるけど。今、一緒にご飯食べてます♪」
「え、私? まいったなー」
遥と友達の会話は聞き流す。
「前、やってたゲームからだよ。……ログインしてくださいって」
……私は今でもちょくちょくやってたけど。……そういえば騒ぎになってたな。
やっと現れた勇者がログインしないって。
「あれ、遥ゲームやめたの? 廃ゲーマーだったじゃん」
「……うーん。……今は、ログインしなくても、香奈多は目の前にいるから」
「のろけか!」
……そんな理由でやってたのか。
遥が最終ログインしてから、一週間は経っていた。その間、何をしていたかというと病気で入院していた、ということになっていた。
2日間動けなくて寝ていたら、次の日はなぜか全快したから即退院……というわけにもいかず、検査やらなにやらで入院日数は伸びていた。
勇者がようやく現れたので、ゲーム運営は特別イベントを開始しようとしたが、勇者どころか魔王までログインしなくなったので、イベントは不評で終わった。
「うーん、せっかくだから様子を見に行くのもいいけど、今日は香奈多とテスト勉強だからなー、夜まで。…………いや、朝まで?」
「え、まじで?」
「いや、そんなわけないから」
さすがに、そこまでしてるとは知ってほしくはない。
でも、少しゲームのことを気になっているのならいいか……。
「遥……」
「んう、何?…………あれ、持っていく?」
ちがう!
「遥に……、会ってもらいたい人が、いる」
遥がログインするつもりなら、私のフレンドにも、このことも報告した方がいいか……。
私の相談に乗ってくれた人。
遥との話を真剣に聞いてくれたから、もう大丈夫って伝えておかないと。
「え、まさか。両親にあいさつ!?」
友達が驚いている。違うから。
……もう、したから。
「それは、もうしたから」
遥、それは言わなくていい!
「ぶほっ、あいさつしたの!?」
友達が盛大に噴き出している。
汚いなあ。
なう ろーでぃんぐ★
ログインした先はいつものマイホーム。
ここで、もしかしたらと、遥と暮らす家を考えてた。
デザイナーを目指したいと思ったのはその一歩。
「なんか、久々だねー」
遥がログインしてきた。最後にログアウトしたのがこの部屋だから。
――――遥はもうそばにいる。
薄れかけた夢だけど、それでもまだ、成りたいと夢を見てしまうのは、理由は遥だけではないと思ってしまっていいのだろうか……。
その道へ、進んでしまっていいのだろうか。
「へー、私はホーム持ってないんだけど、埃とかも再現されてるのね。……え、嘘でしょ。あの黒いの! デフォルメされてるけど……!? ――――聖剣の威力を見よ!!」
やめて。家は壊れるって言ったでしょ!
「……はあはあ、それで、……私に会わせたい人って、誰?」
「うん、私がお世話になった人で、……遥と、ちゃんと、付き合ってるって報告しておきたいんだ……」
――――ん。
言ったか? 私。
「遥!!」
「何! 大声出して!? Gの処理に忙しいんですけど」
「……付き合ってください!?」
「Ok。 ……私は左から追い込むから、香奈多は右からつぶしていって!」
そっちじゃなくって……。
「ちゃんと、遥に言ってなかったなあって、……遥のことが好きです。私と付き合ってください」
「……そういえばそうだったね。……はい、よろこんで、私も香奈多のことが大好きです」
――――瞬間、おたがいの左手が光りだした。
「えっ、何これ?」
「――――まさかっ、早すぎる!!」
遥が変なこと言い出した。
妹ちゃんの影響か?
……光が収まったあとに残ったのは指輪。
それは、おたがいの薬指に。
「……えー、……ちょっと、嘘でしょ? できれば教会で付けたかったのに……」
遥は何か知っているようだ。
まあ、……わかる。結婚指輪だ。
だが、このゲームでは同性婚は実装していないはずだ。
もちろん異性では付けられるが、指輪には戦闘補助的な能力もない、ただ光るだけだ。なので、無理に同性で結婚指輪を実装する気も、ゲーム運営には無かったようだ。
「……とりあえず、手、洗ってこよ。さっきGつぶしたし」
ごめん。まさかGの処理中に指輪を付けることになるなんて。世界は何が起こるかわからないので、家の掃除はこまめにしようと誓った。
「……それで、何か知ってたようだけど。女の子同士で結婚ってできたっけ?」
「あー、これは、まあ、勇者特典って奴?」
何、そんなものあったの?
「……さっきゲーム運営からメール来てたでしょ。それで、彼女がリアルの方で出来たから遊べませんってメール返したの。……向こうも私が女の子ってわかってるから。それなら次のメンテの時に実装するから、なんとかログインしてって返事来て……」
なるほど。
勇者が現れるのに2年もかかった。しかもいい感じに廃ゲーマーだから、いつでもログインするだろうってイベント開催して。それなのに全然ログインしないんだ、ゲーム運営も焦りもする。
……かといって、代わりにぽっと出の勇者を、いきなり出したら批判をあびてしまう。
なんとか遥をログインさせようとした結果がこれか。
「ふふーん、まあ、これはこれで良しか♪」
上機嫌の遥をおいて、私はもう一度考える。付き合いましたって報告じゃなくて、結婚しましたって報告になってしまった。
いきなりだから、もしかしたら怒られるかな?
「あっ、そうだ。せっかくだから結婚式もやっちゃおうよ」
遥が提案してくる。
私もせっかくだから一度してみたいと了承。……あとは。
「うーんと、必要なものはウェディングドレスと……式場と。……あとはいつやるか、だね」
たしか結婚式イベントの開始条件はそれくらいだった気がする。
「ウェディングドレスなら、今から会う人が服飾生産プレイヤーだから、もしかしたら頼めるかも?」
「それならあとは式場か……。できれば大きいところでやりたいな……。勇者だから!」
教会を管理してるフレンドがいるから、頼める……かな?あまり話したことはないけど。
「やるのは勇者復活イベントの時でいいんじゃない。……たしか魔王って全プレイヤーへの一斉チャット能力あったじゃん? フハハハーって奴。あれ、使わせてもらおうよ。『フハハハ、勇者が結婚します』ってやってもらいたい!」
……魔王の能力をなんてことに使うつもりだ。
それでもフレンドだけ呼ぶってのもなんか寂しい。勇者イベントも今まで不評だったようだし、プレイヤー主体で、大きなイベントをやっちゃうのもいいか。
「それじゃ、行こっか。そのお世話になった人ってログインはしてる」
「……うん、いる」
フレンドリストからログイン状況を確認する。
「行先は?」
「中央都市セントレア」
マイホームから出て、私たちは街の広場にある転移ゲートに向かう。
なう ろーでぃんぐ★
【中央都市セントレア】の街はずれ。
そこで、私のお世話になった人はショップを経営していた。
「こんにちはー、テステスさん居ます?」
「お邪魔しまーす……」
遠慮してる遥が後に続き、私はプレイヤーショップの奥の方へ進む。
「いらっしゃい、カナタさん、久しぶりね」
出てきたのは、家庭で使うエプロンを付けた、明らかに『お母さん』って感じのプレイヤー。服飾生産プレイヤーで、自分の服は全て自作しているそうだ。
「……きれいなひと」
「ああ、ハルカ。この人、男性プレイヤーだから」
「えっ?」
「驚くと思うけど、男の人。……私はたまにお母さんって呼んじゃうけどね」
「ええっ!?」
「初めましてですよね。『テステス』といいます」
そうやってお辞儀して微笑む姿は完全に女性だ。
この人も私と同じ悩みを持ったプレイヤーだ。私は遥を、この人は男だけど男性が好きで、よく相談に乗ってもらっていた。
この見た目なので男性はすぐ寄ってくるけど、男だとわかると離れてしまう。ゲームの中ではあるが、未だに独身である。
「テステスさん、今日は報告に来ました」
「何かしら? その指を見ればわかるけど……」
さすが服飾プレイヤーだ。アクセサリーが新しく増えたのに敏感に反応してる。
「……妬ましい」
……。
たまに出す、テステスさんの地声だ。
男性だってことを思い出させてくれる低い声。
「――――ひいっ」
遥がおびえている。仕方ないか……。
「えっと、ハルカと話し合って……Okもらえました。……それで……結婚しました。今日はその報告に」
私の後ろで隠れていた遥を、そっと手を繋いで前に出させる。指輪がペアリングだと認識して、キラリと光った。
「……そう、結婚したの。まさか娘に先をこされるなんて……!」
少し鋭い目を向けられてしまうが、椅子を勧められ、それぞれが座った。テステスさんは対面に。遥が私の隣に……。
テステスさんがアイテムストレージを操作して、目の前に飲み物が置かれる。しかし、飲むことはできない、雰囲気作りだ。
「本当に指輪が反応しているわね。……とりあえずは、おめでとう。……ようやく、夢が叶ったのね?」
「はい、ずっと一緒に居たいと思ってしまったので。……今まで、私の話を聞いてくれて、ありがとうございました」
「え、話って何?」
遥が聞いてくるが言えない。恥ずかしすぎる。
「カナタさんがハルカさんのことを好きなんだけど、一歩、踏み出せないって話よ」
「え、私にも聞いてくれたら相談に乗ったのに!」
話せるわけないでしょ!
遥が好きだけど周りの目が気になるとか。親が……とか。本当に遥は私のことが好きなのか、勘違いじゃないか、ただの友人として好きなのかも、とか。……ずっと一人で悩んでた。
その時出会ってしまったのが、テステスさんだった。
同じ、同性が好きな人同士。悩みを打ち明けた。
「……これが、私たちが夢見てた幸せの型なのね。同性で結婚なんてできないし、見ることもあるわけがないと思ってたから、感慨深いわ」
女性と女性。
……男性と男性。
この国ではリアルでは結婚はできないのだから、たとえゲームの中でだとしても、したいと思える、してしまう人がいることにやはり想うところがあるのだろう。
「……でも、女の子同士で結婚できるだなんて、実装してたかしら」
テステスさんが疑問の声を投げてくる。
「はい、本当は来週のメンテのあとからなんですけど、できちゃって。……あ、そういえば」
遥が質問に答えたと思ったら、何か操作をしだした。
「……女性の私が頼んだのでちょっと疑問でしたけど、ゲームの運営に聞いたら、男性同士でもちゃんと同性婚実装してくれるそうですよ?」
……。
無言になる。
テステスさんが暴走してしまわないか。実装は来週だけど、今から相手を探しに行くなんて言い出したら、二人のドレスを頼んでる暇が無くなってしまう。
「……そう」
対するテステスさんは冷めた反応。
「それなら、私はゆっくり運命の相手を待つことにするわ。……飛び出したいけど、……本当に実装されるのなら、私はむしろ気長に待ちたい」
よかった。これでおまけというか本題に入れる。
「それでテステスさん、実は私たちが結婚したのはついさっきなんですが、せっかくだから結婚式もしたいなって、それで、テステスさんにウェディングドレスの製作を頼みたいんですけど」
「私が自分で着たいから大量に作って、使うことは無いと封印しているドレスを、気楽に頼んじゃうのね」
うっ、地雷を踏んだか。
それでも、頼めるならこの人に頼みたい。
晴れの日の舞台を、この人にも一緒に祝ってほしいから。
「でも、娘の結婚式の衣装ですものね。わかりました、その依頼、私が受けましょう。……装飾はどうします? こっちのイメージで決めてしまってもいいかしら?」
「はい、私はお任せします」
「私はフリフリのヒラヒラで豪華な感じでお願いします。勇者ですから!」
遥は衣装に注文があるようだ。
どっちにしろ、きっとなんでも似合う。それに、作ってくれるのがこの人なんだ。変に斜に構えた衣装は作らないだろう。
「……あと、最前線でも着ていきたいんで、防御力高めでお願いしていいですか?」
遥は能力主義のようだ。
ボス戦でもドレス着る気か?
「それなら、ミスリルコーティングして、魔法ダメージ反射能力も付けましょう。少しお高くなりますが大丈夫ですか?」
「勇者シリーズ探してた廃プレイヤーなんで、そっちの方は大丈夫です」
……ブルジョアめ!
だけど、ドレスの依頼を受けてもらうことはできた。
次は式場か。
教会は同じくこの街の中央にある。
そこで、たった一人で大きな教会を、建物建造スキルで地道に作り上げたプレイヤーが居るはずだ。
とぅーびー こんてぃにゅー★
ニュースで他人が他国で百合婚したと聞いたら、本当に祝福してくれるのは、百合とホモの方々なんじゃないかと思っています。
敵か味方か、謎の存在です。
オカマを出そうと思ったら、オカマとホモは別なんじゃないかと考えてしまい、危うく深淵を覗き込みかけました。