親
百合は親には言えないもの
香奈多(語り手)がすっっごく へたれになってしまった
筆がのってしまったからしょうがないとはいえ、主人公が最後に嫌われてしまうのはどうかと思う
「いらっしゃい」
お風呂から上がると私の父親が帰ってきてた。
「……お邪魔してます」
「おじゃましてます!」
私と遥の声がハモってしまう。
そろそろ慣れたかなって思ってたら、これだよ。
「……おかえりなさい」
遥が言い直す。
「女の子同士で風呂か、……いいな!」
「――――ですよね!」
遥よ、頼むから同意しないでくれ。父親の変態っぷりを知られたが、残念なことに、この二人は気が合いそうだ。心が通じ合ってる。
「お父さん、変なこと言わないでくださいよ」
母親が注意する。ここでまともなのは私たち二人だけか。……いや、私も変態の仲間入りか。遥に一緒に暮らそうねって言われて、喜んでいた自分がさっきまでいた。
「いいじゃないか、本人たちが好きあってるなら。……見てて、とても幸せになる」
「……良くありませんよ。孫の顔が見れないなんて」
私たちを置いて両親が勝手に言い始める。
話は長くなりそうだし、嫌な気持ちになりそうだから、遥に目配せをして部屋に戻ろうと伝える。
「――――任せて、私が百合の素晴らしさを、お義母さんにもわかってもらうから」
全然わかってなかった。
というか、私の身体で変なことを口走らないでほしい。私は家ではノーマルで通してるし、百合が好きなわけでもない。
……ただ、遥を好きになってしまっただけだ。
「お義父さん、私たちを見てどう思いますか!?」
「……姉妹で百合か、……いい」
遥が両手の私の手をぎゅっと握ってきた。
本当に始める気か?
「だが、姉妹というのはわかりづらい。百合かもしれないし、ただの姉妹愛かもしれない。ぱっと見ただけでは、……判断しかねるな。姉妹が相手を熱い視線で見るまでの過程が大事なのだ」
「なるほど、……たしかに。……さっきお風呂でも、特に反応しませんでした」
「そこ、くわしく!」
「おとうさん!!」
げんなりしてる私を横目に、二人は会話に花を咲かせている。
「では、……」
遥が言いよどむ。
「私が百合だとしたら、どう思いますか?」
「……」
――――それは聞かないで。
「……ふむ」
父親が酒に口をつける。
「そこは難しい問題だ。……私は百合は好きだが、遠くから見ているだけだからな。……冷たい言い方をすれば……他人事だからこそ、楽しめている……」
「……」
「……女性は男が護る者だと思っている。女性だけでは、互いを強くは護れないんじゃないかと思っている。……親としては心配だな」
「……そう、ですか」
「だから、……困ったら、私たちにちゃんと相談しなさい」
……。
え?
「私も心配だよ」
母親が、会話に入ってきた。
「私は女性だからわかるけど、女性だけというのはとても不安になるのよ。……お父さんに出会う前は、しばらく一人でいたからね。すごく苦労するよ」
……。
「……でもね。好きになったんなら、……しょうがないんじゃない?」
しょうがない。
好きだから。
ずっと一緒に居たいと思ったから。
「……ありがとうございます。とても、参考になりました」
遥が軽く一礼する。
遥はどう思っているのか。
この答えは、満足のいく答えだったか。
私は聞くのが怖かった。
この気持ちを、否定されたらどうするのか。
やめろ。
あきらめろって。
遥と繋いでた手を、さらに強く握る。
離れないように。
「ああ、そうだ」
父親が呼び止めてきた。
「……遥くん」
「はい」
……。
…………?
――――返事するな!!
「……娘を、……よろしく頼む」
……。
…………。
真剣な眼差しで遥を見る父親の目は、鏡で毎朝見ているような気がするその目は、……私と同じで。……親子なんだなって改めて教えてくれていた。
それを見返す遥が無言で父親を見ていて。
大丈夫だって、任せてって、私を前に抱き寄せた遥が、この子は私が連れていくからって、私の代わりに伝えてくれた。
私が言えなかった言葉を、遥と父親は言わずとも通じ合ってる。
本当は私が言わなくちゃいけなかったことを言える遥は強くて……。
あのとき、遥は勝手についてくるって言ってくれて。遥にさえ、一緒に行こうって言えなかった私は臆病で……。
「……、お父さんのことはいいから……、もう寝なさい」
遥が膝を折り、父親に無言で頭を下げる。
それをするのは、本来なら私の役目のはずで。
その姿を見る母親の目はとてもやさしくて。
「おやすみ、……香奈多」
その目は。
いつも、私を見てくれる母親の目は。
私を、見ていて。
臆病で、この流れを見ていることしかできなかった私には、とてもまぶしくて。それは、両親にこの姿がばれるのが怖いのか、それとも、私の想いを伝えていない私が恥ずかしかったのか。
遥の手が。
逃げるな、ごまかすなって。
「……おやすみ、お母さん」
遥が立ち上がって私の手を引く。
しっかりと繋がれた手が、今も震えてる私の手を離してくれなくて。
私は両親に、遥への気持ちを伝える気はなかった。
きっと許してくれない。
……遥と逃げようって思ってた。
それでも、逃げだした私でも、きっと遥はついてきてくれると勘違いして。
遥は私が引っ張っていくって。
夢を理由に頑張ってる姿を見せれば大丈夫だって。
――――思いたくて。
「……任されたね」
「…………うん」
遥の顔が見れない。
怖い。
全部 遥に任せてしまった私を見る、遥の目が怖い。
「やっぱり話せばわかってくれるね。……なんたって、百合好きだからね!」
もう、軽口は返せない。
遥にはかなわないって。
逃げようとした私は、……遥と笑いあうことができない。
「……勝手に言っちゃって、ごめんね」
良いよ。私は言えなかった。
「……香奈多はさ、なんか、親には話してない気がして。いろいろ、……私のこととか、…………家を、出る気なこと、とか?」
そうだよ。
ずっと秘密にするつもりだった。
「でも、それって悲しいよ」
……。
「親に言わないってことはさ、私が香奈多のご両親に会う理由がないってこと……。だって秘密にするんだもん。……香奈多だって、私が香奈多のご両親に会ったら、変なこと言うかもーって会わせようとしなくなるだろうし……」
……。
「……ってことはさ、私たちの間では、香奈多のご両親の話はしてはいけない、禁句ってことで、……もし言いそうになったら気まずくなっちゃう」
「……そんなのは、……やだ」
「うん。……私は私の親とか妹が大好きだから、こういうことがあったよって言っちゃう。……そしたら、香奈多の親はどうしてるって、遠慮なく聞くよ?」
「……うん、ごめん。本当はちゃんと話したかったんだけど、怖くて。……遥はダメだって言われるのが怖くて」
「――――そーいう、ときは!」
こんな情けないことを言ってる私にかけてくれる遥の声は明るくて。
「私がいるから!」
こんなの普通じゃん、当たり前のことだよって、子供に諭すように言う顔は笑顔で。
「私が、一緒に、言ってあげるから。……だからちゃんと、話してあげて」
……うん。
話をしよう。
私の両親に、……遥が好きなんだって。
一緒に居たいって。
ごめん、それでも好きなんだって。
遥のおかげで両親の答えは聞いてしまったけど。
改めて、私の声で。身体で。
「……一緒に寝てくれるよね?」
「……うん」
それは、どっちが言った言葉だったか。
「香奈多、おいでー」
遥に抱きつくように甘えた。
「……明日、妹ちゃんに会わなくちゃ。それで、……元に戻してって、ありがとうって伝えて、みんなに私は遥が好きだって言う」
「うん。……彼方にはすんごい迷惑かけちゃったね。……唇、奪っちゃったし」
「両親にも伝えて、……たぶん、すごく混乱してるはずだし。……でも、改めて私の口から聞く。……私は遥を好きだから、許してって」
「……私も行こうか? 香奈多って百合なんですがって」
「…………大丈夫、もう……大丈夫、逃げたくないって。……遥を見てたら思ったから」
「ふっ、惚れてもいいのよ?」
「うん、遥はかっこいいね」
友達ができた。
いつの間にかすごく好きになってた。
でも、それ以上は駄目だって。それは違うって。
女の子同士は、それ以上仲良くなるのは変だって。
そう言ってくる人は、きっと居て……。
「……遥が男の子だったら、悩まなかったのに」
「ふっ、女の子だから、良いんですー」
「……私のはじめて、あげれたのに」
「彼方ー!! 私の声が聞こえますかー!! 彼方はすごいからテレパシー能力くらいあるよねー!? すっごい告白聞いちゃったの!! 性転換の能力くらいあるよね!! あるって言ってー!! 聞いてる!?」
うるさいなぁ
一応、本編はこれで終わりです
身体は戻ったことにして、先に進みますか?
次話は遥のLOVEがあふれたせいで話の流れが変わり 完全勝利の予定です
うーん、香奈多の株をなんとかしてあげたい