実家
母親の目を盗んで百合
いまは、そんな、状況ではない
百合不足の中、お風呂回、再び
「ただいま」
「お邪魔しまーす!」
私たち二人が声をかけて家の中に入る。
遥と私の正体がばれるわけにいかない。気を引き締めていかないと。
「お帰りなさい」
家の奥から声がした。母親だな。遥がぎこちなく自分の靴を直してるのを見ながらリビングへ向かう。……そうだった、遥が先に行くんだよ。母親に私が泊まるって説明してくれ。
「あれ。……その子は、彼方ちゃんだよね、いらっしゃい」
「こんばんわ」
「今日、うちに泊めていいかな。遥が入院しちゃって、家に誰もいないの」
打合せ通りの説明を、私(遥)がしてくれる。
「いいわよ、とりあえず座って。……ご飯にしましょう」
「あ、手伝う……います」
「いいわよー、お客さんだもの座って。香奈多は手伝って」
私(遥)は席を立ち、母親の後を追ってキッチンに入っていく。
私は一人っ子なので、弟の妹もいない。なので、家の中には小さい子用の踏み台等もない。私が無理に手伝うのも邪魔になるかなと思い手持ち無沙汰になる。
見慣れた自分の家だが、いつもと視点が違うので、ついキョロキョロしてしまう。何か懐かしいような不思議な気持ちになっていると、料理を運んできた遥と目があった。
「……大人しくしてなさい」
「いや、ガチで怒られるとへこむんだけど」
「あ、ごめん。……彼方と遊びにきたような感じがして」
料理が並べられて全員が座る。
「お父さんは、まだ仕事?」
「そろそろ帰ってくると思うけど、先 食べちゃましょ」
普通に聞いてしまったが妹ちゃんが聞くことではない。母親に疑問を持たれないようにするには、悪いが私はあまりしゃべらないでおこう。
「……これが香奈多の家の味噌汁の味か。……あとでレシピを聞いておこう」
遥がつぶやいているが、悪いことではない。料理ができないというわけではないが、手際が悪いので少し遅いのだ。
家事は全般的にはできるが、遥の家は両親が共働きということもあり、教えてもらう機会は少ない。この際だから教えておこうと、ご飯を食べ終わった後に、茶碗を片してくれた遥をキッチンで呼び止める。
「……何もしないのは悪いので、お皿とか片付けます。――――香奈多お姉ちゃん、手伝って」
「うん!」
これなら自然に手伝えるだろうと判断し、遥も呼んでおく。踏み台はそれっぽい箱を探して準備済みだ。
「香奈多、もうちょっと、そっち」
「……これ以上、動けないよ。――――くっつきたいだけか?」
「ふふっ、もっと近くで見ないと。……色々、教えてくれるんでしょ?」
「お皿の洗い方はこうね。内側から外側へ――――」
「……普通に返されたら、つまらないだけど」
席を立つ気配がした、見ると母親の姿がない。トイレか――――風呂か?
「お皿拭く布巾って、これでいいの?」
「……軽く乾燥した後での方がいいよ。フライパンは邪魔だから、拭いてとっとと閉まって――――」
「あなたたち、お風呂沸かしたから入っちゃいなさい」
母親が戻ってきてた。
……風呂か。
昨日も一緒に入ったけど何もなかったし、大丈夫だよね。遥はお皿を食器棚に戻すのに集中してるし。
「おねーちゃん、一緒にはいろ!」
努めて無邪気に話しかける。
「うん、準備しようか。……着替えどれ? 部屋 入るよ」
遥と一緒に私の部屋に入る。
昨日は帰って来れなかったので軽く部屋を片す。衣装ケースを開けて、替えの服を取り出し、遥に渡した。
「どうぞ、お納めください」
致し方ないが、下着も渡さないわけにもいかない。アホな会話をすることで、変な方向へ意識が向かないようにした。
「うん、使わせてもらうね」
遥の反応も普通だ。
さすがに考えすぎか。
……となると、次に考えるのは風呂の温度。この身体は子供だから熱いお湯は苦手かもしれない。
「遥って、お風呂は、熱い派? ぬるい派?」
「――――しいて言うなら、ちょっと熱め派かな。でも、もちろん香奈多に合わせるよ。妹に合わせるのは姉の役目だからねー」
「……お風呂に入って、10数えるのを、真剣に検討するか――」
「あはは、がんばって!」
脱衣所に着き、お互いに服を脱いでいく。ちょっと緊張してきた。遥に脱いだ服はちゃんと畳んでよーって小言を言いたいが、控えて浴室の中に入る。
軽くかけ湯をして、まずはボディソープを手に取る。
「背中、流してあげるね」
ちょっと遥の声がくぐもっている。
お風呂の中だから反響しているんだろう。
後ろにいる遥は、なぜか、土下座をしていた。
――――嘘、でしょ?
何で。
私は間違ったのか?
気を許すべきではなかった?
……いや、というか。
気持ちは、想いは……。
――――はああああああ……。
「後で、妹ちゃんに謝ること!」
「……香奈多!?」
「絶対に、絶対だからね!」
ホントに謝るのは私の方だ。
まあ、いいかって、……思ってしまった。
「……強くしないでよ、小学生はでりけーとなんだからね!」
遥にスポンジを渡す。
緊張はもうしていない。
遥に全部任す。
宣言通り背中から洗ってくれる。
脚、腕、全身。
「……ん、う」
かなりくすぐったい。
ざばー。
泡を流される。
……。
…………。
ん、終わりか?
「…………私も、洗ってもらっていいかな?」
「……ああ、うん」
遥も洗ってあげる。
自分の身体だ。恥ずかしくはない。
洗い終えたので、一緒に湯舟に入る。
「「ふはー」」
声がそろう。
……。
……。
「ごめん」
謝られた。
「ホント、ごめん」
「……もう、いいから」
脱力して浮力に身を任せる。
なんか、わかってしまった。
ぶっちゃけ、くすぐったいだけだった。
危惧してた感覚はない。
小学生なのだ。
この身体は。
「……さっきまで、静かに猛っていたんだけどね、いざって時に、あれ? この身体、昨日も洗ったなって、その前も、その前の日も……ずっと、昔から」
「……」
「……むしろ、少し背、伸びたかなーって、そんな感想しか、なくなって……」
「…………」
「……ごめん」
……それが普通だ、この身体は姉妹なんだから。
「……遥おねーちゃん、頭も洗ってもらっていいかな?」
「――――りょーかい、りょーかい!」
二人で湯舟から出る。
背中に遥を感じる。
鼻歌を歌いながら、シャンプーを手の中で泡立てている遥は、いつもの面倒見が良い姉だ。……私はただの妹でしかなくて。
「彼方の髪ってねー、すっごいサラサラなんだよ」
知ってる。
「髪質が細いからかなー、フワフワで……」
そうなの?
今の私はどこまでも妹でしかない。
私を見る遥の目はやさしくて。
……今の私を見てくれなくて。
「……遥、真面目な話しよっか」
「えー、やだ」
「だって、遥は私を見てくれないじゃない? それなら私が私だって証明するために、これからの私たちの話をするしかないじゃない?」
「え、それって、……プロポーズ?」
違う。
いや、違わないのか。
私は遥とずっと居たい。
私は卑怯だから、今まで遥の好意から逃げてきた。
でも、一緒に居たくて、でも。
「私はね、夢があるんだ」
遥が私の頭を洗ってくれてる。
その手を離したくなくて。でも、このままじゃ、離れてしまう。
高校生だ。
「…………デザイナーにさ、……なりたいんだ」
進路を決めなくてはいけない。
約束をしよう。
二人が離れないために。
「だから、……高校を卒業したら、…………私はこの街を、……出る」
「あ、そうなんだ、……同棲だね?」
……おい、ついてくる気か?
その言葉をずっと探してて。
遥が離れない理由をずっと探してて。
ずっと一緒に居られる方法を探してて。
私には何もないけど、ついてきてくださいって。
言いたくて。
言えなくて。
「……頭 洗い終わったよ。……ってか話長いんですけどー、湯冷めしちゃうじゃん」
真面目な話してるって、言ってるじゃん。
予定 香「街を出る」
遥「やだー」
香「ついてきて」
遥「だいすき」
キャラが固まった
香「街を出る」
遥「同棲するけど」
香「ついてきて」
遥「話は終わりかい?}
\(^o^)/ 百合のせいで話が止まる
ちと、先を考えさせて