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帰り時

これが そうか この掌にあるものが 心か


心理回になります

恥ずかしい気持ちを伝えあってこそ百合

 ――――涙が止まらなかった。


 待合室で、ただ泣いていた。


「……生きててよかった」


 隣では変態が何か言っている。


 私に力が無いばかりに、こいつを止めることができなかった。


彼方(かなた)は再起不能にしたし、今日はもう起きないだろうから帰ろうか。……パンツ濡らしちゃったし!」


 頼むから、黙っててほしい。


 遥の母親からは『……感動した』って祝福の拍手をもらった。

 その後、遥が私を連れていくと言い出し、私もこいつを放置はできなくて、今日は一緒に私の家に泊まることになった。

 『――――将を射んとすればなんとやらですか。……彼方、お義姉さんの言うことをよく聞くのですよ』って言葉を病室を出る時に母親に言われたが、自分のショッキングな行動を無理やり見せられた私には、犯罪者の手を振りほどいてまで否定する元気はなかった。


「ねえ、香奈多。……責任、とってくれるよね?」

 

 どちらかというと、責任をとってほしいのは遥の方だ。でも手(舌)を出したのは、私の体だ。そうすると、やはり私が悪いのか。

 ポロポロ泣いている私をさすがに見かねたのか、遥が私の前に回り膝を折って目線を合わせてくれる。


「……迷惑だった、かな?」


 さすがにやりすぎたかと感じたのか、その顔が悲愴感に溢れる。ここまで嫌がられるとは思わなかったのだろう、渇いた笑顔からは涙があふれ、こぼれ始めていた。


 泣いてるのは遥も同じだ。

 

 でも、私も気持ちの整理がつかない。


 自分の感情がよくわからなくて……。今 口を開いたら、遥に何を言ってしまうかわからない。


 それでも言わないといけない。


 妹ちゃんにも言われた。話し合えって。


 私たちの気持ちは同じはずなのに、私が恥ずかしがってるせいで、また遥を泣かせている。


「……勝手にしないで」


 私は今の気持ちを伝えた。


 一生続く友情なんて嘘だ。ここで私が言い終えたら、遥はさすがに私から離れていくだろう。


「……次からは、私からするから。私の体だけど、入ってるのは妹ちゃんなんだよ。それを見せられる私の気持ちも、……わかってよ」

「……うん、うん! ……ごめんなさい――――」


 気持ちは伝わっただろうか……。


 身体に伝わる遥の体温が、私は間違ってないよって言ってくれたような気がした。


「……つまり、体が戻ったら。香奈多が私を押し倒してくれるってことだよね?」


 ――――こいつは空気が読めないのか。


 冷静になると、発情してやけに高い遥の体温がほくそ笑んでいた。


「それじゃ、早く帰って早く寝ようか。……明日は朝まで眠れないみたいだし!」


 いつものテンションに戻った遥が、スキップしながら駅に向かう。

 

 私は重い足取りで後に続くしかなかった。いや、じっさい足が重い。そういえば、私は小学生になってしまっていたんだった。……遥に追いつけない。

 走って追いかけるが、視線が低いため、周りの通行人とも目が合わなくて、相手がどっちに歩くつもりなのか検討がつかない。

 ぶつかりそうになる。周りが怖い。

 小学生って、こんな中で走り回っているのか?


「――――遥、待って!」

「ふっ、……手、繋いであげようか?」


 是非に。

 遥と指を絡める。躊躇はしない。


「……子供か!」


 ……誰の真似だよ。


 まず向かうのは遥の家。

 妹ちゃん(私)の着替えなどを持っていく必要がある。


「――――リュックはそれ使って。……下着と歯ブラシと、あとは、……そこで冷や汗流してる、謎のぬいぐるみ持ってく?」


 やめてあげて。

 そこはきっと、一般人が触れちゃいけない領域だ。


「……こんくらいかな。――――よし、かわいい、かわいい」


 子供用のリュックサックを背負った私を遥がほめてくれる。

 玄関にある姿見で、一応自分でも恰好をチェックをした。


 うん、かわいい、かわいい。


 遥が微笑ましい顔で見てるが、じつはこれは必要な措置だ。これだけ子供っぽい行動をすれば、遥も変に手を出してこないだろう。

 

 さっきの出来事で身に染みている。


 今の私では遥に組み付かれたら、逃れる術はない。


 まさか妹ちゃんにも、さっきのようなひどい感情を経験させるわけにはいかない。この身体を守るためなら幼女を演じきってみせよう。


「それじゃあ行こう! 遥おねーちゃん」


 遥の手をぎゅっと握り、満面の笑顔を向けてみる。


「はわわわ! かわいすぎるんですけどー。……彼方はしっかりしすぎて私に甘えてくれないし」

「え、ダメじゃん。……おねーちゃんはダメダメだねー♪」

「――――そうなの、ダメダメなの! もっと甘えてくれていいからね」


 考えときます。

 

 今までも押し倒されるような雰囲気はあったし、それなりに危ない場面はあった。それでも友達をやめたいわけじゃなかったし、私も好意は持っていた。

 それでも、それ以上の関係に進むのは躊躇があって、周りの視線にも、きっと耐え切れなかったと思うのだ。


 どうやら、隠しきれてなかったようだが。


 それでも、仲のいい姉に、性的な目を向けられない妹の距離感を図ることくらい、私にもできるはずだ。 


「……香奈多には悪いと思うんだけど。……()()()()()()()()()()()()が、なんか無理して、私のご機嫌取ってるようにしか見えないんだよねー」

「何だ、そうなの?」

「うん。がんばってるとこ悪いんだけど、さすがに妹には手は出さないって……。――――たぶん?」


 そこは、はっきり否定してほしかった。


 やはり遥相手に気を抜くのは危険だと判断し、遥と繋ぐ指の力を緩める。あまり力をこめると、刺激が強すぎて何をしでかすかわからないからだ。


「あれー? いつもの彼方と、握り方が違うぞー。……指先に意識が集中してしまう。……この気持ちはなに?」

「――――それはきっと姉妹愛だよ。……そんな目で見ないでね、お姉ちゃん?」


 その緩んだ顔は人様に見せられない。


 通行人には仲の良い姉妹にでも見えると思うから大丈夫だろうけど、そういえば、向かっているのは私の家なのだ。両親は香奈多と彼方が姉妹ではないことは知っている。(ややこしいな)

 今までも、私たちが会っているところは見ているが、そんな顔で見てたことは一度もないはずだ。

 

 最悪、私(遥)の中身が違う人だとばれてしまう。


「……遥、お願いがあるんだけど。……私(遥)が私じゃないって、親には知られたくないんだ。……だからその顔は勘弁してほしい。遥になら、ホント……ホント! ギリギリだけど! ……この妹ちゃんにはそういう目を向けないでほしい……」

「まっかせてー!」

「さすがに小さい子を好きだとは思われたくない。……変に疑われたくない。……私が好きなのは遥だから」

「……うん」


 ようやく、しおらしくなったか。


「私は、遥と、ずっと居たいから……」

「……うん!」

「――――だから、警察のお世話になるようなことはしないで!」

謎のぬいぐるみは、もうでてきません


異能バトルを書きたいわけではないので

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