覚醒
そろそろ物語も佳境に入ったので、更新スピードが落ちます。
ノリと勢いで書いてたら、着地地点がとんでもないところに行きそうなので。
ぴぴぴぴ!
いつもと違う目覚まし音で目が覚めた。
「んうー」
目の前には目をこすりながら丸くなってうなっている遥がいる。昨日は抱き合ったまま寝てしまったみたいだ。
「あー」
今度はぐぐっと伸びをして、腕を伸ばす。私の顔にぶつかるが関係ない。頑張って起きようとしている姿は、まるで天使のようだ。
「んふふー」
……だが、その目には、邪気が戻っていた。
「香奈多、早く行かないと学校に遅れるよ」
そうだった、自分の家ではないので登校ルートが違う。最寄り駅も違うから余裕を持って行かないと。
「早く着替えないと! 昨日寝間着を貸したよね? ……それを渡してもらえるかな?」
――――なにを、するつもりだ?
「……ふへ」
「――――今からすぐ洗うから! 洗濯機借りるよ!?」
「残念、そんは時間はないのだよ。今から出ないと遅刻だよ。あー、怒られちゃうなー。優等生の香奈多さんが、反省文書いて、病院の面会時間に間に合わなくて泣いてる姿が目に浮かぶなー」
「――――謀ったな!」
「ふっ、大丈夫! ちょっと疑似的に、香奈多といちゃいちゃするだけだから!」
ホント、勘弁してください!
……高校には、わりと余裕で着いた。
「はよー」
それぞれが朝の挨拶を交わしながら、だんだん教室に人が増えていく。
「香奈多、おはよー。 今日も顔が怖いねー」
いきなり失礼なことを言う奴がいるな。……でも、妹ちゃんにも言われたこともあるし、気休めに自分の頬を軽く揉んでおく。
「あはは、香奈多ってじつはおもしろいよね」
前の席に友達が座りながら声をかけてくる。
「……来るときも見かけたんだけど、なんかいつも、朝って威圧感が半端なくて声かけづらいんだよねー」
私の指の動きが止まった。そんなにか、ちょっとショックだ……。
「それなのに、遥がギリギリに登校してきたらね、顔がでれーってなるって、ねえ? ……つまりそういうことでしょ?」
やめて、変に分析しないで。
「遥、来ないね。今日も休むのかな?」
「ああ、昨日から入院してる。……具合悪いんだって」
「そうなの? 言ってよー。……何で知ってるの? ……愛か」
「ちがう! 昨日、スマホに連絡来て――――」
「入院してるのにできるの? ……ああ、親からか。……親、公認なの?」
「……ホームルーム始まるよ」
朝の喧騒は授業が始まるとどこかへ消えた。
学校が終わったら遥と一緒に病院に行くつもりだ。待ち合わせ時間は決めてないけど、学校が終わる時間はだいたいわかってると思うから言ってない。……というか、私の寝間着を手放さない遥と、あれ以上あの場に居たくなかった。
ぴこん!
ぴこん! ぴこん!
……授業に集中。
ぴこん! ぴこん! ぴこん! ぴこん!
『ひま、なんですけどー』
……遥から着信。何度送ってくるつもりだ。
「でれー。……嫁かい?」
……前、見なよ。
「香奈多おねーちゃん、おかえりなさい!」
学校が終わったのでスマホをいじりながら校門へ向かうと、そこで妹ちゃん(遥)が笑顔で待っていた。
「……妹ちゃん」
「やー、遥って呼んで!」
「子供か! ……っていうか、こんなとこで呼べるわけないでしょ」
遥が私の腰に抱きついてくる。
……ちょっと心配になってきた、精神は肉体に宿るって言ってたのは誰だっけ? このまま元に戻らなかったらどうなるんだろう。戻ったとして、もしも遥がこのまま子供っぽくなってしまったら……。
「香奈多-、新しい嫁ー?」
ちょうど帰りがけの友達が、すれ違いざまに不吉なことを言ってくる。学校は終わったばかりだ、人通りは多い。
「そうだよ! 昨日は一緒にお風呂入ったし、一緒に抱き合って寝たよ?」
遥が答えるなよ! そして、それだけは言うな!
妹ちゃんの体を抱きかかえて、私たちはその場から逃げ出した。
――――前言撤回。
遥は純粋無垢な子供のままでいて欲しい。
「……抱いたまま走られると、結構怖いんだけどー」
「頼むから、変なことは言いふらさないで」
「もう遅いと思うけど。きっとみんな知ってるよ?」
「まさか、今までも何か言ってたの?」
「見ればわかるよ。……さっきだって、怖いお姉さんが歩いてきたなー、しかたないけど、話しかけてみるかーって、声かけたら香奈多、満面の笑みだもん」
嘘だ。
「でも、その笑顔を私にしか向けてくれないのは優越感を感じる……」
私は明日からどんな顔でクラスメイトと会えばいいんだろう。
でもさっき友達と話してたのは私と妹ちゃんだ。遥とは何でもないよって顔をすればいいだけの話か……。
それはそれで、小学生となんて噂されたらやばいか。
「将を射んとすればなんとやらってね、まずは香奈多が百合ってことを広めないと」
外堀の工事が着々と進んでいるようだが、遥の口から否定してもらわないと始まらない。まずは遥を元に戻すの先だ。
「もう病院に着くから静かにね。中では絶対に走らないこと」
遥の手を引いて病院の中に入る。
たぶんないとは思うけど、いきなり病室が変わってるかもしれないので、一応受付に聞いたら病室は変わってないとのこと。昨日も来たけど、病室のドアを開けるときは緊張した。……馴染みのない場所だからだろう。
「あ、香奈多さん。……きてくれたんだ」
妹ちゃんが目を覚ましていた。ベッドから起き上がれてはいないが意識はある。
「――――彼方!!」
遥が遥(妹ちゃん)に駆け寄る。
やはり心配だったのだろう、感動的な姉妹の再開だ。
……一方、私はというと。
自分の顔が熱くなっているのが、頬に触れなくてもわかる。
遥が起きて、動いていた。
遥の声を久しぶりに聞いた。
……私は、いつから、恋してたのだろう。
「しんぱいをかけて、すみません。……おねーちゃんは、だいじょうぶだった?」
「……ごめん、いろいろ汚しちゃった。大丈夫、また香奈多に洗ってもらうから。……でもそれじゃ汚れは取れないね」
否定したいけど、出来ない。――――それ以前に、今の顔じゃ二人に近づけない。
「おねーちゃん、香奈多さんとは、ちゃんとはなしはできた?」
「もちろん! 結婚してくださいってプロポーズ受けちゃった」
「そうですか、……それなら、もういいですよね?」
「……うん、そうだね!」
二人が勝手に話を進めていく。
さすがにプロポーズ云々の話を聞いて黙っているわけにはいかないので、妹ちゃん(遥)の片腕を手に取って引いた。驚いて私を見つめるその目には、私はどんな顔をしているのが映っているのだろうか。
――――突然、眩暈がした。
目の焦点が定まらない。
体がふらつく。倒れる。
倒れた先は、病室のベッドのようだ。なんとか腕に力を込めて立ち上がろうとする。
「――――えっ」
……ベッドが、高い。
なんとかよじ登れる……くらいしかない。
周りも……大きくなっている?
「……え、まさか」
隣には片膝をついて、立ち上がろうとしている私がいた。
「――――大丈夫だった彼方? 地震? 一瞬 揺れたよねー。……あれ?」
私を心配してくれる私がいた。これは……。
「……しっぱい、しちゃいました。香奈多さん、お姉ちゃんにさわらないでくださいよ」
やっぱりか、また入れ替わっちゃったのか――――しかも、私のせいか!
私の中が遥で、妹ちゃんの中が私か。それで妹ちゃんがそのまま遥、と……。
……でも大丈夫だよね。
妹ちゃんはまだ起きてるし。
「……すいません、力をつかいすぎました、あとは……まかせます。……がくっ」
ガクッて、口に出して言うなよ。……って、その芸風、妹ちゃんも使うの!?
――――それよりも今は遥だ。妹ちゃんは一日寝てたら起きたようだし。
遥をこのまま放置するのはマズイ。
「……遥?」
恐る恐る聞いてみる。茫然としている私(遥)は動く気配はない。……できればこのまま縄で縛って押さえつけておきたいが……。
「――――彼方、ありがとう。私は長年の夢をかなえることができた」
やばい! こいつ動く気だ!?
「――――遥の声が聞こえたんだけど!!」
病室にいきなりの乱入者!
この混乱してる時にだれだ!?
「お母さん!?」
遥と彼方の母親だった。
さすがに娘が入院していれば、様子を見にも来るだろう。
――――だが、今は最悪だ。
この人はやばい。
私に強く当たってくる。……そんな、母親が自分の友達にひどいことをする姿を、遥に見せるわけにはいかない……。
「――――遥!」
母親がベッドで寝ている遥(妹ちゃん)に駆け寄る。
「う、……おか……さん?」
わずかに遥(妹ちゃん)が反応する。
「遥、大丈夫なの?」
「だいじょ、ぶ……つか、れただけ」
妹ちゃんは話すのも辛そうだ。
「そう、良かった。……香奈多さん?」
母親が振り返って私(遥)の方を見た。私(妹ちゃん)は遥の腰に抱きついて、なんとか母親から引き離そうとしているが。……今 私は小学生だ。私(遥)の体はびくともしない。
「――――あなたがちゃんとしないから、遥は疲れて、倒れてしまったんじゃないの!?」
遥がその迫力に押されて、一歩後ずさる。
「あなたが遥と、……結婚してくれないから!」
私は何も聞いていない!
考えるより先に体を動かせ!
「――――ふっ」
遥が負け時と一歩前に出てしまった。……頼むから何も言わないで。
「その話は終わりましたよお母さん。……昨日、二人でいちゃいちゃした結果、悩んだ末に、……結婚することに決めました」
「……ようやく、その気になってくれたみたいね」
「でも、遥が、私のプロポーズを受けてくれるか……」
「大丈夫よ、私の娘ですから。きっとOKしてくれるわ」
私の体で適当なことを口走らないでもらいたい。
それにしても遥は最初はたじろいだものの、後は流れるように会話してるな。もしかしてこの母親、家でもこうだったのか?
「彼方も疲れたでしょ。でもお姉さんが一人増えたからもう大丈夫よ」
お母さんが妹ちゃん(私)の体を抱きしめてくる。
……あったかい。
大きくなってから、母親に抱きしめてもらったことなんてなかったから。
「ふふっ、彼方ちゃんよかったね」
母親の腕の中で安心しきっている私に遥が声をかけてくる。
「今のあなたじゃ、……私を止められない」
――――ぞくっとした。
しまった! 母親に抱かれたとき、遥からは手を放していた。
わたしのおかあさんは、へんなひとだとおもいます。
ごはんのときになると、おねえちゃんに、いつけっこんするのっていってます。
でもおねえちゃんはまだ、こうこうせいです。まだはやくないかなっておもったけど、それがふつうだそうです。
あいてはおんなのこだそうだけど、それもふつうだそうです。
おかあさんがうるさいので、おねえちゃんふたりのこころを、いれかえました。
これではなしあったら、けっこんして、しずかになるって、おもいました。
つかれたので、きょうはびょういんのべっどでねました。
ふたりは、けっこんするそうです。
あんしんしてねてたら、くちのなかにあめだまをいれてくれました。
なんかへんなあじがしたので、はきだそうと、したでおしたら、もっとおくのほうにはいってきました。
くるしいからやめてっていおうとしたけど、あめだまがおくのほうに、どんどんはいってくるのでいえません。
くるしくて、くるしくて、いきができなくって、これでしんじゃうんだっておもいました。
めをあけたら、かなたおねえちゃんが、うるんだめでこっちをみてました。
ひどいことしないで。
しんじてたのに。
つらくて、くるしくて。
こんなせかいは、ぜんぶこわそうと、そのとき、きめました。
妹ちゃんの闇落ち回でした。
飴玉は喉に刺さると苦しいから仕方ないね(すっとぼけ)