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病室

鬱展開なんて書きたくない。次からは百合しかない(断言)。

『ごめん』


 昨日 遥へ妹ちゃんのことは気にするなってメールを送ったら、返ってきたのはそんな素っ気ない一言だけだった。勇者になったんだからこんなことで落ち込むな。


 遥は、今日 学校を休んでいる。

 

 風邪か? まさか……昨日のことのせいで休んでいないよね。


 そんなことを、学校が終わったら久しぶりに遥の家に見舞いに行くかと考えながら、午後の授業を受けていた時だった。


 ぴこん!


 授業中の教室の中でスマホの小さな着信音が鳴った。

 私じゃありませんよと無関係を装いながら、私は自分のスマホを教師に見えないように操作する。新着メールに着信一件。差出人は思っていた通り遥からだった。


『入院した 〇✕病院 〇✕号室』


 頭の中が冷えた。


 ――――何で?


 昨日ゲームを落ちた時が夜だから、交通事故ではないと思う。

 

 それとも、その後に外に出た?


 もしかして、病気?


 終業のチャイムが鳴り、学校が終わる。


 何も考えない。


 真っすぐにメールに書いてあった病院へ向かう。


 心臓の鼓動が速い。


 いつもはいらない情報までだらだらメールに書いてくる奴なんだ、遥は。

 そのことがよけいに悪い考えを浮かばせる。





 部屋番号はメールに書いてあったから、病院の受付には寄らずに直接病室へ向かった。


『星海谷 遥』


 病室のプレートに遥の名前が書いてある。

 個室だった。……もう泣きそう。


 病室の扉をノックする。


「……どうぞー」


 遥の妹ちゃんの間延びした声がした。

 

「……お邪魔、します」


 病院ということで小さな声であいさつをし、重いスライドドアを音を起てないように開ける。

 狭い病室の中で妹ちゃんが来客用の椅子に座ってこっちを見ていた。


 問題の遥はというと、ベッドの上で入院着を着て寝ていた。心電図のモニターや呼吸器などは付けてはいない。点滴の管だけが、その腕に刺さっているのが見えた。


「香奈多……さん、来たんだ」

「そりゃ来るよ、遥はどうしたの? いつ寝たの、たたき起こしてもいい?」

「えっ、……やめてください」


 妹ちゃんがジト目で見てきた。

 その反応に私は胸をなでおろす。妹ちゃんも悲観的な表情はしていないので、たいした病気ではないと思いたかった。


「……えっと、お姉ちゃん? 起きれないみたいで……ずっと寝てて。さっき少しだけ話ができたんだけど、あー……(ちから)を使い果たしたって?」


 なんだそれは?

 言いたいことが多々ある。


 来客用の椅子を引っ張り出して遥の頭の横に座る。眼球運動で狸寝入りかはわかるらしいが、あいにく私は医者志望ではないのでわからない。


「……遥?」


 ゆっくりと、遥の耳に顔を近づけて囁いてみる。

 

「遥」


 もう一度、呼ぶ。ここまで顔を近づけてるのに反応されないと悲しくなるなあ、こりゃ。


「うーん、起きないねえ」


 乾いた笑いをしながら妹ちゃんを見ると、なぜか真っ赤な顔をして驚いた表情をしていた。どうした? 今までもこんなやりとりは見てたでしょう?

 そんな表情の妹ちゃんを見ると、昔の遥を思い出させる。


 ――――これは八つ当たりだ。


 そんな顔をするな。

 遥みたいな表情でこっちを見るな。


 遥が起きない。

 私が声をかければ、すぐに起きだすと思ってた。

 遥にとって、私の声は薬だ。

 ずっと一緒にいられると思ってた。


 もう、限界だ。

 声を抑えることができない

 それでも、私も泣き声で遥が目を覚ましてくれるなら。


「……え、なんで? いや、ごめん! ――――ごめんなさい! 私のせいだ!」


 お前のせい? 何を言ってる。

 もしかして昨日、あの後何かあったのか?


 憎悪が溢れる。

 気持ちが、抑えられない。


 ……でも、この子は。


 私が、好きな人の、妹で。


「ごめんなさい!!」


 謝りながら、抱きついてくるこの子は、妹で。


「――――ごめん、取り乱した」


 私の第一声は謝罪。

 謝る理由は、まあ、いろいろだ。


「……私の方こそ、心配かけてごめんなさい」


 妹ちゃんにはさっきのことで聞きたいことがあるが、終わった話だ。蒸し返したくない。

 それに、本当に何か(・・)があったとして、それで遥が起きなくなるなんてあるわけないし……。


「……もう外は暗くなってきてるけど、妹ちゃんはどうする? お母さん、ここに迎えに来るって言ってた?」

「仕事終わりに寄るって言ってたけど、遅くなるかもって……」

「それじゃ、一緒に帰ろうか?」

「……はい!」

 

 妹ちゃんに手を差し出す。

 もう感情は制御できる。遥ほどではないけど、ずっと一緒にいたんだ。妹ちゃんだって、私の大事な人に違いない。


 その手を妹ちゃんは呆けた目で見てる。


「……は?」

「いや、手をつないで行こうよ。もう暗いし、危ないよ?」

「……え?」


 どうした?


 さっき決めたのに、またイライラする。

 その表情は本当に遥みたいで……。


「……失礼します」

「顔真っ赤だよ。どうしたの、遥に病気うつされた?」

「……いえ」


 ――――っってぇ! 手を、恋人つなぎに、するな!


 絡んでくる指はちっさくて、振りほどくわけにはいかない。手を先に伸ばしたのは私だ。


「えへへ」


 妹ちゃんがすっごく嬉しそうに笑う。私は少し抗議するつもりで軽く睨む。

 たしか昨日、この顔が怖いって言ってたよね?


 あんたの姉が、そこのベッドで寝てて、目を覚まさないんだよ!

 

「行こう!」


 そんなことはお構いなしに、妹ちゃんが私を引っ張って病室を出ようとする。後ろ髪を引かれるように私は最後に遥の顔を見た。


 おやすみ。


 違うか、また明日。

 絶対、来るよ。





「……そういえば妹ちゃんは、夜ご飯食べた?」

「いえ、まだです。でもお母さんが、ご飯を作り置きしてくれてたので」


 病院を出て駅に向かう途中、妹ちゃんとなんて事のない会話をする。ちなみに、手はずっと恋人繋ぎだ。妹ちゃんの真っ赤な顔を見ていると、こっちまで変に意識してしまう。

 たまに手を繋いだまま大きく振って、姉妹みたいに仲良く歩いていく。


 こんなテンション高い子だったか?


 駅は帰りの時間帯で混雑していた。

 私は妹ちゃんとはぐれないように、手を強く引き妹ちゃんの体を抱き寄せるように前に持ってくる。


「――――あ、あー!」


 腕の中で感極まった声を出している妹ちゃんはいい加減無視。

 切符を買ってささっと帰ろう。……明日の準備もしないといけないし。


 ……問題が起きた。


 妹ちゃんの手が券売機に届かないのだ。


 私が手を出して、代わりに買ってしまえばいいのだけれど、こちらを見上げ、腕を広げて近づいてくる妹ちゃんは何かを期待している。


 抱き上げろと?

 

 もうあきれ返っている私は、感情を殺して妹ちゃんを抱き上げる。

 顔が近い。軽いなー、こいつ。


「――――ふああああぁぁ!」


 大きな声を出すな!

 人攫いにでも間違われないように、軽く周りに会釈をして逃げるように去る。


 ……。


 ……………。


 ……こいつ。


 もしかして、遥なんじゃないか?


 腕の中で呆けてる顔は、遥そっくりで。

 そりゃ、妹なんだから顔が似てるに決まってるんだけど。


 その表情が……どうしても遥で。


「……ごちそうさまでした」


 そのアホなセリフは、遥がいかにも言いそうなセリフで……。 

遥の苗字も変更。

もう出てこないと思うけど。

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