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「ほんっとに、男のことしか頭に無さそうな……」
若い女と、その女友達の様子を見ながら、年取った男が吐き捨てるように言った。若い男はその言葉に反応し、年取った男を見て、
「そう? あれでも色々、考えてるかも知れないじゃん」
と言った。
「そんなわけないやろ」
「いやいや、大変なんだって、ああいう子も。俺も昔、一度ああいう感じのギャルと付き合ったことあるけど、その子、とんでもなく美人で頭もいい二個上のお姉さんがいてね。おかげでその子、コンプレックスがすごくてさ。清楚なファッションじゃとてもお姉さんにかなわないから、それは避けて、めぐりめぐってギャルやってた」
「めぐりめぐってギャルにか」
「うん。中身は全然、大人しめで普通の子だったよ」
「ほうか」
「うん」
そこで年取った男の声色が変わった。
「ちゅーかお前がバイだってこと、初めて知ったんやけど」
低い、落ち着いた声ではあったが、どこか怒りのこもった、そうしてそれを必死で抑えている感じのする口調だった。
「そうだね。言ってなかったからね」
若い男の乾いた声が返ってきた。
「言ってなかったって、お前な……。あんなあ」
年取った男の声は怒りで震えだした。若い男の方を向き、キッとにらみつけて続けた。
「誰やねん、あのおばはん」
「おばはんじゃないよ、ウエハラさんだよ」
「知らんやん」
「三十七歳」
「そこそこおばはんやないか」
「……」
「どこで知り合ってん」
「ジム」
「お前が勤めてる?」
「うん。向こうはジムの会員さん」
「いつごろ知り合ってん」
「いつ? うーん、一年前くらいかな」
「で、なんや、もう、そういう関係なんか」
「うん」
若い男は特に気まずさも感じていないようで、淡々と、むしろつまらなげに答えていく。その中分けの黒髪を、浜風がなぶった。
「なんでそんなことになってん。今来たお姉ちゃんみたいに若くて見た目も良いならまだしも、あんなおばはん。五十五点くらいの顔しよってからに」
「……それは、いろいろ買ってくれたりするから。服とか、靴とか」
「そんなん、いくらでもワシが買うてやっとるやん」
「いや、なんだか悪くて」
「悪いって、何がやねん」
「最近店も景気良くないんでしょ? それなのに、悪いからさ」
「お前、そんなんあんなおばはんとデキとるほうがよっぽど――」
年取った男がだんだんヒートアップしてきた、その時だった。
「ユウト!」
二人の左方から金切り声があがった。男たちがそちらを向くと、母子の母親が、叫び、ビーチチェアから立ち上がり、裸足のまま海へ向かって走り出したところだった。母親の走っていく先に目線をやると、その子どもの兄の方が、波打ち際から数十メートル離れた沖で、首から上だけを水面から出し、ぷかぷか浮いて、
「たすけてー」
とこちらに向かって叫んでいた。