3
「まあまあやな」
「そうだね」
二人はそんなことを時々言い合うだけで、後はほとんど黙って焼きそばを食べた。食べ終えて、余ったビールをだらだら飲んだ。ちょうどお昼時で、左隣の母子も昼ごはんを済ませたところだった。するとまた兄妹して、
「もう一回海行こうよ、今度は浮き輪無し」
「えー、リン無理だもん」
「リンちゃんは浮き輪持っていっていいよ、僕はスイミングで平泳ぎ覚えたから、全然遠く行けるし。ほら行こう」
「あ、待って」
などと言い合い、海へ走りだした。その後を追うように、母親が、
「お兄ちゃん、あんまり遠くに行っちゃだめだよ!」
と声を掛けた。
そんな母子の様子を二人の男が黙って眺めていると、今度は若い男が左側から声をかけられた。
「あのー……」
見ると、男たちの右隣の、三人組の若い女性客のうちの一人だった。いつのまにか自分の場所を離れてそこまで回り込んできていたらしい。
若い女は二十歳前後といったところで、小柄で健康的に痩せており、白と水色のストライプ柄のビキニを着ていた。肌が透けるように白い。今声をかけた若い男に輪をかけて顔が小さく、顔のパーツは見事に整い、意思の強そうな瞳が印象的だった。髪は明るい茶髪で、後ろでひとつに束ね、右の前髪を少しだけ、顔の脇に長く垂らしている。メイクは濃い目で、いわゆるギャルだった。
若い男が女の方を振り見て目が合うと、若い女はニコッと笑って小さな唇から白い歯を出した。そうして若い男のすぐ左隣に、細い脚を折り畳んでしゃがみこんだ。するとほとんど肉の無い腹に皺が二本寄り、艶かしく息づいた。
「どこから来たんですか?」
明るい声で若い女は言った。唐突な質問に、若い男は苦笑しながら、
「え? 東京ですけど」
「あ、私も東京です! 東京のどこですか?」
「新宿」
「新宿!? すごい、住んでらっしゃるんですか」
「まあ、いちおう」
「すごいですねー、私なんて、王子神谷です」
「そうなんだ」
「てゆーか、お兄さん、めっちゃイケメンですよね。あんまりかっこいいから、声かけちゃったんです。……あの、ビール、まだ飲みます? よかったら、一緒に――」
若い女がそこまで言ったところで、年取った男が割り込んできた。
「お姉ちゃん、悪いけどもな、こいつと大事な話があんねん。だからまた今度にしてや」
若い女はぐっと黙って、年取った男をにらんだ。しかし、年取った男の、サングラスの奥からの強い視線を受けてたじろぎ、垂らしている前髪を一回かきあげて立ち上がった。
「じゃあ……」
若い男に名残惜しそうに声をかけた。
「うん」
若い男は興味無さげに返した。若い女は右方の自分が場所取りをしているところへ去っていった。そこではシートの上で、なりゆきを盗み見ていた女友達二人が、「どうだった? どうだった?」とはしゃいで若い女を迎えいれた。