ダンスが2人とも下手なので
前回から大分空いてしまい申し訳ありません(汗)
暦の上では春になったそうです。
花粉を感じますね…。
パンパンパン! パンパンパン!
ここはお城のダンスホール。
ダンスの先生ミセスマダム(名前なんだよ?!)が、両手でリズムを刻む。
その歯切れのいい音とは裏腹に、私とアレクはギクシャクしながら、お互いの足を踏まないようにギリギリの攻防をしていた。
「ぃにっさん、ぃちにっさん、ぃちにっさん、はい、はい、はい!」
ミセスマダムの一癖ある手拍子に合わせて、アレクとダンスもどきを踊る。本当にこんなんで本番(婚約披露パーティー)を迎えられるのだろうか…。
というか、そもそもなんでこんなに早く婚約発表パーティーをすることになったんだっけ…?
私は、気が遠くなるように足を運びながら、この1週間を想った。
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学園生活が始まって、1週間。
当初の思い描いた予定が随分くるった気がする…う……ん…何故………
1日目。アレクの想い人、ミリア様と顔見知りになった。ただ、流れで友達になってはみたものの、これ、今後どんな風に私、悪役すればいいのかな?ミリアと私は仲がいいのに、アレクの事で嫉妬して、今後彼女を苛めるって展開?…無理ない???
やっておいて、すでにやってしまった感が半端ない。
2日目。友達になったミリアを誘って、アレクの練習を見学しにいった。もちろん、私は彼にそこまでの興味はないので、自分の読みたかった本を2冊持って、観戦する。
…しかし、読書する片手間にみた練習は、まだ成長途中の若者たちの訓練にしては厳しすぎる。まだ骨格がしっかりしていないうちの、過度の訓練はいただけない。あれは身体を壊すし、場合によっては通常生活に支障をきたすこともあるだろう。いかん、いかん。またつい前世の知識が出てしまった。でも…私の担任、保健医だったよね?使えるものは使って、この酷い訓練を改善させよう。と、頭の片隅に止めておく。
3日目。昼食をミリアとアレクと3人で摂る。ミリアの取り巻きは、彼女がアレクとお昼を摂ると聞いて、「私達は遠慮致しますわ。」とか言って、何処かにいってしまった。が、あたしは遠慮せず一緒に摂る事にした。しかし、すぐに何故取り巻きが遠慮したのかが分かった。2人の親密な会話にまったく入っていけないのである。…まぁ、いいんですよ。だって、この2人をくっつける為に、私はアレクと偽装婚約するんですもん。でもさ…たださ、やっぱり、居場所ないな~なんて思っっちゃいますよ。なんて思っていたら、ミリア達からは見えない食堂の柱の影から、彼女の取り巻きが私を指で呼んでいた。…私、曲がりなりにも王太子妃の子供なんだけどな~なんて思ったけど、無視したところでしょうがないので、自分のランチを前世の給食のように最速で食べきり席を立った。
で、彼女たち取り巻きさんたちの話しは、まぁ要するに“ミリア様の恋を邪魔しないで。”とのことだった。
私は、まだ公表していない“アレクとの婚約”の話しを彼女たちに話そうか迷い、やめた。
彼女たちの助言を無視して、ミリアからアレクを奪った最低な女っていうポジは、目指すべき悪役令嬢の一歩だと思ったからだ。
4日目。最近、寝る間も惜しんで本を読んでいる。いや~この世界。前世と比べても色々違うのだが、生まれ育ったこの国以外、国が変われば色々違う。他国の観光地とか風習、特産品等、知れば知るほど楽しくてしょうがない。昨晩もベッドで読書していたら、空がしらんで朝になろうとしていて慌てて仮眠をとったのだが、やはり足りなかった。
ランチを一人で摂り、学園の日が当たる広場で本を広げていたら、いつの間にか寝ていた。
授業開始の予鈴の鐘で、びっくりして跳ね起き、午後の授業に向かったのは失態だった。やはり、睡眠はちゃんと取ろうと思った。
5日目。やはりアレク達の訓練内容が気になって、クロード先生に一度確認してくれと言ってみた。前世でも専門ではなかったが、小学生の運動クラブをみていたこともあったので、あの訓練教官のやり方は良くないとすぐ分かる。
私が国家権力を使って改善を試みてもいいのだけど、やっぱ角が立つよね~。ってわけで、医学保有者のクロード先生が見て、改善が必要ならあの偉そうな訓練教官に言ってもらうことにした。というわけで、この日の放課後、来てもらったのだが、やはり結果は、あの訓練内容は過酷過ぎるということになった。クロード先生の働き掛けで、校長も動いてくれて、訓練内容の見直しをされることになったらしい。私は、クロード先生に闘技場でお礼を言うと、先生は「私だけでは、変わりませんでしたよ。貴女が動いたから、代わったのです。」とお世辞をもらった。…王太子妃の子供という権力は、自分が思う以上に強いらしいと私自身も自分の認識を改めることになった。
6日目。この日はとんでもなく一番最悪な日だった。以前会った時も気に食わない態度だったが、再度会ったイアン=ジョービス生徒会長は、やっぱり高慢チキな嫌な奴だった。
人の顔を見るなり、鼻で笑ってこう言ったのだ。
「君の母親は、王太子妃なのか。」
イラつくが、表に出さずニッコリ微笑んでやる。大人の対応!
「………何か?」
「まるで夢物語のようだな。そうだ、君はもっと母親を見習うべきだな。」
「?」
「外見を磨き、勉学などそこそこに、貴族階級を渡っていけるだけの社交性だけを身につければいいだろ。」
「なっ…。」
明らかに見下したような彼の表情に、そのすべてに、私の怒りが脳天にスコーーーンと突き抜けた!
分かる?!怒りって、腹にたまるだけじゃないね!怒りが急速に沸点超えると、脳に響くの。
そう、これが世に言う“キレる”ってヤツかしら。
いやね~、近年の子は、キレる子が多くて~なんて、前世の私はそれなりに若い部類だけど、おばさんじみた事を思ったこともあった。でも今、私が“キレる人”になってしまった。
「あぁ。そうか。私に言われなくとも、君は母上の教えを守っているのだな。…ミリア嬢の大事な…なんと
言ったか、あの平民。そうそう特待の騎士候補生。そいつとミリアの仲を引き裂こうとしているのだろ?ははは、ミリアも人がいいから可哀想に。でも、問題ない。君は王太子妃の子供。権力でミリアから奪えばいい。そして、ミリアは私g「 …ふざけんな 」」
イアン生徒会長様の言葉を遮るように、呟いた。
自分でも驚く程、低い声が響いた。そして、私と対峙する彼を見上げる。
私の事はなんとでも言えばいい。でも、母の事は。
母の事だけは、侮辱されて黙っていられなかった。
「…私の事はなんとでも言えばいい。でも、母の事は。母の事だけは、あんたに語る資格はない。……ここが
学園で命拾いしましたね。一歩でも学園を出ていれば、不敬罪でひっ捕らえてその首跳ねてやったのに。」
私の言葉と声の響きで面食らったイアンは、目を大きく開けたが、その顔をすぐ歪めて笑い出した。
「はははははは!!!君は、面白いっ。私の首を跳ねるか!……そこまで怒るということは図星なのだろ?ミリアから男を奪う王太子妃の子供!!図星を差されて怒るとは!…もう一度城に戻って、社交教育のやり直しをした方がいい。これは忠告だよ。」
見当はずれな事を言い出す、この馬鹿な男を見て、ますます頭に血が上る。
そして、私は大きな声を張り上げた。
「さっきから的外れな事を言う先輩ですね!だいたい、ミリアのアレク、ミリアのアレクってみんな決めつけすぎでは?誰がアレクがミリア様の者になったと言ったの?」
あーーーイライラする。
「アレクは私の婚約者だっての!!!」
あ
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そこまで思い出して、我に返った。
「っいってーーーーーーーー!!!」
やっちまった…。
私は、アレクの足をおもいっきし踏みつけていた。
あの時のイライラを乗せて足を踏んでしまったのだから、そりゃ痛い。
騎士訓練生のアレクも涙目になって蹲ってしまった。
私も慌ててしゃがみ、アレクの顔を覗き込んだ。
「アレク、ごめん!悪気はないのよ!!」
「……悪気があったら、こんなことすぐにやめて宿舎に帰ってる…。」
まだ痛むのか、アレクは顔を歪ませて減らず口を叩いた。
「先生、すみません。少し休憩させて頂いてよろしいでしょうか?」
私は、アレクが立ち上がるのに手を貸しながら、ミセスマダム先生を振り返った。
すると先生は、息をついて私たちを見る。
「本当なら、今日一日でこのレッスンは終わりでしたのに…。ここまで、お2人ともダンスが苦手だとは思いませんでした。まだまだ練習が必要ですねぇ。ですので、学園の授業が終わり次第また練習致しましょう。」
「ミセスマダム先生。俺、いや、私は授業後は訓練があります。」
「今は、訓練より婚約披露パーティーが優先ではありませんか?」
細いフレーム眼鏡を上げながら、アレクを睨むミセスマダムに、私も口を開いた。
「ミセスマダム。確かに婚約披露パーティーが、今の私達の優先事項なのかもしれません。しかし、彼は騎士訓練生。この国を守る騎士になるために訓練されているのです。私との婚約で、他の騎士訓練生の方々から、訓練が疎かになったと思われたくありませんわ。」
「しかし、婚約披露パーティーまで時間はありませんわよ?」
「そうですね。ですので、空き時間を駆使して練習しますわ。頑張りますので、またご指導ください。」
そういうと、ミセスマダムはまだ何か言いたげな顔はしたけど、しぶしぶ頷き退出していった。
「ごめんな、庇ってもらって。」
アレクは、先生が退出していった扉の方を見て、私に言う。
「いやいや。足大丈夫?元話と言えば、私が悪かったのよ。まさか、こんなに早く私が婚約者を貴方に決めたと知られてしまうとは…。」
「…。まぁ、あれだけ大声で、婚約者宣言すりゃしょうがないんじゃね?」
明らかに、6日目の出来事を口にしたアレクを苦虫を噛み潰したような顔でみる。
「……不徳の致すところです。」
しょうがないじゃないか、私の落ち度だ。
ここは素直に謝っておこうと頭を下げると、アレクは予想外に優しく大きな手で頭をポンポンと叩いた。
あの時の苛立ちや怒りが多少緩和されていくのを感じて、ふうと息を吐いた。
「しっかし、婚約披露パーティーか。」
私に言う感じでもなく、呟いたアレクを見た。
このパーティーで、私達の(主に私の)計画が動き出す。決して、失敗出来ない計画が。
「…なんか変ね。」
「変?」
アレクが私に踏まれた足の方の足首を、クルクルと回しているのを見て、メイドに用意させていたお茶を飲むためにチェアに腰かけた。
「だって、私も貴方も貴族の血なんて一滴も入ってない。なのに、私達の為に、この国の貴族達や近隣の諸外国までもが集まるのよ?元平民と騎士候補生の婚約の為に。」
「はは、確かにな。でも、俺達だって律儀だ。そのパーティーの為に苦手なダンスを必死こいて練習してる。」
「ふふ、確かに。根が真面目なのね~。」
アレクの砕けた物言いに、私も軽い口調で同調すれば、ダンスホールが少し和やかになった。
彼は、そういうところがある。
7日目の時、訓練場で準備体操をしているとアレクが現れた。アレクは私との約束で、戦う術を教えようと来てくれた。そして、練習後に言われたのは、もっと体力と筋力を強化するようにと言われた。
彼からしたら、昨日の事件(大声で婚約者発言)に触れ、下手したら、怒らせて婚約破棄って言ってくるかと思ったのに、何も言わなかった。
相手の事を少し考えて干渉して欲しくない所には、触らない。
私を尊重してくれたのだ。
「本当に貴方には迷惑を掛けるわ。でも、安心して。絶対、貴方の望みをかなえてあげるからね。」
用意されたお茶を一口飲むと、アレクに微笑んだ。
「あぁ。期待しているよ。王太子妃の息女様。」
アレクは、軽い会釈で私に答えたのだった。
手直しが若干必要な気がします…。
頑張ります…。