学院に入学することになりまして
ずいぶん更新が空いてしまいました。汗っ。
学年カラーは、次の通りです。
1年 赤色 イヴ 主人公
2年 緑色 ミリア アレクの想い人
3年 青色 アレク イヴの偽物婚約者
4年 黄色 イアン 嫌みな生徒会長
今日から、この学院に入学することになる。
私は学院の正門の中央に仁王立ちになった。
煉瓦と鉄のデザインアーチで作られた学院の正門。
入学前に潜入したが、今回から正々堂々と入場できる。
「さぁ、行くわよ。」
私は、誰に言うわけでもなく、胸には赤いリボンが踊る紺色の制服を着て、正門をくぐった。
私は、今日からこの学院の生徒だ。
まず、私がしたのは、上級生の教室に向うことだった。
えっと~、ミリア様は、私の一つ上だから、緑リボンの制服よね。
で、えっと~、公爵で成績は上だから……多分この辺の教室…。
私は、上級生の教室が集まる階の廊下を闊歩していた。
授業前と言うこともあって、廊下には、上級生が友人たちと話している。
が…。
私の胸のリボンを見て、彼らは不審に思ったのだろう、突然話しかけられた。
「ねぇ、君、下級生だろ?ここに君の教室はないよ。」
私は、話しかけてきた上級生男子を見上げると、ニッコリ笑った。
「ミリア=ステファーノ様に面会にきましたの。いらっしゃいますか?」
「ん?君は彼女の知り合いなの?」
知り合いになりたいので、会いに来ました。とは言えないなぁ…。
私は、どう言葉にしていいか、うーーーんと、両腕を胸の前で組んで、考え込む。
すると…。
「私に何か御用?」
肩口までの金髪美人が、こっちに向かって歩いて来た。
彼女の髪の色にあった赤いリボンをカチューシャのように巻いている。
すごい美人。アレク、面食いなんだー。
いやいや、アレクもイケメンですもんね。揃って歩けば、美男美女!お似合いのカップルでしょうな。
私は自分の感想に、うんうんと相槌を打っていると、彼女は曖昧に笑って私の前に立った。
「私は貴女を知らないのだけど…?」
「あ、はい。私、イヴ=ベルメザーです。この度、母が王太子様と結婚しまして。」
恐縮するように、自分の後頭部を撫でるようにへこへこしてしまう。
すると、私の話しを小耳に挟んだ生徒たちが騒ぎ始めた。
「ってことは、この子、あの王太子妃の連れ子?」
「確か、庶民なんだよな?」
などなど、こちらをチラチラ見ながら、噂している。
んー…確かにそうなんだが、そんな面と向かって噂されると、対応に困る…。
私が、うーーんと困った顔をしていると、ミリア様が、私の前でお辞儀をした。
「私、ミリア=ステファーノです。公爵家の長女にございます。」
正式な礼に、私も答える形でお辞儀を返した。
「イヴ=ベルメザーです。今後、お見知りおきを。」
そう。一応、私は王族に入った身なので、彼女の対応が正解である。
私は頭を上げると、彼女の礼を解かせた。
そしてここでは話が出来ないと感じて、ミリア様に話を振る。
「ここではなんですし、少し別の場所でお話ししませんか?」
「私に話ですか?……畏まりました、こちらへどうぞ。」
そういうと、ミリア様は私を学院の空き教室に連れてきてくれた。
「此処でしたら、落ち着いて話が出来るかと思います。」
「良かった。」
私は、少し埃っぽい教室の中、使われていない机の上をさっと手で払って、そこに腰を下ろした。
その様子を目で追っていたミリア様が、ハンカチを差し出した。
「汚れてしまいます。これをどうぞ。」
なんていい子なんだろう。
これは、あれだ。
惚れてまうやろーーーーーー!!!ってやつ。
などと、前世の記憶にあるギャグを心の中心で叫ぶが、顔には出さないでおく。
「いえ、綺麗なハンカチが汚れちゃうので、大丈夫です。それより、何故貴女を探してたかってことなんですけど。お伝えしなくちゃいけないことがありまして。」
「はい。何でしょうか。」
「私、イヴ=ベルメザーは、アレク=ロシュタインの偽物の婚約者になりました。」
「………は……い?アレクの?こ…婚約者?」
驚きで私の言葉が理解できなかったのか、目の前の彼女の眼が点になっている。
まぁ、これが普通の反応だろう。
私は、改めて彼女にいうことにした。
「私は、アレクの“偽物の”婚約者です。」
「……偽物?」
“偽物”を強調するように話すと、彼女もそのワードを復唱した。
私はもったいぶるのは苦手だ。
要点は簡潔に、相手が分かるようにが教師の鉄則。
「はい。偽物です。実は、私には諸事情ありまして、急遽婚約者を立てなくてはいけなくてですね。でも、正式な婚約者っていうのは、私、必要ないんです。いるのは、期間限定、偽物の婚約者です。そこで、アレクに頼み込んで、なって頂きました。」
「は…い……。え?…でも、何故アレクだったのです?お2人は、お知り合いだったのですか?…私、しりませんでした。」
茫然と私の話しを聞きながら、困った顔をしている。
混乱しすぎてハテナが頭の上に点滅しているように見える。
なので、誤解を最短ルートで解決する。
「いえ、知り合いではありませんでした。偽物の婚約者をして頂く人を、私が調べて、アレクにしたんです。彼には……想い人がいて、私を絶対に愛さない人だったから。」
「想い…人?アレクに………好きな方が……。」
あ、これ、私への疑いは晴れたけど、余計な方へ思考回路が繋がっちゃったかも…。
私は、内心あちゃーっと頭を抱えた。
アレクの事だから、彼女への想いを彼女自身に伝えてはいないだろう。
私から言っていいなら、即言っちゃうけど…駄目だろうなぁー。下手したら、期限前に婚約解消されちゃうよ。
私は、どうすっぺーっと考えてから、片手をグーにして、ポンッと手を叩く。
「その想い人が誰なのかは、本人に聞いてください。貴女から聞いたら、彼はきっと答えてくれますよ。」
「…そう…でしょうか…?」
「えぇ。」
よし。いい流れだ。
私が、彼女の態度に満足していると、ミリア様は私を見て、頭を傾げた。
「でも、何故そのことを私に話してくださるのです?」
「それは、誤解されたくないからです。彼も、私も。」
「誤解?」
「はい。私達は、周囲を欺く為、一応婚約者らしく振舞います。しかし、彼は貴女に誤解されたくないと思うでしょう。だって貴女は彼の大事な……ぁー…、大事な幼馴染ですから。」
あっぶねー。危うく“大事な想い人”っていうとこだった。
口が滑る滑る!!
「そうですか。」
と、当人は、私の不自然な言動に少しも疑問に思わなかったようで、
「ご丁寧に、ありがとうございました。」
と、私にぺこりと頭を下げた。
ここで、更に私から提案をすることにする。
「そこで、出来ればなのですが、是非、私のお友達になってくださいませんか?私、彼と二人きりで行動するより、貴女と3人でがいいんです。それに私、今日転入したばかりで、心細いですし。」
いい具合にミリア様とアレクを、2人きりにして愛を育むお手伝いをしようと思っております。
等と、ニヤニヤの内心を悟られないように、目をキラキラさせながら、彼女の両手を取って握り、お願いのポーズをとった。
「まぁ、それは光栄ですわ。しかし、…お邪魔なのでは?」
「とんでもない!何度も言いますが、私とアレクは“偽物”の婚約者。それ以上でもそれ以下でもありません。貴女と…女性同士で話したいこともありますし、お願いします。ミリア様!!」
「は…はい…。分かりました、イヴ様。」
私の勢いに押された、ミリア様がこくんと頷いた。
その様子に、私の頭の中ではガッツポーズだった。
よっしゃ!!捕まえた♪
用事は終わったので、私達は空き教室の前で別れた。
そして、私は、職員室に向かうことにする。
“職員室”と書かれたプレートを見上げて、私はその下にある扉を開いた。
その後、平教師に校長室に連れていかれ、恰幅のいいお腹を持った校長の話を長々、聞く羽目になった。
でも、彼の話しを要約すると『王様達に宜しく!』と言うことだった。
私は、どこの世界も校長先生ってのは、話が長いのかと辟易しながら魂を飛ばしていると、校長室の扉がノックされた。
校長の了承を得て、その人物は入ってきた。
「げっ。」
私は短く声を上げてしまい、慌てて片手で口を覆った。
私の声に校長は気づかなかったのか、座っていた椅子から立ち上がり、彼を紹介する。
「紹介しましょう。貴女のクラス担任です。クロード=バレー先生。彼は保健医です。主に保健室にいます。クロード=バレー先生。彼女が、イヴ=ベルメザー様。王太子様のお嬢様になった方です。」
「君は。……初めまして、クロード=バレーです。今日から君の担任になります。宜しく。」
「は、はぁ…。宜しくお願いします。」
クロード先生は、私の顔を見てすぐに分かったのだろう。この前校内をうろつく不審な王族の私を…。
眉をつっと上げたが、校長に悟られると面倒と感じ、敢えてこの前の事には触れずに、初めましてを貫いた。
私も、彼に釣られるように返事を返した。
「では、この時間だと2時間目には間に合うかな?クロード先生、イヴ様をお連れしてください。」
「はい。」
大人たちの意見に逆らうのもおかしいので、私は校長の対面に座っていたが、立ち上がり礼を取った。
「校長先生。これから、何卒、ご教授賜りますようお願い致します。」
そういうと、制服のスカートを持ち上げた。
そして、クロード先生と一緒に校長室から出て、扉を背に立つ。
私はそっと、隣の先生を視線だけで見上げた。
「ぅわ…。」
がっつり、先生と目が合う。
これは…何か言いたいことあんのか?
…先手必勝で、こちらから当たり障りないこと言って、質問させずに終わるか…。
「学院見学ですからね。先日のは。」
「まだ、何も聞いてないけど?…何か他にやましいことでもあるんですか?」
「……いえ…別に。さて、では、先生行きましょう。次の授業が始まってしまいます。」
「……そうですね。」
主導権を持った私は、強気にずんずん歩き出した。
先生はまだ何か聞きたそうな様子を見せたが、知らん顔で私は笑顔を作り、進行方向に視線を戻す。
…担任の先生より先に歩く転校生ってどないなの?とか、頭の片隅を掠ってたりしたけどね。
~ お昼休憩時間 ~
何とか、自分のクラスで自己紹介を済ませ、転校生の宿命を終えた。
身分は彼らより高い地位にある私は、自分から話しかけなければ相手から来ることはない。
授業の合間の休みには、クラスメイト達の関心の的となったが、知らんぷりを決め込み、城から持ち出した本を読んで過ごした。
ミリア様にはあれだけ、友達が欲しいとか言っていたが、実は友達なんて必要ない。
1年しかいない学校だし、ここでの人脈も今後さして必要ない。
…しかし、母の為に使える情報は手にしておきたいので、聞き耳は立てていた。
そう、差し詰め、“ネズミーランドの耳の大きなぞうさん”のように!
と、まあそんな風に過ごした中休み。で、昼食休みだ。ランチを摂るため、私は廊下を軽い足取りで歩いていた。
すると、前からやってくるのは、私の“友達”ミリア様ではないか。
「ミリア様!」
「イヴ様。ごきげんよう。おひとりなのですか?」
ミリア様は、他に2人、何処かのご令嬢と思われる人物と一緒にいた。
しかし、私は1人。
私は、苦笑しながら、ミリア様を見た。
「どう皆様に声を掛けていいのか、迷ってしまって。」
と、儚げな表情で微笑むと、ミリア様が「お可哀想に…。」と騙された。
ミリア様の両サイドにいる令嬢も、「仕方ありませんわよ。」「最初は戸惑いますもの。」などと、同情の言葉を戴く。
…ミリア様は本心だろうが、他の2人には私を好奇な眼で見ている感じがする。
が、私はミリア様に向き直り、
「ご無礼を承知で申し上げるのですが、是非皆様とご一緒してもよろしいでしょうか?」
「まぁ、イヴ様とランチですか?もちろん。ねぇ、皆さん。」
私の申し出に、ミリア様はニコニコ笑い了解してくれた。
他2人も、ミリアがいいと言ったので、頷いた。
私達は、4人でテラス席に昼食を持って座った。
自分たちの前には、自分で選んだランチ。
ここでは、令嬢だろうと子息だろうと、自分のことは基本自分でする。
なので、配膳も自分で行うのだ。
さぁ、みんな揃ったところで食べましょうとなったとき、ミリアが不意に視線を上げ、“誰か”を見つけた。
そして、嬉しそうに笑顔になり、小さく手を振った。
すると、それに気づいたのか、“彼”はこちらに足を向けた。
ミリアの前で止まると、ミリアがにこっと笑い“彼”の名を呼んだ。
「アレク、今日は。お元気?」
「ミリア様、私とは昨日もお会いしましたよね?元気ですよ、変わらず。」
「そう、良かった。」
そう2人だけの世界で話始めている所を、他の令嬢たちと眺めた。
同席している令嬢たちは、その2人を微笑ましく思っているようで、ニコニコと話を聞いていた。
私と言えば。
周囲公認でないか!こりゃ、私がいなくなった暁には、誰にも文句言われない素敵な夫婦になるだろうよ。きっと。
等と考えて、ランチのスープを掬い、口に運ぶ。
あら。
「美味しい。」
自然と漏れた言葉が、このテーブルに落ちた。
みんな、ミリアとアレクの“イチャイチャ”を微笑ましく見ていたのに、私の言葉が彼らの時間に割り込んでしまった。
「あ、ごめんなさい。お腹が空いてたので、少し頂いたら、思った以上にこのスープが美味しくて……。皆さん、私の事は気にせず、お話しを続けてくださって。」
そうニッコリ笑うのだが、そんな私に行儀悪いなぁーという顔をしたのは、同席していた令嬢2人。あ、アレクとの婚約関係はまだ公表してないから、この状況のカオスぶりを知らない。
ミリアは、私と彼の関係を思い出して、気まずげになり、アレクと言えば、≪どうしてお前がここにいる?!≫という心の怒声が聞こえるような顔をしている。
私は、アレク目の端で留めながら、ミリアに微笑んだ。
「ミリア様。大丈夫です。今まで通りでいいのですよ。私の事は気にしないでください。」
ミリアの気遣うような視線に、気にしていないと笑顔を送れば、彼女はホッとしたのだろう。
私に、微笑み返してくれた。
そして、私はアレクに片手で空いてる席を勧める。
「アレク様、良かったら一緒に食事はいかが?」
しかし、私の露骨な誘いが気に入らなかったのか、アレクは笑みを作り頭を振った。
「……いいえ、皆さん、女性同士楽しい会話にお邪魔するわけにいきません。私は、お暇させて頂きます。」
アレクはそのまま、一度お辞儀すると、来た方向へ戻っていった。
しかし、私は見逃さなかった。
3人が視線を外した瞬間、凄い目で私を睨みつけていたことを。
怒ってる~ぅ。
ふぅーーーー。と息を吐いて、ランチに着いていたパンを千切って口の中へ入れた。
パンは白くてふわふわで、一口だけで幸せな時間を味わえた。
うん、美味しい。ここの学食は、どんな事があっても毎日味わおう。
美味しいランチを堪能して、ミリア達と席を立つと、柱の陰で私に指で“こっちにこいっ!!”と呼ぶ人物がいる。
私は、彼女たちに適当に理由を付けて別れると、仕方なく、彼の元へ向かった。
すると、開口一番に、誰にも聞かれないように、小さな声で怒鳴った。
「どういうことだ?!なんで、ミリアと一緒にいた?!…余計なことは言っていないだろうな?」
「あら、アレク。ご機嫌よ。んーーーー“余計な事は言ってない”。けど、“必要なことは言った”。かと。」
「それ!!言ったんだろう!何を言った?!」
「心配しないでよ。たく、小さいなぁー。んー…何を言ったか…かぁー……そーねー。うふ。それは乙女の秘密だから、お教え出来ませんことよ。婚約者様~♪」
途中までは話そうかなぁ~なんて思ったりもしたが、何か面倒くさくなり、やめた。
それに、聞きたいことがあるならミリアに聞けばいいのだ。
会う口実にもなるんだし。
「じゃーねー。」
と、片手をあげて彼と別れた。
彼はまだ何か言い掛けてはいたが、私は取り合わず、自分のクラスへ引き返すことにした。
さて、どうやって酷い令嬢になってやろうか…。
そう思いながら、足取り軽く廊下を歩いたのだった。
有言無実行なことがあります( ;´・ω・`)