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母が王太子妃になりまして。  作者: もっちりワーるど
6/12

何とか話がまとまったので

切がいいとこまで書いたら、めちゃくちゃ長くなりました。


学院の図書室で、私達は対峙していた。

窓からの光はすでに翳っていて、夜になろうとしている。



「メリー。悪いけど、明かりをもらってきて。もし、閉館だと伝えられたら、王族からの使いで緊急に調べることがあるとか、言っといて。」


「畏まりました。」



私の指示で、メリーは腰を折り一礼すると、その場を離れた。

私は彼、アレク=ロシュタインと二人きりになった。

目の前のアレクはというと、私のさっきの発言で警戒心MAXで、こちらを見ている。


『気に入らないからと、この場を立ち去るとか、不作法な奴じゃなくて良かった。』


まず、彼が出て行かなかったことに多少安堵していると、アレクが口を開いた。



「あんたが、王太子妃の娘だという根拠は?」



おう…。確かにそうか。偽物かもしれないもんね。確認するのは彼の正当な権利だろう。

私は、制服のポケットをまさぐった。そして、アレキサンドライトが埋め込まれたカサブランカのブローチを出した。

それを見た瞬間、アレクは信じられないものを見る目で見た後、若干嫌そうに片手を胸に私にお辞儀した。



「………非礼をお詫びいたします。申し訳ありません。」



すっごいな、これ。さしづめ、ご老公の金さん銀さん、やっておしまい!っじゃなくて、印籠のよう…。

私は、持っていたブローチを握りしめた。

さて、話をしよう。



「礼を解いてください。…あなたの方が年上だし先輩だから、ここからはざっくばらんに聞いてほしいんだけど。」


「……分かった。」



私はニッコリと彼に微笑み、2人の間に流れる気まずい空気を和らげようとしたが、アレクは疑わしげな顔を隠しもしない。私は仕方ないことにした。

彼と話しやすいように、回れ右をして、私がさっき腰かけていた椅子の向きを彼の方へ向けて、彼と向かい合うように座った。

彼は立ったままだったけど、この際よしとする。



「さて、じゃあ、話の続きをするわ。話ってのは他でもないの。私の婚約者になって欲しい。あ、語弊があった。期間限定偽物の婚約者。期間は1年。」


「期間限定、偽物の婚約者?」


「うん。実は私に婚約者がいないことで、義理の父、王太子と私の間で事実無根の噂が流れているの。そこで、私に婚約者を立てることになったんだけど……。実は、私自身、婚約する気も結婚する気もないのよ。」


「だから偽物なんだな。相手に将来の結婚とかを求めてはないってことだろ。」


「そう。」


「じゃ、なんで期間がある?どうして1年なんだ?」


「いい質問!私さ、この国を出ることにしたの。本当は今すぐにでも出て行きたいんだけど、女1人で海外へ旅に出ても安全な事なんてきっとない。だから、自分の命を自分で守る為に、この学院で勉強したいんだ。最低1年間は旅に備えて準備したいと思ってて。でもその間に、さっき言った問題で両親が困るのは不本意なの。だから、1年の勉強期間中だけでいいから、婚約者をやってくれる人を探してたってわけ。」



私は、アレクはてっきり脳筋だとばっかり思っていたから、何気に頭の回転が速くて驚く。

彼は、私の話しを一気に聞いて、ゆっくり自分の親指を口元に当て、考えるポーズをとった。



「なんで俺なんだ?」



もっともな質問だ。

私はそこで、彼の目の前に3本の指を立てた。

そして自分の右手の人差し指を、指先でつまむ。


「1つ目。平民出の貴方なら、ある程度は話が合うかと思うから。」



中指を指先でつまむ。



「2つ目。剣を教えて欲しい。さっきも言ったけど、知識だけでなく、体術も1年で基礎は身につけておきたい。」



最後に薬指をつまんだ。



「3つ目。貴方には、誰よりも大事な想い人がいる。身分違いでも、その人を諦めていない。」


「な?!」



最後のアレクを選んだ条件に、彼は過剰に反応し、私を睨みつけた。



「……適当なこといってんじゃねぇよ。人のプライベートを土足で介入するな。」



やばい!アレクの声が低くなった。マジで怒らせたかもしれない!

私は、内心ハラハラしていたが、それを表に出さないよう胸に手を当てた。

そして、ゆっくり感情を悟られないように、言葉を選んだ。



「ごめんなさい。確かに、貴方のプライベートを無断で調べた挙句、気遣わずに口にした。失礼だったわ。謝る。ごめんなさい。」



この後が肝心なのだ。今、激昂させて、交渉がオジャンになることはどうしても避けたい。

私は、頭をゆっくり下げると上げた。



「ただ、強引な手を使ってでも、私には守りたいものがある。」



話してみろとでも言うように、アレクは顎で私の言葉の先を催促してきた。

私は、手に握りしめていたブローチをポケットに仕舞いながら言った。



「私の母はね、ずっと苦労して私を育てたの。女手一つで、私を守ってきた人なの。だから、次は私が母の幸せを守ってあげたい。私という存在が、母にとって障害になってしまうなんて。そんなの耐えられないのよ。」


「…母親の幸せの為に、お前は旅に出るのか?」


「……それは違うかな。旅に出るのは自分の為でもある。この国にいたら、私は一生“自分自身が選んだ未来”を掴めない気がするの。王太子妃になった母の傍に、一生コバンザメのように居続けるなんて、嫌なの。」



彼の一番ナイーブな事柄に触れたのだから、私も素直に自分の事を話した方がいいと思った。お互いフェアな話し合いがしたいから。そして、どうやらそれは正解だったらしい。

彼の私の話を聞く雰囲気が、若干緩んだ。



「で、もし、仮にお前の話しに乗ったとして、俺になんのメリットがある?俺は慈善事業でお前を相手にするほど暇じゃない。」



彼の口元に触れていた手は、ゆっくりと体の前で両腕を組んだ。

私は彼の言葉に、浅く頷くとまた指を3本、彼の前に出した。

そしてメリットを一つずつ話ながら、指に触れていく。



「まず、私の婚約者になった時に得られるメリット。

まず、1つ目。学院に掛かるすべての費用を国が補てんする。もちろん今までの学費もすべて対象よ。

2つ目、爵位が得られる。一応、王族になってる私を嫁がせるからには、それ相応の身分が必要だから。

3つ目、配属や職務、勤務地を希望出来る。私という厄介な人物と一生添い遂げないといけない人への細やかな褒美。ここまでで何か質問は?」



「ねぇよ。続けろ。」



「うん。じゃあ、ここからは、私からの貴方へ婚約破棄が無事行われたときのメリット。

1つ目、婚約時に受けた恩瑛はすべて返還しなくていい。

2つ目、私からの一方的婚約破棄で、貴方は国からそれ相応の補償が受けられる。

3つ目、私との婚約中、婚約破棄によって得たメリットで、たっくさんある婚約話を断り続ける公爵令嬢。ミリア=ステファーノ様へ貴方は正々堂々、結婚を申し込める。」



「…だから、どうしてあんたは、そういうことを平気で言うんだ。」



確かに私的にも、最後の事はまた無神経かなぁーとか思ったりもしたが、この項目があったから、私は“彼、アレク=ロシュタイン”を偽物の婚約者にしようと決めたのだ。



「…結構大事なことなのよ。私が提示したメリットは使い方を間違えれば、他の人達を簡単に陥れることが出来る力。頭がいい人なら、この国を乗っ取ることも出来るでしょうね。でも、使い方によっては、純粋に愛する人との幸せの為に使うことが出来る。…どうせ誰かを選ぶなら、私は後者を望む人にこのメリットをあげたい。まぁ、私のエゴだけどね。」



「愛する人って…。聞いておいて悪いが、どんなにいい条件だろうと、俺はあんたの偽物の婚約者になる気はない。じゃーな。」



そう言い捨てると、彼は、私に背を向けて出口のある方へ足を一歩踏み出した。



「時間がないんじゃない?」



私の声は、静かな図書室の一角に響いた。

アレクは、私の声に立ち止まり私の方へ、首だけ向けた。

不機嫌な顔で。



「貴方は騎士候補生だから、後1年でこの学院を他の学生より先に卒業する。その後、1年間は国の辺境、新人騎士の訓練場へ行く。そして貴方が王都へ戻ってくるころには、貴方の想い人、彼女も学院を卒業する歳になってる。結婚適齢期よ。もし仮に、彼女が貴方をずっと待ってるとして、貴方はいつ彼女を迎えに行けるの?5年後?10年後?その時まで、彼女は貴方を待っていられるの?公爵様は娘の結婚をどれだけ待ってくれる?」



私の言葉に、アレクは悔しそうに険しい顔をした。

そんな顔をさせたくて、話をしているわけじゃないのに、どうしたら分かってくれるのだろう。

私は、さっきとは話の速度をゆっくりにして語りかけた。



「…貴方の実力を軽んじてるわけじゃないのよ。貴方は騎士になれば、素晴らしい成果や功績を上げると思うのよ。でもね、現実的に考えて、貴方が貴方の想い人と結ばれることは、無理に等しい。だって、彼女は公爵家の令嬢で、貴方は一般市民なのだから。」


「…そんなこと、あんたに言われなくても分かってる。」



ぽつんと図書室に漏らした彼の本音に、私は、同情した。


なんで、身分制度なんてあるんだろう。

前世の世界では、身分制度なんてこんな露骨なものは存在しなかった。

当人同士が望めば、よほどのことがない限り、夫婦になり家族になれたのに。

この世界は、何とも不自由だ。


そんな不自由な彼に、私は手を貸してあげられるのに。

助けてあげられる術を私は持っているのに。

どう言ったら、彼に伝わるのだろう。


私は、目の前の彼を観察して、その後ゆっくりと口を開いた。



「………私が提示したメリットを受け取るだけ受け取ってみたら?しょうがなくていいからさ。私の偽物の婚約者になってほしい。1年の辛抱よ。絶対に貴方にとって悪いようにしないから。」



そういうと、私はすくっと立ち上がり、立ち去ろうとしていた彼の背中を思いっきし叩いてやった!



「い゛っ!!!」



バチンッ!と大きな音がして、彼は痛そうな顔をして私を見た。

私は、彼の目の前に一枚の書類を翳した。



「決まり。契約書も交わしましょ。これ、用意してきたから内容を確認してサインして。で、この契約書は隠しておきましょう。誰かに知られると厄介だから。そうだなぁ…そうだ!この図書館の本の中に隠しておきましょう。どれがいいかなぁ~。あ、これにしよう。【賢く別れる別れ方】。ほら、埃溜まってるから、誰も読んでないのよ。あれ?まだサインしてないわけ?   あーだこーだ…………。」



こうして、半ば無理やりだけど、彼、アレク=ロシュタインは私の偽物の婚約者になったのだった。




「あ、言い忘れてた!私、悪役令嬢になるから。」




そう言ったのは、彼が書類にサインをして本の間に挟み、本棚の奥に隠したときだった。



「は?」



彼のすっとんきょんな声が、夜の図書室に小さく響いた。



さて、学園生活を書きたいです。

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