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母が王太子妃になりまして。  作者: もっちりワーるど
5/12

内緒で交渉しようと思いまして

何故か、他のイケメン(己の文才の限界でイケメンに仕上がらないが)が登場しまくって、本命に辿りつかない奇病が発症。


私は、ゆっくりした足取りで貴族達が通う学院の廊下を歩いていた。

何故、こんなところにって?

実は、王様たちから貰ったリストの中で、1人、私の条件に合う人がいた。

しかし、そのまま王様に報告しては、自分の計画がオジャンになるのは目に見えているので、まず私が極秘で会うことにした。

幸い、1週間後にこの学院に通うことが決まっていて、制服も届いたからそれを着て、王宮をこっそり抜け出してきたのだ。

そして、私より先にこの学院に来ているメリーに、彼の居場所を探ってもらっている。

…そのメリーがどこにいるか分からないんだけどね。



「学校か…。久しぶりだな。」



私は足を止め、廊下の窓にそっと近寄った。

前世の最後の記憶は、学校の階段だった。

ゆっくり自分が階段の下へ落ちていくのを、いまだ覚えていて、その感覚に軽く身震いする。



「っと、いけない、いけない。…メリーはどこにいるんだろう。」



頭を軽く左右に振って、廊下の先の方を見る。

今は放課後で、学院の中は人の気配はあるものの、廊下には人っ子一人いない。

しかし、どこからか、金管楽器の音や、運動部らしい人達の声が聞こえてくる。

私は、一所に居て誰かに咎められ自分の正体がばれるといけないと思い、こそこそと学院を散策することにした。



廊下を歩いていくと、中庭に出る。

赤青黄色、様々な花が咲き誇り、その花弁を夕日で照らしていた。

静かな庭だった。



「…ちゃんと世話されている。綺麗だわ。」



私は、一際綺麗に咲き誇る一輪のストックを見て、笑った。

“みつめる未来”

この花の持つ、花言葉に勇気を貰う。

自分の望む未来を掴むため、この後会う彼との交渉は失敗出来ない。

知らないうちに、自分の両手に力が入っていることに気づいたのだった。

しかし、そんな自分を励ます。



大丈夫。前世の友、弁護士の飛鳥が言っていた。

交渉は、相手の好条件をちらつかせて、相手と自分に同等のメリットがあると思わせること。

決して、感情的にならず、相手を逆なでしないようにふるまう。


『いい?よく知らない相手からの話しなんて、基本相手にしてくれない。だから、まず結論を言っちゃうのよ。そして聞いてほしい事を数字で提示するの。補足して欲しいかどうかは、相手に聞く。相手に聞きたいと言わせるの。』


黒髪のストレート若干釣り目のキャリアウーマン風お姉さん。記憶の中の飛鳥が、頭の中で私に教えてくれる。

こくんと軽く頷くと、私は顔を上げ、中庭を見渡して、来た道を戻ろうとすると、



「イヴ様!見つけました!!こちらです。」



一階の開いた窓から、メリーが顔を出し、こちらを手招きしている。

私はメリーのその態度に自分のこめかみを抑えた。


『…王太子妃の子供の侍女として心構えが、まだまだ甘い。』


そう思いながら、手招きするメリーの元へ行くため、歩みを進めた。



メリーが案内したのは、学園の屋外闘技場の入り口だった。

すり鉢状に柱が並べられ、客席に屋根が付いた割と大きな場所。

その中では、数人の男子が端の方で自分の剣を振りったり、闘技場の中央では、模擬試合をしていた。



「メリー。彼はどこにいるの?」


「あそこです。あの試合してる人です。」



私はメリーが指さす相手を見た。

まず目を引いたのは、彼の眼だった。

赤い目はルビーのように輝いているのに鋭く、相手を威嚇していて迫力がある。

そして茶色の髪の毛は振り乱し、一心不乱に剣を操っている。

彼が繰り出す剣筋は、素人が見ても技術を感じた。


『さすが、王族期待の騎士候補様だわね。』


私は彼の試合を唖然としながら見ていると、彼が剣を振るたびに聞こえてくる女子の歓声を耳にした。

視線を巡らすと、闘技場の柱の陰から、何人もの女子の黄色い歓声を上げている。



『モテモテですやん…。』



まあ、ですよねーっと、前世で夢中になったゲームやアニメを思い出して、苦笑した。

実際見ると、結構ハードル高いなぁと、嫌に冷静な自分。



「イヴ様、どうしましょうか?」


「そうねぇ………。終わるまで待ってましょう。私、ここの図書館で本を読んでるわ。彼が終わったら連れてきて。他の女生徒たちからなんか言われたら、王族からの呼び出しだと伝えて。」



王太子妃の娘と公言されると、交渉決裂( にはならないようにするけど)になった場合、彼の立場が悪くなる。だから、あまり使いたくないけど、王族という固有名詞を使うことにした。

メリーは「畏まりました。」と私に礼を取り、私は闘技場を後にした。



闘技場から離れ、図書館を探しに行くと、



「ねぇ、君。」


「っ?!」



やばい、呼び止められた!と、身構え、ゆっくり振り向くと、白衣を着た灰色の髪の毛の男性が立っていた。

彼は、片手に何か書類を持ち、灰色の髪の毛は寝癖が付いている。

ん?どっかで見た顔だ。どこだ?えっと………、あ!婚約者候補の一人!たしか………

クロード=バレー!

私の頭の中のパソコンが、彼の名前を打ち出したところで、



「君は、王太子妃の娘さんじゃないか?」


「うっ…えっとぉーーー…。」



クロードは一発で私の正体を言い当ててきて、私は驚きのあまり目を見開いた。

そして、高速スピン。回れ右をする。



「ひ、人違いですっ!あたしは通りすがりの一般人です!!」



そして、そのままダッシュで逃げた。



「一般人はここにはいないんだけど…。」



と、クロード=バレーの声が聞こえたような気がしたが、今の私はそれどころじゃなかった。





----




大慌てで校内を走り抜け、大きな建物の中に入り扉を閉めた。


『やばいやばい。危ないとこだった。』


私は焦る気持ちを落ち着かせて、閉じた扉を背に一息ついた。

当人に会ってもいないのに、自分の正体が今校内に響き渡るわけにはいかない。

とにかく、図書館に隠れようと思い立った。

そして、今いる場所を確認しようと、ゆっくり背を扉から離す。

ここは広く高い天井に、二階へ登るよう階段が左右に滑り台のようある大きな建物。

その左右に広がる階段の中央、一階の両扉の上に、金のプレートで【図書室】と書いてあった。



「あたし天才。」



そう一言つぶやくと、【図書室】の扉を静かに開け、中へ入っていく。

中は、さすが貴族学院の図書館。上から下まで、本・本・本。

高い天井に届く勢いの本棚に、さまざまな本が綺麗に納められている。



『おぉーーーー!海外の有名図書館みたい。いや、某魔法学校の中の図書室のよう!』



古い本の匂い、インクの匂いが鼻をくすぐり、私はほくそ笑んだ。



『さて、何を読もうか…。』



腕を後ろに組み、ニヤニヤして軽くスキップしながら、本棚に近づこうとすると、



「おい、お前。」


「っ!」



デジャブだろうか…?私は呼び止められた方へ伏せ目がちに、振り返ると。

流れる金髪で鋭い青い目の男子生徒が立っていた。



『おい、マジかよ?少女マンガでもあるまんし…この人も婚約者候補だった人だ。えっと…名前はぁ…イアン。そう、イアン=ジョービス。』



実際に会ってみると、彼は長身で、その金髪は照明が当たっているわけでもないのに輝いている。

目も青くて、まるで作り物のようだった。

そんな彼を見上げて、フリーズすると、彼は鼻でふんと息をついた。



「ここは、女子生徒が立ち入っていい場所ではない。」


「…………………は?」



どうやら私の正体に気づいてというわけではない事に、ほっと胸を撫で下ろしたが、同時に今の発言に引っかかる。



『ん?今、なんつった?この人。』



私は、さっきの発言の真意を確かめようと口を開いた。



「何故ですか?この図書館は女子禁制でしたっけ?校則にありますか?」



この学院の事は、入学する学校だからと色々調べていた。

しかし、図書館は女子禁制なんて項目はなかった。と、すれば、何か他にあるのかもしれない。

私に質問を返されるとは思わなかったのだろう。

イアンは片眉を上げたかと思うと、自分の金髪を耳に掛け、小馬鹿にしたように私に顔を近づけた。



「女子は、本なんか読まず、お茶やダンス、社交に花を咲かせていればいいのだ。小賢しい真似をしてみろ。嫁の貰い手がいなくなるぞ?」


「つまり、図書館に女子禁制という校則は存在しないんですよね?では、失礼いたします。」



そう言って、淑女の礼を取ると、彼の脇を通り抜け、奥の本棚へ入った。

我ながら生意気な態度だったと思ったが、カチンときたのだ、仕方ない。



「変な女。」



イアン=ジョービスの呟きが図書館に落ちた。




----



図書館の細長い窓がある、小さなデスクに席を陣取ると、私は町の図書館にはなかった本を読み始めた。

陽も落ちかけ、図書館も閉まる頃、彼はメリーとやってきた。



「イヴ様。アレク=ロシュタイン様をお呼び致しました。」



メリーの言葉に、私は読んでいた本から顔を上げて、彼らを見た。

アレクは、貴族学院の制服を着て、立っていた。

私と一つ学年が違うので、ネクタイは青色だった。ちなみに、私のリボンは、赤だ。


案内されてきたアレク=ロシュタインは、私を見ると腕を腰に当てて、盛大なため息をついた。



「俺を呼び出すなら、もっといい口実を考えろ。王族だっていうけど、俺はお前を知らない。嘘で王族の名前なんか出したら、不敬罪で訴えられるぞ。…で?あんたは俺に何のようなわけ?くだらない話なら、帰る。」



アレクは、明らかに不機嫌で、そして警戒の色を見せている。

私は、読んでいた本を閉じて、席から立つと腰を折った。



「初めまして、私はイヴ=ベルメザー。王太子妃の娘です。」


「………は?」



鳩が豆鉄砲を食らった顔をして、私を見ているアレクに、私は微笑みながら、近くの席を勧める。



「立ち話もなんですので、こちらに座りません?少々話が込み合ってますの。」



警戒心が強い彼をこれ以上逆立てさせないように、丁寧に席を勧めるが、彼は座ろうとはしなかった。

彼が座らないなら仕方ない。私も座らずに、彼の前に立った。



「はぁ、仕方がありません。率直に申し上げます。私の婚約者になってください。」


「……あぁ゛?」



飛鳥、本当にこれでいいわけ?

より一層警戒心が強くなったアレクの態度に、一抹の不安を感じるがしょうがない。

頑張れ、私。




最後にやっとこさ、出てきました。

さて、婚約者になってくれるでしょうか。

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