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母が王太子妃になりまして。  作者: もっちりワーるど
11/12

衝撃ドレスですって~はちみつレモンを添えて~

随分間が空きました…次話はもう少し早めに出します。



学院から帰ってくると、侍女達に学生服から軽装に着替えさせられた。

私はこの行為が好きじゃない。

何度も「自分で着替えられる。」と訴えても、「駄目です。」と侍女達に言われて問答無用で着替えさせられ、最近じゃ抵抗を辞めた。無駄な抵抗は時間の無駄だと気が付いたからだった。だから、すべて彼女たちに任せている。

水色のシンプルなドレスに身を包み、ほっと息を吐いた。

すると、制服を片付けにいった侍女のメリーと入れ違いに入ってきたのは、私の部屋の侍女長ローリエ。

年齢は、35歳の淑女さん。上品な薄茶の髪の毛をシニョンに仕舞い、礼儀正しくお辞儀をした。



「イヴ様。来週のお披露目会で着て頂くドレスが出来上がりました。ご確認されますか?」


「そうね、見てみようかな。」


「畏まりました。」



私付き侍女の中で、一番地位が高いローリエが手を叩くと、他の侍女達が大きな箱と小さな箱、後濃紺のビロードの宝石箱を持ってきた。

実は、このお披露目会用のドレスは、自分はノータッチ。

元庶民の私が、諸外国のお客様が集まる会にふさわしいドレスを選べるかと言われたら、答えはノーだったからだ。


彼らが荷物を運んでくる間に、私は近くのソファに腰かけ、入れられたばかりのお茶を口に含んだ。

部屋のテーブルにそれぞれ置かれると、私に会釈した侍女が、箱を開けていく。

中から、ぎついピンクのフリルが付いた紫のドレスと趣味の悪い靴が入っていた。

そして、ビロードの宝石箱からは、花がモチーフのダイヤモンドと黄色の石が付いたネックレスと対のイヤリングが入っていた。



「ぐっっく?!」



飲んでいたお茶が、入ってはいけない方へ勢いよく流れ、喉が変な音を立てた。

私は、涙目になってゲホッゴホと咳き込んで、その元凶になったドレスたちを見て、控えている侍女たちを見まわした。

傍に控えているローリエ、他の侍女達も、目を見開いて驚いていた。

どうやら彼女たちの手配ではないみたいで少々安心する。



はぁー…あわやお茶を吹き出すところだったわよ。

変なとこには入ったけどさ…。



呆れ半分驚き半分の私は、冷静を装って侍女達に指示を出す。



「………、ドレスを出してよく見せて頂戴。ついでに靴も。」


「………はい。」



顔色が悪い侍女達は、私の指示通り動いて箱の中からドレスたちを出していく。

ローリエは眉間に皺を寄せてその様子を見守っている。

一縷の望みに掛けて、そのドレスをトルソーに着させて眺めてみる。



見る。


見る。


やっぱり、趣味わるっ!!!



「そのー…、この装飾品は王太子様からの贈り物で…。」



慰めのような侍女の小さな声に、爆発力の高いドレスと靴から無理やり視線を外してネックレスとイヤリングを見た。

王太子(お父さん)からのプレゼントは、黄色の石が散りばめられた存在感はあるが上品な一品だった。

とても趣味がいい。



「で、このドレスと靴は?」


「それは………王太子妃様です。」


「………母かぁーーー…。」



目が死んだように光を失う。

そう、私の母は、そりゃーもう趣味が悪い。


巷で誰もが憧れる母は、目を離すと度々変な物を買ってきていた。

ある時は、トラの顔が全面に刺繍されたエプロン。

「可愛いでしょ!猫ちゃんの刺繍なのよ~。」

母から見たら、トラは猫だったらしい。

ある時は、明らかに色染めに失敗した布で作られた雑巾のようなドレス。

「すごい可愛いわよね~♪こんな色めったにないわよ~。」

そりゃー、ドブ色の生地に混ぜちゃいけない色が重なり渦を巻いているなんてめったに見ないけどね…。


そんなこんなで、母の趣味は花屋に有るまじき悪さで、母がやれる事は、私がお膳立てしたお花を束ねたり、お花の水切りとかとにかく、センスが問われる事はさせてこなかった。

その付けが、まさか私に回ってくるとは誰が予想出来ただろう。


私は、ため息をついて、ドレスを着たトルソーに近づいて、その袖を摘まんだ。


…、布は上質なのよ。布は。

これに決める時、何故誰も止めなかったのかなぁ…。


私が母親に対して思案していると、ローリエは神妙な声で尋ねてきた。



「まさか、わざとなのでしょうか?」


「わざと?」



ローリエの言葉に、自分の眉間に皺が寄るのを感じて、振り返る。



「いえ…巷で良からぬ噂があるので、もしやと。」


「めったなことを言わないで頂戴。……これは本当に母の趣味。きっと、本当にこのドレスが素敵だと思って贈ってくれたのよ。」


「しかし。」



まだ納得いかない顔のローリエや他の侍女達に、私は苦笑して自分が私物として持ってきていた宝物箱を開いた。その宝物箱は、王宮にはあまりふさわしくないからいつも机の引き出しの一番奥にしまってあった。長四角のクッキー缶。

その中から、トラのハンカチと色褪せないドブ色のハンカチを出した。私はその布を彼女たちに見せた。



「昔からこんな趣味なの。誰かにプレゼントとか張り切ると、振り切れるほどの趣味を発揮するのよ。因みにこれ、私が10歳の時の誕生日プレゼント。で、こっちは6歳だったかな。」


「それは………。」



とてつもない説得力に、部屋の中の侍女達が一瞬で困惑から、残念な顔になった。

私は、そのハンカチをそっと仕舞って缶の蓋を閉じた。



「ふふ、トラはエプロンでドブ色はドレスだったのよ?それを私がリメイクして。」



当時の絶望感を思いだし笑ってしまう。母に、「ありがとうお母さん。でもこれ私には大きいみたいだから、直すよ?」と母に了解をもらって、夜更けにエプロンにハサミを入れてハンカチにしたことを思い出した。

そして、


「あ!」


閃いた。

そうだ、このドレスもリメイクしてしまおう。

母の事だから、このドレスも私風にリメイクしたいと確認を取れば、きっと許してくれる。

そりゃ、少しは残念に思うかもしれないが、そんなの構ってらんない。

もし、この趣味の悪いドレスのまま出席してみろ?しかもそれが母(王太子妃)からとなれば、あの“噂”に信憑性が出てきてしまう。

そう思うと、私はすぐに机に赴き、羽ペンをとった。


『お母さんへ

ドレスと靴ありがとう。凄すぎて侍女達も驚いていたわ。で、以前のように自分流にアレンジさせていただくことを許してください。お母さんの趣味は、相変わらず素敵過ぎるわ。 では、また。貴女の娘イヴ』


書き終えたところで、もう一枚便箋を出す。


『お父さんへ

ネックレスとイヤリングをありがとう。趣味が良くて驚いたわ。でも、最近お母さんとゆっくり話せてる?お母さんが選んだドレスとの相性最悪よ。(でも、あのドレスではどの装飾品でも合わせられないと思うけど)仕事忙しいとは思うけど、お母さんとの時間もしっかりもってね。では、また。 娘:イヴ』



その2枚の便箋を折り、双子侍女:アンとリンに渡した。



「これを王太子様と王太子妃様へ。お礼とお伺いが書いてあるから、王太子妃様からは返事をもらってきてくれると助かるわ。」


「「畏まりました。」」



侍女達へ指示を出して、彼女たちが部屋を出るとどっと倦怠感が出てくる。

日頃の勉強とダンス、礼儀作法は、若い身体にもずっしりと疲労を残しているらしい。

私は、お茶を飲むために又ソファーに腰かけた。

そして、ため息が出るドレスを見る。軽い頭痛を覚える。



「しかし、凄いドレスですね~。これ。このピンクは探そうにも難しいですよ?それにこの紫を合わせるっていうのは~~~斬新ですよねぇ。」



私の頭痛の種を口にしたのは、新人侍女メリーだ。

そのドレスは、ドピンクのフリルが視線を奪う紫のベースの良さを完全に打ち消している。ついでに襟ぐりと裾には白いレースがふんだんに付いて、リボンもドピンクとブルーが交互に付いる。見れば見る程すごいのだ。

そう。渋谷で待ち合わせするなら、ハチ公やモヤイを押しのけて、真っ先に目印にされるような激しいドレス。

そして遠慮のない物言いのメリーに、遠慮なしの肘鉄を食らわしたのは言うまでもなくローリエだった。



「メリーも随分はっきり言ってくれるわね。ローリエだって口に出さなかったのに。」


「いたたた…。でも、誰が見てもそう思いますよぉー。」



口を窄ませて、拗ねた口調のメリーにまたも肘で突っつくローリエ。

彼女たちのやり取りを見て、口元を綻ばせながらお茶を飲んでカップを置く。



「さて、どうしようかな…………。」



私が腕を組んでドレスを眺めていると、ローリエからちょっとしたアイディアが飛び出した。



「王宮付き仕立て職人が居りますから、そちらに手直しを頼みましょうか?」


「そんな人たちいるの?」


「はい。王族方のお衣裳は、外部より頼むこともございますが、基本その者達が仕立てます。ただ、その者達は世間の流行りを把握する為に、頻繁に交代していて今城に滞在している者によって、趣向が異なるのですが。」


「へーそうなんだ。でも、このドレス、その人たちが仕立てたんじゃないの?今の会話だと。」


「うーん…。その線が濃厚ですが……。では、どうでしょう?一度その者と会って決めてみては。」


「そうね。………そうしようかな。その場でダメだなって思ったら、あたしの方で直すし。」


「畏まりました。日数もあまりありませんし、明日学院へ行かれる前に呼びましょう。」


「そうね。あ、今日中にあたしのリメイク案を紙に起こすから、それとドレスをその人へ渡しておいて。朝、わたわたと話をするのは嫌なの。」


「畏まりました。そのように。」

 


正直、ダンスと行儀作法の練習でそれ以上時間を割くことは厳しいから、その人が使える人だったらバンバンザイなんだけど。

私は、ため息をついて、ローリエにその人の手配をお願いして、早めに湯あみをすることにした。

立ち上がると、メリーが今思い出したと言わんばかりに手を叩いた。



「そーいえば、イヴ様。頼まれていたレモンと蜂蜜、入手しましたよ。」


「あ!素敵!ありがとう。どこに届いてるの?」


「お茶会用厨房に。」


「ばっちり!」



私は、先ほどのドレスのダメージを急激に回復させ、にっこりわらう。

すると、ローリエは眉間に皺を寄せて、どういうことだ?と顔面で迫ってきたので、答えることにした。



「は、蜂蜜レモンのドリンクを作るのよ。最近暑くなってきたし。水分補給用に作るの。」


「何故イヴ様が作られるのです?お教えいただければ、私たちがお作り致しますのに。」


「頼んでも良かったんだけど、自分で作りたかったのよ。気分転換的な感覚で。」


「イヴ様…。」



何やらお説教の気配を感じて、私はローリエの背後に回り、両肩を叩いた。



「怒らない、怒らない。じゃあ湯あみの前にパパッと作っちゃおう!で、終わったら、湯あみして、夕飯を食べて、リメイク案を書く!ささ、夜も長い!張り切っていくわよ~!!」



勢いのままに、ローリエの肩を押しながら私とメリーも部屋を出た。

長い廊下を抜けると、城内の中庭に出る。

このお庭で、王家主催のお茶会やパーティーが行われることがあるのだが、その時に出されるお菓子やお茶は、お茶会用厨房で作られるのである。

何でも何十年も前の王妃様がお菓子が大好きで、この厨房を作られたとか。

お菓子特化型の厨房なので、大きなオーブンに5口コンロ2か所の洗い場、広い調理台が完備されている。

この城に来て、何より喜んだ私のお気に入りの場所である。


厨房に入ると、厨房の横にある木箱を確認した。

中から、黄色の色がまぶしいレモンがぎっしり入っていた。

その横には、琥珀色が濃い蜂蜜が大きな瓶に入っている。


ニマニマする頬を手で摩りながら、私は手を洗い、包丁とまな板を取り出した。



「イヴ様~。何をお手伝いしますか?」


「じゃあ、保管用の空瓶を洗って、お酒を振りかけておいて~。そうね…、5つお願いね。」


「了解しました~。」



メリーにお願いすると、彼女は厨房奥の棚にある空瓶を5つ出して、洗い場で洗い始めた。

私とローリエも箱からレモンを出し、洗い場で洗っていく。


綺麗になったレモンと、空瓶が調理台に乗った。



「さて、では輪切りにしましょう!あ、種は取ってね。」


「「はい。」」



そこから無言でレモンを輪切りにしていく。

もともと母と一緒に料理をしていたし、前世の自炊力も手伝って、包丁さばきはお手の物だ。

横2人、メリーとローリエも侍女なので、危なっかしい人間はこの場にはいない。

包丁の刻みいい音と爽やかなレモンの香りが厨房を満たしていた。

そう、さながら前世の社会科見学で見た、給食センターみたいな光景だ。

一通り切り終え顔を上げると、厨房の入り口に侍女のアンとリンが気配を消して控えていた。

どうやら刃物を扱う私たちを見て、声を掛けず待っていたようだった。



「お帰り。2人とも。アン、お母さんは何て?」


「王太子妃様より。分かりました。当日のドレスを楽しみにしています。とのことでした。」


「一応聞くけど、どんな顔をしてた?」


「少し困ったような、でもすぐお笑いになって、そうおっしゃっていました。」


「そう。」



母の反応で、あのドレスに手を入れる許可が出て、安心する。

すると、リンも続いて報告してくれた。



「王太子様もお笑いになって、何でも御見通しだなと。それから、お披露目前に家族団らんをしたいと。」


「そんな暇ないくせに。まぁ、出来たらしたいわね。」



王太子(お父さん)の言葉に笑いながら、考える。そういえば、アレクを2人に紹介していなかった。こりゃその時に顔合わせをご所望だと認識しておいた方がいい気がする。明日アレクを捕まえて、両親に会わせる日程を調整しておいた方がよさそうだ。一人でうんうんと納得していると、アンとリンは腕まくりをし出した。



「さて、私たちは何をしたらよろしいですか?」


「そうね、その蜂蜜の瓶を調理台に上げてくれる?」


「「はい。」」



そういうと彼女たちは、重いであろう蜂蜜の瓶をうんしょ!と調理台にあげてくれた。

その間、ローリエとメリーが輪切りにしたレモンを、5つの瓶に均等に入れていく。

そこに、私が蜂蜜をゆっくり流し込んで、レモンに被る程入れた。

空瓶が、レモンと蜂蜜で満たされたところで、塩を小さじ1入れてかき回す。



「あたしもお母さんも、この時期はこれを2人で作って、お客さんに出したりしてたんだ。結構好評だったんだから。」



笑いながら、出来上がった瓶たちを見つめる。

季節がら長くなった日も、もうすぐ落ちるころ蜂蜜レモンは完成した。







次話は、ドレスお直し大作戦です。

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