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母が王太子妃になりまして。  作者: もっちりワーるど
10/12

校舎裏でステップを踏んで

前回の投稿から、約4か月…幻の作品となろうとしている…汗


暖かな日差しがまぶしい、校舎裏の木の影。

私は一人でお昼に食べたサンドイッチの包み紙を丸めた。

そして、食堂から失敬してきた水差しから水をコップに注ぐ。


グビっ。


一口飲むと、勢いをつけて立ち上がった。スカートのお尻部分を両手でバンバン叩いて、上を見上げると、背伸びをした。

うん、こんな行儀を見られでもしたら、お説教ものだと知りながらも乱暴になる動作。

そう。

これから、私は自主トレをするのだ。



「よし。」



気合を入れて、顔面に力が入る。

凛々しい掛け声と共に、私は自分の背中をピーンと伸ばす。

普段、読書や勉強時々武術を嗜む身体が、バキバキいう。

軽く両腕をグルグル回すと、肩甲骨の辺りに違和感が…。これは……っコり……。


なんて馬鹿な考えが霞めて、力なく頭を振る。

いかん、いかん。


自身の思考を平常に戻して、私は敷物の上に置いてある本を手に取り、頭に乗せた。

そして、足を一歩踏み出す。



そう。

自主トレ=淑女練習。である。



後1年で旅に出る私に“淑女”は必要か?って?

旅に出る為に必要なのよ。

今度行われる舞踏会で、王太子妃(母)の娘として出席する。

母の地位を確乎たるものにするには、母の娘として完璧(に近い)な振る舞いをしたい。

それに、不本意ながらも一緒に出てくれる婚約者役のアレクの為にもある程度は淑女を覚えておかなくては。



ってのは、外側の事情。



えぇえぇ、私が学院で大声で婚約者決めた!なんて叫んだばっかりに、当初の予定が大幅に早まり、国内外へお披露目が行われることになっちゃったからですよ。

昨日は、アレクに付き合ってもらってダンスのレッスンをする羽目になり……散々なワルツを2人で踊った。


で、先生は帰り際に血走った眼差しでこういったのだ。


『イヴ様。まずは正しい姿勢!正しい脚の運び!そう、淑女の作法を叩き込んでくださいまし!ダンスは、1にも2にも“淑女の嗜み”なのですからっ!!ねっ!!』


間近でみた先生の顔。

軽くトラウマレベルだったので、こうして淑女の練習をし始めた。


この学院は、右を見ても左を見ても淑女だらけ。

淑女の振る舞いなんて出来て当然のこの場所で練習が必要なのは私だけ。

なので、この裏庭でひっそりと特訓するのだ。




モデルさん歩きかぁー……


前世がモデルさんなら、こんな事しなくてもバリバリに出来るんだろうなぁ……


っても、前世は教師だし……変えられんわなぁ…


前世転職はアリ?


いやいや、前世ってのは私の前の人生であって、今のあたしが転職を希望したところでそんなの出来っこッ




「あいたっ!」



頭に乗せていた本が滑り落ち、自身のつま先に落ちた。

注意力散漫なせいだ。


私は、落ちた本を拾って、両手で持つ。



「本は、頭に置くんじゃなくて、読むもんよね…。」



そう呟いて、本の表紙を優しく撫でた。


超本音が口を滑った。

だって、本読むの好きなんだもん。

前世は、漫画大好きだったし。

誰かに「いつまでも読んでていいよ~」なんて言われたら、四六時中読める自信がある。


でも、しゃーないのだ。

母親の為、自分の為、頑張るしかないのさ。



私は気持ちを改に、青々とした芝の上を、頭に本を乗せて木と木の間を往復する。

本当は、鏡がある部屋で自分の姿勢を見ながら歩くのがいいって言われたんだけど、学院の部屋を借りて練習なんかしたら、あのイアン=ジョービス(嫌いでしかないヤツ)に見つかるかもしれない。




死んでもアイツに見つかるわけにいかないっ!




などと、邪念が頭を掠って、また頭の本が落下した。

それを手で受け止め、ため息を吐く。

手に持っているのは、【必見!これは食べて損はない雑草~これを食べたらディナーが楽しくなるかも~2巻】。


1年後、私は旅に出る。

旅の間生きていけるように知識を蓄えようと、実用書を今は重点に本を本でいる。

なのに、本を読むどころか、頭に乗せて歩いている。

それか、腕を広げてポーズを取り、ステップのおさらいをする。


前世の経験値があっても、今回の件では何も役に立たない。

まぁ、コスプレーヤーだったから、ロングドレスのさばき方とか、コルセットの締め付けに多少耐久があるぐらい。



「マイム・マイムとか、カバディーなら得意なのに…。」

あ、カバディーは踊りじゃないわ。



などと思考の中で突っ込んでいると。



「カバデ…ィ?」


「っ?!」



自分の背後から声がして振り返る。

脳内噂したヤツか?!と警戒して振り返ると、アレクが眉間に皺を寄せて制服姿で立っていた。



「っアレクかぁ~。あーびっくりした。どうしたの?」


「どうしたって、お前。ミリアが探してた。すっぽかしたのか?」


「お?………ぁ…。」


「今思い出したな。…また、本を読んでたのか?」


私が持っている、【必見!これは食べて損はない雑草~これを食べたらディナーが楽しくなるかも~2巻】。


「いやぁー、忘れてた忘れてた。お昼は一緒にって言われてたね、そういえば。わざとじゃないよわざとじゃ。ただ練習してただけ。」


「練習?ダンスか?」


「これを頭に乗せて、歩く練習。」



これ、と本を片手で持ち軽く振る。

アレクは私の話しに眉を上げた。



「お前、足でも悪いのか?」


「違うし。ミリアも小さい頃やってなかった?貴族様の必須項目。モデル歩き。」


「モデ、る?……あぁ、行儀作法だろ?確かにやってたかな。5歳ぐらいの時。」


「そりゃ完璧なわけだ。」


私は笑いながら自分の過去を思い出していた。

その時の私は図書館で勉強してたかな、独学で。で、お母さんのなんちゃって礼儀作法とか、こども店長してたなぁーとか、そんなことを考えていると、アレクの視線にまたも気づく。



「こんなこと私には必要ないんじゃないの?とか思ってるでしょ?…旅に出る身だけどさ、一応今は王太子妃の娘だから見苦しくない程度に頑張るのよ、私は。」


「ふーん。あ、そうだ。今日も騎士訓練があるからダンスの練習には付き合えないぞ。」


「了解。まぁ、最悪アレクは運動神経がいいから何とかなるだろうね。…問題は私なので、何とかします。」



壊滅的にダンスセンスのない私は、地道にステップを覚えるしかない。

タイムリミットもあり、自然とため息が漏れる。

すると、



「ほれ。」


「?」



私の前に出された手。



「今なら少し、手伝ってやるよ。」


「は?」


「本番は2人で踊るんだし。今のこの少しの時間で良ければ、協力してやる。」



ぶっきらぼうな彼の言い方に、自然と口角が上がった。

そして、その手を取る。



「ありがと。恩にきるよ。」


「…お前、時々どこの国?地方?の方言出すよな?オンにき、る?とか、さっき言ってたマイム?」


「あぁ、マイムマイム?あはは、それは方言じゃなくて、ダンスの名前。」


「ダンスの名前?ダンス苦手なくせに、名前は知ってんのか?」


「マイムマイムとオクラホマミキサーは、踊れるんだよ。」



あ、後、ソーラン節とラジオ体操第一第二は、日本人の鉄板です。ここに、お富さんと東京音頭が加わると一気に夏要素が強くなるのは言わない約束。

私が、思い出し笑いにクスクス肩を揺らすと、彼は興味を示した。



「どんなダンスだよ。踊って見せてみろよ。」


「嫌だよ。どっちも大人数の踊りだし。」


「…実は踊れないんだろ?」


「はぁ?!踊れるし!何なら、教えてたし!っあ…。」



アレクに軽く言い返して、ヤブヘビった。

にたぁ~と笑うアレクに、私はやっちまったと口を閉ざす。



「教えたってことは、踊れるんだろ一人でも。」


「…一人じゃ本当に無理。もーーーーーーーー!じゃぁ、分かったわよアレクも手伝いなさいよ?」


「あぁ、いいぜ。」



あたしに一本取ったのが嬉しかったのか、ニヤニヤ笑っている。

私は、悔しい心持のまま、アレクを背にして前に立つ。そして、右手を上に左手を下に構えた。



「まずは、オクラホマミキサーね。ほら、身体の向きは私の後ろ。で、私の手に手を乗っけて。」


「あぁ。」



アレクの右腕が私の首を回り、右手の上に乗る。左手は私の左手の下に回る。

……肩組まれてるみたいで、普通のダンスよりもこっぱずかしい?!



「で?どうすんだよ。」



左耳にアレクの口が近い!!

至近距離で聞こえるアレクの声にドギマギしながらも平静を装う。



「まずは、右足を出す。アレクも同じ足。みーぎ、みーぎ、ひだり、ひだり、みーぎ、みーぎ、ひだり、ひだり。そうそう。」


「歩くだけかよ?」


「リズムに合わせて足を運ぶの!私が歌うから合わせてね。さんはい!チャラチャラチャララ~♪」



私が懐かしい音楽を口ずさみながら、足を前へ出すとアレクも前へ足を運ぶ。

さっきまで一人で歩いていた木の間を、今は二人で回っている。

途中、次の動作を指示しながら向かい合い礼をする私達。

手を繋いで向かいあったアレクは、戸惑いながらオクラフォマミキサーのステップを踏む。

本当は、こんな前世の踊りを踊る余裕なんてないのに、何故かその時は、自然に笑みがこぼれて、同じ相手では踊らない踊りなのに、アレクの手を取ってリズムに合わせて足を運ぶ。


楽しく優しい時間。



「そこにいたのね。」


「「?!」」



声がした方へアレクと顔を上げると、ミリアが立っていた。



「イヴ様。今日は私とお昼をご一緒する予定だったのではなくて?」


「あ!?ごめんなさい!実は、サンドイッチをテイクアウトして食べちゃったの…。本当にごめんなさい。」


「私の約束を忘れてお2人でダンスの練習ですの?」


「いや、あたしがお願いしたの!アレクは貴女が呼んでるって私を呼びにきたのよ。で……無理やり…そう、無理やりダンスに誘って踊っていたの!アレクは悪くないからね!…アレクいって。」


「ぇ?おい…。」



私の慌てぶりにアレクが眉を寄せた。

でも私は弁明してアレクの手を離し、彼から離れる。

…自分の婚約者なのに、何だろうこの構図。

差し詰め、私はアレクの浮気相手か?



自分の考えに苦笑しながら、敷物と本を乱暴に抱え上げた。



「ミリア様。今後私と一緒にいらっしゃらなくて大丈夫です。実は、本当に忙しいのです。…“元平民が王宮の生活をするというのは”。察してくださいまし。あ、アレクとのことも、先だってお話しした通りですので、それ以上も以下もないお付き合いをします。安心なさってください。では。」



そうミリアに決別とも取れる物言いをして、背を向けた。

ミリアからもアレクからも返答の言葉は聞かないまま、私は校舎に入る。


だから気が付かなかった。


一つ、校舎の窓が開いていて、そこで聞き耳を立てていた人物がいた事に。





聞き耳を立てていたのは果たして誰だ?!

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