母が求婚されまして
スローペースの更新になると思いますが、私の他作品と並行して更新していけたらと思います。
母が結婚する。
大変喜ばしい!
そう思っていた。
まさか。
まさかまさかまさか…
母の彼氏が、王太子だったなんてーーーーーーーーーーーー!?
私は、王都の端にある小さな花屋を営む、イヴ=ベルメザー。
母は、テリーゼ=ベルメザー。近所で評判のべっぴんさんで、緩くウェーブの入った栗色の髪の毛に、ミントグリーンの大きな瞳をしている。
その娘である、私は、ストレートの栗色の髪の毛とミントグリーンの瞳を持っている。母と同じ色彩なのに、その顔立ちは、平凡で地味めなのである。
そんな私には、前世の記憶がある。
コスプレと恋愛シュミレーションゲームを趣味に生きる、小学校教員であった記憶が。
そして、弁護士・警察官・看護師・デザイナーの友達がいた。
私達はコスプレとゲームいう共通の趣味で結ばれた、いわば戦友だった。
プライベートで会えば、趣味や職の話しを肴に飲み、何度楽しい夜を過ごしただろう。
そんな楽しく平凡な毎日を過ごしていたら、放課後の学校の階段から滑り落ち、頭を打って死んでしまった。
人とは呆気ないものだ。
そんな私がこの世界に生を受けて、若干3歳で前世の記憶を取り戻してしまった。
そして私は、現世に絶句していた。
私の父は、流行り病で早くに亡くなり、女で一つで私を育てている母は、お人よしもお人よし。
ぽややんな母は、一生懸命花屋で働くも、今一つの稼ぎしか出せないでいた。
見かねは私は、店の経営に口を出そうと、国立図書館に入りびたり勉学に明け暮れた。
字の読み書きはもちろん、算術、経営学等を独学で学び、5歳になるころには、母の店の“子ども店長”と化していた。それもこれも、全部前世の記憶があったから出来た、チートなだけだけどね。
そして、店で働くぽややんな母を見てられず、ついつい生活態度まで注意するようになったのは、6歳の夏だった。
そう、元教員の血ってやつだろうか…。
前世の記憶(私や友人たちの知恵や経験談)を使って、母を立派なミセスに育て上げた。
そんな母は私を尊重し、言いたい放題の私に、よく従い、気が付くと、母には15も年若い彼氏が出来ていた。
私15歳の春。
彼(20歳)は突然、母(35歳)の目の前に現れ、大量の花を注文し、そして言った。
「結婚して欲しい。」
と。
母は、
「喜んで。」
そう、目に涙を浮かべ幸せそうに微笑んでいた。
良かった。母がようやく幸せになれる。私の苦労も報われた。
そして、胸に湧いたその感情に少し驚く。
そうか。前世の記憶があろうとも、私はやっぱり母を愛していたし、誰よりも母の幸せを願っていたのか。
「母さん、おめでとう。」
私は、涙を流す母に近寄りお祝いの言葉を掛けると、母は私に優しく腕を回し、首をコクコクと動かした。
母の柔らかい香りと腕に、私も目がうるんできた。
「イヴも、賛成してくれるって思っていいの?」
年若い母の彼氏フレディは、優しい笑顔で私を見た。
「もちろん。母を幸せにしてあげてください。」
「あぁ。イヴ。もちろん君も幸せにすると約束するよ。」
その言葉に、私は苦笑してしまう。
出会ったときは、まだまだ礼儀作法もなってない不作法な男だったのに。
今や、立派な紳士な反応だ。
落ち着いた身のこなしは、何処かの貴族の様でもある。
まぁいい。花屋なんだから、身なりが華やかな方が売り上げも上がるだろう。
私が、母と母の彼氏いや婚約者との生活に思いを馳せていると、
「では、急で悪いんだけど。行こうか?」
「はい。」
母は私から腕を放し、彼氏の元へ行くとその手を取った。
私は、頭の中に大きなハテナが浮かんだ。
「ん?行く?どこへ?」
「城だよ。あれ?言ってなかったっけ?」
フレディが、とぼけた顔で私を見ている。
母も不思議そうだ。
城?…そうか。これはあれか?フレディは実は、城に仕える貴族の坊ちゃんだったとか?それで、城にいる父親にでも会わせたいってことなのか。すごい人に見染められたなぁ母よ。
んーーーーでも、そうなると厄介だぞ。この人の親から母は結婚を反対されるんじゃなかろうか…。
不安に思い、彼氏の手を取っている母を見ると、母はニッコリとしている。
ついでにその彼氏も。そしてとんでもないことを口にしたのだ。
「城に来てほしいんだ。両陛下に会って欲しい。僕の両親だ。」
「へ?陛下って。」
「彼は、この国の王太子様なのよ。」
「うん。僕、いや、私は、フレデリク=ソーシャル=ファシス。ファシス大国の王子なんだ。」
「--------ほう・・・・」
・
・・
・・・
そうか。王太子様なのか。ふーん。
だから、身のこなしがスマートでエレガンスなのか。
その御髪も、きらっきらなプラチナブロンドですもんね。お肌も男の人にしてはつるつる。
そういや、身なりも随分上質だとは思ってた。だって着てる服の生地がいいもんだもん。仕立ても完璧。
でも、それも大好きな母に会うための一張羅だと思ってた。
そうか。その高級そうな靴も、本物だったのか。
いや、袖のカフスボタンも、それももしかして本物の宝石じゃね?って思ってもいたよ。
でも、いやまさかでしょ。とか思ってたわけ。
いいとこ、親からもらった家にあるちょっといいものかな~とかさ。そう思うじゃん。
だって、母は町娘の母だぞ?あれ?なんか文法変か?
そんなの今はどうでもいいか。とにかく母は、貴族でもなんでもない。
超庶民。なんなら庶民階級の端っこ。ギリギリ2人で生活しているのよ。
そんな母に王太子が求婚…。
すげーじゃん母!って言ってられっか。
「………王太子様。ちょっとお聞きしていいですか?」
「なんだよ、改まって。いつものように、フレディって呼んでくれていいのに。」
「この話、ご両親。両陛下には伝わっているんですか?」
「伝わっているよ?君の母、花屋の天使、テリーゼに求婚してきます。って。頑張ってこいって応援された。」
「マジか。」
私はガンガンしてきたこめかみに親指を押し付け、ぐりぐりする。
教員だったときの癖だ。グルグルする頭を、どうにか冷静に処理しようとすると。
「イヴちゃん。大丈夫よ。だって、フレディのご両親よ?この国の王様とお妃様ですもの。いい人たちに決まってる。私、イヴちゃんに教えてもらった通りに、ちゃんとご挨拶してくるわ。ね?」
母は、こめかみをぐりぐりしている私の手を取り、微笑みかけた。
私の手を取るその手は、花屋の手だ。
毎晩、私が作ったハンドクリームを塗りたくってはいるけど、ささくれ立った私の母の手。
母は、沢山苦労した。
女手一つで、私を守って育ててくれた。
その母が今、幸せを掴もうとしている。
応援しないわけないじゃないか。
私は覚悟を決めて、王太子…フレディを見た。
「ちょっと時間をください。今のままの恰好ではあまりにも両陛下に失礼です。母の用意をさせますので、1時間待ってください。」
「一応、城に君たちの準備をさせてはいるけど。」
「お城に行くんですから、それなりの準備をするんです。乙女の事情ですので、お待ちください。」
私の譲らない態度を見て、母は笑ってフレディを見た。
「フレディ。少しの間待っていて。お城に行くんですもの。そちらで着替えるにしても、準備はしたいわ。」
母の言葉に、フレディもようやく納得したようで、苦笑した。
「分かったよ。“男を待たせるのは、女の特権。快く待つのはいい男の条件”だもんな。」
「そうよ。」
私は、彼に笑って答え、母を店の2階、居住スペースに連れて行った。
階段を登りながら、さっきフレディが言った言葉を思い出して笑った。彼が言ったのは、出会ってすぐのフレディに言った、私の言葉だったからだ。
その後、母と王太子は多少すったもんだはあったが、無事結婚が認められ、私の母は王太子妃になった。
イヴの友達設定、実は実話設定だったりします。(ぺろっ)
次回から、男子ぶち込みます。