才能があったなら
『才能がない人なんて、いないんだ』
わたしは無能だ。勉強も、運動も、仕事も、人間関係も、何もかもが下手糞で、所謂、無能だ。
四半世紀生きてきたが、何かがうまくいったことなどない。成長なんてあったものじゃない。
いつも、誰かが上にいて、誰も下にいない。それならいっそ一人になりたい。そう思った。
でも、
一人になっても、無能だから。
わたしは、無能だから――――――――――――
「君は大学は諦めなさい。今のままじゃお金がないとどこにも入れないよ?」
「あんた大学に行っても勉強しないでしょ? お金なんて払えないわ」
―――勉強ってそんなに大事なんだ。だったら、誰もができるようにしてくれないと、わたしみたいな人、終わりだよ? 神様。
「ねぇ、あなた部活に興味・・・ないよね。なんにも」
「お前は体育の成績が低すぎる。このままでは卒業何てさせられないから、明日から放課後補習な」
―――運動できなきゃダメなの? だったら、せめて元の力くらいは揃えておいてよ、神様。
「また君か! 何度失敗したら気が済むんだ! いい加減にしてくれ!」
「実は最近、人件費が払えなくなってきていてね。誠に遺憾なことなんだが、君には・・・」
―――知ってる。わたしが悪いことも、何も直せないことも。だったら、わたしでもできる仕事作ってよ、神様。
「あんたでしょ! あの子に仕事押し付けたの。あの子強く言われたら断れないのよ!?」
「え? 今のはちょっと違うんじゃないかな・・・。合わないね私たち」
―――難しいね、人間って。少しずつ違っていて。だったら、命と一緒に取扱説明書でも作っておいてよ、神様。
才能がある人は、持て囃される。
勉強ができれば、いい大学へ行ける。
運動ができれば、ある程度の注目がもらえる。
仕事ができれば、お金が入る。
人間関係ができれば、困ったときに助けてもらえる。
才能があれば、才能があれば、才能があれば、わたしはもっと、楽しい人生を送れたのに。
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「わたしね、将来はゆーめいな大学に入って、『へんしゅうしゃ』になりたいの!」
「ええ、あなたならきっとできるわよ」
「将来が楽しみだなぁ」
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「ねぇ! あの子、すごく足が速いんだって! 女子なのにすごいよね!」
「陸上部に入ってくれないかな」
「え、わたしなんて、そんな・・・」
「そこをなんとか・・・!」
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「君はもっと上の大学を目指しても十分通用する。学校としても、君には・・・」
「いいえ。わたしは編集者になりたいので、この大学にしたいんです」
「でもだな・・・」
「わたしが、決めたんです」
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「やはり君に任せたのは正解だったよ! またよろしくね!」
「先輩! さすがの仕事っぷりです!」
「もちろんよ! ずっと、夢だったんだもの」
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「あ、お疲れー。今日どうする? いっぱい飲んじゃう?」
「うん! 飲も飲もー!」
「カンパーイ!!」
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才能があれば、きっと、わたしは楽しい人生を送っている。失敗も、希望だと考えられる。楽しい人生を送っているだろう。
でも、それはもう、叶わない。
無能なわたしが、それを捨てたのだから。
成功することを想像できない。失敗は絶望にすらならない。わたしにとって失敗は絶対だ。
何をしても、失敗なのだから。
楽しい人生なんて、わたしには送れない。送れるはずもなかった。
才能がない人には、才能がある人の人生を送ることなど、できるはずがない。
才能がない人には、勉強ができる人の人生を送ることなど、できるはずがない。
才能がない人には、運動ができる人の人生を送ることなど、できるはずがない。
才能がない人には、仕事ができる人の人生を送ることなど、できるはずもない。
才能がない人には、人間関係ができる人の人生を送ることなど、できるはずがない。
才能がないわたしには、才能がある人の人生を送ることなど、できるはずがない。
私は無能で、無能で、無能で、無能で、無能で、無能だ。
できない。できない。できない。できない。あれも、これも、それも、どれも、何も、できない。
わたしには、才能がなかった。
『才能がない人なんて、いないんだ』
もしも、そうだとしたら、わたしにはどんな才能があるのだろうか。
才能がないわたしの、才能とはどんなものだろうか。
わたしの才能は、誰もが認める才能だろうか。
才能があれば、才能があれば、才能があれば、わたしの才能は、わたしを幸せにさせてくれるだろうか。
もしも、才能があったなら、
才能がないわたしの才能が、誰にも負けない才能であればと願いたい。
もしも、才能があったなら、
その才能が、誰をもあっと驚かせるようなものであって欲しい。
もしも、才能があったなら、
才能を活かせる人生を、送りたい。
もしも、才能があったなら、
その才能で、自分を世界一の幸せ者にしたい。
もしも、才能があったなら、
それが、誰かを幸せにできる才能であることを、わたしは願う。
―――あなたは?
これはフィクションです。
『才能がない人なんて、いないんだ』。
人生に、才能は、必須なのでしょうか。