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空と海とアンビバレンス!  作者: 北原 二度寝
第二章 旅立ちに向けて
12/17

6.ペンダントの秘密

新たな登場人物


セイル・ナベリウス 自称?研究者。目的は不明。耳に残る気味の悪い笑い声が特徴。

  6.ペンダントの秘密


「私を捕まえてどうするつもり!」

「威勢がいいですね〜」

 クククと男は笑う。

 年齢は三十歳前後、背は百七十センチくらいだろうか。無造作に伸びたパーマのかかった白髪の隙間から、細く、鋭く、冷たい視線が覗いている。色白の体はまるで肉のないような細さで、黒のスラックスに白のワイシャツ、そしてグレーのベストを身につけた上から、脹脛辺りまで長さのある白衣を羽織っている。

 落ち着いた口調とは裏腹に、その男からは狂気が溢れている。


 半日ほど前、その男は突如、ファグの工場へ現れた。銃を片手にさげ、笑顔を浮かべながら。

 ファグはココナを守ろうとしたが、ココナは自ら男について行く事を決心した。この男は躊躇いなく人を殺せる。そう感じたココナは、ファグを危険な目には遭わせたくなかったのだ。そして男は話通り、ココナを連れて工場を離れた。


 ココナは慎重に言葉を選ぶ。

「あなたは⋯⋯だれ?」

「名乗るほどの者ではないと言ったはずですが⋯⋯、まあいいでしょう。わたしはセイル・ナベリウス。しがない研究者ですよ。クックック」

 気味の悪い男の笑い声が、船内に響く。

 ここは巨大な武装船の中の一室。外に出るだけでも大変そうな巨船の中で、さらに手首を体の後ろで縛られた状態のココナは、とても逃げ出せる状態ではなかった。目の前の男から目を離さずに、じっとこの状況に耐える。

 体は震えていて、涙だって堪えている。いつもココナを庇ってくれていた兄も、街を飛び出して行ってから帰ってなかった。ココナは恐怖で頭がおかしくなりそうだった。

「なにが⋯⋯目的なの」

 ナベリウスがココナへ近づく。左手で顎を持ち上げ、舌なめずりをする。ココナはぎゅっと目を閉じる。鼓動が破裂しそうなほどに早くなる。

 首元をスルリと、何かが抜ける感覚があった。

 恐る恐るココナは目を開く。すると目の前のナベリウスは、手に持った何かを眺めている。

「そ、それはっ! 返して!」

 ココナは思わず叫んだ。ナベリウスの手には、金色に輝く六角形のペンダントが握られていた。両親の記憶はないが、それは母親の形見だと兄が言っていた。肌身離さず、今まで大切にしてきた物だ。そんな大切なペンダントを、こんな得体の知れない人物に触られてたまるものか、とココナは必死に体をよじり、抵抗しようとする。

「おっと」

 抵抗するココナから少し距離を取り、ナベリウスは指をパチンと鳴らした。すると、体格のよい男が二人、船室に入ってきてココナに銃を向ける。工場へ訪れた時にも連れていた、黒い肌の二人だ。

「暴れないで下さい。わたしもあなたのような歳の子を殺すのは趣味ではありません」

「かえ⋯⋯して」

 ココナは俯き、涙を堪えながら力のない声を振り絞る。

「あなたはこれがなんだか、ご存知ですか?」

「それは⋯⋯大事なお母さんの、形見⋯⋯だから」

「クックック。そんなつまらないモノの為に、わたしがわざわざこんな事するわけがないでしょう」

 ココナは歯をくいしばる。

「これはですね、ある飛空艇の鍵、なんですよ」

 聞いたこともない話に、ココナはゆっくりと顔を上げる。

「⋯⋯かぎ?」

「ええ。あなたの父親が持ち逃げした、大事な鍵です。おかげで探すのにひと苦労しました」

 ナベリウスはやれやれと肩をすくめる。

「そんなこと、聞いたことない」

「あなたが知る必要などありませんからね。これは価値の分かる人間が持ち、そして使うべきなのです。国を失ったあなた方には、もう必要ないんですよ」

「言ってる意味が⋯⋯分からない」

「分からなくて結構です」

 そう言って、ナベリウスは船室のドアへと向かう。

「おっと、しかしまだ利用価値はありそうですね。もう一人、これを持っている人を、あなたは知っているでしょう?」

「お兄ちゃんに何をする気⁈」

 兄であるカイトもまた、同じペンダントを持っている事を、ココナは知っていた。ナベリウスの口ぶりからして、そのペンダントも狙っている事は間違いないだろう。

「あなたが大人しくついて来るのなら、その人物には危害を加えませんよ。クックック」

 あくまで冷静に、ナベリウスは脅してくる。

「⋯⋯わかった。約束よ」

 ナベリウスの言葉は決して信用など出来なかったが、銃を向けられたままの今の状況で、これ以上刺激するのは危険と判断し、ココナは渋々了承する。

「賢い子は好きですよ」

 男は護衛を連れて出て行った。耳に残る、気色の悪い笑い声を残して。

「お兄ちゃん⋯⋯」

 堪えていた涙が溢れ出す。ココナはただただ、兄の無事を祈っていた。


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