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4月1日

作者: CODEBLUE

『誕生日おめでとう』

2年会っていない彼女の誕生日に突然送るメッセージ。小一時間ほど考えても気の利いたことは何一つ思いつかず、これが精一杯だった。年度末、3月31日、ギリギリ0時を過ぎないところで送信した。多分、誰よりも遅いお祝いだったと思う。

『ありがとう。よく覚えてたね』

そりゃあ好きな人の誕生日くらいは覚えてる、と言いたいところだったが、スマホのカレンダーに通知されて気付いたので返す言葉もない。他人どころか家族の誕生日すら危うい僕はもうそれを割り切って公言しているので、基本仲のいい友人以外は誕生日になにかすることもしない。代わりに自分もなにもされないがそれはもう諦めた。そんな僕がスマホに登録して通知までつけている。家族と親友二人以外に、殊に異性では彼女が唯一だ。

『覚えてれば、1年に1回は話せるから』

年度末で覚えやすいとか、通知が来たからとか、いろいろ考えた末にこう送った。日付が変わっても既読がつかなかったので、不安が湧き上がる前に寝床についた。

『いや、もっと普通に話せるでしょ(笑』

翌朝返ってきたメッセージに眠気は吹き飛んだ。もっと普通に、と簡単に言うけれど、一度彼女にフラれている僕は意識しないようにと意識しすぎてしまって、普通は結構難しい。

『好きな人に話しかけるのって結構勇気いるんだけど』

ありのまま書いた。今日なら大丈夫。どうせ普通に話せないなら、日付の力を借りてちょっと彼女にかまをかけてみよう。そんな悪戯心で普段より大胆な文面を送った。返事は昼まで返ってこなかった。

『だよね…私もほんとはもっと話したいよ』

なんだそれ。思わずちょっと笑ってしまう。

『まさかのエイプリルフール返しか(笑』

冗談でも充分嬉しかった。嘘を1つだけ言える日。いい日をつくったものだ。

『そう、ウソ。もうちょっと騙されてよ』

『そっちこそ』

慌てるところが見たかったのに。

『…好きな人に嘘つくのも結構勇気いるんだけど』

おいおい。反則じゃないか。

『嘘つけるのは1回だけだよ』

『1回しかついてないよ』

どういうことだ。誰か1人が嘘をついています、なんて定番の謎かけのつもりだろうか。何度もやりとりを読み返して考える。考えるが、胸が高鳴って頭が回らない。

『1回しか、が嘘?』

『バカ』

まったくだ。

『エイプリルフールって嫌いだ』

『私も』

やっぱり嘘がつける日なんて、いらない。

『そっちのウソは、どれ?』

本当のことだけ言えばいい。

『嘘は1つもついてないよ』

『ウソつき』

やっとすこし、彼女が拗ねているのが見られた。

『明日言えば、信じてくれる?』

『…もう信じる』

本当に、面倒な日を記念日にしてしまった。

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